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21. 王子お見送り隊、東へ出発

 この年、初めて霜の降りた日の翌日。


 ランダル王とフィーラン第一王子の隊は、マグ・イーレ大市を出発した。正妃ニアヴとオーレイ第二王子の船は、前日に港を出ている。風次第ではもうだいぶ先へ進んでいるだろう、とゲーツは思った。


 十騎から成る騎馬隊は、一見王の行列とは見えないほどの貧弱な出で立ちである。近衛騎士が五名、国王父子をはさむようにして並び、最後尾にゲーツら三人の傭兵がついた。


 どの騎士も薄灰、黒、褐色とちぐはぐな外套をつけているのは、山賊に目をつけられないための予防策である。しかししょぼくれた外見が板についているのが、何となく物悲しいマグ・イーレ騎士らであった。


 穏やかに晴れた日だ。


 東に向かう街道で、一行は幾組もの旅人や、驢馬ろばを引いた商人たちとすれ違う。道沿いの黒苺はすっかり干からびて、初霜を越えた野いばらの実が黒くなっていた。マグ・イーレでは冬の間、この実を大層ありがたがって食糧にするらしい。留守中グラーニャに引率されて周辺の街道や野原で摘み取りをするのだと、ハナンたちがぼやいていたのをゲーツは思い出す。


 面倒ではあるけれど、マグ・イーレの連中はそういう牧歌的な仕事で忙しくしていられる方が、多分いいのだ。誰も本物の小競り合いや、ましてや戦など望んでいるわけがない。



――だから、夏至の夜に自分がしたことは、間違ってはいない。



 いつものように、ゲーツはそう正当化した。



――第一俺は、雨の中で山羊を追って歩くのが嫌で、この道を選んだんじゃなかったか。



 野宿や、それに準じるような破れ屋根の下で眠るのは心底嫌だった。石の壁の中に住めている今は、上々の生活と言える。



――あの一味に入って、言われたとおりにマグ・イーレの内部情報を提供していたら? 今頃はどこかの島か森かで、吹きさらしの御殿暮らしだったかもしれないぞ。



 さほど遅くもならないうちに、渡航送迎隊の一行はガーティンローとファダンの間の、小さな宿場町に到着した。若いフィーラン王子や騎士たちはさほど疲れたそぶりもないが、青白く肥えた王にはこの行軍が相当にこたえているらしい。


 こんなゆるい調子ではあったが、三日目の夕刻、一行はテルポシエに到着したのである。







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