第52話 神々の帰還④
大変お待たせしました。
夏休みも終わりましたので連載を再開します。
と言っても第1部はあと少しで終わりですが。
父さんが弥生の名前を叫んだ瞬間、アリスレーゼの姿だけが忽然と消えた。
一方取り残された形になった召喚士たちは、彼女の消失に慌てて周囲を見渡したものの、鮫島と共にそのまま異世界へと消えて行った。
「一体何が起こった・・・」
この一瞬の出来事で俺が認識できたのは、父さんの命令に応じて葵さんが声を上げたことだけだった。
実際、さっきまで魔導師と戦っていたはずの葵さんの姿はここになく、今俺の近くにいるのはヒッグスただ一人だ。
俺は混乱する頭をかきむしると、その場を立ち上がって司令部にいるはずの父さんを探した。
そこで最初に目に入ったのは、SPに守られながら自衛隊幹部に指示を出している政治家たちと、医療スタッフに囲まれてベッドに横たわっている神宮路さんの姿だったが、ベッドのすぐ脇には父さんも立っていて、その少し離れた所でアリスレーゼを抱えた葵さんの姿を見つけた。
「アリスレーゼっ! 良かった・・・やはり葵さんが瞬間移動でアリスレーゼを助け出してくれてたんだ。でも彼女の正体ってまさか・・・」
俺はこの現状をどうにか理解しようと頭をフル回転させると、だがそれをあざ笑うかのように事態はさらに加速して行く。
「転移陣の捕獲に成功よ!」
「「「イエーーイッ!!」」」
雨宮主幹と研究スタッフ達が突然、謎の装置の周りを取り囲みながらハイタッチで歓声を上げた。
そして雨宮主幹の指示が飛ぶ。
「次は増幅行程よ、みんな行っけーーっ!」
「「「うおりゃーーーっ」」」
研究スタッフたちが異常なまでのハイテンションでノートPCのキーボードを叩きまくり、それに応じて謎の装置がブンブンと唸りを上げる。
そしていつもならヴェイン伯爵の転移と同時に消え去る転移陣が、消えるどころがどんどん大きくなって膨大なオーラを充満させていった。
「敵の転移陣を捕獲しただと? ・・・そうかっ! この装置は転移陣を自分で作るのではなく、グランディア帝国の転移陣を利用して自衛隊を異世界に送り込むものだったのか。だがこの膨大な思念波エネルギーは何なんだ。これまで敵が作り出してきた転移陣とは何もかもケタが違いすぎる!」
ブリーフィングでは詳細を聞いておらず、上空で巨大化していく異世界への転移陣を前に俺は、ただそれを見上げて呆然とする以外になかった。
「父さん・・・説明不足にも程があるだろ」
呆れ返りながら俺は、仲間たちの様子を確認する。
遠隔攻撃部隊では、鮫島の凶行を止められず苦虫を噛むような表情をしている藤間主任や、やはり悔しそうにしつつも、俺同様に転移陣を見上げて呆然としている敦史、芹沢、愛梨、水島さん。そして父さんのすぐ隣では、戦いの見学をしていた母さんまで呆気に取られている。
だがインカムから聞こえる神宮路さんの声だけは、
『みなさまお疲れ様でした。作戦は全て成功いたしましたが、ここからが本番です。本計画の最終段階である異世界転移作戦のブリーフィングを行いますので、至急わたくしの元にご参集ください』
「・・・これって全部作戦だったのか」
神宮路さんの口調は実に事務的であり、どうやら彼女には作戦の全貌が事前に知らされていたらしい。
だがいくら時間がなかったとは言え、こんな作戦を「あとは自分の目で確かめろ」で済ませるのは酷過ぎるんじゃないのか。
「父さんめ・・・どっからどこまでが作戦だったのかは知らないけど、アリスレーゼを危険にさらす必要はなかったんじゃないのか。完全にアタマにきた!」
俺はヒッグスと水島さんと合流すると、憮然とした表情で父さんの元へと走った。
◇
「本当に悪かった瑞貴。だが鮫島を確実に凶行に走らせるには、お前たちに何も教えない方がいいと弥生から進言があったんだ。敵を騙すにはまず味方から?」
俺の猛抗議を受けて父さんが頭を掻きながら謝罪したが、弥生という言葉に、俺は葵さんの正体についても確認することにした。
「それから父さん、この葵さんが俺の幼馴染の神無月弥生で間違いないのか。もう騙すのはやめてくれよ」
「ああ、それは間違いない。どうだ驚いたか?」
父さんは「してやったり」という表情で笑ったが、これには俺も脱帽せざるを得なかった。
「ああ驚いた。言われてみれば中身は昔の弥生のままだし疑う余地はないんだけど、見た目が全然違うから今まで全く気がつかなかったよ・・・」
「そうだろう、そうだろう。もしかして惚れたか?」
「それは絶対ない。ていうかあの小汚いガキ大将が、こんな日本人形みたいに繊細な女の子になるなんて、完全に詐欺だよ!」
だが俺のその言葉に葵さんが怒り出した。
「小汚いガキ大将って誰のことよ! ウチの両親なんか「私は将来凄い美人になる」って赤ちゃんの頃から断言してたし、こんな超絶美少女に失礼でしょ!」
「超絶美少女って自分で言うなよ! 今はともかく、昔のお前って小汚いって表現でも生ぬるいし、ハッキリ言って汚物レベルだったじゃん」
「お、お、お、汚物っ!」
「だっていつも鼻水を垂らしてそれを腕でぬぐってテカテカになってたし、鼻くそをほじってはそれを軽く眺めた後、口の中に入れて舌の上で転がしてじっくり味わってたよな」
