第48話 運命の戦い②
俺達がオーガ主力部隊を蹴散らすより先に騎士団の転移が完了し、敵の戦闘態勢が整ってしまった。
グランディア騎士団の総数は40騎で、その全員が統一された武具を使用しており、かなり統制の取れた軍隊であることが見て取れる。
それを統率しているのが、一人だけ派手な防具に身を包んだ白馬に跨がる大柄の騎士であり、たぶん名のある帝国貴族か何かなのだろう。
そんな騎士団の後方、少し離れた所でヴェイン伯爵が数人の雑兵に周囲を守らせながら、自らは魔法で宙に浮いて、高所からこちらの様子を窺っている。
何かを探しているようにも見え、それがかなり引っかかったものの、それよりもまず目の前で詠唱を始めた騎士団に対処するために、オークとの戦いから一度下がって防御態勢を取った。
「水島さん、敵の魔法攻撃の威力が不明だから、街の防御は一度捨てて、俺たち戦闘員の前面にバリアーを集中させよう」
「わかった! 前園くんは私の後ろに隠れていてね」
「いいや、キミが俺の後ろだ。・・・俺もバリアーを展開するから、一緒に頑張ろうな」
「うん・・・私なんかに本当に優しいのね前園くん」
「それから葵さんとヒッグスは、敵の魔法攻撃が一巡したらその間隙を縫って俺と一緒に突撃だ。三人一組で確実に敵を無力化していくぞ」
「殺さずに生け捕るのって普通に戦うより数倍難しいのよね。時間はかかるけど三人一組了解したわ」
「そのセリフ、普通の女子高生じゃないよな葵さん」
「瑞貴だって感覚が麻痺してるんじゃないの。つまり私たちは似た者同士ってことよね」
「あれ? そうなのかな・・・」
「そんなことよりミズキ殿。敵を殺さずに無力化するなら、オーク騎士団伝来のいい方法がありますぞ」
「どうするんだヒッグス」
「我々オークは人間の魔導騎士へ対処するため、詠唱ができないよう最初に喉を潰して、その後両手両足を折って身動きを取れなくします」
「ふむふむ、なるほど」
「そして一人を見せしめに、あらゆる苦痛を与えて殺すことで、他の騎士たちに恐怖と絶望を植え付けて、反抗の意思を削いでおりました」
「お、おう・・・見せしめはともかく、喉を潰すのはいい考えだな。戦い方は各自に任せるから、とにかく速攻で片付けるぞ。神宮路さんも今の話が聞こえたと思うから、バックアップを頼む」
『承知しましたわ』
それから間もなくして彼らの詠唱が終わり、空中に浮かび上がった40の魔法陣が真っ赤なオーラで満たされると、禍々しい光を放った。
その次の瞬間、彼らの持つ槍の先から一斉に炎が吹き出すと、真っ直ぐ俺たちに襲いかかる。
「熱っ!」
水島さんと俺のバリアーをさらに補強するように、遠隔攻撃チームが重ねがけしてくれたバリアーが敵の炎をシャットアウトする。だが炎から発せられる熱線はバリアーを悠々と通過して皮膚を焦がしていく。
一方、行き場を失った敵の炎熱魔法は、バリアーを迂回するように上空や左右に四散して、大蛇のようにうねっている。それが街の建物に引火して木造家屋が炎上を始めた。
そんな魔法攻撃が1分弱ほど続き、視界全体が炎に遮られていたが、やがて魔法の効果が切れると視界が回復して敵騎士団と再び対面する。
「あっちい・・・どうやら敵の初弾は受けきれたようだな。ここから反撃に出るぞ」
インカムには神宮路さんの声で被害情報が流れてくるが、この初弾による人的被害はなかったそうだ。
もちろん街の火災はこれから拡大し被害総額も積み上がっていくことになるだろうが、市民はもちろん、住民の避難に当たっている警察即応部隊や後方でカメラを回すマスコミ関係者含めて、人間は全員無事だ。
一方、視界が回復して敵騎士団が最初に見せた表情は「驚愕」だったが、おそらく彼らの想定以上に俺たちの防御が強固だったのが理由だと思う。
そんな彼らもすぐに表情を消すと、指揮官が発した指示の元、真っ直ぐ俺たちに向かうことなくいきなり部隊を四散させた。
「ヤツら、俺たちを無視して市民を攻撃するつもりらしい。葵さん、ヒッグス、急いで追撃するぞ」
