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クラスメイトは異世界王女  作者: くまひこ
第1章 亜人解放戦争

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第3話 野営

 荒野を東へ走り続けた高機動車は、切り立った崖地にあるくぼみの前で停車した。


 日が落ちて辺りはすっかり暗くなり、見上げれば満天の星空と、赤と青の二つの月が顔を出していた。


「ここって地球ではない・・・よな」


 だが雨宮主幹が言うには、星座の近似性や重力加速度の大きさ、大気組成、生物の特徴、自転周期、地表の曲率等からここが地球である可能性もゼロではないとのこと。ただし無数にある多重世界の中でもかなり遠い時空であることは確かだと話していた。


 その後も難しい宇宙論を延々と話し続けたため途中からは全くついていけなくなったが、物理教師である母さんとは徹夜で議論したと聞かされた時は、自分は理系ではなく文系なのだと自覚してしまった。


 そんなことを思い出しながら車から積み荷を下ろすと、俺たちは野営の準備に取り掛かった。


 くぼみの中はそれほど深くなく有害な生物が生息している痕跡は特に見つからなかったため、今夜はここにテントを張って一晩を過ごすことになる。


「水島さん本当に申し訳ない。物資の関係で女の子なのに俺たちと同じテントで寝てもらうことになって」


「ううん、気にしなくていいのよ。前園くんと一緒にいられることの方が嬉しいから」


「お、おう・・・」


 テントが完成して野営の準備が整うと、藤間警部は拳銃と思念波補助デバイスの手入れを始め、ヒッグスはいびきをかいて寝てしまった。この二人は夜の監視に備えているのだろう。


 俺たちの当番はその後なので、眠くなるまで敦史と水島さんの3人でトランプをして過ごした。





 深夜になり、敦史に起こされた俺は水島さんとともに入り口に停めてある高機動車の座席に座った。


 外部からの侵入に備えて思念波補助デバイスによるバリアーを展開しているものの、藤間警部の提案で念のために監視は行うことにしたのだ。


 それでも女子を一人で見張りにつかせる訳にはいかないので水島さんの時は俺か敦史が一緒に対応する。


 隣のシートに腰かけた水島さんが「夜のデートみたいね」と言って楽しそうに笑ったが、そんな彼女もつい最近まではクラスでひどいイジメを受けていた。


 もちろんその頃の彼女が笑った顔など一度も見たことがなかった。


 そのイジメもアリスレーゼ達の活躍で解決すると、彼女は髪形を整えてほんの少しだが化粧も始めた。そして彼女の表情に笑顔が戻ると、それだけで以前とは別人のように印象が変わり、今では男子からの人気も急上昇していた。


 敦史から聞いたのだが、俺とさやかの婚約が公表された翌日以降、水島さんは何人もの男子から告白を受けたそうだが、彼女は誰とも付き合うつもりはないと全て断ったらしい。


 そんな水島さんの横顔を見つめていたら、それに気づいた彼女は表情を少し曇らせた。


「前園くんと仲良くし過ぎちゃダメだってことぐらい私も理解しているの。だから前園くんが望まなければそういう関係になるつもりはないし、そう自分に強く言い聞かせている。それでも自分の気持ちがつい表に出てしまって・・・本当にごめんなさい」


「謝るのは俺の方だ。水島さんの気持ちに気づいていながら、高校卒業を待たずにさやかを選んでしまったことを許して欲しい」


「ううん、それは別にいいの。もともと自分が選ばれるなんてこれっぽっちも思ってなかったし、いじめられっ子だった自分がそんなことを望むだけでも、烏滸がましいことよね」


「それは違う! ・・・実は水島さんって、俺が初めて仲良くなった異性の友達なんだ。だからもしキミと付き合うことになったらどんな学園生活を送るんだろうなって考えたこともあったんだ」


「うそっ! だって前園くんと言えば学園一のイケメンで、今や全国的に有名な黒髪王子。なのに私が初めての異性の友達なんてありえないわ・・・」


「俺は物心ついた頃から男友達とばかり過ごしてきたんだ・・・弥生のことは置いといて。それが愛梨の策略だったことは最近知ったが、それもあって、たぶん水島さんが俺の初恋の相手なのかもしれない」


