28. マグ・イーレ宮廷さらにみっしり会議
マグ・イーレ宮廷の定例会議は、本日も大入りとなった。
老若含めて、百人以上の騎士全員がつまっているのだから無理もない。しかしグラーニャたちがあの円卓を片付けてしまったので、何とか全員が座ることはできた。
広間の中央は丸く空けてあり、そこにニアヴが立っている。すぐ脇にはヨール侯と若い書記役が座って、膝の上で布帳面を広げていた。
「それでは、春からの塩田拡張と増産の計画については、メノー侯に一任します。イリー諸国、および北部穀倉地帯へ向けての販路拡大は、引き続きユス侯とネテル侯の調査を聞きながら、検討していきましょう」
恐ろしく事務的な調子でまとめて、ニアヴは周囲を一瞥した。
「では次に、軍部に関して。グラーニャ」
呼ばれて、グラーニャは立ち上がった。入れ替わりに座ったニアヴの隣に立つ。
「皆も知っているように、前回のエノ襲撃によってだいぶ馬の数が増えた。亡くなった近衛騎士たちの使用した八頭は、うち六頭しか回収できなかったが、賊の馬を十一頭奪取できたので、厩舎には現在三十二頭がいる。これを一年以内に四十頭に増やし、ゆくゆくは在市内の騎士と傭兵全員が、騎乗戦力となる状態をめざす。ついては、塩事業で得られよう税の利益を、まずはここに投入できるよう提案したい」
後ろの方で、中年の騎士が立ち上がった。
「良い案ですが、塩の儲けを待っていては、すぐに時がたってしまいますぞ。財源はひとつと考えず、他にも実入りの良さそうな手段を考えてみては」
「うむ、それもそうだ。誰か、良い案はあるか」
誰もが腕を組んで、首をひねっている。脇にいる家族・親族どうし、顔を寄せて囁くように話し始める者も多い。
ニアヴもまた、そっとグラーニャに顔を寄せてささやく。
「ちょっと、議題の分野がずれてると思うんだけど……」
「そうか?」
「ええ、資金のことだからねえ」
「すまん、止めるか」
ニアヴは寸時押し黙り、周囲を見回してから肩をすくめた。
「ま、いいんじゃないかしら。皆、本気で悩んでくれてるし」
グラーニャはにやりと笑った。
「今までに無かったことだ」
ニアヴが笑い返す。
――取らぬ狐の、皮算用……。
グラーニャ自身も思いついた時は、そう馬鹿にしきった声でランダルが言い放つのを聞いた気がした。
けれど、基盤の脆弱な国を変えていくためには、新しいことにも挑戦し、今まで顧みていなかった部分を活用する必要がある。
王と近衛騎士長・故ディルト侯の押さえつけがなくなったマグ・イーレ宮廷は、よりよい未来をめざし、地味に覚醒し始めていた。そう、……地味に。




