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番外編3-4

 夏至の日。

 ルシアノ王子の召喚に応えたのは、先だって送還した大空を司る鳥であった。が、彼はつい癖で、丁度いいサイズで召喚された。

 大空を司る鳥を召喚するだけでも魔力を持って行くのに、魔力が馴染んでいない状態で、使い魔の状態変化の魔法を行使したものだから。


 ルシアノ王子は気絶した。


≪ごめんて≫

「ごめんで許すはずがなかろう」


 ルシアノ王子が気絶してしまったため、その鳥にはいまだ名前がない。とりあえず以前の主であるレアンドロの所に来てはいるが。


≪まあでも間に合ったようでよかった≫


 彼の目的はレアンドロを見送ることであり、そのために送還され再召喚されたのだ。


「ルシアノに悪いと思うなら、さて、その再召喚について知っているだけ吐き出すがよい」

≪え。あ、はい≫


「…………という流れで、仮送還、再召喚の術式がもたらされたというわけだ」

≪使い道なんて、こうやって授業でやるくらいだけどな≫


 ダミアン先生の説明に突っ込みを入れるのは、ダミアン先生の使い魔である、フェデリコだ。フェデリコは手のひらサイズのネズミ科の生き物である。一番近いのは、ハムスターか。


「ただ、仮とはいえ送還を嫌う使い魔も多いから、その辺りは気を使ってやってくれ」


 使い魔たちは、覚悟を持ってやってくるのだ。長く一族から離れる事を、場合によっては命を落とすことすらも。だから、仮とはいえ送還されるのは、その覚悟を他でもない召喚主に否定されるかのようで、嫌がる使い魔もそれなりにいた。

 なおフェデリコはその辺りを気にしない個体であった。体より大きな袋に自分と家族の好物を詰め込んで、じゃあ授業だしちょっと行ってくらあ。という気概を持っている。

 だってちゃんと呼び戻してくれるし。

 その辺りについてはこの授業を受け持つことになった時に何度も確認をした。仮送還では使い魔と召喚主の間にあるものが途切れないことを確認して、の、現在である。


「仮送還は、一見使い魔を送還したように見えるが、実際の所は縁がつながったままだ。彼らはまあ分かりやすく言うとカバジェロ学院に籍を置いたまま実家に帰郷している状態になる。夏休みが終われば帰ってくるだろう? これが再召喚だな」


 そんな説明でいいのか、という空気が主に使い魔の間に流れるが、実際そうなのだからそうとしか言いようがない。

 一度以上送還されたことのある使い魔は、言い得て妙だなと頷いた。初めて召喚された使い魔は、胡乱げな視線をダミアン先生へとむけている。


「仮送還陣は基本的に送還陣と変わらないが」


 生徒達が教科書に視線を落とした。


「そのまま使ってしまうと縁が切れて本当に送還になってしまうので気を付けるように。仮送還陣に関しては教科書には載っていない。なぜかと言うと、使い魔ごとに書き換える必要があるからだ」


 体の大きさや魔力の大きさ、種族に属性。性別などなどすべてを書き込む必要があるため教科書に見本を記入することが出来なかった。どこに何を書き込めばいいのかを記載したものを教科書に載せることも出来ない。


「いいかお前たち。仮送還を行おうと考えるなよ。基本的に、こういう術もある、というだけの話だ」


 仮送還を行う必要なんて、基本的にないのである。

 机の上に仮送還陣を描いた布を敷く。その上に、ダミアン先生の使い魔であるフェデリコが乗った。


「鍵よ開け。そは還郷の門。送還の陣。

 ひと時の、瞬きの帰還を良しとするものである」


 呪文はなんとも簡単で、しかし仮送還陣の上に門を呼び出した。


≪じゃあちょっくら行ってくらあ≫


 フェデリコはその扉にあるノブを自分でつかんで扉を開けた。前の方の席の生徒はかぶりつきでそれを見ることが出来たが、後ろの方の席に座っているアブリルからは何も見えない。

 いや、机の上に広げられた布に魔力を流して呪文を唱えたら魔法陣が屹立したのは見えた。その結果扉のようなものが出来たところまでは見えているが。

 フェデリコが自身でその扉をくぐった、というのが見えていないのだ。あまりにも、フェデリコが小さくて。


……らーん、がらーん。


 遠くで、鐘がなる。

 授業終わりの合図だ。


「それじゃあ、ここで昼休みとしよう。午後の最初の授業もこの部屋だ。そこで、フェデリコの再召喚の儀式を行うから、そのつもりで」


 生徒達ががやがやと大教室を出ていくのを、壇上に準備した椅子に座って、ダミアン先生は見送った。

 フェデリコは体が小さいし、魔力もそれほど大きくはない。本人の承諾も取っているし、互いに慣れてもいる。

 それでも、かなりの量の魔力を持って行かれていた。


「いやー、フェデリコでこれなら、嫌がるデイフィリアを仮でも送還したら、どうなりますかね」

「私の命で済めば、軽い方じゃないですか」


 仮送還に関する授業を聞いていたクレスセンシア王女に、ダミアン先生が問いかけた。生徒のいない大講堂に、職員が入ってきて二人分の昼食を机に並べてくれる。普段はこんなことをしてはくれないが、仮送還と再召喚の授業の時だけは特別だ。