「ええっ! 私が初恋の相手・・・実は私も前園くんが初恋なの。お母さんからは無謀だからすぐに諦めなさいって言われたけど」


「・・・もしかしたら俺たちが付き合っていた未来がどこかにあったのかもしれないな」


「うん・・・」




 それからお互い黙ってしまい、静かな時間がしばらく過ぎていった。


 赤と青の二つの月をボンヤリ見つめていると、俺の首筋に彼女の髪が少し触れた。いつの間にかピッタリと身体を寄せていたようで、彼女の髪をかき上げると頬を赤く染めた顔が俺の方を向いていた。


 瞳が少し潤んでいて、かすかに聞こえる彼女の吐息が恋人のささやきのようにも聞こえる。


「ごめんなさい。髪がくすぐったかったよね」


「そんなことないよ」


「じゃあ、しばらくこうしていてもいい?」


「・・・ああ」


 やっとのことで俺はそう返事をする。


「・・・みんなが見てるところではちゃんとできてるつもりだけど、あなたと二人きりになるとどうしてもダメみたい・・・でもこんなの間違ってるよね」


「キミが間違ってるわけじゃないよ。ただ俺はさやかと結婚すると決めたから、彼女への裏切りになるようなことはしたくないだけなんだ。ごめん・・・」


 俺は水島さんを傷つけずに一線を越えないよう気を配ったのだが、彼女は意を決するととんでもないことを言い出した。


「本当はこんなことを前園くんに言うつもりはなかったし、前園くんの気持ちを優先すると言った私の言葉がウソになるから言いたくなかったんだけど・・・やっぱり自分の気持ちにウソはつけないみたい」


「・・・水島さん?」


「神宮路さんはもちろん私の気持ちを前から知っていたの。お互いにライバルみたいな時期もあったけど、彼女が死の瀬戸際まで行って無事生還したあたりから私たちの関係が変わった」


「関係が変わった?」


「神宮路さんにとっては私は命の恩人で、私の気持ちを知っている彼女はある提案をしてくれたの。色んな制約はあるけど、それでもよければ前園くんの傍でずっと暮らしてくれてもいいって」


「さやかがまさか・・・」


「神宮路さんが結婚相手であることはもちろん変わらないし、深く傷ついた彼女にとっては前園くんだけが生きる支えだと思うの。だから私は二番目・・・」


「水島さんそれ以上は・・・」


 俺は慌てて彼女を止め、彼女もすぐ口をつぐんだ。


 だがそれが何を意図しているのかさすがの俺にも理解できたし、さらに2回の野営を経ても俺たちがこの話題に触れることはなかった。


 ただ、この俺の潔癖さが後に多くの血を流させる結果となることを、愛梨以外は知るよしもなかった。




            ◇




 基地を出発してから4日目の昼過ぎ、俺たちは港町ドルマンに到着した。


 そこは城壁に囲まれた大きな港町で、入り江に作られた港には巨大な帆船が多数係留され、小型の運搬船がひっきりなしに出入港を繰り返している。


 港の反対の陸地側には城壁内部に入るための城門が待ち構えているが、今はその扉が開いていて、門番はノーチェックで旅人を迎え入れていた。


 それもそのはず、この街にやってくるのはいかにも傭兵風の装備を身に着けた男たちばかりで、グランディア帝国が「南部異界門基地」を取り返すために兵を集めているという話は本当だった。


 そんな敵前線基地はここからでは見えないが、街のすぐ後方にそびえ立つ山間を切り崩した場所にそれが作られているらしく、街から山へと続く街道には帝国軍の人馬がひっきりなしに行き来していた。


 俺たちが双眼鏡で街の周辺を確認していると、先に潜入を果たしたヒッグスが4人分の傭兵風の装備を持って戻って来た。


「それじゃあ松原さん、帝国軍に見つからないよう上手く隠れていてください」


「ええ。若旦那様もお気をつけて」


「ありがとう。よしみんな行くぞ!」


 傭兵服に着替えた俺たちは、港町ドルマン潜入作戦を開始した。

 次回「港町ドルマン潜入作戦」。お楽しみに。


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