第48話 運命の戦い①
12月。
いつもなら街はクリスマスのイルミネーションで彩られて人々の心を盛り上げてくれるものだが、そんな雰囲気は影を潜め道行く人もまばらだ。
ここ数ヵ月で頻発したリッター襲撃事件で死傷者が多数出ており、街でショッピングを楽しむどころではなくなってしまっていたからだ。
それでも外を歩く必要のある人は、スマホから緊急警報のアラームが鳴ればすぐ逃げられるよう、みんな動きやすい服装とスニーカーをはいていて、ハイヒールを履いて街を闊歩する女性の姿など皆無であった。
それと入れ替わるように街にはデモ隊が現れ、再軍備反対や思念波研究の即時中止を求めて永田町・霞が関周辺や各県の県庁・県警本部、そしてこの明稜学園周辺でもシュプレヒコールを上げている。
彼らは「基地があるからリッターが攻めて来る」という左派政党の主張に共感し、政府の対応に怒りを燃やす市民たちだった。
俺は教室から窓の外を見つめながら「人間の鎖」と称するデモ隊が手を繋いで学校を包囲している様子にため息をつき、その隣ではアリスレーゼが不安そうに俺の手を握りしめている。
「ミズキ、学園が民衆に取り囲まれています。多くの人々が本気で武力を放棄しようと考えているようですが、わたくし達はどうなってしまうのでしょうか」
「アリスレーゼ、日本人の大半はそんなバカげた考え方を持っているわけではないよ。ネットでは俺たちのことを好意的に扱う情報がたくさん発信されてるし、そういう人たちはデモなんかやらないから、街中では反対意見ばかりが目立ってるだけだよ。それにデモ参加者のほとんどは高齢者だろ」
「ええ、若い人はほとんどいませんね」
「どこの国でも若い人と高齢者では意見が異なるのが普通だと思うけど、日本の場合は高齢者の数が圧倒的に多くて元気なことと、彼らが主にテレビと新聞からしか情報を得ず、そのメディアも企業努力の結果として高齢者の好む情報ばかりを流すという悪循環に陥っているんだ。このデモ参加者はたぶん、この前の討論番組の主張に影響を受けた人たちだよ」
ちょうどその時、UMA室戦闘員用のタブレットにリッター出現のメッセージが届いた。
「またリッターの襲撃だ。すぐ隣の駅の繁華街周辺に転移反応が感知されたらしい。俺たちの出番だな」
「承知しました。デモ隊からわたくしたちの姿を隠すために【ファントム】を使います。愛梨ちゃんと芹沢さんと合流次第、出撃いたしましょう」
神宮路家のリムジンで現場に急行すると街には防護線が引かれており、思念波防護機能を持った特殊な盾を装備した警察官が市民たちの避難を進めていた。
そこへ俺たちが到着すると、
「UMA特戦隊が来てくれたぞ!」
「助かった・・・早くあの怪物どもを倒してくれ!」
デモ隊とは異なり、こちらは俺たちに期待を寄せる市民ばかりのようだが、その反応はなぜか特撮ヒーローモノっぽくなっている。
ネットでも俺達を戦隊モノに見立てたネタ動画がたくさん出回っているが、原因はおそらく俺達が着ている戦闘服だと思う。
さっきリムジンの中で着替えたこの戦闘服はUMA室から正式に支給されたものだが、他の戦闘員たちが着ている装甲服とは異なり、俺たちの特性を活かすために開発された特注品だった。
デザイン的には明稜学園の制服と似ているが、ネクタイやスカーフの色がそれぞれの思念波の色と同じになっていて、司令部の人達にも俺達の能力の系統が分かりやすいようになっている。
もちろん戦闘服だけあって機能も強化されており、思念波をブーストする効果のある特殊合金が生地に織り込まれて攻撃力と防御力が格段に増強されている。なおヒッグスと鮫島は正体がバレないように、一般の装甲服と覆面をつけているが。
そんな俺たちが配置につくと、米大統領仕様の防弾リムジンに残って全体の指揮を取る神宮路さんから、インカムを通して指示が飛ぶ。
「今日も敵の襲撃は小規模ですが、油断せず戦いましょう。アリスレーゼ様と愛梨ちゃんはわたくしと共に後方から全体指揮を、伊藤君と芹沢君、謎の覆面レスラーXさんは藤間主任の指示に従って遠隔からの狙撃と弾幕を、そして近接戦闘は瑞貴君と葵さん、水島さん、覆面レスラーYさんの4人でお願いします」
俺の強い希望もあって、アリスレーゼはリッターと接触させないようあれから一度も前線に出していないし、念のために愛梨を護衛につけている。
その愛梨は、予知能力を使って敵の動きを先読みして俺達に伝えてくれるが、遠い未来ほど思念波エネルギーを大量に使用するため、神宮路さんの指示に従って近未来をピンポイントで予知し、それを俺と藤間主任の二人にインカムで伝えて、それぞれの部隊の行動の参考にする。
ちなみに遠隔攻撃チームは藤間主任の指揮のもと抜群の成果を出しているが、その中にあって鮫島はやはり不服そうで、彼は自由に戦わせて貰えないばかりか思念波エネルギーの供給源としてこき使われている。
