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クラスメイトは異世界王女  作者: くまひこ
最終章 侵略者グランディア帝国と日本防衛の最終決断

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第48話 運命の戦い③

ちょっと長くなりましたが、キリがいいところまで続けました。



 瑞貴君の進言により、グランディア帝国騎士団との戦いは今のところわたくしたちの優勢で進んでいますが、敵の増援部隊がどの程度投入されるか分からない中、戦いの趨勢が決するまで予断を許しません。


「愛梨ちゃん、今から10分先までの未来に、瑞貴君が戦う主戦場で戦況が大きく動くような事象はございませんか」


 わたくしの向かいには前園姉妹が座っていますが、向かって左の愛梨ちゃんの身体からは真っ赤なオーラが立ち昇り、彼女の綺麗な碧眼も赤く光っています。


「お兄がかなり遠くまで行っちゃったから未来が見えにくくなってるけど、今のところ大丈夫だと思う」


「了解ですわ」


 愛梨ちゃんの隣では、不安そうな表情のアリスレーゼ様が同じ質問を何度も繰り返している。


「グランディア帝国がわたくしを連れ去ろうとしているのでは・・・」


「そうかも知れませんがご心配には及びません。瑞貴君たちは圧倒的優勢の中で戦っておりますし、先ほどの報告では神無月さんが敵指揮官を捕獲したとの報告も入っております」


「敵指揮官をもう! ・・・ですがあの帝国は易々と引き下がるような国ではございませんし、どんな卑劣な手を使ってくるか分かったものでは」


「敵がどのような攻撃を仕掛けて来ようと防弾仕様のリムジンの耐久性は伊達ではございませんし、最高時速240キロのこの車に追い付ける騎士団などこの世に存在しません」


「ですが以前、わたくしたちのオーラで窓ガラスが」


「それは皆さま方の思念波が強過ぎただけですっ! それにいざとなればこのわたくし自らが身体を張ってアリスレーゼ様をお守り申し上げます。・・・それが我が夫となる瑞貴君の望みですので」


「さやか様・・・」


 瑞貴君の気持ちがアリスレーゼ様に傾いてしまっている現状には正直言って不満しかありませんが、今のわたくしにできることは瑞貴君の望みを全力でかなえることだけ。


 それが偶然にも「王女様を帝国の魔の手から守る」という童話のようなお話になっているため、心情的には辛いミッションなのですが、思わず笑ってしまいそうになります。


「愛梨ちゃん、念のためにもう一度アリスレーゼ様に関する未来予知をお願いします。今度は少し先の未来も含めて・・・」


「言われなくても今やってるとこ・・・」


 愛梨ちゃんの未来予知は、距離と時間、それぞれの二乗に比例して大量の思念波エネルギーが必要となるため、今日みたいに戦場が広がった場合にはエネルギーの消耗も特に激しいようです。


 それに未来は不確定で、現状が確定する度に各分岐シナリオの確率分布が変化するため、有利な選択肢を選びながら戦うわたくしたちのスタイルでは、同じ将来時刻の予知でも、その都度違う未来が見えてしまうことがよくあるそうです。


 ひょっとすると今日一番思念波エネルギーを使用しているのは愛梨ちゃんじゃないかと思えるほど彼女の消耗が傍目にも明らかですが、それでも懸命に能力を振り絞る愛梨ちゃんは、いつもケンカばかりしているアリスレーゼ様のことがやはり心配なのでしょう。


 そんな彼女の表情が急に曇り出すと、慌てて予知を口にしました。


「何者かがここに攻めて来る! その先の未来はまだフワフワしてわからないけど、お姉が帝国のヤツらに連れていかれる未来も見えるよ!」


「何ですって・・・松原、すぐに逃げなさい!」


「承知しましたお嬢様」


 運転手の松原に指示を出すとすぐに車が急発進し、180度スピンターンをして道路を逆方向に走り出そうとしましたが、その進行方向にはマスコミの中継車が何台も停車して道を塞いでおり、その周りにはカメラを設置して戦いの様子を実況中継している報道陣が大挙して居座っています。


「お嬢様、これ以上先には進めないようです」


「くっ・・・本当に邪魔ですわねこのマスコミども。帝国と一緒にこの世から一掃してやりたいところですが、さすがにそうもいきません。仕方がありませんので、ここで敵を迎え撃ちましょう」