街の繁華街は駅前の大型ショッピングモールを中心に昔ながらの商店街も混在するエリアで、普段は交通量も多く賑わっているが、今は市民が避難して道路にはトラックや乗用車が乗り捨てられている。
それが障害物になって馬が自由に走れず彼ら本来の機動力は活かせていないが、それでも魔法攻撃に備えるため敵全体をバリアーで包囲することを諦めた分、街中に敵が広く分散してしまい、もはや俺たちだけで対処できる状況ではなくなっていた。
彼らを全て抑え込むにはかなりの戦闘員が必要になるが、その辺りの増援要請は神宮路さんに任せ、俺は目の前に立ちふさがる10人の騎士を相手にする。
おそらく時間稼ぎが目的のようだが、俺は思念波を視覚に集中させて騎士の体内を流れるオーラの流れを感じとる。どうやら今の魔法でかなり魔力を消耗したらしくオーラが著しく低下していた。
「葵さんとヒッグス、今なら敵バリアーを容易く突破できそうだ。構わずぶちのめせ!」
「「おうっ!」」
敦史たち遠隔攻撃チームは、思念波弾で騎士やオーガを一人ずつ確実に狙撃しており、背後にピッタリとくっついている水島さんは、バリアーを街全体にランダムに配置して騎士団の動きを妨害している。
手足を撃ち抜かれたり、透明の壁に激突して落馬する騎士の姿を横目で見ながら、俺たち3人は10人の騎士を取り囲んだ。
「総員攻撃開始!」
【総員攻撃開始!】
やはりグランディア帝国騎士団もアリスレーゼやヒッグス同様言葉が日本語に変換されているようだが、敵の隊長の命令が下ると同時に、目の前の男が馬上から槍で攻撃をしかけようと動き始めた。だが、
「遅いっ!」
スピードで遥かに上回る俺は、左手に思念波を集中させると、甲冑で防護されている男の左ひざの骨を念動力で砕いた。
ゴキッ
「ぐわーっ!」
敵のあらゆる防御を無視して、人体内部を直接破壊する俺の攻撃に、激痛に顔を歪めた男がそれでも構えを崩さず槍を俺に向けている。
俺はその邪魔な槍を破壊するため、鋼の中に含まれる炭素原子を一ヶ所に集め、脆くなった断面を念動力で寸断した。
バキッ!
真っ二つに折れた槍の半分が力なく自由落下していくが、その事実を男が認識できるかどうかの刹那、俺が馬上に駆け上ると、甲冑越しに男の喉の部分に左手を添えてその声帯を捻り潰した。
「ごぎゃーーっ!」
この一連の攻撃で騎士一人の無力化に成功すると、彼の胸部装甲を力いっぱいに蹴飛ばして、その反作用で次の騎士の馬に飛び移る。
その空中で葵さんを確認すると、彼女は既に一人目を血祭りに上げた上に、二人目のバリアーも破壊して槍を持つ敵の右腕をまさに切断したところだった。
男の血飛沫を自身のバリアーで弾き飛ばしながら、獰猛な笑顔を俺に見せる葵さん。
「葵さん、さすがに速いな!」
「瑞貴もやるじゃん。これは負けてられないわね」
馬上に飛び乗って二人目の男の背後に取りついた俺は、その肩越しにヒッグスの姿を確認する。
彼はまだ一人目に対峙してる最中だったが、なんと馬の首をその腕力でへし折ると、騎士を馬ごと地面に叩きつけようとしているところだった。
彼はスピードこそ俺や葵さんには敵わないものの、2メートル30センチの巨体によって、馬上の騎士に対しても対等の位置から攻撃することができ、その有り余るパワーでねじ伏せる戦い方ができる。
魔法を使った直後の騎士相手なら、このヒッグスにかなう敵などいないだろう。
「おいヒッグス。殺さなければコイツらには何をしてもかまわないから、さっさと無力化して次に行くぞ」
「これは頼もしい! あの憎っくきグランディア帝国騎士団をまるで苦にしないとは、さすがはこのワシが忠誠を誓ったミズキ殿でありますな。では今こそ宿敵グランディア帝国に対し、積年の恨みを全力で返させていただきます。うおりゃーっ!」
そう言うとヒッグスは馬ごと騎士を地面に叩きつけて、騎士の全身を粉々に砕いた。
「ぎゃぼっ!」
「おいヒッグス! 殺しちゃダメって言ってるだろ」
