第33話 神宮路さやかの参戦
更新が遅くなってすみません。
新章スタートです。
ずっと内緒にしてましたが、わたくし神宮路さやかには幼い頃からの許嫁がいます。
前園瑞貴君。
それが将来わたくしの夫になる人の名前です。
彼と初めて会ったのは、小学校への入学をひかえた年のお正月。新年のご挨拶にと、お爺様の元を訪れた親友で私立明稜学園の経営者の前園克己氏と一緒に、ご家族が我が家を訪れた時でした。
しばらくして大人同士の会話に飽きた瑞貴君は、一つ下の妹とともに応接室から出ていき、二人で手をつなぎながら家の中を探検していました。
わたくしはそんな彼に声をかけたのです。
「あけましておめでとうございます。わたくし、じんぐうじさやかと申します。初めまして」
「あけましておめでとう。ぼくは、まえぞのみずき。こっちは妹の、あいりだよ」
「もしよろしければ、わたくしが家の中をごあんないいたしましょうか」
「え、いいの? あいり、この子があんないしてくれるって」
「もうっ! お兄は、またほかの女の子となかよくなって・・・お兄のばかっ!」
「なにをおこってるんだよ・・・じゃあよろしくね、さやかちゃん」
愛梨ちゃんはその頃から瑞貴君にべったりだったのが強く印象に残っていますが、初めて二人を見た時、この世にこんな綺麗な兄妹が存在するのかと衝撃を受けたことを、今でもよく覚えています。
愛梨ちゃんは透き通るような真っ白な肌に、煌めくようなプラチナブロンドの髪と青い瞳。まるで天使のような妹と手をつなぐ瑞貴君も非の打ちどころのない整った顔立ちで、漆黒のような黒髪が精悍さを演出して、まるで小さなお姫様を守る騎士のようでした。
いいえ、どちらかと言えば王子様かしら・・・。
そんな瑞貴君は、愛梨ちゃんのワガママにも嫌な顔一つせず、優しくほほ笑むと何でも言うことを聞いてあげていました。
彼と直接会話をしたのはそれっきりでしたが、一度会っただけで彼の優しさだけでなく、芯の強さや真っ直ぐな性格が伝わってきました。
そしてあっという間に時間が過ぎ、ご両親たちとともに瑞貴君が帰った後で、お爺様から彼がわたくしの婚約者になったことを聞かされました。
「おじいさま。さやかはあの王子さまとけっこんするのですか?」
「そうだよ。そして将来二人で会社を継いでほしい」
「おじいさまの会社をさやかが・・・はい、しょうちいたしました。ではしっかりお勉強をして、王子さまにふさわしい立派なレディーになってみせますわ」
「そうか、頼もしいなさやか。ハッハッハ!」
小学校に上がったわたくしは、瑞貴君にふさわしい女性となるため一生懸命勉強し、中学生になって彼と同じ学校に進学できるのを楽しみにしていました。
すぐにでも彼に会って話がしたい。
そしてようやく迎えた中学校の入学式の日、お爺様からある事実を伝えられました。
「瑞貴君はさやかとの婚約をまだ聞かされていないそうなんだ。どうやら母親のエカテリーナさんの方針で高校卒業までは彼を自由にさせたいらしい。だからさやかも学校では婚約の事実を伏せて、彼とは普通のクラスメイトとして接してほしい」
「普通のクラスメイトとして・・・承知いたしましたわお爺様。結婚自体は大学卒業後ですし、同じ教室で学べるだけでも大変励みになりますから」
「わかってくれるか。すまないなさやか」
ですが明稜学園での学園生活が始まっても、わたくしは瑞貴君に話しかけることができませんでした。
彼の周りにはいつもたくさんの男子生徒が取り囲んでおり、わたくしを含めた女子生徒は遠巻きに見ているしかなかったのです。
その時のわたくしは少しがっかりしたものの、6年間ずっと肌身離さず持ち続けていた彼の写真を取り出すと、現実の彼とそっと見比べたのを覚えています。
中学生に成長した彼は、幼い頃の面影をしっかりと残したまま、男性としての精悍さに一層磨きがかかっていました。
陶器のような白い肌に、漆黒の髪がサラサラと風に流れ、身体全体からあふれ出る高貴なオーラはまるで生まれながらの王子様のようでした。
でもいくらハーフだからといって、これだけの風格はそうそう出せるものではありません。
彼は一体何者なのでしょうか・・・。
そんな瑞貴君に対する女子生徒たちの反応も想像以上で、直接声をかけるのもおこがましいと思った女子生徒たちにより、彼に内緒で結成したファンクラブが雨後の筍のように乱立し、水面下で激しい戦いを繰り広げる事態にまで発展したのです。
実はそんな女子同士の争いを陰で煽っていたのが、とんでもない美少女に成長していた小学6年生の愛梨ちゃんだったのです。
彼女は女子だけでなく男子の行動も掌握していて、瑞貴君の近くに女子が近付かないように暗躍していたのです。
何という小学6年生・・・。
「・・・これはお爺様に言われるまでもなく、彼の婚約者であることは隠しておいた方が正解ですね」
わたくしはそう決意すると、彼にふさわしい女性になるため勉学とスポーツに一層励み、高校に進学した時には不動の学年トップの成績と生徒会役員の地位を得たのでした。
そんな高校生活も残すところ一年半を切った所で、瑞貴君とわたくしの婚約が正式に発表されました。
葛城さんの事件以降、テレビで何かと話題になっていた瑞貴君でしたが、この婚約発表はやはり衝撃的だったようで、芸能人でもないのに瑞貴君の家には早朝から取材陣が殺到しているようです。
わたくしはそんなテレビ番組を消して学校に向かおうとすると、ボディーガードの葵さんが出勤してきたことを侍女が伝えてきました。
そして玄関ホールに向かうと、葵さんがわたくしのことを恐い顔で睨み付けていました。
「瑞貴との婚約のことで、あなたと少し話したいことがあるんだけど、車の中で時間をもらえる?」
「婚約のことで・・・承知しました。あなたが瑞貴君のことを好いているのは存じておりましたが、だからと言って婚約の事実は一切変わりませんから」
「そう言うと思っていたわ。でもここでは話せないことが多いから、すぐに出発しましょう」
「ええ、よろしくてよ」
登校時間には少し早いけど、わたくしたちを乗せたリムジンが学校に向けて出発したのです。
車が高速道路に入るとすぐ、向かいに座る葵さんが話を切り出してきました。
「瑞貴のお義父様からはまだ黙っているように言われたけど、実はこの私も瑞貴の婚約者なのよ」
「なっ!」
葵さんも瑞貴君の婚約者って、どういうこと?