さすが藤間主任は刑事出身だけあって、犯罪者の扱いには慣れているようだ。
「よし、俺たち4人はいつも通り突撃だ。みんな自由に戦っていいが、互いの様子は常に確認していつでも助けに入れる態勢を維持しよう。一人の怪我人も出すつもりはないからな」
すると3人も、
「分かってるわよ瑞貴。でも誰が一番たくさん敵を狩るか今日も競争だからね。また私が勝つけど」
「いやいや、今日こそはこのヒッグスめが最大の武勲を立てて、ミズキ殿のご恩に報いる番であろう」
「私は前園くんが怪我さえしなければそれでいいの。絶対に守ってあげるから、私の傍を離れないでね」
「ありがとう水島さん。でもキミこそ自分の命を一番に考えて、危ないと思ったら必ず俺を頼ってくれ」
「うん! ありがとう前園くん・・・優しいのね」
そう言って頬を赤く染めて俺を見つめる水島さんに葵さんが噛みつく。
「ああっ! また水島さんがカワイ子ぶってる。ねえ瑞貴、私のこともちゃんと守ってよね」
「葵さんはこの中で一番強いんだから、そもそも俺の助けなんかいらないだろ」
「チェッ! この子だって十分強いのに、私ばっかり雑に扱って。私もか弱い女子を演じていれば水島さんみたいに大切にしてもらえたのかな」
「それは葵さんの誤解だよ。水島さんは自分の命を軽く見すぎるところがあるから心配なんだが、葵さんは生きることに貪欲だし俺も安心して見ていられるよ」
「なーんだ、そういうことか。だって私は瑞貴の子供を最低10人は産む予定だし、どこまで産めるか子供チャレンジなのよ! だからこんな所で死ぬわけないじゃん」
「子供チャレンジって何をアホなことを・・・おっと無駄話は終わりだ。神宮路さんからのGOサインだ。突撃準備・・・3、2、1、突撃っ!」
「「「突撃ーーーっ!」」」
こうして始まったリッターとの戦いは、序盤はいつものように俺たち優勢で進んだ。後方には学園からつけて来た報道陣がカメラを構えており、戦いの様子を実況中継している。
彼らマスコミには警察から撮影許可が下りており、神宮路家のリムジンを常にマークしている彼らは、俺たちが出撃したここ数回の全ての戦いをリアルタイムで報じている。
これは国民からの無用な批判を抑えたい政府が、幅広い層に人気のある俺達を広報的に使おうという思惑が絡んだ措置であったが、今日に限ってはこれが裏目に出ることとなる。
戦いも途中まではいつもと同じように始まったものの、転移陣近くまで攻め込むといつもより一回り大きなオーガが隊列を組んで、強固なバリアーと組織的な動きで対抗してきたのだ。
「ちょっと待て、いつもと違うぞコイツら」
「ミズキ殿、これがオーガ本来の強さです。今までの相手は若造ばかりで、一線級の騎士団に比べてかなりの格落ちでしたので」
「マジかよ・・・」
それでも鮫島から供給される思念波エネルギーを惜しみ無く使って地力で押し返していったが、俺達がオーガの攻略に手間取っている間に、まるで彼らを肉の壁とするかのように、新手の部隊が転移を始めた。
通常より膨大な魔力を消費して慎重に転移を果たしたその部隊の姿に、この場にいる全員が硬直する。
「・・・おい、あれって人間じゃないのか」
そう、俺達の前に現れたのは数十騎ほどの騎士団だったが、その重厚な防具の下に見えるのは俺達と同じ人間の成人男性の顔であった。
青い瞳で彫りの深い顔つきは、アリスレーゼ同様に西洋人に酷似していたが、その身長は170センチにも満たず、ちょうど中世頃のヨーロッパ人と同じぐらいの体格だ。
だがその誰もが魔法を使えるようで、彼らの体内を思念波が循環していて、それが強固なバリアーとして発現したり、彼らが持つ武器に注ぎ込まれている。
俺が目に思念波を集中させて彼らの能力を読み取っていると、ヒッグスが真剣な面持ちで、
「ミズキ殿・・・ヤツラはグランディア帝国騎士団で間違いありません。ついに本腰を入れたようですな」
「あれがグランディア帝国騎士団・・・強いのか?」
「かなり。なにせ我々オーク騎士団をその魔力でことごとく粉砕した騎士団ですから。そして部隊の後方で雑兵どもに守られふんぞり返っているあの男がヴェイン伯爵。我らをこの世界に転移させた張本人です」
「ヴェイン伯爵・・・いよいよボスの登場か」
俺は今の話を神宮路さんに伝えると、
『・・・承知いたしました。相手が人間ということになりますと、わたくしたちUMA室戦闘員の攻撃対象ではなくなってしまいます。すぐに総司令部の指示を仰ぎますが、それまでの間は警察の本来業務として、テロ行為の容疑者逮捕を原則に対処してください』
「つまりヤツラを生け捕りにしろということか・・・かなり厳しい戦いになると思うし全員での攻撃を求めたいが、アリスレーゼだけは絶対に外に出すな」
『彼らに奪われることを心配しているのですね。では微力ながらこのわたくしが全力でお守りいたします』
「すまない・・・頼んだぞ神宮路さん」
次回もお楽しみに