「コイツらには回復魔法の加護がありますゆえ、この程度の攻撃では死んだりしませんぞ」
「え、そうなのか? だがほどほどにな・・・」
繁華街全体に拡散していた敵騎士団だったが、UMA室戦闘員や機動隊が続々と応援に駆け付けてくれたおかげで包囲網は一応完成した。
そして完全に乱戦状態になった繁華街で俺は、敵の指揮官らしき派手な帝国貴族を眼前に捉えていた。5人の屈強な騎士を周囲に従えたその貴族は、俺たちを侮蔑するような目で何かを話し始める。
【我が名は、マルクス・アルベルト・ガービッシュ。帝国でも比類なき名門貴族の一つに数えられるガービッシュ伯爵家の縁戚にして、騎士団で連隊長を務めるガービッシュ男爵の三男であるこの僕こそが、将来の帝国騎士団を背負って立つ、マルクス・アルベルト・ガービッシュである!】
「お、おう・・・俺は前園瑞貴、高2だ」
敵の勢いに思わず自己紹介を返してしまった俺だったが、その貴族はまだまだ話し足りないようなので、無視して攻撃を開始することにした。
【名門貴族であるこの僕が、なぜ魔界に遠征したのかと言えばひとえに皇帝陛下の・・・】
「葵さんとヒッグスは取巻きの騎士を頼む。この帝国貴族は魔力が一番強いから、俺が対処した方がいい」
「わかったわ瑞貴。ヒッグス、私の合図で攻撃よ」
「承知したアオイ殿っ!」
【そもそも我がガービッシュ家は先祖代々グランディア王家の懐刀にして・・・】
「神宮路さん聞こえるか。敵の魔力が徐々に回復してバリアー強度も増してきている。水島さんに敵バリアーの中和をお願いしているから、遠隔攻撃部隊の弾幕で敵バリアーを一気に粉砕したい」
『承知いたしましたが、それならここにいる全ての部隊で一斉に攻撃いたしましょう。藤間主任と総司令部の小野島室長は、瑞貴君の合図で一斉攻撃願います』
『『・・・了解した!』』
【っておいそこの下民。この僕の話をちゃんと聞かないかっ! 僕は騎士学園で優秀な成績をだな・・・】
「水島さん、中和するだけだからバリアーはそれぐらいで十分だよ。キミは疲れただろうから、しばらく俺の後ろで休んでくれ」
「はあ・・・はあ・・・ありがとう前園くん。私もさすがに疲れたから、ちょっと休ませて貰うね」
「おう! それでは小野島室長と藤間主任、いまから総攻撃に入ります・・・3、2、1、総員撃てっ!」
『『総員撃てっ!』』
ダダダダダダダダダダ!
パン! パン! パン! ダダダダッ!
シュボッ! バチッ! ドゴーン!
そして敵騎士団に対して一斉攻撃が行われた。
機動隊による機銃の発砲、現場に到着したUMA室戦闘員たちや敦史や鮫島による思念波弾による集中砲火が敵騎士団のバリアーをことごとく破壊していく。
ダダダダダダダダ! パン! パン!
ダダダダダッ!
徹底した集中砲火によって、バリアーを失った騎士が次々と被弾して倒れていく。その有り様に驚愕の表情を浮かべるマルクス・アルベルト・ガービッシュ。
【何だ今の攻撃は・・・これが噂の無詠唱魔法か! だが我ら帝国騎士団のバリアーを全て破壊するなど、そんなことがあっていいはずがないっ!】
「攻撃中止。これ以上やると敵に死者が出てしまう。バリアーは十分弱体化したので、ここから再び思念波による格闘戦に移行する。それとこの派手な騎士はただの貴族のドラ息子で、本当の指揮官はコイツの後ろに控えるその地味な騎士だ」
「・・・でしょうね。瑞貴、指揮官は私がやるから、あなたはアホなドラ息子をお願い」
「作戦に変更なしだな。気を付けろよ葵さん」
【ぐぬぬぬぬ・・・この僕をアホなドラ息子だと! このマルクス・アルベルト・ガービッシュを本気で怒らせたことを地獄で後悔させてやる。死ねっ!】
インカムでは、小野島室長から一時的に現場指揮権を委譲された神宮路さんの指示が飛び、UMA室戦闘員全員が一斉に突撃を開始した。
この乱戦状態をかなり有利な方向に動かせたことにホッとした俺は、顔を真っ赤にして襲いかかってきた貴族のドラ息子の右肩の骨を念動力で粉砕した。
次回もお楽しみに