 最低でも二回に分けて、彼はこのとても疲れる授業を行うことになっている。

 仮送還と再召喚の授業を手伝ってくれる奇特な使い魔は、フェデリコしかいない。彼は沢山のお土産のナッツで手を打ってくれたのだ。


≪いやもうすぐ母ちゃんが次の仔産むからさあ≫

「なんでお前はその状況で召喚に応じたんだよ」

≪なんとなく?≫


 だから授業とはいえ、妻子の待つ家に帰れるのはフェデリコとしてはありがたかったのだ。

 なお他の教授陣の使い魔は、決してフェデリコに譲ったわけではない。未だクレスセンシア王女と魔力が馴染み切っていないデイフィリアは言わずもがな、なんとなく嫌がる使い魔が多かったのだ。


 昼食を取って一休みしたころ、生徒たちが戻ってきた。昼休み明けにはまだ少し早いが、今度は前に座りたいのだろう生徒達だ。

 フェデリコの難点は、小さくて大教室だとよく見えない点だろう。しかしみんなからよく見える小教室で少人数相手にやるとなると、何回になるだろうか。お断りである。

 そもそもこの授業の目的は仮送還と再召喚ではなく、送還についてだ。生徒と使い魔が、正しく送還について話し合うことこそが目的である。

 ただどうしても、仮送還と再召喚についても講義せねばならず、そちらに生徒たちの目が行きがちではあるのだが。


「よほどのことがなければ、仮送還と再召喚は行いませんからね」


 クレスセンシア王女の慰めにもならない言葉に、ダミアン先生は肩をすくめる。おそらく世界で一番仮送還と再召喚を行っているのはダミアンとフェデリコである。授業なので毎年この時期に行うだけではあるのだが。


がらーん。がらーん。


 昼休みの終了を告げる鐘が鳴る。生徒たちは全員すでに戻ってきており、着席していた。講堂のドアが閉められる。


「さてそれじゃあ再召喚だ。気が付いていると思うが、再召喚は召喚と違ってこの場所で行うことが出来る。いやまあ、召喚自体もやろうと思えばこの場所で出来るんだが」


 その証拠に、カバジェロ学院以外の場所では、召喚用の魔法陣を刻んだ場所など用意されてはいない。

 カバジェロ学院に入学する子供は大半が魔力が大きい。そのため大型の使い魔を召喚する場合が多く、魔法陣で魔力の消費を手助けする必要があった。召喚がなされるまで魔力は体から出続けるから、失敗すると干からびるのだ。

 過去には、召喚に失敗して亡くなった子供もいると聞く。詳細は伝わっていないので、もしかしたら伝承の類かもしれないが。

 教卓の上に敷いた再召喚用の魔法陣が刻まれた布を、ダミアン先生がトントン、と叩いた。生徒たちは食い入るように教卓を見つめている。


「鍵よ開け。そは往訪の門。召喚の陣。

 ひと時の、瞬きの帰還を終え、絆をよすがに再び訪うものである」


 召喚陣が描かれた布から、再度門が屹立する。先ほどと同じ門に見えるが、違うのだろうか。

 門が開き、フェデリコがひょこひょこと戻ってくる。持って行った大きなナッツ入りの袋は持っていない。


≪いやー楽しかったわ。あ、そうそう。

 これは使い魔によって異なるんだけど、こっちでは一時間程度向こうに送還されていただけだろうけれど、実は三日くらい向こうで過ごしてるんだわ≫


 フェデリコの言葉に、使い魔たちがざわめいた。確かに、こちら側とあちら側では、時間の流れが違うこともままある。その差異がどれほどなのかは、フェデリコのように仮送還と再召喚を繰り返さなければ分からないだろう。

 今でこそもう慣れたけれど、最初向こうに仮送還されたときは、さしものフェデリコでもちょっと心細かった。契約が繋がっている感覚はあるけれど、もしかしたらもう喚んで貰えないのではないかと。


≪だから寂しがり屋はやめとけ。

 再召喚するには魔力が必要だ。それを回復させるのに、俺は小さいし慣れているしでもうそんなに魔力を使わないとはいえ、一時間はかかる≫


 果たしてそれは、一体。何分に、何時間に、何日に、何時間に相当するのか。使い魔たちは主の顔を見て、それから他の使い魔たちと顔を見合わせた。

 なるほど、仮送還も再召喚もやってみたくなどない。

フェデリコ結構好き。

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