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クラスメイトは異世界王女  作者: くまひこ
第1章 亜人解放戦争

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第5話 犬人族レジスタンス

 酒場の中は割と広く、たくさんあるテーブルを囲んで帝国軍兵士や傭兵たちが昼間から酒を酌み交わしていた。そこで働く給仕は全て犬人族の若い男女だが、外の露店と違って乱暴を働く客はいない。


 ヒッグスによるとここは帝国軍専用の酒場に指定されていて、給仕への暴力はご法度らしい。


 俺たちがとりあえず空いてるテーブル席に着くと、藤間警部だけはカウンターのマスターの前に座った。そのあまりに自然な動作に、俺は刑事の本領を見た気がした。


「ミズキ殿。レジスタンスへの接触はフジマ警部に任せて、ワシらは酒でも飲んで待ちましょう」


 そう言ってヒッグスは給仕の女の子を呼んで適当に酒を注文した。だが俺は慌てて、


「おいヒッグス、俺たちは17歳でまだ酒は」


「我が主よ、この世界で17歳は立派な成人。それに酒を飲むのに年齢制限などありませぬ」


「17歳で成人? アリスレーゼは自分はまだ未成年だと言っていたが」


「人族の平民は15歳、貴族は18歳で成人です。そして我々のような亜人は種族によって5歳から10歳とバラバラ。いずれにせよ、酒場にきて酒を飲まないのは逆に怪しまれ、潜入作戦になりませんぞ」


 そのヒッグスの言葉に敦史が、


「お前はまじめ過ぎるんだよ瑞貴。それにここはもう日本じゃないんだから俺たちはもう大人だ」


「みんなが飲むなら私も飲んじゃおっかな」


「水島さんまで・・・だがそうだな、これは潜入作戦だし目的を達成するには酒の一杯や二杯」


「よしそうと決まれば乾杯だ!」




            ◇




 藤間警部がマスターと接触して相手の信用を得るまで相応に時間がかかる。その間、時間を持て余していた俺たちは、お代わりを何杯かしてしまった。


「おい瑞貴~、野営地の深夜の見張りの時に、水島といちゃついていたのを俺は知ってるんだぞ~」


「ちょっと待て敦史、今その話をするのは止めろ」


「バーロー! こっちは彼女いない歴更新中なのに、何でお前には5人も女がいるんだ。しかも神宮路と婚約まで発表して彼女を飛び越えていきなり嫁かよ!」


「わかったから、もう大きな声を出すな。お前完全に酔ってるだろ」


「俺も早く彼女が欲しいぜ。お姉さん、お代わり~」




 敦史が給仕さんを呼ぶと、水島さんまでお代わりを注文した。


「水島さんも少しペースを落とした方がいい。じゃないと敦史のようになってしまうぞ」


 だが水島さんを止めるのが少し遅かったようで、


「瑞貴くん、どうして私だけ苗字呼びなの?」


「ど、どうしたんだよ急に・・・」


「かなで」


「え?」


「かなでって呼んで」


「しまった遅かったか・・・」


「私は酔ってなんかいませ~ん。それが証拠にかなでって呼んでくれるまで瑞貴くんから絶対に離れないんだから、えいっ!」


「うわっ! 水島さんちょっと離れて」


 水島さんは俺の右腕にガッシリ捕まって身体を密着させてきた。すると敦史が恨めしそうに睨みつけて、


「こらぁ! 俺の前でいちゃつくな瑞貴~!」


「敦史も落ち着け。ちょっと目立ちすぎるだろ」


「ガッハッハ! 我が主は人族ながら実に頼もしい。我らオーク騎士団では、嫁は10人いて初めて一人前だから、あと5人は増やせますな」


「ヒッグスは余計なことを言わなくていいから、この二人を少し黙らせてくれ」


「いいじゃないですか、ガーッハッハ!」


 そんなヒッグスの声が大きすぎたのか、いつの間にか周りの帝国兵や傭兵たちが俺に向けて口笛を吹いたり、はやし立てたりしていた。


「もうメチャクチャだよ・・・」


 そしてヒッグスの近くには亜人種の兵士たちが集まってきてなぜか酒盛りが始まってしまった。これ以上目立つと作戦に支障をきたすので、水島さんには少し落ち着いてもらうことにした。


「名前呼びするから身体を少し離してくれ、かなで」


「・・・やっと名前で呼んでくれた、嬉しい・・・。お母さん、やっと私の夢がかなったよ!」


 嬉しそうに腕に抱きつく水島さん・・・かなでに、それ以上強く言えなくなった俺は、しばらく彼女の好きにさせておくことにした。




 そして給仕の女の子が酒のお代わりを持って来たのだが、なぜか俺の分まで持ってきてしまった。


「お姉さん、俺は注文してないんだけど・・・」


「これはマスターからの奢りです。ゆっくり楽しんで行ってくださいって」


 そう言ってほほ笑んだ給仕さんは、年齢は俺たちと同じぐらいの、とても可愛い女の子だった。


 白く大きな三角耳がピクピク動き、スカートから出ているフサフサしたしっぽを元気に振っているが、それ以外は完全な人間だ。


 俺はマスターに礼をしようとカウンターに目を向けると、そこに座る藤間警部が目で合図を送って来た。俺はその指示に従いコップとコースターの間に挟まれた小さな紙切れにこっそり目を通す。


