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番外編1.

評価ブクマいいね感想ありがとうございます。


この番外編は、人が死ぬ描写は直接にはしていませんが、アベイタと隣国ファジャが戦争をしている、という説明回になります。

苦手な方は開始数行の地理の説明だけお読みください。


人は明確には死んでいませんが「殺してもよくない?」と考えるウサギと馬が出てきます。

 魔術大国アベイタは、エチェバリア大陸の西に位置している。かつては荒れ地だったそこに流れてきたかつての民は、豊穣の加護を持った使い魔とともに開墾し、開墾し、開墾した。

 村を作り、人が増え町となり、他の村を作り、やがては国となった。

 北にはアベイタよりも荒れた地を持つ戦士の国ファジャがあり、北東には天まで届くかという山脈ガゴがそびえている。ガゴにはヒルと呼ばれる湖があり、そこには修行を尊ぶ僧侶の国ゴディネスがあった。

 アベイタの南西、ガゴ山脈のふもとには、商人の国グラシアンがある。

 ゴディネスとグラシアンからは、毎年ではないが留学生がアベイタに来ていた。彼らは自国に豊穣をもたらすために選抜され、使い魔を得て帰る。

 他方戦士の国ファジャからは留学生は来ない。

 彼らは古の時代から、アベイタの豊穣を奪うことに執念を燃やしていた。

 魔術大国アベイタは基本的に、侵略戦争を好まない。決して戦闘能力も継戦能力もない訳ではないのだが、それよりは自国の開墾に注力してきた。


 アベイタとファジャの歴史は、戦争の歴史でもある。ファジャがアベイタに侵攻し、アベイタがそれを退ける。侵攻に気が付いた風の使い魔が火属性の使い魔と空属性の王の元へと伝令に走る。

 空の属性を持つ王の仕事は調停だ。猛り狂う火の属性の者達を宥めて何とかして、ファジャと和平の協定を結ぶ。

 余談だが、かつて王が軽く怪我をしてしまった時は、王の使い魔が暴れて大変だった。


1-2.


 ヘロニモは白と茶色と黒の混じった毛皮の、どこにでもいるウサギに見える。彼はトン、と空を蹴って姿を消した。

 王の傷自体は浅く命に別状はなかった。が、ファジャの戦士の槍を避ける際に誤って少し大きめの石を踏んで転んだ。打ち所が悪かったのだろうか気絶しており、誰もヘロニモを止めることが出来なかったのだ。

 王であるアベルが気を失っていたのは一瞬で、すぐに目を覚ましたがヘロニモはそこにはいない。空を駆けることのできる風属性の使い魔の背に乗せてもらい、慌ててアベル王はヘロニモの気配を追った。

 ヘロニモはトン、トン、トン、と空を蹴って目的の場所へと簡単に到着した。武器を持った人間たちは多くいたけれど、それはヘロニモには関係がない。そんなものでは、ヘロニモには傷がつかない。

 その中央にいる偉そうなやつの目の前に、す、と立つ。人間なんて、自分の相棒であるアベルと、アベルの友人たちと、それ以外だ。アベルに喧嘩を売ってきているこいつらは、明確な敵であって、殺していいはずである。


≪アベルは、いや、アベイタの王は優しすぎるのだろうな≫

≪奴が出来ぬというのであれば、俺がやるのは間違ってないよな、うん≫


「何を、言っているのだ」


 空からウサギが振ってきた衝撃から立ち直ったファジャの王が声を絞り出す。


≪他者から奪うしか頭にない貴様らに、引導を渡してやるのよ≫


「ちょっと待とうね?!」


 ヘロニモがトン、と地面を蹴ろうとしたところに、何とか間に合ったアベルが到着する。どさり、と、最速で駆け抜けてきた風の属性を持つ馬の使い魔がその場に横倒しに倒れた。


≪無理死ぬ。ヘロニモふざけんな……≫

≪え、ごめん≫


 風の力を持つ馬型の使い魔であるバルドゥイノは、口の端から泡を滴らせた状態で横たわっている。その側にはバルドゥイノを召喚したカミロがしゃがみ込んで何かをしているから、実際に死ぬことはないだろう。大げさだな、とヘロニモはちょっと思うけれど、ヘロニモを追って人間を二人も乗せて走ってきたのであれば、確かに死を覚悟するかもしれなかった。空の属性が空を走るのと、風の属性が空を走るのは、違うのだ。

 ひょい、と、アベルがヘロニモを持ち上げた。


≪あ≫


「お久しぶりです、ファジャ王セシリオ。我が使い魔にいきなり殺されそうになったお気持ちは、いかようでしょうか」

「…………」


 返事はない。

 王だけではなく、一歩たりとも動くことのできなかった、兵士たちからも言葉はない。遠く離れた国境線から、戦闘を繰り返すでもなく、真っすぐ王の目の前にやってきた。

 それを、その感想を、言葉にすることは出来ない。王である以上、王の側近である以上、それを言葉にしてはならなかった。


「またヘロニモに甘いといわれるでしょうが、アベイタといたしましては隣国ですし、侵略を仕掛けようとさえなさらなければ仲良くしたいと思っているんですよ」

≪温い。一旦滅ぼすべきだ≫

「いや、それじゃ何も解決しないからね?」

≪ぶー≫

≪ぶー≫

「バルドゥイノまで参戦しないで」


 使い魔としては、仲良く暮らしている人間に幸福になってほしいという思いが強い。それを邪魔するような奴らは総じて敵なので、滅ぼしてしまってもいいではないかという過激な思想があるやつもいる。

 肉食獣の連中である。火の属性であっても、カエル辺りはそうでもない。


「このところ、侵略が頻繁でしょう? 使い魔たちはこのように侵略が出来ない程度に痛めつければいいのでは、という声も上がってきています」

「…………」

「ですが私としては、それでは何も解決しないと思っているのです。侵略が出来る程度に回復したら、また侵略しようとするでしょう? それならば、僧侶の国ゴディネスや、商人の国グラシアンのように、我が国に留学生を送ってくださればいい。大地の属性を持つものが国に帰れば、今より暮らしやすくもなりましょう」

「属国に下れというのか……!」


 それが誰の言葉なのか、王の言葉でない事しか分からない。


「いいえ」


 しかしそれが誰の言葉であれ、アベル王はそれを許した。本来ならば王同士の対話に臣下が割って入るなど、許されることではない。その証拠にカミロは一言も発さず、側に控えている。

 使い魔のバルドゥイノは別だ。彼はカミロの使い魔であって、アベルの臣下ではない。


「隣国なのですから、隣人でいましょうよ。私たちは侵略されなければそれでいいのです」


 その後。

 度重なる侵略戦争に対し、己の身に傷を負ってなお、戦士の国ファジャを案じた魔術師の国アベイタの国王アベルに感銘を受けたファジャ国王セシリオは、何人かの留学生を送り込んだ。少なくとも表向きはそうなっている。

 それからしばらくは戦士の国は安定しており、侵略は行われなかった。

これから数回に分けて、番外編という名の説明回が続きます。

番外編2.も戦争ネタですので苦手な方はご注意ください。


9月中は毎週水曜日朝9時の更新になります。

どうぞよろしくお願いいたします。

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