 覚悟を決めたわたくしは現場の指揮を藤間主任に託すと、愛梨ちゃんから聞いた未来シナリオから導かれる答えに従い、インカムを外して端末の隣に置いた。


「どうやらこのわたくしが単独で敵に対峙するのが、現時点での最善手のようです。わたくしに何があってもアリスレーゼ様は絶対に車から外に出ないようお願いします」


「しっ、承知いたしました!」


「そして松原。あなたは状況を冷静に判断して、場合によってはマスコミどもを蹴散らしてでもアリスレーゼ様をここから脱出させなさい」


「ですがそれではお嬢様が・・・」


「松原、これは命令です!」


「か、かしこまりましたお嬢様! ・・・ですがくれぐれもお気をつけて」


「わたくしもむざむざやられたりは致しません。愛梨ちゃんも絶対にアリスレーゼ様の傍から離れてはいけません。瑞貴君のため、必ず彼女を守りきるのです」


「神宮路さん、あなたって・・・。わかった、お姉のことはこの愛梨に任せて」


「ええ、頼りにしてます」


 ちょうどその時、巨大な思念波エネルギーがわたくしたちのすぐ近くに出現した。


 見るとこの車からほんの10メートルほど先に漆黒の球体が浮かんでおり、その中からゆっくり歩み出てくる男の姿があった。


「あれは・・・ヴェイン伯爵!」


 瑞貴君のインカムを通して送られてきた映像と同じ男の登場に、アリスレーゼ様は恐怖で震えながらも、わたくしに情報を教えてくれた。


「あの魔法はワームホールと言って、遠くの場所まで瞬間移動することができる闇属性上級魔法です。彼は召喚魔法が使えるだけでなく、闇魔法の名手でもあるようですので、くれぐれもお気を付けください」


「瞬間移動・・・つまり時空を繋げたり切り離したりできるということですね。危険極まりない能力ですがアリスレーゼ様は必ずお守りいたしますので、ご安心ください。では行って参ります」


 それだけ言うと、わたくしは反対側のドアからそっと外に出て、車の陰から思念波弾を発射しました。


 ヴェイン伯爵に命中した初弾が閃光とともに炸裂しましたが、こんな攻撃で敵を倒せるはずもなく、視界が回復するより先に男の鼻先に近づくと、さらに強力な思念波弾を叩き込んで差し上げました。


「これでも喰らいなさいっ!」




            ◇




「・・・強い。この男、これまでの敵とはまるでレベルが違いますわね」


 わたくしの不意打ちで始まったヴェイン伯爵との一騎討ちはすぐに思念波弾と魔法攻撃の壮絶な撃ち合いに発展しましたが、思念波強度に自信のあったわたくしも敵の豊富な魔力と多彩な魔法攻撃には驚くほかございませんでした。


 ですがこの男を未だリムジンに近付けさせずに膠着状態にもつれ込ませたことは、この作戦が順調に進んでいる証拠でもあります。


「・・・大丈夫、わたくしにならできる」


 心の中でそう繰り返すと、わたくしの取っておきをこの男に喰らわせてやりました。


「イオンブラスト!」


 右手に持つ思念波補助デバイスが黄色く光輝くと、その先端からヴェイン伯爵に向けて荷電粒子ビームが一直線に放たれました。


 亜光速で空間を伝搬する不可避のビーム攻撃を受けた伯爵は、一瞬顔を歪ませたもののすでに用意していた反撃魔法でわたくしに雷撃を落としてきました。



「きゃーーっ!」


 バチッ! バチッ!



 バリアーで防いではいるものの、超高電圧に帯電したわたくしの身体を電流が貫き、身体が一時的に硬直して思うように動けません。


 ですが直撃は防げているため、ダメージは大したことがないはず。


 わたくしは歯をくいしばってすぐ反撃に出ますが、デバイスのクーリングタイムを効率的に使うために、先ほどとは別系統の思念波攻撃を繰り出しました。


「アブソリュート・ゼロ!」


 量子冷却効果を利用して目標の周囲に極低温状態を作り出し、もって生命体を死に至らしめる凍結攻撃。


 ですがヴェイン伯爵がこの程度で死なないことは、ここまでの直接対決で身をもって理解してますので、今回は遠慮なく使用いたしました。


 この凍結攻撃も実はヴェイン伯爵にダメージを与えるというより彼の回避行動を妨害をするために使っただけで、ここまでの全ての攻撃が次の一手を放つための布石のようなものでした。