わたくしが絶句すると、葵さんがニヤリと笑って話を続けました。
「ふふっ・・・どう驚いたでしょ。昨夜、長谷川さんからあなたたちの話を聞いた時は、私もそんな気持ちだったのよ。ざまあないわね」
彼女は公安の戦闘員で、お爺様が連れて来たわたくしのボディーガード。
それなのに、わたくしに対してあからさまな敵対心を見せる彼女は一体・・・。
混乱したわたくしが二の句を告げないでいると、さらに彼女が言葉を続けました。
「私が何者か知りたそうな顔ね。せっかくだからほんの少しだけ正体を明かしてあげる。私は物心がついた頃から瑞貴の隣の家に住んでいた幼馴染で、彼の無二の親友と言っても過言ではない神無月弥生よ」
「・・・神無月弥生。それがあなたの本名なのね」
「そうよ。そして私はお義父様の許しを得て、小学一年生の時に瑞貴の許嫁として認められたの。もちろんお義母様のお考えもあって、高校を卒業するまでは婚約の事実を伏せておくように言われたけど」
「あら? わたくしは小学入学前から瑞貴君の婚約者でした。ですのであなたの婚約は無効なのでは」
「いいえ。昨夜お義父様から事情をお聞きし、お義父様自身は神宮路さんを正式な婚約者だと認めた覚えはないそうよ。それはお義母様も同様らしく、高校卒業時に関係者でもう一度話し合うとおっしゃってたわ」
「そんな・・・ウソでしょ」
「それなのにあなたたちは、その約束を破って婚約の事実を公表してしまった。お義父様は正式に抗議するとおっしゃってたけど、そもそも婚約を今公表することがどういう結果につながるのか分かっているの?」
神無月さんがすごい剣幕でわたくしを口撃して来ますが、ここで負けては瑞貴君の妻など務まりません。わたくしは毅然とした態度で言い返しました。
「もちろんわかっております。学園のみならず日本中の女子の憧れになった瑞貴君に万が一の間違いがあってはならないため、このわたくしが身体を張って彼の矢面に立たなければならない、ということですわ」
「ふーん・・・それなりに覚悟はできているようね。でもその役割を担うのは、私の方がふさわしいの」
「・・・そうね、確かに瑞貴君のボディーガードをするだけなら、あなたの方が適任かもしれないけれど、物理的に守ればいいという訳には行きません。その点わたくしは10年前からこのような事態を想定して、どんな女性も逃げ出してしまうような才色兼備、文武両道を目指して参りました」
「自分でよく言うわね・・・確かに才色兼備であることは、さすがのこの私でも否定しづらいけれど、見た目の美しさなら私だって全然負けてないし、逆にあなたには戦闘力が皆無じゃないの」
「それはどうかしらね。わたくしは思念波補助デバイスを開発した神宮路電子工業の跡取り娘であり、あのデバイス自体がわたくしの能力を最大限に発揮させるために、雨宮主幹研究員が考案したものなのよ」
「うそでしょ・・・」
「本当のことです。おそらくデバイスを使用した戦闘なら公安UMA室の戦闘員以上に熟達してましてよ。何なら試してみます?」
「くっ・・・お、面白いわね、受けて立つわよ。公安エースのこの私とどっちが強いか勝負よ」
「ええ。では負けた方が瑞貴君から手を引く。それでどうかしら?」
「・・・随分と自信があるようだけど、負けて後悔するのはあなたの方よ」
「では決まりね。水島さんが退院したら筑波の研究施設に来てほしいと、雨宮主幹から連絡がありました。その時にでも地下の訓練所で模擬戦を行いましょう」
「わかったわ。ではそれまではお互いに瑞貴との過度なコンタクトは控えましょう。それと私の正体はまだ明かさないようにお義父様から言われてるから、あなたもそれを守ってね」
「承知しました。わたくしも瑞貴君のお義父様に嫌われるようなことはしたくありませんので、あなたとはこれまでどおり接して差し上げます。表面上はね」
「上等よ。恨みっこなしだからね」
そして神無月さんが顔をひきつらせながら差し出してきた右手を、わたくしは力いっぱい握り返してやりました。
わたくし、絶対に負けるものですかっ!
次回もお楽しみに




