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2.

 魔術大国アベイタには、二つの大公家と六つの侯爵家。それから十四の伯爵家に、二十四の子爵家に三十四の男爵家がある。合計で八十の領主がいた。その八十の家から大体毎年平均五人、一学年四百人程度が王都のカバジェロ学院へと入学した。たまになにがしかの理由で辞めていくものもいるが、まあ大体は四百人すべてが十五歳の夏至の日を迎える。

 大体四十人を一クラスとして、十のクラスがある。それぞれのクラスごとに、それぞれ別の部屋へと誘導させた。

 召喚の儀式には、専用の棟がある。門を入って正面の本館の奥、門からは塔だけが見えた建物が召喚専用の棟だ。白赤オレンジ。色とりどりの石を組み上げて作られているその棟は、何でも昔の王様の、使い魔が設計したものらしい。こういう家に住みたいと設計したけれど、その使い魔にはお城というお家がすでにあったから、再利用された形になる。

 その建物は、四角い。中央に外からは見えない中庭があり、その四方を建物がぐるりと囲んでいる。一度建物の中に入らなければ、中庭出ることは出来ない造りになっていた。玄関扉は両開きになっている。この建物は、普段は開かれていないけれど、毎年夏至が近くなると解放され、大掃除が行われていた。だから、カビ臭かったり埃臭かったりということはない。

 玄関ホールからは、中庭がすぐ見える。硝子造りのドアの向こう側の中庭は、今は花壇もなく殺風景ではある。庭師を派遣して、常に美しく保てないからだ。玄関ホールには申し訳程度に丸いカーペットが敷かれている。それは大昔、この建物を作ったのではない王族の使い魔のお気に入りのカーペットで。捨てるのに忍びないからとここに置かれていた。

 玄関ホールの左手には階段があり、中庭を囲むようにぐるりと五つの召喚部屋がある。階段の左隣の一列は、当時食堂と厨房として作られたため、今は使用されていない。同じく二階にも五部屋を召喚部屋と使用していて、二階の残り二部屋と、三階の七部屋は閉めてあった。

 四百人を一人ずつ一つの部屋で召喚の儀式をさせた日には、一日で終わるわけがない。だから一クラスに一つずつ、召喚の儀式を行うための部屋が割り当てられていた。

 今日は、国中のいたるところで、召喚の儀式が行われている。アブリルのいたビエルサ村で、今日ルアナとギジェルモも召喚の儀式を行っているはずだ。他の村もそんな感じで、人数は多くない。王都になると、人数は増えるが、それでも学院のように四百人もの子供たちに一斉に召喚の儀式を行わせることはなかった。


「一組の子はこちらに来なさい」

「三組は私についてきて」

「五組はこっちよ」


 先生に呼ばれて、一階と二階それぞれに、子供たちは移動していく。知ってる顔に手を振ったり、振り返したり。言葉はこれといって交わされていないが、それでもざわめいていた。

 アブリルたちも先生に先導されて、一階の奥にある部屋へと入った。両隣の部屋には、まだ誰も入っていないようだった、


「ではまず、ブラス」


 クラス担任のバシリアが、緊張した面持ちの男子生徒を呼ぶ。バシリア先生の使い魔の、赤い鱗の魚が、すいすいとバシリア先生の周りを泳いでいる。

 水属性の魚であれ、それ以外の属性の魚であれ、使い魔は空中を泳ぐことが出来るようになる。水属性の魚種は、寝床は水槽で決めているものが大多数だが。

 生徒達はみんな部屋に入ってしまい、壁際に並んで立っていた。椅子の類は一脚だけで、そこに座っているのはオレンジに近い赤毛を緩く襟足で一つにまとめたバシリア先生だった。


「授業でやった通りよ。部屋の中央の魔法陣の、そう、中央に立って」


 バシリア先生の説明を受けながら、ブラスは部屋のど真ん中に仰々しく描かれている魔法陣の、空白になっている中央に立つ。床に書かれている魔法陣は一つに見えるが、一つの魔法陣に追加で三つの魔法陣が書き込まれている。大きい魔法陣は召喚陣で、小さい一つは魔力の補助をするもの。


