表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/30

3. 浜への遠乗り

挿絵(By みてみん)


 天気が良かったので、乗馬の稽古は浜への遠乗りになった。


 八人の娘たちと教官ふたりに加え、若手の騎士四人が護衛につく。貴族の子女ばかりなので、間違っても粗相があってはならないのだ。


 だいぶ前になるが、貴族の娘が賊にさらわれて帰って来なかったことがあったらしい。以来、稽古でも市壁の外に出る際は、必ず騎士数名が同行するようになっている。


 オーリフの姿は見えず、グラーニャはがっかりした。そんな自分が不思議にも思えた。



――ゆうべ、あんなに近くにいたばかりなのに。



 それでも遠乗りはいつも通り、気持ちがよかった。 


 紺色の海面に白金の陽光がきらめき、乾いた海藻の臭いが鼻腔を刺す。振りあおげば、がっしりした白亜の城が市壁の後ろに見えた。波打ち際には、振り網を投げる老人や、貝を拾う子どもたちの姿がちらほらと目につく。漁はもうとっくに終わっている時間だから、埠頭へ向かう小舟の姿もない。いつも通りの風景だった。


 背の高い騎士たちの軍馬を追い越す挑発もせず、教官の声にあわせて静かに常足速足を使い分けているうちに、もう帰城していた。おなじみの白い牝馬のたてがみを梳いてやり、厩を後にするところで声がかかる。



「ねえ、姫様ってば」



 グラーニャが振り返ると、呼びかけてきたのは友人のウルスラだ。



「大丈夫? 朝からずっと、ぼうっとしているみたいだったし……。それに全然喋らないんだもの。何かあったの?」



 グラーニャは首と肩とをかしげてみせた。――何かあったかって? 大ありだ、あの・・オーリフ・ナ・タームが恋人になった! そのオーリフのことが、もういっときも頭から離れない。けれどグラーニャは、それを皆に気取られないようにしなければならない。


 何せ自分は、イリー都市国家群“東の雄”テルポシエの第二王女なのだし、相手は近衛騎士団の中で頭角を現し始めた、ターム家の若侯オーリフなのだから。


 周囲でかしましく喋る他の娘たちの声が、どこか遠くから聞こえてくる音楽のようだ。グラーニャは笑ってみせた。



「何でもないの、ゆうべちょっと眠れなかっただけ」



 ウルスラは目を細めて、グラーニャを見据えた。



「それにしては、綺麗すぎる」



 ぎくりとした。



「お化粧もしていないのに。今までの姫様とは、別の女の人みたいに見える」



 何故か、オーリフの腕の中でさらけ出した自分の姿態が思い出されて、頭にかあっと血が昇るのがわかった。



「ごめんなさい……、正餐があるから。わたし、行かなくちゃ」



 文字通り、グラーニャはその場を逃げ出した。ウルスラの視線が背中に突き刺さるのを、まじまじと感じ続けながら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