「うっ・・・」
「それにお前って、アイスの棒を集めるのが趣味で、一つ一つに番号を振っていたし、俺はお前のことをずっと男だと思っていたよ」
「男ぉ!? さすがにそれは言いすぎよね。た、確かにアイスの棒を集めていたのは事実だけど、それはあくまで瑞貴が食べたアイスの棒限定なんだから」
「ええっ!? あのシリアルナンバー入りのアイスの棒って自分が食べたゴミじゃなく俺のだったかよ! ・・・そうか今わかった。ウチのゴミ箱をあさっていた犯人はお前だ!」
「ええその通りよ。今頃気がついたのね明智君。他にもお義母様が捨てた瑞貴の使用済みの歯ブラシとか、古着や下着なんかも全部大切にとってあるから、今度ウチの実家に瑞貴が挨拶に来た時見せてあげるわね」
「ヒイイッ! そんなもの絶対に見たくねえし、そもそもお前の実家なんか行かないし」
「でも私を嫁にもらう時は、ウチの両親にちゃんと挨拶をしてくれるでしょ」
「はあ?! なんでお前なんかを・・・ああっ!」
「どうしたのよ瑞貴」
「・・・そうだ思い出した。俺、神宮路さんと正式に婚約したんだった。だからもう葵さん・・・じゃなかった弥生とは結婚できない」
俺が真面目な顔でそう言うと、いつの間にか昔のようにジャレ合っていた弥生も急に真顔に戻り、
「そう・・・やっぱり昨日のお見舞いの後、神宮路会長とそういう話になったのね」
「ああ・・・」
昨日から色々なことがありすぎてすっかり忘れていたが、俺は神宮路さんとの結婚を決意し、それを父さんに説明しないといけないんだった。
そして今、俺の目の前には小野島室長として父さんが立っている。
ドクン・・・ドクン・・・ドクン
急に心臓の鼓動が速くなり、緊張で何をどう話していいのかさっぱり分からなくなる。
だが俺は、神宮路さんとの婚約に反対する父さんをきちんと説得しなければならず、失敗しないよう慎重に言葉を選んでいるうちに、さっきから黙って俺と弥生の会話を聞いていた神宮路さんが俺に問いかけた。
「瑞貴君、そのことで確認したいことがございます。昨夜お爺様から話を聞かされた時は自分の耳を疑いましたが、もしお爺様から責任を取れと無理強いされたのであれば、話はなかったことにさせて頂きます」
神宮路さんはそう言うと、毅然とした態度で真っ直ぐに俺を見つめた。プライドの高い彼女は、憐れみで結婚してもらうのだけは許せないのだろう。
そんな彼女の目を、俺も真剣な表情で真っ直ぐに見つめて、
「それは違う。会長からは婚約を白紙に戻したいと言われたが、俺はそれを断って改めてキミとの結婚を許してもらった。これは完全に俺の意志だ」
「瑞貴君・・・では、本当にこのわたくしを選んでいただけたのですか?」
「ああ。俺に相応しくないからとキミは婚約を破棄したが、俺の方こそキミの隣に立てるような立派な人間には程遠いと思っている。だからキミに見劣りしないようこれから頑張っていくつもりだから・・・こんな俺で良ければ結婚してほしい」
「本当に本当なの?」
「ああ。キミは随分気にしていたが、キミがどんなに傷だらけの身体だろうと俺は全く構わない。だからキミの隣に立たせてくれ」
「・・・嬉しい。瑞貴君、こちらこそ・・・よろしくお願いいたし・・・ます。ううっ・・・」
俺のプロポーズを受け入れてくれた神宮路さんは、一瞬笑顔を俺に見せてくれたものの、すぐに大粒の涙をポロポロとこぼして、ベッドのシーツで顔を覆ってしまった。
いつも冷静で決して感情を表に出さない神宮路さんは、だが一目を気にすることなく大声を上げて泣き始め、そんな彼女を嬉しそうに見つめる神宮路会長と彼女の専属メイド、そして医療スタッフたちだった。
政治家やSPたちは生暖かい目で俺たちを見守ってくれていたが、父さんだけは困った表情で、
「さてどうしたものか。俺は弥生こそがお前の運命のパートナーだと思っていたし、本当は二人が結婚するのがベストなんだが、さて困ったな・・・」
「運命のパートナー? なんで俺とコイツが結婚するのがベストなんだよ。ちゃんと理由を説明してくれ」
「それはこれから行う異世界転移計画に関わって来る話だから、ブリーフィングの中で説明しよう」
「はあっ?! 俺と弥生の結婚と自衛隊を異世界に送り込む話に、一体何の関係があるんだよ!」
「これを話し始めると時間がいくらあっても足りないぐらいだから、余裕のある時にお前とじっくり話をしたかったんだ。だがいつも余計な議員レクに時間を取られて結局今日の日を迎えてしまった。時間はそれほど残されていないから要点だけ説明するぞ」
「もうそれでいいから、今度こそちゃんと頼むぞ」
アリスレーゼが日本に来てから数ヶ月。
その間、衝撃的な出来事や意外な真実がたくさんあったが、これから自衛隊を異世界に送り込もうとしている今、何があってももう驚きはしないだろう。
そう思って俺は父さんの説明を待ち構えていると、父さんの隣でずっと黙って話を聞いていた母さんが、何かを察したのか驚愕の表情で弥生を見ていた。
・・・え?
ここからさらに、衝撃の事実が明かされるのか?
次回もお楽しみに