 凍結攻撃で動きの止まった伯爵との距離を一気に詰めると、わたくしはこの作戦の切り札となるその思念波攻撃を敢行しました。



「キネティック・スイングアウト!」



 戦いの初手から密かに発動していた思念波攻撃。


 虚数空間に設置された仮想フライホイールに鮫島からの思念波エネルギーを投入し続け、回転モーメントとしてため込んできた全てのエネルギーを、このわたくしの身体を依り代に今、全てを解き放った。


 その瞬間、目の前が真っ暗になるような衝撃が身体中を貫き、伯爵に「体当たり」したわたくしは彼もろともロケットのように空に打ち出されました。


【ゴボアーーーーッ!】


「うぐうっ!」


 バリアーで完全防護しているとはいえ、ヴェイン伯爵とともに尋常ではない加速度でこの場を離脱していくわたくしの身体は命の危険に悲鳴を上げています。


 はしたないことは理解してますが、胃から込み上げる吐瀉物を我慢しきれず口から吐き出すと、わたくしの後方に勢いよく飛び散っていきます。


 ヴェイン伯爵も同様に、血反吐を撒き散らしながら目を真っ赤に充血させて苦悶の表情を見せていましたが、加速が終わって自由落下が始まると、冷淡な笑いを浮かべながらわたくしに話しかけて来ました。


【たった一人で互角以上に戦い、この私をここまで追い詰めるとは、まだほんの少女ながらさすがは魔族と言ったところか】


「・・・魔族? 一体何のことです」


【だが知能は人間には及ばなかったようだな。まんまと罠にかかった愚かな魔族よ】


「今度は強がりですか? いずれにせよ、このわたくしがあなたを逮捕いたしますので、負け惜しみは取調室でおっしゃってくださいませ」


【くーっくっくっ・・・やれるものならやってみるがいいさ。では行くぞ!】




            ◇




 愛梨の目の前で激しい戦いを繰り広げていた神宮路さんが、ヴェイン伯爵を連れてロケットのようにどこかへ飛んで行ってしまった。


 それでもお姉が帝国に連れ去られる未来シーンは、愛梨の頭の中からまだ消えていない。


 たぶんそれと関係するのだろう、愛梨たちの車の周りには、伯爵を護衛していた雑兵が取り囲んでいる。


 愛梨はお姉を守ろうと戦闘態勢を整えるが、お姉はマインドリーディングを使って彼らの思考を読んで、そして涙を流し始めた。


「愛梨ちゃん、彼らへの攻撃は止めて。どうやら全員ティアローズ王国の元臣民たちのようです」


「え? ・・・これがお姉の国の人たちなの」


「ええ。みんな涙を流しながら、わたくしの名前を呼び続けています・・・」


 このリムジンの中にいると外の音がまるで聞こえないが、それでも耳を澄ませると雑兵たちが口々にお姉の名前を呼んでいるのが聞こえた。



【おお! やはりアリスレーゼ様は生きておられた】


【帝国の言うことは本当だった。姫様は魔族に誑かされ魔界にさらわれていたのだ】


【ああ、おいたわしや姫様。すぐに我々がお救い申し上げますので、騎士団と共に帝国に帰りましょう】


【ティアローズ王国万歳。グランディア帝国万歳!】




「お姉っ! よくわからないけど、これは絶対罠だと思う! 元の世界に戻っちゃダメだからね」


「ええ、もちろんわかっております」


「じゃあ、外の雑兵は愛梨が始末するけどいいよね」


「いえ、できれば彼らを助けてはいただけませんか。国が滅んだばかりに、彼らは奴隷のように扱われているそうですし・・・」


「助けろって言われても、逮捕しちゃったら刑務所に入れられてしまうし、お姉が連れ去られる未来はまだ消えてないってことは、この雑兵が罠を仕掛ける可能性が大きいってこと。愛梨はお姉を守るのが仕事だから余計なことはしたくないし、助けたいなら神宮路さんが戻って来てから相談した方がいいよ」


