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3.

 召喚の儀式を経た子供たちは、一旦それぞれの教室に集合した。一度で召喚が出来る子供ばかりではなく、召喚の儀式自体は昼の休憩を挟んで夕方までかかる。名付けを持って主と使い魔の関係になるのだが、上手く名前を付けられずに困惑している者もいた。


「カミロ」

≪前回それだったからパス≫

「セブリアン」

≪好みじゃない≫

「チコ」

≪短い≫

「えーじゃあクラウディオ」

≪もう一声≫

「クリストーバル」

≪よしそれで手を打とう≫


 戻ってきた皆で教室に備え付けの名付け事典を紐解いて、ようやく名前が決まったものもいる。まあ召喚されている時点で、帰る気はそんなにないので戯れの一種である。クラスの副担任も、ただにやにやと見ていた。その使い魔も一緒に。

 昨日までは教室が広いと思っていたが、今日になってしまったら、とても狭く感じられる。膝の上にお澄ましして座ってるネズミもいれば、教室に入りきらずに廊下にいる象もいた。象は寂しげに、鼻の先だけを教室のドアから中に伸ばしている。召喚したメラニアは、彼女にミゲラと名前を付けてすぐそばにいるのだが、ミゲラは群れで暮らす生き物なので仲間に入りたい様子だった。


「さて」


 全員の召喚が終わったので、終礼の時間だ。バシリア先生が、疲れた顔でクラスを見まわしている。バシリア先生の使い魔である赤い鱗を持った魚のカリダードも疲れ切って、今は先生の上着のポケットの中だ。ちょこんと顔だけ出しているが、生徒たちからは教卓で隠れて見えていない。


「これから一週間、学院は休暇に入ります。皆さんは実家に帰るなり、学院の寮に残るなり、王都の貴族の館に訪れるなり、好きに過ごして構いません」


 教室内に、喜びの声が上がる。生徒たちはくたくたに疲れている。魔法陣に魔力を流すのには、それなりに魔力がいる。通常の小さな魔法陣に魔力を流すのであれば、用途にもよるがその魔力は戻ってくることもある。

 しかし召喚の魔法陣に注がれた魔力は、戻っては来ない。それらは使い魔たちが味見をし、咀嚼をし、その魔力を使い体を形作っているからだ。一度で成功したものはいいが、複数回行った者はもう魔力もすっからかんで、隣に立つ雪白山羊にもたれかかっているありさまだ。


「ですが一週間後の登校時に、あなたの使い魔に関するレポートを提出してもらいます。書式はいつも通り、レポート用紙が心もとない者は、教職員室はいつも通り開いていますから、取りに来なさい。学院の図書室も開放してあります。質問も受け付けています。

 あなたの使い魔が、何が出来るのか、領地に帰り何が出来るのか。この一週間で結果を出す必要はありません。三年後の卒業の時に、その結果を出せるように、使い魔とともに最初のレポートに取り組むように。

 では、解散」


 生徒のほとんどは、寮の自室に帰って休むことにした。大型の使い魔が出てしまった者は、疲れた体に鞭を打って、先生にどうしたらいいのかと相談に行く。小型の使い魔よりも、大型の使い魔を召喚する方が魔力の消費は大きいのだ。

 アブリルの使い魔ビエンベニダは、大きな目を持つ黒い猿だ。その大きな目の上に、もう一つずつ毛に隠れて分かりづらいが、目を持っている。ボボネと呼ばれる、幻想種だ。

 体格の話をするのなら、それほど大きくはない。十五歳のアブリルが、両手で抱えて運ぶことが出来るくらいの大きさである。


≪あたしはね、アブリル≫

「なあに、ビエンベニダ」

≪ビーナって呼んで≫

「ふふ。なあに、ビーナ」

≪そう、良いじゃない。仲良しって感じて≫


 大きな目をぱちぱちと瞬かせて、ビエンベニダは笑う。アブリルの膝で、アブリルと向かい合って座った状態でビエンベニダは座っていた。長い名前を縮めて呼ばせるのが、ビエンベニダの希望だった。最初にアブリルがつけた名前はブリサで、上記の理由から却下された。


≪前に使い魔になった姉さんから聞いていてね、憧れだったのよ!≫

「喜んでもらえて、とても嬉しいわ」


 教室に戻ってから、名付けの終わった友人たちとああでもないこうでもないと話し合った甲斐があったというものだ。


≪そう、それでね、アブリル。あたし、止まり木、っていうのが欲しいのよ。それがあると寝やすいって、姉さんから聞いてるの≫

「分かったわ。先生に相談に行きましょう」


 お姉さんが以前使っていたというのなら、備品であるといいわね、なんて話しながら、バシリア先生の元へと向かう。


「大型の使い魔を得た子は、こっちに来てー!」


 廊下で、副担任のダミアン先生が声を張り上げている。アブリルのクラスでも六人ほど出ていたから、他のクラスからも出ているだろう。廊下をぞろぞろとカンガルーに水牛、象に孔雀と、よく廊下を歩けるな、というサイズのものたちが行列を作ってお行儀よく行進していくのが見えた。


「そういえば、先生たちの中には大型の使い魔いませんね?」


 ふと、誰かがそうこぼした。だれだろう。今の声はブリサだろうか。


「ええ。大型の使い魔は、基本的に主と離れて暮らすことになります。一年が経つ頃には、それに耐えられなくなって、何とかするんですよ」

≪有名どころだと、王子様のデメトリオかしらね。大空を司る鳥だから、本来の姿は空一面の鳥でね。召喚した時から、部屋に入りきらないから、を理由に、小鳥ちゃんだったのよ≫


 バシリア先生の使い魔、赤い鱗を持つ魚のカリタードが解説してくれた。彼女はいつも、すいすいとバシリア先生の周りを泳いでいる。今は、先生の上着のポケットから、顔だけ出した状態だが。

 バシリア先生は王子と同期のため、その瞬間のうわさ話を聞いているのだという。クラスは違ったから、目撃者ではないが。


「先生、ビーナ、ええと、私の使い魔が」

「アブリルの使い魔は、猿?」

≪ボボネよ≫

≪あら、珍しい≫

「あの、止まり木が、欲しいと言っていまして」

「そうねぇ」

≪うーん、今日はもう諦めて、明日ドミンゴさんに聞いてみたら? 今日はもう帰っちゃったと思うから≫

「そうしてみます」

≪ドミンゴさんてだあれ?≫

「学院の庭師さんで、何でも作ってくれる方です。ここは本当に色々な使い魔が来るから、八面六臂の大活躍をされているわ」


 余談だが、ドミンゴの使い魔は本当に腕が六本ある。


 アブリルとビエンベニダは、その日は寮にあるアブリルの部屋のベッドで一緒に眠った。

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