『トイレの振りをして厨房に行け』


 俺はメッセージに従い、給仕さんにトイレの場所を尋ねた。すると、


「かしこまりました。お隣の女性とお向いのご友人も少し酔いが回られているようですので、奥で休憩された方がいいと思います」


「・・・そうだな。敦史とかなでは少し休ませてもらった方がいい」


 いつの間にか俺たちのテーブルを占拠してしまった亜人の兵士たちの相手をヒッグスに任せると、俺たち3人は給仕さんの案内で奥の厨房に入って行った。





 酒場の厨房には地下へ降りる階段があり、そこを降りると酒樽が並べられた倉庫になっていた。その奥の棚を給仕さんが横にずらすと、人がギリギリ通れるほどの壁の隙間が現れた。


「ちょっと狭いですが、ここを通ってください」


 給仕さんの後に続いて俺たち3人も隙間に入り込む。数メートルほど横歩きして何とか反対側に出ると、いつの間にかランプを手にした給仕さんが、俺たちを先導して先を進んだ。


 足下を気にしながら長い下り坂を下っていくと、やがて天然の地下洞窟に繋がった。


 地下水が天井から滴り落ちて、所々に水溜まりができている。そんな洞窟をゆっくり進んでいくと、先の方でかすかに明かりが灯っているのが見えた。


「あそこがレジスタンスの拠点です」


 給仕さんが少し足早に歩きだし、俺たちも彼女に続いて洞窟を進む。そして明かりの灯った洞穴の一つに入っていくと、中は大きな空洞になっていてたくさんの犬人族が慌ただしく動き回っていた。


 その空洞の真ん中には大きなテーブルが置いてあり、その中央に一人の男が座っていた。その男に給仕さんが事情を説明する。


「お父さん、私たちの味方をしてくれる傭兵さんを連れてきたよ」





「娘の話は分かった。まずは我が同胞を助けてくれたことに感謝しよう」


 そう言って俺たち3人と握手を交わしたのは、レジスタンスのリーダーのハウル。そして彼の隣に立つ給仕さんが一人娘のポーチだ。


 そんな二人に俺は、自分達の事情と今日ここに来た目的を改めて説明し、協力を求めることにした。


 つまり、俺たちの国がグランディア帝国の侵略を受けそれに対抗するため南部異界門基地を占拠したことや、帝都ティアローズを解放するために亜人居留地域を縦断し帝国と戦端を開くこと、その足掛かりとして港町ドルマンから帝国軍を一掃する計画があること等、関係する計画の全てを伝え、拉致された犬人族の女性たちの奪還作戦も協力できる旨を伝えた。


 俺の話を聞き終えたハウルは、だが表情を曇らせると完全に黙り込んでしまった。それを心配そうに見つめていたポーチは、


「お父さん、これは千載一遇のチャンスなのよ! あの憎むべきグランディア帝国から国を取り返すためには、魔族の力を借りたって別にいいじゃない!」


「うーむ・・・だがしかし」


 娘の懸命の説得を聞き入れようとしないハウルだったが、俺は一つだけ気になったことを尋ねた。


「あの・・・ちょっと聞いていいですか?」


「何だろうか?」


「先ほど娘のポーチさんが言ってましたが、魔族の力を借りるってどういうことですか?」


「・・・え?」


「俺たちはグランディア帝国の転移魔法を乗っ取ってここに来たばかりで、まだこの世界のことを知らないのです。でも魔族がいるなんて恐ろしい世界ですね」


「・・・・・」


「・・・・・」




 なぜか突然会話が終わってしまったが、ひょっとして言葉が通じなかったのか。以前アリスレーゼが日本に来たばかりの時も、概念が存在しない単語は自動翻訳されないという制約があったことを思い出した。


 だがどうやら言葉が変換されなかったのではなく、ハウルが呆気に取られているだけのようで、ポーチが代わりに答えてくれた。


「・・・魔族というのはあなた方のことなのですが」


「ええっ?! お、俺たちが魔族だって?」


「違うのですか?」


「違う、違う、全然違うよ! 俺たちは普通の人間でアリスレーゼの支援がなければ魔法すら使えないよ」


「・・・アリスレーゼって、帝国が魔界で発見したと喧伝しているティアローズ王国の次期女王陛下の?」


「よく知ってるな。そのアリスレーゼは俺たちの仲間だけど、ひょっとして知り合い?」


「と、と、と、と、とんでもないっ! 世界に君臨する偉大なるアリスレーゼ王女殿下は、我々のような世界の隅っこに住んでいる犬人族風情には一生お目にかかることのできない遥か雲の上の存在!」


「そ、そうなんだ・・・。でも、そのアリスレーゼもすぐこの近くまで来てるんだけど」


「「えーーーーっ!」」


 俺のその言葉に、ハウルとポーチの父娘は驚きのあまり腰を抜かしてしまった。

 次回「ドルマン解放作戦」。お楽しみに。


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