5.6.
短いお話が続いてしまったためニコイチ
文字数考えないで書くからこうなる
5.
クレスセンシア王女の受け持つクラスは、全部で十五人。残る三十四人は、エペラルド先生のクラスになった。
「それじゃあ左の手前から、貴族に座ってほしい。皆の手本になって貰いたいから。……って、エルミニアだけか」
「そのようですわね」
エルミニアは燃えるような赤毛の美女だった。胸の中ほどまで伸ばされたその髪を、二段のハーフアップにしてまとめている。まとめてある部分も、降ろされている部分も、くるくると巻かれていた。彼女がその腕に抱くのは、銀の毛並みが美しいうさぎだ。
「じゃあエルミニアの席はここね。今も言ったように、皆の手本であって欲しい」
「承りました」
使い魔のカリナを机において、エルミニアは他の生徒達の方を向いて優雅にお辞儀をした。スカートを掴み、片足を引き。腰をほんの少しだけ落とした、貴族のお辞儀だ。
「ご紹介賜りました、エルミニア・クアドラと申します。皆様のお手本となりますよう努めますので、どうぞ良しなに」
ほう、と、どこからともなくため息が漏れた。優雅で美しく、嫉妬心すらわかない。少女たちの心に浮かんだのは憧れであり、少年たちの心に浮かんだのはちょっとした意気込みだった。
彼女のようになりたい、彼女のような人に認められたい。
それは正しく、クレスセンシア王女の狙い通りであった。この教室に集められたもの達は、おそらくこの先多くの期待を背負うことになるだろう。それは領主であり、親であり、本人である。それを少し重いと感じた時に、手本が必要なのだ。できれば、自分のような少し遠い大人ではなく、自分と同じ等身大の。
エルミニアは貴族として生まれ育っているから、期待を背負うことには慣れているだろう。それでも何か指標が必要になったときは、クレスセンシア王女がその場に立つことを厭うつもりはなかった。
「あとはまあ、使い魔の小さいものが前で、大きいものは後ろかな。鳥系は窓際がいいだろう?」
≪よくお分かりで≫
がやがやと、生徒たちは席を決めていく。エルミニアの使い魔のカリナは、じっとクレスセンシア王女を見つめていた。たまに瞬きをして、首を傾げ、また瞬きをして、鼻を鳴らした。
エルミニアもクレスセンシア王女も、カリナのしたようにさせておいた。単純に、今暇だから目の前のものを見つめているのに過ぎないことは、わかっていたから。
「さてそれでは、ちゃんと自己紹介をしていこう。
まずは私から。この国の第一王女、クレスセンシアだ。君たちの担任になるから、気兼ねなく呼んでほしい。この子は私の使い魔のディフィリア。先ほど講堂でも話した通り、普段は蛇の形をしてくれているが、風属性の龍だよ」
≪よろしく≫
ゆらりと軽く尻尾を振って、デイフィリアは生徒たちに挨拶をした。クレスセンシアは視線を、先ほど一回挨拶をしてくれたエルミニアへと向ける。
それを受けて、エルミニアが音を立てずに立ち上がる。今度の例は、先ほどと違って略式だ。両手をへその前でそろえ、腰を折るだけの。
「二度目になりますが、エルミニアと申します。わたくしの使い魔は月ウサギのカリナ。初めまして同士ですので、皆様と共に学んでいきたく思います」
≪仲良くしてね≫
「アブリルです。バディア男爵領の村から来ました。この子はボボネのビエンベニダ」
≪ビーナって呼んで≫
一人、また一人と自己紹介をしていく。同じクラスになったことのある子もいるけれど、初めましての子も多い。全員の名前を覚えられるだろうかと、アブリルはひやひやしていた。
6.
夏至の日に使い魔を召喚してから一週間が経ち、生徒たちは召喚した使い魔によってクラスを再編成された。それぞれの教室では、それぞれの使い魔に見合った授業が連日行われている。アブリルの所属していない方、幻獣種であったり、通常の動物種であるが属性が珍しく、そして一度以上使い魔として召喚されたことのある方のクラスで、口ひげのエベラルド先生が、口火を切った。
「これまでの総括を行う。
ひとつ、魔法は主に、使い魔が使用する。
ひとつ、人間は一部の職業魔術師を除き、己の使い魔の使用可能範囲の魔法についてのみ学べばよい。
ひとつ、使い魔と人間の魔力が馴染まないうちに大きな魔法は使用が出来ない。
結論、諸君らは使い魔と魔力が馴染むことを第一目標とし、その間に魔法の勉強をすることとする」
≪先生それ、大分暴論じゃないかね≫
窓枠に掴まっている赤色の鳥が、ため息交じりにそう問いかける。
「極論と言っていただきたい。
魔法の使い方はすでに使い魔が知っている。これは、初めてこちらに来る使い魔を召喚した者に対するアドバンテージだ。ならば、丁寧に魔力を馴染ませる方に時間を割いた方がいいという判断だね」
≪そういうもんかね≫
「そういうもんですね。例えば君たちが専業魔術師になる、教師になるというのなら、使わない魔法についても学ぶ時間を割くべきだ。しかし故郷に帰る、というのであれば、故郷で出来ることを伸ばすべきだと私は考える次第ですよ」
≪それはまあ、そうだなあ≫
授業において、発言は主に使い魔たちがしている。生徒たちはそれを必死にノートに取ったり、覚えたりするので精一杯だ。
≪なあおい、そこ間違えてるぞ≫
「え、ありがとう」
使い魔にとっては二度目の、個体によっては七回目とかの授業だ。指摘するのも慣れたものである。
だからやっぱり、このクラスにおいて重要事項は、魔力を馴染ませることだよなと、エベルランド先生は毎年この時期になると思うのだ。
「先生に、お願いがあるのです」
困った顔でエルミニアが職員室にいるクレスセンシアに声をかけたのは、丁度そんな頃だ。使い魔の召喚が終わって、ぽつぽつと誰がどんな使い魔を召喚したのかに、目がやれるようになってきた頃。
今日のエルミニアの髪はいつものように緩く巻かれ、襟足の所で銀の髪飾りで一つにまとめられている。困り顔のエルミニアに、とてもよく似合っていた。エルミニアの腕の中では、同じように銀色の毛皮を持ったウサギのカリナが困った顔をしていた。
「そろそろ来るかな、とは思っていたよ。クアドラ侯爵家は火の属性が強いものね。この週末に、王都のエルミニアのお邸に伺えばいい?」
「はい、そうしていただけるととても助かります」
エルミニアもカリナも、目に見えてほっとして、職員室を辞していった。
この手の依頼は毎年ある。火の属性の家には、火の属性の使い魔だけが揃うわけではないのだ。
だから、カバジェロ学院の職員室には、アベイタ建国後有史以来の貴族年鑑が揃っている。その使い魔の仔細が、記載された貴族年鑑が。