第7話 拉致女性奪還作戦
藤間警部率いる拉致女性奪還チームは、物資の搬入に見せかけて輸送船内部への侵入を果たしていた。
日本側のメンバーは伊藤敦史、芹沢翔也、水島かなで、神無月弥生を加えた5名であり、レジスタンス側はポーチ率いる総勢30名の戦闘員たちだ。
その全員が船底の貨物室に侵入すると、帝国軍の守備隊を制圧して拠点確保に成功した。
ここから輸送船最上部にある艦橋を目指すが、部隊の全体指揮を執る藤間警部が翔也に指示を送る。
「艦橋へのルートと女性の監禁場所を調べてくれ」
「了解。やっと僕の出番のようだね」
翔也がデバイスに思念波を送り込むと、オーラが増幅されて彼の視覚を強化していき、それと同時に彼の表情が消えていく。
瞳孔が拡大して空洞のような両目で全方位をサーチすると、船全体を透視してルートを割り出した。
「女の子たちはちょうどこの真上にいたよ。全員生きてはいるけど、かなり厳重に監禁されていて救出には大規模な戦闘は避けられないな。藤間警部の作戦通りここは後回しで正解だと思うよ」
「女性たちの逃亡や外部からの救出を警戒してのことだろうが、この辺りは米警察の対テロマニュアル通りで想定内だ。ところで艦橋への侵入ルートはどうだ」
「この巨大な輸送船は船倉が3層構造になっていて、艦橋へのルートは何十通りにもなるんだけど、最短で向かうと途中に兵士たちの詰所を通ることになって、大規模戦闘が避けられない。そこを迂回するためには船尾にある階段を使って甲板に出るルートが安全だけど、それでも戦闘は避けられないと思う」
「兵士が巡回するのは当然だし戦闘は必ず発生する。ただし敵に見つかる前に先に攻撃が出来れば援軍を呼ばれることもない。翔也は透視能力で敵の位置を常に察知して俺と敦史、神無月君の3人で敵を仕留める。敦史、敵を射殺する覚悟はできているか」
藤間警部に覚悟を問われる敦史だったが、
「港町ドルマンで犬人族と過ごしたこの一週間、化け物だと思っていたオークたちが実は俺たちと同じ人間だと実感できたし、俺たちと同じ姿の帝国兵の方が遥かに残忍で、人の命を何とも思わない化け物だということもわかった。だから躊躇なんかしないさ」
「それならいい。俺はお前たち全員を日本に帰還させる義務があるが、一人一人を守ってやることはできない。だからお前たちに命じる。やられる前にやれ! その全ての責任は俺が持つ」
「分かってます、藤間警部。俺たちは帝国を倒して、その圧政に苦しむ犬人族やオーク、オーガ、そして全ての亜人たちを解放する。みんな覚悟はできてるか」
敦史が仲間一人一人の顔を見るが、弥生がさも当然のように言い返す。
「敦史、あなたが一番心配だから藤間警部がわざわざ確認しただけよ。かなでちゃんは私と同じで瑞貴のためならどんな汚れ仕事でもするし、そこのイケメンもなぜか私たちと同じ匂いを感じるのよね」
「確かにお前ら二人は瑞貴の命令なら何でも聞きそうだし、その愛情には狂気すら感じるよ。でも翔也は何で瑞貴の言うことを素直に聞くんだよ」
すると翔也は涼しい顔で、自分の本音を誤魔化す。
「彼は僕の永遠のライバルだから、僕も瑞貴もこんなところで死ぬわけにはいかないだけさ」
弥生はジト目で翔也を見るが、「まあいっか」と言うと敦史に向き直って、
「私も瑞貴と一緒に総督府に突撃をかけたかったんだけど、その瑞貴のたっての頼みだから仕方なくこっちを頑張るんだからね。でも漠然と戦うのもつまらないし、どっちがたくさん帝国兵を血祭りに上げるか競争しようよ」
「絶対やらねえよ! お前に勝てるわけねえからな」
◇
簡単なブリーフィングの後、艦橋を目指して船尾の方向に進み始めた敦史たち。
その先頭を藤間警部と弥生が歩き、そのすぐ後ろで翔也が透視能力で索敵しながら進む。
さらにその後ろを思念波弾をいつでも撃てる態勢を整えた敦史が続き、その隣に今回初陣となるポーチが並んで歩く。
「ポーチは帝国兵のことは気にせず、レジスタンスの指揮に専念してくれ。近づく敵は俺が倒す」
「ありがとうアツシ。お言葉に甘えて、あなたたちの戦いぶりをじっくり見させて貰うわね」
ポーチの後ろにはレジスタンスメンバーが続き、その最後方をかなでが守る。
全35名の隊列の前方を弥生、後方をかなでが鉄壁のバリアーで防御するが、狭い船内ではバリアーを自由に展開することができず、小型のバリアーをいくつも展開しておいて、それを縦横無尽に動かして敵の攻撃を防ぐこととなる。
その理由は、バリアーの実体が空間力場であることにある。
帝国軍の輸送船の主な構造体である木材にバリアーを重ねて展開すると、空気中に展開するのに比べて莫大なエネルギーを要する上にバリアーによってその木材を破砕してしまい、大きな音をたてながら船を破壊して進むことになり、隠密行動にならないからだ。
そんな隊列にあって、翔也が敵を発見する。
「この通路に向けて左方向から敵歩兵2名が接近中。バリアーの展開はなし」
翔也の報告を受け、藤間警部が即座に指示を出す。
「全隊停止。敦史、行けるか?」
「大丈夫っす」
そして二人が足音を消して通路の交差地点まで移動すると、曲がり角に躍り出て思念波弾を発射した。
シュボ!
