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クラスメイトは異世界王女  作者: くまっち
第1章 マインドリーディング! アリスレーゼ第1王女登場
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第5話 魔法の訓練、アレの訓練

 家に帰ってからもアリスレーゼは落ち込んでいた。


 ソファーに座り込んで俯いている彼女は、何百人という人のむき出しの感情を一度に受け止めてしまい、精神的に弱っているからそっとしておくよう、母さんが俺たちに言った。


 だが夕食が終わっても元気のないアリスレーゼが心配になった俺は、彼女に前向きになってもらうため、気分転換も兼ねて魔法の練習をしてみるよう勧めることにした。


「アリスレーゼ、当分は安易に魔法を使わない方がいいと思うが、まずは上手くコントロールできるように訓練してみたらどうだろうか」


 魔法の存在をすっかり受け入れてしまっている自分が恐ろしいが、あれから時間も経ち、すっかり冷静になった今でも、あのイタリアンレストランでの体験は明らかに現実で起きたものだった。


 それにあれだけはしゃいでいたアリスレーゼがこんなに落ち込んでるのを見ても、魔法が発動したのはおそらく事実。


 これだけの状況証拠があって、なお魔法を否定するのはさすがに無理があるし、相当に頭が固い。


「そうね、あなたの言う通りだと思うわ。ちゃんとコントロールさえできれば、さっきのようなことにはならない訳だし、この世界のマナに対応できるように訓練してみるわね」


「ああ、それがいい! ・・・ところで訓練ってどんなことをするんだ」


 自分で勧めていてなんだが、俺は魔法の訓練に興味があった。ひょっとしたら、俺も使えるようになるかも・・・。


 いやいや、魔法を使いたいなんて何を考えているんだ俺は。母さんのラノベ脳が感染してしまったのか。


 自分の妙な考えを頭から追い出そうと首を振っていると、アリスレーゼが訓練内容を話し始めた。


「一番簡単な魔法をできるだけ少ない魔力で発動させます。それを何回も繰り返して、最低限の魔力量で魔法の威力だけどんどん強くしていく感じでしょうか」


「な、なるほど・・・それで一番簡単な魔法って?」


「生活魔法の代表、水魔法ウォーター」


「へえ・・・水魔法ウォーターか」


 なんかRPGみたいな魔法名が出てきたが、母さんと愛梨もアリスレーゼの話を真剣に聞いている。


「この魔法は手から水が出てくるのよ、こんな風に」


 そしてアリスレーゼが呪文を唱えながらキッチンに歩いて行き、流し台に向けて水魔法を発動した。



【水魔法ウォーター】



 すると彼女の指先に小さな魔方陣が出現し、そこから水が勢いよく噴射した。


「おおっ、水だ!」


「やはりマナ濃度がすごく高いわね・・・本当は数滴出る程度に魔法を抑えたつもりでしたが、こんなに勢いよく水が出るなんてもっと訓練が必要ね」


「マジで魔法が発動した、スゲえ・・・。マナ濃度が高いのならひょっとして俺にもできるかな」


 だがアリスレーゼは首を横に振ると、


「ミズキには難しいかもしれませんね。魔法が使えるのは血筋の確かなほんの一握りの王族と、その血が流れる高位貴族だけで、魔法を使える平民など聞いたことがありません」


「そっか・・・そうだよな」


 魔法を現実で目の当たりにし、つい浮き足だってしまった自分が恥ずかしく、俺はすぐに引き下がった。だが、そんなことでは引き下がらない女がいた。


 母さんだ。


「アリスちゃん、母さんもちょっとやってみたいからどうやるのか教えて」


 アリスレーゼは少し考え込んだが、


「承知しました。これだけマナ濃度が高いなら、もしかしたらお母様たちにも使えるかもしれませんし、やってみて損はありません」


「やったー! まず、どうすればいいの?」


「ではこの指輪をはめてください。そして水が出るイメージを思い浮かべながら、今から言う呪文を唱えるのです」





 母さんはアリスレーゼと並んでキッチンの流し台の前に立つと、彼女に続けて呪文を詠唱した。


 そして力一杯に魔法を名を叫んだ。



 【水魔法ウォーターっ!】



 ・・・・・。




「・・・水がでないわね」


 母さんは残念ながら魔法が使えなかったらしい。


 やはりティアローズ王国の王族にしか魔法は使えないのか、がっかりする母さん。そんな母さんの指輪を奪い取り、今度は自分が試す番だと愛梨がアリスレーゼにせがんだ。


 アリスレーゼはクスクス笑いながら、母さんにやってみせたのと同じようにゆっくり詠唱呪文を唱えた。愛梨がそれを真似して魔法を発動させると・・・指先から一滴だけ水が滴り落ちた・・・ように見えた。