「そうですね・・・。早く戻ってきてくださいませ、さやか様」




            ◇




 ヴェイン伯爵をアリスレーゼ様から遠ざけるべく、駅前バスターミナルまで「飛んできた」わたくしたちは、その後も辺りを破壊しながら激しい戦闘を続けていました。


 ですが身体がボロボロになりながらも、攻撃の手を一切休めなかったヴェイン伯爵が、突然大声で笑い始めました。


 わたくしが罠にかかったとうそぶいていましたが、何かの魔法が発動したのでしょうか・・・。


「フハハハッ! 彼女はやはりアリスレーゼ王女本人だったのか。雑兵どもを差し向けたのは正解だった」


「・・・まさか、グランディア帝国の目的って本当にアリスレーゼ様を連れ帰ることだったのですか」


「おっと、嬉しさのあまりつい口が滑ったな。まあ、どうせ貴様はここで死ぬのだし、冥土の土産に教えといてやろう。我々の目的はアリスレーゼ王女を連れ帰って皇帝陛下の花嫁とすること。そして奪われた我らの神々とその秘宝を持ち帰ることだ」


「そうですか・・・ですが、アリスレーゼ様は決して渡しません!」


 だが伯爵はそれ以上なにも言わず、わたくしを侮蔑するような笑みを浮かべて魔法詠唱を始める。


 わたくしはそれを阻止すべく思念波弾を連続発射したものの、伯爵はそのことごとくを回避してしまい、やがて彼の身体から膨大なオーラが爆発的に沸き上がると天高く舞い上がって行きました。


 そして空中で渦を巻きながら大気中のオーラを全て取り込んで彼の身体に再吸収されると、次の瞬間、わたくしの目の前に禍々しいまでの闇のオーラをたたえた魔法陣が浮かび上がりました。


「ひいっ!」


 「虫酸が走る」とはまさにこのような感覚なのでしょう。生存本能が最大限の警告を発して、わたくしは思わず後ろに飛び退きましたが、小さな暗黒球体が魔方陣から忽然と現れると、わたくしの周りをゆっくり公転し始めました。


 即座にバリアーを最大展開して闇の球体から身を守ろうとしましたが、それをあざ笑うかのようにバリアーをあっさりと侵食する暗黒球体。


「これって・・・空間自体が歪曲している! これが闇属性上級魔法ワームホール・・・」


 わたくしは必死に回避を試みますが、バリアーを完全に無視した暗黒球体にはなす術がなく、わたくしの身体を球体が掠めるたびに、肉がえぐれて鮮血が宙に吹き出していきます。


「うぐっ・・・」


 身体中が痛く思わず涙が出てきますが、


「これぐらい何ともありませんわ!」


 自己治癒能力を最大限に引き上げつつ、伯爵への反撃を行うために思念波補助デバイスのスイッチを入れる。暗黒球体だって有限のエネルギー体であり、思念波エネルギーで相殺すればいつかは必ず消滅するはずですから。


「あつっ!」





 それはほんの一瞬の出来事でした。


 右腕に熱を感じたかと思うと、グラインダーのような形状に変化して死角から急上昇した暗黒球体が、わたくしの右腕をスッパリ切り落としてしまいました。


 デバイスを握りしめたまま宙を舞う右手。


「そんな・・・」


 腕の切断面が焼けるように痛いのですが、それより右腕を失った事実の方がよほど恐ろしい。


 傷物になってしまったわたくしなどには何の価値も無く、瑞貴君との婚約を解消して彼の元を去らねばならないからです。


 でも、そんなのは絶対に嫌っ!


 わたくしは慌てて地面に転がった自分の右腕を拾いに行こうとしましたが、それを待っていたかのように今度はわたくしの腹部を球体が貫きました。


「ぁ・・・ぁぁぁ・・・」




 おそらくこれが致命傷となったのでしょう。


 先ほどまでの激痛が遠くに逃げていってしまい、それと入れ替わるように身体全体が凍りつくように冷たくなっていきます。


 ・・・寒い。


 そうか。わたくしはここで死ぬのね・・・。


 さようなら瑞貴君・・・・・本当に好きでした。




 急速に意識が薄れゆくわたくしを、まるでゴミを見るように侮蔑の目で見下ろすヴェイン伯爵。


 そんな彼に、わたくしは最後の攻撃を敢行します。


「・・・せめてあなただけでも道連れに」


 そしてお祖父様から「決して撃ってはならない」と告げられていた最終兵器を起動しました。


「・・・エネルギーデポジション・・・」


 その瞬間、左手の中指に嵌めていた指輪型デバイスが怪しく光ると、ヴェイン伯爵の身体を特殊な思念波が包み込み、それと同時にわたくしの身体をいたぶり続けていた暗黒球体も忽然と消失しました。

次回、戦いを終えて


お楽しみに

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