シュボ!
拳銃に比べて貫通能力は低いが無音で攻撃が可能な思念波弾を選んだのは、兵士が軽装で十分な殺傷能力が発揮できることを翔也が看破していたからだ。
敵兵士二名の死亡を確認した藤間警部は、再び全隊に指示を出した。
「全隊進め」
レジスタンスを再出発させたポーチは、帝国兵に気づかれる前に彼らを一撃で倒してしまった敦史たちの鮮やかな戦いぶりに、驚嘆を隠せなかった。
「私たちが束になっても敵わなかったあの帝国兵を、この人たちは何の苦もなく倒しちゃった。この調子なら本当に艦橋まで気づかれずに着いちゃいそうね」
そんなポーチの呟きが現実のものとなり、途中何度も帝国軍に遭遇したが、敵に気づかれるより先に相手を次々と倒していった。
そして迂回経路を進みながらも、ついに艦橋の前まで到達した。
扉の脇に身を潜めた藤間警部が、翔也に確認する。
「艦橋にいる敵の配置を詳細に頼む」
すると翔也の両目が再び空洞のようになり、
「中には帝国兵が10名・・・でもみんな艦長席の周りに集まって酒盛りをしているよ。出航予定がまだ先なので、たぶん油断してるんだと思う」
「好都合だ。ここは水島君を除く全UMA室戦闘員で突撃をかけ、速やかに艦橋を制圧するぞ」
「「「了解っ!」」」
藤間警部が拳銃でドアノブを破壊して扉を蹴破ると、酒樽を囲んで宴会をしていた帝国兵に向けて銃を発射。艦長と思われる男を一撃で射殺すると、呆然としている男たちの真ん中に弥生が躍り出て、彼らの首を文字通りへし折って回った。
「速ええっ!」
敦史が呆気に取られている隙に翔也は操舵輪を破壊し、手筈通りに操艦機能を喪失させた。
「敦史、何をやってる早くしろ!」
藤間警部の怒号が飛ぶ中、敦史は思念波補助デバイスに送り込んでいたオーラを使って、特大級の思念波弾を艦橋の外に向けて発射した。
ドゴーーーンッ!
バギャッ!
敦史が放った思念波弾が粉砕したのは、この船のマストだった。
根元から折れた巨大な帆がたくさんの帝国兵を巻き込みながらゆっくりと倒れていき、そのまま海の中へと落下していく。その様子はまさに阿鼻叫喚だった。
「藤間警部、作戦成功です! これでこの船の推進能力も半減したはず」
「上出来だ敦史。だがこれで俺たちの存在が敵に知られるところとなった。ここから敵の反撃が始まるが、我々は隊列を二手に分ける。俺と神無月君はレジスタンスの半数と共に艦橋を奪還しに来る敵を迎え撃つ。敦史と翔也は最後尾にいる水島君と合流して拉致女性の救出を急げ!」
「「了解!」」
レジスタンスの半数を残して、再び船倉へと降りていく敦史たち。船内は侵入者を撃退するため帝国兵が活発に動き始めており、レジスタンスの一部は既に戦闘を開始していた。
拉致女性の救出に向かう部隊を率いて階段を駆け降りるポーチの後ろに敦史つくと、
「ここからは敵も容赦なく襲ってくるし、ポーチは俺の傍を離れるなよ」
「ありがとう。でも私だって戦えるんだから、アツシも敵に集中して」
「そうだな。早く敵を倒して女の子たちを助けるぞ」
監禁場所への最短ルートを全速力で進む敦史たちは、途中何度も帝国兵の突撃に遭遇したが、そのことごとくを敦史の思念波弾で切り抜けていく。
「これマジでリアルFPSだわ。しかも初見でRTAされられちまってるが、それを見事にこなしちまうのが天才ゲーマー伊藤敦史様の実力よ!」
「それも僕の透視能力があってのことだけどね。おっと敦史、右の角から帝国兵3!」
「はいよっと!」
槍を握りしめて敦史たちの前に飛び出して来た帝国兵3人を既に準備していた思念波弾で瞬殺する敦史。
さらに次々と襲い掛かる帝国兵を無駄のない動きで倒していく敦史の後ろでは、翔也が透視能力で敵の動きを丸裸にしていく。