「や、やった! ・・・愛梨にも魔法が使えた」


「そうか? ただの汗だろ。魔方陣も特に現れたようにはみえなかったし・・・」


 俺が冷静にツッコむと愛梨が猛然と反発した。


「指先から汗なんか出るわけないよ! ふっふっふ、ついに魔法少女アイリ様の爆誕ね。この魔法を使えば悪い野獣どもからお兄の貞操を守ることができる!」


「はいはい、勝手に言ってろ」


 そんな愛梨に母さんがコツを教えてもらおうと食い下がっているが、愛梨は自分に料理を手伝わせてもらえないことを根に持って、母さんのことを無視して魔法の訓練に没頭している。


 アホくさ・・・。


「ねえミズキ、あなたも試してみたら?」


 アリスレーゼはもう一つ別の指輪を俺に手渡して、母さんたちに教えたようにゆっくりと呪文を詠唱して見せた。


「し、仕方がないな・・・ちょっとやってみるか」





 俺は水道の蛇口から水が勢いよく流れるイメージを思い浮かべながら、アリスレーゼの言う通りに呪文を唱えていく。不思議な発音の詠唱呪文を奏でていると不意に下腹部の辺り・・・具体的に言えば丹田が熱を帯びてきた。


 この感覚は小さい頃から続けてきた古武術の鍛練でもたまに感じたものだが、さっきのイタリアンレストランでもこれを感じていたことに今気がついた。


 それを理解した瞬間、昼間に感じたあの妙な何かが丹田から背骨を通して頭まで駆け抜けていき、さらに身体全体にその何かが満たされていった。


「お兄・・・それって魔法陣・・・」


 愛梨と母さんが俺の指先を見て唖然としているが、確かにそこにはアリスレーゼと同じ魔方陣が出現していた。だが今はそんなことより、身体中を渦巻く何かが暴走しそうで、押し留めるのに精いっぱいだ。


 そしていよいよ呪文の詠唱が完了した俺は、驚愕の表情で俺を見つめるアリスレーゼに続いて、その魔法名を叫んだ。



 【水魔法ウォーター!】



 すると俺の身体から噴き出した何かがぐるぐると周りを渦巻くと、吸い寄せられるように俺の指先に集まって来た。そして重低音の振動が大きくなり、指先の魔方陣も青く輝き出した。



 ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・



「「「ごくりっ・・・」」」


 固唾を飲んで見守る女子3人の目の前で、その魔法がついに発動した。



 ピュッ・・・。



 俺の指先からわずかばかりの水が飛び出して、流し台の排水溝に流れて行った。


「「・・・・・」」


 そして渦巻いていた何かも完全に消失し、水もそれ以上出てこなかった。


「「ズコーーーッ!」」


 と同時に、母さんと愛梨が思いっきりズッコケた。


「お兄っ! 何かもの凄いことが起きそうな雰囲気だったのに何よそれ! 身体を張ったギャグ?」


「うるせえっ! 俺は真面目にやったつもりだ」


 ガッカリした表情の愛梨の隣では、母さんが大爆笑していた。


「プーッ、竜頭蛇尾ってこのことを言うのね! 面白すぎ・・・瑞貴が魔法を使えたことは正直驚きなんだけど・・・う、受ける! クスクスクスクス」


 腹を抱えて笑う母さんにつられて愛梨も一緒になって俺のことを笑い出した。


「くっ、何もそこまで笑わなくても・・・俺の方がお前らより全然マシだろ!」


 そんな二人とは異なり、アリスレーゼだけは笑うどころか真剣な表情で俺に迫った。


「ミズキ・・・信じられないことですが、あなたには魔法の才能があることが分かりました。でも王族でもないあなたがどうして・・・」


「お、おう。でもチョロッとしか水が出なかったぞ」


「あなたは初めて魔法を使うのだから、そんなことは当然です。それよりもさっきの巨大な魔力は何なの」


「・・・え? 俺の魔力はそんなに大きかったのか」


「先ほどの魔力は、ハッキリ申し上げて王族級です。この世界はマナ濃度が高いからどのぐらいの才能があるのか分かりかねますが、少なくともあなたにはかなり高い魔力が備わっていることは間違いありません」


「マジかよ・・・」


 アリスレーゼの言葉を聞いた母さんと愛梨は、笑うのを止めるとうらやましそうに言った。


「お兄だけズルい・・・愛梨もお兄の妹なんだから、魔法の才能があっても良さそうなのに」


「そうよね。瑞貴は母さんの息子なんだから、愛梨より母さんの方がうまく魔法を使えるはず」


 するとアリスレーゼは、


「魔法は血で受け継がれるものですので、アイリちゃんは使えてもおかしくないですね。でもお母様は」


「私は・・・」


「もしミズキとアイリちゃんがお父様の血を受け継いだのであれば、残念ながら・・・」


「ええっ! そ、そんな・・・」


「ふっふーん、残念でしたお母さん。愛梨にお料理を教えてくれなかったバチが当たったのよ」


「うるさいっ!」


 二人がケンカを始めたのを横目で見ながら、俺はさっきの感覚を思い出していた。丹田の辺りに熱いものが込み上げて来るあの感覚はまさに・・・。


「なあアリスレーゼ、明日ウチの爺さんの家に行ってみないか。実は俺、爺さんから古武術を習っているんだけど、そこでの鍛練が魔力のコントロールに役立つんじゃないかと思って」


