17. 朝の浜の少年
身を切るような風が駆け抜けて、少年は思わず首をすくめる。
朝の浜辺は、昨夜の嵐を耐えて今は穏やかに晴れていたが、晩秋の冷えた空気がその風景をきりりと引き締めていた。
少年は、波打ち際に打ち上げられた、深緑色の濡れた海藻を拾い上げた。その拍子に、目の前にふっと波の花が舞う。
『ね、遊ぼう?』
『楽しいよ、一緒においでよ』
娘たちの囁き声がひしめく。少年は微笑んで、額にかかった真っ黒な髪の毛をかき上げた。
「また、今度ね。海の娘たち」
くすくす笑う声たちは遠ざかり、泡がまた風に舞った。
少年は後ろを振り返り、身をかがめて海藻を拾い集めている初老の男性に歩み寄る。
「こんなに拾えたよ」
「おお、大収穫だな。この黒靡生はようく乾かせば、血を殖やす薬になる。怪我人が多い時には特にたくさん必要になるから、憶えておきなさい」
「わかった。じゃあ、じきにたくさん要るようになるってこと?」
老人は手を止めて、少年をまっすぐに見た。
「知ってたのかい」
「うん。父さんたち、またどこかの村を攻めに行くんだろう」
少年は父のことを思う。立派ななりをして、数多くの男達を従え、誰もが心を逸らせるような熱弁をふるう男。それが自分のいまの父だ。
けれど少年は、その父が他人の暮らしを壊すことで生きているという真実を知っていた。
――また、どこかの誰かの幸せが、めちゃくちゃに壊されるんだろうか。
少年は唇を噛んで、海上に広がる隆々とした雲を眺めた。
「メイン。そろそろ、行こうか」
老人が声をかけた。




