2. ごきげんな朝に
「お早うございます姫様、朝食をお持ちしましたよ。……あら? まあ、今日も何てお行儀の良いこと」
侍女が来た時すでに、グラーニャは白金色のまっすぐな髪を編み上げて身づくろいを済ませ、寝台もきれいに整えておいた。もちろん、窓も開け放って空気を入れ替えてある。
オーリフの匂いが消えるのは辛かったが、母の間諜になりかねない侍女に密会の証拠をつかませるのは、危険すぎるとわかっていた。
「乗馬のお稽古の日だもの。待ちきれなくって!」
定番の無邪気な笑顔で白ぱんを頬張れば、ばあやはほだされて疑いもしない。香草と花に注がれた白湯が、茶碗の中から良い薫りの湯気をたてた。
「まあまあ。姫様は、ほんとに馬乗りがお上手でいらっしゃる! 馬だってねえ、鎧張りの殿方を乗せるより、軽くてかわいらしい人と居た方が、どれだけ楽しゅうございましょうよ」
すみれ色の短い外套をまとい、部屋を出て姉の居室に向かった。自室とは違い、父母の部屋と同じ階の一角にある。
その扉が開いて、姉付きの若い侍女が丁度出てきたのと鉢合わせた。
「ディアドレイ様は、今日もお稽古はなさらないそうです」
「あら、また? どうしたのかしら、おとついもお休みだったのに。姉さま、おなかでも痛いの?」
「いえ、特には。それでは失礼します」
そそくさと礼をして、姉の侍女は行ってしまった。
扉の向こうにいるだろう姉に、あえて直接問うようなことはしない。五歳も上の姉とは、昼の正餐と乗馬の稽古の時くらいしか顔を合わせない。歌や読書の時間をともに過ごしている、貴族の娘たちの方が親しいくらいだった。
――まあ、いいか。
グラーニャはきびすを返した。石の床に、自分の侍女の足音が響く。猫の歩き方を心得ているグラーニャの靴音は低かった。