第44話 生徒会長戦③
「みんな本当にすまなかった」
公開討論では、芹沢の挑発に乗った俺が暴力行為により会場からつまみ出され、残されたみんなも失った支持を挽回できないままその場は終了してしまった。
その翌日以降も、みんなで放課後の校内を回って神宮路さんの公約を必死にアピールしたが、芳しい反応を得られぬまま数日が過ぎていた。
こんな状況を作ったのは明かに俺の責任なのだが、それを謝罪する度にみんなが俺を慰めてくれる。
「お兄は悪くないよ。ただ芹沢のヤツがお兄より一枚上手だったってこと」
「愛梨ちゃんの言う通りだ。瑞貴・・・お前は真面目というか素直すぎて、こういう心理戦には正直向いてないな」
愛梨、敦史・・・。
俺は自分が冷静な判断ができる人間だと思っていたが、どうやらそうでもないらしいことがわかった。
それが俺にはショックで、愛梨たちがフォローしてくれても全然喜べない。
特にこの選挙に熱心に取り組んでくれていた水島さんには本当に申し訳ない気持ちで一杯だった。
「水島さん、俺のせいで負けてしまうかもしれない。せっかくキミが考えてくれたイジメ対策が無駄になってしまうかも・・・」
「前園くん、私のことなら気にしないで。この対策は生徒会じゃなくてもできるし、前園くんと一緒に何かができるのなら、私は何だっていいのよ」
「生徒会じゃなくてもできるか・・・そうだな。もし選挙に負けても、イジメ対策は一緒に取り組んでいこう。気を遣ってくれてありがとう水島さん」
水島さんはどこまでも優しい女の子で、俺を責めるようなことは絶対に言わないし、常に前向きな提案をしてくれる。そして葵さんと神宮路さんも、
「瑞貴、生徒会長選挙なんかどうでもいいじゃない。そんなことより今はリッターとの戦いに備えないと。まだ西日本にしか攻めて来てないけど、私たちは関東防衛の要なのよ」
「わたくしが生徒会長選挙に出馬したのは、瑞貴君にふさわしい女性として自分を磨くことが目的でした。葵さんの言い方は身も蓋もないですが、今は生徒会の改革より関東防衛を優先した方がいいですね」
「リッターか・・・そうだよな。戦いが本格化すれば生徒会活動なんかやってる時間はどのみち無くなる。だが芹沢に負けっぱなしというのも頭に来るし、神宮路さんのためにも選挙には勝ちたいんだ」
「ありがとう瑞貴君。その気持ちだけで、わたくしは十分嬉しいですわ」
そう言って満面の笑顔を見せてくれる神宮路さん。教室では常にクールな委員長が俺だけには心を許してくれているというギャップからか、俺の心臓の鼓動はドキドキと高鳴った。
校庭を一周して部活中の生徒へのアピールを終え、再び校舎付近まで戻ってくると、掲示板の前では芹沢たちが陣取っていつものように握手会を始めていた。
生徒が長い行列を作り、その先頭ではアイドル風のコスプレをした芹沢とそのスタッフたちが笑顔で握手に応じている。
女子生徒はもちろん芹沢の列に集中しているが、男子生徒が作る行列のうち最も長いものはアリスレーゼの列だった。
パステルピンクで、フリルがヒラヒラしたお揃いのコスチュームに身を包んだ彼女が、男子生徒一人ひとりと握手をしながら芹沢の公約を懸命に説明しているが、その男子たちは彼女の説明を聞くフリをしながらその視線の先は彼女の身体にばかり向いていた。
アリスレーゼが着ている衣装は、一昔前の地下アイドルをイメージしたものらしいが、俺には女児向けの魔法少女アニメのコスチュームにも見え、これを着るには彼女の身体は少し大人過ぎると思った。
そもそもスカートが短すぎて、アリスレーゼのスラリと伸びた長く美しい脚が全て露わになっているし、彼女の大きな胸がコスチュームのデザインと合っておらず、実にけしからんことになっている。
そんな魅惑的なアリスレーゼを間近で見るために、何度も列に並び直す男どもにイラつきながらも、この1、2週間ほど彼女と全く会話をできていない俺は、忸怩たる思いでそれを見ているしかなかった。
