第12話 宣戦布告
このエピソードは、帝国軍への処刑シーンがメインです。
そういった描写が苦手な方は、読み飛ばしていただいた方がいいかも知れません。
華やかな式典が終わり、日本国関係者がポーチ姫を連れて早々と立ち去った王城前広場では、グランディア帝国軍の処刑が始まっていた。
形だけの即席裁判で騎士階級全員と兵士のうち一定階級以上の者全員に死刑判決が下され、人数の多い兵士は街の外の荒野で生き埋めにされることになった。
両腕を拘束されて項垂れて歩く兵士たちに向けて、民衆が罵声を浴びせながら石や汚物を投げつける。
家族を殺され、娘や息子たちを奪われ、人として扱ってもらえず尊厳を踏みにじられてきた民衆は、その憎しみの全てを兵士たちにぶつけた。
汚物にまみれて異臭を放ち、石で額が割れて血を流す兵士たちの列の中には、拉致女性を馬車で運ぶ途中に敦史を殴りつけたあの兵士の姿もあった。
そんな彼らが街の外に出されると同時に、街の城門が音を立てて固く閉ざされた。
兵士たちが全員いなくなり後に残された帝国騎士たちは、次が自分の番であることを理解すると、必死に命乞いを始める。
貴族や準貴族である彼らは、ハウル王や王国幹部たちに対して本国にいる娘や息子との縁談を提案してみたり、金銀財宝を提供してドルマン王国の再建を約束するなど、殺されたくない一心であり得ないほどの大盤振る舞いしてみせた。
だがそんなものが受け入れられるはずもなく、民衆の怒号と歓喜に包まれながら、爵位のない一般騎士から始まり、騎士爵、準男爵、男爵と爵位の低い者から順番に処刑が開始された。
すぐ死なないようわざと急所を外して槍を刺され、耐えられないほどの激痛を死の瞬間まで与えられ続けられる騎士たちのうめき声が広場に響き渡る。
そして処刑人が、瑞貴と自衛隊の欺瞞工作に釣られて魔導部隊に救援要請するという失態を演じた前線基地幹部のリヒャルド男爵の隣に立つと、彼は狂ったように泣き叫んだ。
「頼むから命だけは助けてくれ。私はただ皇帝陛下の命令で魔界に進軍しようとしただけで、港町ドルマンには一切関与していない! 処刑されるべきは私ではなく、ドルマン王国を滅ぼして犬人族を支配した総督のガーネット伯爵のはずだ!」
すると真っ赤な顔で怒ったガーネット伯爵がリヒャルド男爵を睨み付けて、
「何を言うかこの田舎貴族がっ! このリヒャルド男爵は領地に犬人族を始めとする亜人種族を奴隷として飼っていて、死んでも弔うどころか家畜のえさにして処分してしまうような野蛮人だ。だが私のような帝都に住む上級貴族は、亜人にも帝国臣民同等の権利を認めていた」
「何が権利だ! その帝国臣民ですら人間扱いしていなかった選民意識の権化のくせに!」
そんな二人の罵り合いはすぐに他の貴族にも飛び火して互いに足を引っ張り合い、この場の誰もが知らなかった悪業が次々と明らかになっていく。
最初は興味深く聞いていたハウル王もそのあまりのおぞましさに気分が悪くなり、彼らを黙らせるためにその発端となったリヒャルド男爵の処刑を命じた。
「頼む命ばかりは助けてくれ。私が死んだらリヒャルド男爵家そのものが無くなってしまう。どうかお願いだ、ひっ、ひ・・・ぎゃーーっ!」
だが命乞いも虚しく、男爵の脇腹には処刑人の槍が深々と突き刺さった。
「・・・あがっ、うぐぅ・・・死にたく・・・ない」
2本、3本と槍が身体を貫くと、そこから流れ出す血が広場を赤く染めていき、男爵の絶叫が広場に渦巻く他の騎士たちの苦悶のうめき声に加わった。
その後も次々と処刑されていく帝国貴族たちの絶叫とうめき声を聞きながら、ガーネット伯爵はハウル王を睨み付けて怨嗟の叫びを上げた。
「魔族どもをこの世界に顕現させ、皇帝陛下の軍に弓を引いてしまった狂犬ハウルよ。グランディア帝国はお前たち犬人族を決して許さない。神に背いた貴様ら種族は未来永劫解けない呪いがかけられるだろう」
「黙れ狂人。我がドルマン王国を始めとする亜人諸国を次々と滅ぼし、ティアローズ王国にまで手を出したグランディア帝国こそが神に背く魔族だ! 処刑人、他の貴族どもは後回しだ。この狂人を先に殺せ!」
「はっ!」
王の命令を受けた処刑人は、3本の槍全てを伯爵の脇腹に深々と突き刺した。
「ぎゃーっ! ・・・うぐっ・・・ぐ、グランディア帝国に栄光あれ・・・」
激痛に悶えながらも、帝国への忠誠を捨てなかったガーネット伯爵は、その後数十分ほど苦しんだ後に、帝国への憎悪に燃える上がる民衆の侮蔑と罵倒に見送られながら、最後は静かに息を引き取った。
◇
騎士全員の死亡を確認すると、彼ら一人一人の名前が彫られたみすぼらしい棺桶に遺体が納められ、帝国本国に送還されることになった。
今回死刑を免れた下級兵士たちがその棺桶を運ぶことになるが、彼らが途中で逃げ出さないように監視するのが、金で犬人族側に寝返った傭兵たちだった。
身ぐるみ剥がされ裸同然で街を放り出された下級兵士たちは、棺桶を引きずりながら日本が占領する南部異界門基地のさらに西方に広がる不毛地帯を超えて、遥か彼方にある旧グランディア王国王都・ディアノスを目指して旅立った。
途中、亜人居住区域に展開する帝国騎士団に発見されることになるだろうが、貴族たちの変わり果てた姿を見れば否が応でも港町ドルマンが既に帝国の物ではなくなったことが理解できるだろう。
そう、これが新生ドルマン王国によるグランディア帝国への宣戦布告であり、犬人族が決して屈することはないという強い意思表明だった。
次回は通常に戻ります。お楽しみに。
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