「コブジュツ?・・・それは一体なんですの」


「古くから伝わる格闘技だよ。爺さんの古武術は気の流れを制御してそれを攻撃や防御に利用するんだが、さっき魔法が発動した時の感覚がその古武術の気功術に似ている気がしたんだ」


「気って、マナのことかしら」


「似たようなものかもしれないから、爺さんに聞けば何か分かるかも知れないと思うんだ」


 単なる思い付きだけどアリスレーゼはかなり乗り気で、それを聞いた母さんも賛成してくれた。


「アリスちゃんのことを紹介するのにちょうどいいわね。明日はみんなでお義父さんの家に挨拶に行きましょう。そうと決まれば、みんなお風呂に入って寝る準備をしなさい。瑞貴、お風呂の準備をお願いね」


「へーい」


 俺は立ち上がって風呂の準備に向かおうとするが、よく考えたらアリスレーゼは日本の風呂の使い方が分からないはずだ。


「なあ母さん」


「なあに」


「アリスレーゼに風呂の入り方を教えた方がいいと思うから、一緒に入ってあげてくれ」


「そう言えばそうよね。じゃあアリスちゃんは母さんと一緒に入りましょ」


 するとアリスレーゼも風呂に関心を持ったようで、


「そのお風呂というのは湯浴みのことですよね。いつもは侍女に任せていたので、一人で湯浴みをするのは初めてです。入り方を教えてくださいませ、お母様」


「ええいいわよ。ここには侍女なんかいないし、アリスちゃんは何でも一人でできるようにならないとね。あれ、ちょっと待って。すごく気になることがあるんだけど、ちょっと聞いてもいい?」


「はいお母様、なんなりと」


「アリスちゃん、今日ってトイレはどうしてたの? 愛梨に使い方を教えてもらってたならいいんだけど」


 母さんはどこか焦った様子でアリスレーゼと愛梨の顔を交互に見た。だが二人とも首を横に振っている。


「まさかアリスちゃん、ひょっとしてトイレに一度もいかなかったの?」


「申し訳ございませんお母様。トイレって何でしょうか・・・」


「ウソっ! と、トイレというのはその・・・」


 母さんがアリスレーゼの耳元で囁くと、彼女はトイレが何かを理解したようで、俺たちに教えてくれた。


「今まですっかり忘れておりましたが、わたくしの場合は生活魔法が常時発動していて、全て処理してくれているのです。そう考えれば午後のお食事の時にわざわざ魔法など試さなくてもよかったですね。うふふ」


「そ、そうだったの・・・ふーん、トイレに行かなくてもいい魔法なんて随分便利なものがあるのね」


「はい。これは絶大な魔力を誇るわたくし専用に開発された魔法で、お兄様たちからは魔力の無駄遣いだとバカにされておりました」


 そう言ってアリスレーゼは右手の指輪を見せてくれた。白銀に光るその指輪にはいくつかの生活魔法の魔法陣が刻まれているらしい。


 それを興味深そうに覗き込んだ母さんがアリスレーゼに質問をする。


「魔法で処理してたことは分かったけど、その・・・アレが完全に消滅するわけじゃないわよね。どういう風に処理されているの?」


「この魔法の優れた点は、用を足すことなく全て庭に転移させてしまえることです。王女の場合は下着の脱着からアレを庭に捨てに行かせるまで、普通の貴族令嬢以上に侍女に手間をかけさせてしまうのです。ところがこの魔法を使えば侍女の手間を一切省く効果があり、とても喜ばれているのです」


 その説明だとつまり!


「ちょっと待て、庭に捨てるってまさか・・・」


「侍女一人に心を配れてこそ臣民から愛される女王となれるのに、お兄様たちはわたくしのことをバカにして本当に酷いですよね。そう思いませんか、ミズキ」


「今はそんな問題じゃねえ!」


 俺は慌てて外に飛び出すと、庭の片隅にあってはならないものが鎮座しているのを発見した。


「うわあーーっ!」


 俺は慌てて物置からスコップを持ってくると、それを地中深くに埋めた。


 アリスレーゼのやつ、パンツを見られただけで自害するとか大騒ぎしていたくせに、こっちの方が100倍恥ずかしいじゃないか。


 ティアローズ王国のトイレ事情も気にはなるけど、恐るべきは異世界王女・・・。





 その夜母さんと愛梨は付きっきりでアリスレーゼに日本での生活方法を教え込み、風呂やトイレの使い方から歯の磨き方まで徹底的に叩き込んだ。

 次回、爺さんの家にいくアリスレーゼたち。そこで待っているのは・・・お楽しみに。


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