俺が遠くから見ていることはアリスレーゼももちろん気づいているが、あからさまに俺から目を背けると男子たちに笑顔を振りまきながら、両手で彼らの手を握りしめる。
「くっ・・・アリスレーゼ。やはりキミは俺の元から去っていくつもりなんだな。でもどうして芹沢なんかと・・・」
俺がガックリ項垂れていると、神宮路さんがそっと声をかけてきた。
「瑞貴君・・・アリスレーゼ様のことはあまり気にせず、わたくしたちは生徒会の改革に向けて、やれることをやりましょう。ねっ」
そう言って、俺を覗き込みながら微笑んでくれる神宮路さん。
「・・・そうだった。アリスレーゼとは今は敵同士、俺達は俺達で頑張るか」
その後俺たちも芹沢たちの近くに陣取って、列に並ぶ生徒たちに聞こえるように演説を行った。
握手の順番を待つ間は暇なのか、俺たちの話に耳を傾けてくれる生徒も少なくなかったが、果たして彼らの何%が俺達に票を入れてくれるだろうか。
それでもこの中の何人かは賛同してくれることを信じて、俺達は精一杯に声を張り上げた。
そうしているうちにチャイムが鳴って、学校の終業を知らせる音楽が流れ始めた。生徒は家に帰る時間であり、俺達の街頭演説も今日はこれで終わりだ。
やがて行列が解消されバラバラと帰宅を始める生徒たち。それをボンヤリ眺めていると、だが次の瞬間、背筋が凍りつくほどの強力な思念波が俺達を襲った。
「なっ!」
俺が気づいたのと同時に、他のみんなも辺りを見渡して警戒する。そして最初に思念波の発信源を見つけたのは葵さんだった。
「瑞貴、リッターの襲撃よ! ほら見て、校庭の上空に魔法陣が」
見ると、うっすらと浮かび上がった魔法陣が徐々に実体化し始めていた。神宮路さんもそれを確認し、
「まさか本当にこの学校に襲撃してくるなんて・・・でもわたくしたちのリッター対応計画が役立つ時がきたのよ。現時刻をもって対応計画を発動します!」
「わかった! ではここからは隊を2つに分けよう。俺と水島さん、愛梨の3人が最前線でリッターを抑えるから、神宮路さん、葵さん、敦史の3人は生徒を体育館に避難させて防御に徹してくれ!」
「「「了解っ!」」」
そして魔法陣がいよいよ肉眼でもハッキリ見えるようになり、一般の生徒も上空を見上げて怯えだす中、タイミングよく校内放送が流れ生徒たちへの避難指示が出された。
『学校に残っている全校生徒に緊急連絡です。校庭にリッターが出現。帰宅は中止して直ちに体育館に避難し、神宮路さんたち警察の特殊部隊の指示に従って行動しなさい。繰り返します・・・』
この声は母さんだ・・・。
「ナイスだ母さん。これでみんな体育館に向かうだろう。神宮路さんたちは逃げ遅れた生徒たちを見つけて誘導してくれ」
「分かりましたわ!」
放送を聞いた生徒たちが慌てて体育館に向けて走り出す中、神宮路さんは芹沢と前生徒会役員を集めて指示を出し、生徒たち全員が避難できるよう手分けして誘導を始めた。
だがアリスレーゼだけは神宮路さんと行動を共にせず、魔法陣に向けて走り出した俺たちに合流した。
「ミズキ、わたくしも一緒に戦います」
「いいのかアリスレーゼ・・・でも助かる。敵の規模がまだ分からないから、思念波を使いすぎるなよ」
「承知してます。行きますよミズキ」
これからリッターとの戦いだというのに、久しぶりに俺の目を見て会話をしてくれたアリスレーゼに俺の心は嬉しさで一杯になった。
「行くぞみんな! オーガだろうとオークだろうと、この学園の生徒には指一本触れさせるな! グランディア帝国の指図かもしれないが、ここに侵略してきたことをその命を持って後悔させてやれ」
「分かったよお兄! 敵は愛梨たち目掛けて突撃してくる未来が見える。敵の動きを教えるから愛梨の指示に従って行動して!」
「おうっ!」
次回もお楽しみに