「どちらを向いて立ってもいいわ。気にいる方角がないならそうね、実家のある方角を向くといいわ」


 どっちだよ、という声が小さく居並ぶ生徒たちの間から囁かれる。そんなもの、調べたこともない。

 この部屋から、いやどの部屋からも、中庭を見ることは出来ない造りになっていた。中庭に向かって廊下が並んでいるのだ。だから入り口の向かいにある大きな窓から見えるのは、部屋によっては壁だったり、本館だったり寮だったりする。今アブリルたちのいる部屋から見えるのは、学院の敷地内にある森だ。その向こう側には、かなり遠景だけれど王城が見えた。正確には、その尖塔が。


「次に、授業で習ったとおりに呪文を唱えて。呪文を唱えながら、魔法陣に魔力を流すのを忘れないでね。魔力を流すことにより、魔法陣は門の役割を喚起されるのだから」


 バシリア先生の声に従って、ブラスは震える声で呪文を唱える。魔術大国アベイタにおいて、杖はほとんど使われていない。一部の職業魔術師が、己への負担を軽減するためだとか、魔術や魔力に指向性を持たせるために使う程度だ。有名どころだと、魔法陣を作成する際に、専用の杖を使うということを授業で習う。紙や布に書くのであればそれはペンの形をしており、地面に直書きをするのであれば、その辺りにある木の枝で構わない。


「彼方にいる我が半身よ、わが声を聴け。我が魔力を食え。彼方より我が呼び掛けに応え、今ここに! 出でよ!」


 ブラスの魔力が、魔法陣に満ちる。満ちる。満ちて、一つに集まり、一瞬発光して、魔力は形をとった。

 そこにいたのは、立派な角を持った鹿だった。ブラスは、荒い息を繰り返している。使い魔の召喚には、多くの魔力を消費する。使い魔が強かったり大きかったりすればするほど、使用する魔力量も増えるのだ。

 ブラスが召喚したのは、ブラスの髪と同じ落ち着いた茶色い毛並みをして、立派な角を持った鹿だ。立派な体格もさることながら、その立派な角を再形成するのにブラスの体内魔力の大半は消費されていた。

 魔力は時間経過とともに回復するが、今ブラスが消費した魔力は、一度や二度の呼吸程度で、回復する量ではない。


「ブラス、名前をつけてあげて」

「は、はい。ええと、ええと。ボニファシオ、なんてどう?」

≪悪くないな≫


 鹿は、角を振った。どうやら、頷いたらしい。

 バシリア先生は、手にしたボードに何かを記載している。壁際に佇んだ子供たちは、初めて目にする召喚の光景に、顔を見合わせていた。


「それじゃあブラスは、教室へ戻っていて。ボニファシオと色々と話しているといいわ。次、ブルーノ」


 そうして着々と、子供たちの召喚の儀式は進んでいった。

 現在のアベイタにおいて一番人気は、大地の力を持つものである。田畑を耕し、豊穣を与えるからだ。歴史の授業では、かつて火の力を持つものが尊ばれたこともあると習った。その頃は、あちらこちらで戦火がくすぶっていた。

 次点の人気は、男子は格好いいもの、女子は可愛いもの、だ。鳥型も人気がある。親たちの世代は三つ首の生き物が流行した。当時の王子が召喚したのが、三つ首の狼だったからだ。ちなみに左から順に、甘いものが好き、辛いものが好き、野菜が好き、と、好みがバラバラで大変である。


「お前庶民の家に召喚されていたら、ここまで要望聞いてもらえてないからな?」

≪え、我が主は王族なので大丈夫だろ?≫

≪その分ちゃんと働くから!≫

≪大丈夫、野菜が好きなだけで肉も食える≫


 まあそもそも論として、こんな生き物は庶民にはそうそう召喚されない。代を重ねて、魔力量が多く、魔力も濃厚な古い一族の元にしか、彼らは訪れないのだ。

 ゆえに、大体の使い魔たちは粘土や紙などで顔を模したお面をつけて笑っていたという。

召喚のシーンってそれだけで楽しいですよね。

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