「アツシとショウヤのコンビって、ひょっとして無敵なんじゃないかしら。特にアツシは一撃も外さず全て急所に命中させるなんて、本当に信じられない」
ポーチは敦史の神がかり的な攻撃力に感心しながら、必死に前の二人について行った。
◇
そしてついに拉致女性が監禁されている船倉にたどり着いた敦史たちは、その厳重な守りに足を止めてしまった。
狭い通路の奥に扉があり、その奥が監禁場所になっていることは翔也が確認済みだが、その扉の前を10名ほどの兵士が守っていて、いずれも重装備の上にマジックバリアーまで展開している。
「この守りじゃ、俺の思念波弾では突破できないな」
「敦史が無理なら、この僕ではどうしようもないか」
「お前は索敵専門だからな。こういう時に瑞貴か神無月みたいな近接戦闘専門のヤツがいれば簡単に突破できるんだが、さてどう攻略するか・・・」
二人が攻めあぐねていると、レジスタンス部隊の防御を一手に引き受けていたかなでが前に出てきた。
「ここは私に任せて」
「防御と癒し専門の水島が何をするんだ」
「見ていれば分かるわ」
そう言うとかなでは右手を前に突き出した。
すると通路の幅と高さとピッタリ同じサイズのバリアーを発生させて一気に加速すると、通路の奥に陣取る敵兵士たちにぶつけた。
「「「ぎゃあっ!」」」
一体どれほどの速度で衝突したのか分からないが、通路奥の壁にピッタリと張り付いた敵兵士たちが巨大なプレスに挟まれたように無惨に潰れてしまった。
微動だにしない敵兵の鎧からは赤い血がダラダラと流れ出し、バリアーが消失するとバタバタと地面に崩れ落ちてそのまま息絶えた。
「エグ過ぎる・・・水島のヤツ、あの超絶バリアーを空間力場で加速して大砲みたいにぶっ放しやがった」
「僕は絶対、こんな死に方は嫌だな。かなで君の機嫌を損ねないように気を付けなければ」
「そんなことよりアツシとショウヤ、今のカナデの攻撃で正面の扉が壊れたわよ!」
「本当だ。翔也、中の敵の様子は?」
「帝国兵10名。だけどこの守りが破られるとは思ってなかったみたいで、かなり混乱している。女の子たちを人質に取られる前に一気に倒そう!」
「よし、全員突撃だ!」
◇
船倉に監禁されていた拉致女性は全部で87名。
その全員の無事を確認した敦史たちは、彼女たちを脱出させるべく再び甲板を目指した。
途中の船内には帝国兵の死屍累々の山が築かれていたが、そこにレジスタンス側の死者はなく、負傷を負った者はかなでの治癒魔法で即座に応急処置が施されて再び武器を手にして帝国兵に立ち向かっていく。
そんな彼らが徐々に帝国兵を押し込んでいくのを見ながら、敦史は藤間警部に連絡を取る。
「拉致女性全員の救出に成功し、現在甲板に向けて進軍中も、船内の帝国兵残党と交戦中」
『よくやった敦史。こちらも艦橋を拠点に帝国兵と交戦中だ。敵の数が多すぎてそちらに救援を回せないが、ここからは防御を主体に対応して、時間をかけて帝国軍を無力化して行けばいい』
「了解しました。では甲板を目指して「ゆっくりと」帝国兵の殲滅にかかります」
通信機を切った敦史は、敵と交戦中のポーチに指示を送る。
「藤間警部たちも身動きが取れないようだが「時間をかけていい」との指示だったので、向こうも救援を必要としていないようだ。たぶん司令部からの指示で、自衛隊やレジスタンス本体の動きに合わせてるみたいだし、ここは焦らずゆっくり攻略しようぜ」
「了解よ。あなたたちが味方になってくれて本当によかったわ。後ろの女の子たちを無事脱出させるまで、気を引き締めてがんばりましょうね、アツシ」
次回「帝国軍ドルマン前線基地攻略戦」。お楽しみに。
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