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クラスメイトは異世界王女  作者: くまっち
第1章 マインドリーディング! アリスレーゼ第1王女登場
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第1話 王女がウチにやって来た(後編)

 翌朝いつもより早く目覚めた俺は、あの子がどうなったのかが気になり、すぐにパジャマから着替えると母さんの部屋に向かった。


「お兄、おはよう。こんな朝早くどこに行くの?」


 部屋の扉を開けて廊下に出ると、そこに愛梨が立っていて俺の顔をジト目で見ていた。


「おわっ! びっくりさせるなよ愛梨・・・どこって母さんの部屋だよ。昨日のあの子がどうなったか気になるだろ」


「・・・やっぱりお兄はあの子のことが好きなんだ」


「だから何でそうなるんだよ。お前はあの子がどうなったか気にならないのか?」


「そりゃまあ愛梨も、気になると言えば気になるし、一緒に見に行ってみる?」


「おう、早く行ってみようぜ」


 愛梨は警戒モードを忘れていないが、結局好奇心には勝てないらしい。だがコイツ、いつから俺の部屋の前に立っていたんだろう・・・。






 母さんの部屋はリビングを抜けた一番奥にある。


 俺たちはリビングの扉を開けて中に入ると、キッチンではすでに母さんが朝食の準備をしており、その隣には昨日の少女が母さんを手伝っていた。


「愛梨・・・あの子が意識を取り戻してるぞ」


「そ、そうねお兄・・・でも何やってるのよあの子」


 母さんのお手伝いをしているのは見れば分かるが、圧倒的な場違い感がキッチンを支配していた。


 というのも、西洋絵画の宮殿から抜け出て来たような豪華なドレス姿の王女様が、ウチのキッチンで母さんの指示に従って食器棚からお皿を出しているのだ。


 少し縦ロールがかった綺麗な金髪を肩から前にサラリと流し、大きな青い瞳が母さんが使う調理器具を興味深そうに追いかけている。


 そんな彼女をクスクスと笑いながら、エプロン姿の母さんが一つずつ丁寧に教えている。


 あまりにもチグハグで違和感しか感じない絵面なのだが、二人並んで楽しそうに話している様子に、首から上だけ見れば本物の母娘に見えるから不思議だ。




 俺が絶句してその場に立っていると、愛梨の怒りが突然爆発した。


「お母さん! 愛梨は邪魔だからって何も手伝わせてくれないのに、どうしてその子には優しく教えてあげてるのよ!」


 お前の怒りのポイントはそこかよ!


 他にいくらでもツッコミどころがあるのに、二人の間に割り込んでしょうもないことで文句を言う愛梨に母さんも反論する。


「だって愛梨はお母さんの言うことを聞かずに、いつも自分勝手に料理するじゃない。ウチもお金持ちじゃないんだし、食材を無駄にするから愛梨は邪魔なの」


 今は愛梨の料理の話なんてどうでもいい。それよりそこにいる王女様について話そうよ。だが二人はその話題に触れることなく母さんは愛梨を論破していく。


「ひどっ! それが実の娘に対して言う言葉なの? お兄~、お母さんに何とか言ってよ~」


 半泣きで負けて帰って来た愛梨を横目に、俺は話題を強引に変えた。





「母さん、その子って昨日の女の子だよね」


 すると母さんは「あ、そうそう」と思い出したようにその子の方を見て、


「この子は今朝やっと目が覚めて、今はこの世界のことについて色々教えてるところなの」


「この世界って・・・母さんはまだその子を異世界人だと思ってるの」


 俺が訝しげに尋ねると母さんは得意げな顔で、


「あらあらまあ、瑞貴はまだ母さんを疑ってるのね。ふっふーん! アリスちゃん自己紹介をお願い」


「はいお母様」


 ドヤ顔の母さんに「アリスちゃん」と呼ばれたその少女は、ゆっくりと俺たちの前に歩み出ると、両手を前に組んで優雅にお辞儀をした。


 そして穏やかな微笑みを浮かべ自己紹介を始める。





「初めまして。わたくしはティアローズ王国第一王女のアリスレーゼ・ステラミリス・フィオ・ティアローズと申します」


「うわっ! メチャクチャ流暢な日本語じゃん。一体何者?」


 俺と愛梨が顔を見合わせて驚いていると、アリスレーゼと名乗るその子も不思議そうに言った。


「日本語とは何ですか? わたくしは自分の国の言葉を話しているだけですが」


「自分の国の言葉を・・・というとそのティアローズ王国では日本語が使われているとか?」


 そんなことがあるのかと首をひねっていると、母さんがため息をついてこう言った。


「異世界転生すると言葉が自動翻訳されるのは基本中の基本よ。本当に常識を知らないのね、瑞貴は」


「知らねえよ、そんな常識!」


 何を言ってるんだこの母親は。


 ラノベのご都合主義的な設定が常識って、いい大人が大丈夫かよ。だが母さんは何を思ったのか、今度はアリスレーゼに話しかけた。


「アリスちゃん、今からする質問に答えてね」


「はい、お母様」


「では問題、1867年に大政奉還を行った徳川家第15代の征夷大将軍の名前は」


「・・・あのすみませんお母様。「タイセ・・・」、「トクガワケ」、「セイイ・・・」という言葉が理解できません。どこか不思議な響きですが異国の言葉でしょうか」


 今度はアリスレーゼが首をひねっているが、それを見た母さんがドヤ顔で俺に言った。


「今の実験でわかったでしょ。基本的な言葉は自動翻訳されるけど、アリスちゃんの国に存在しない単語や概念は今みたいにはじき返されてしまうの。つまりアリスちゃんは異世界から来た王女様ってことがこれで証明されました。QED」


「うざっ!」


 ラノベの設定を現実に持ち込むのはどうかと思うが、母さんの説明はなぜか辻褄が通っていて俺には反論ができなかった。


 これ以上議論しても埒が明かないので、異世界転生があったと仮定してこのまま話を進めることにした。





「ではアリスレーゼに質問だけど、ティアローズ王国ってどこにある国なんだ。聞いたことないんだけど」


 するとアリスレーゼは、少し考え込むような仕草で俺に答えた。


「お母様だけでなくあなたも聞いたことがないのですね。我が国は世界最古の王国として知らない者などいないはずですのに、やはりここはお母様がおっしゃるように異世界なのでしょうか。だとするとあの薬はやはり本物・・・」


「あの薬って?」


「我が国は他国からの侵略を受け、その侵略者の王の子を産まされそうになったわたくしは、捕えられる前に毒で自害したのです。そして死の間際、わたくしは神に祈りました。もし生まれ変われるなら平民の女として人生を最後まで全うさせてほしいと」


「マジか・・・侵略された上にその王の子まで産まされるなんて随分と酷い話だな。王女に生まれれば一生優雅に暮らせると俺は思っていたけど、そんなことで自殺をしないといけないなんて、大変な身分なんだ」


「そうなのですっ! わたくしの人生って一体何だったのでしょうかっ!」


 それからアリスレーゼは堰を切ったように自殺に至った経緯を話し始めた。


 父王が敵の奇襲によって戦死し、母親もその後を追って自殺。その母の遺言に従って二人の兄や王国宰相の前で毒を飲んで、苦しみと絶望の中で死んだことなど、最後の一日に起きた出来事を全て教えてくれた。


 そんな彼女の頬に涙が流れ落ちるのを見て、母さんはもちろんのこと、彼女を警戒する愛梨までがもらい泣きをしていた。


 俺はクローゼットからハンカチ3枚持って来ると、それをみんなに渡して涙を拭くように言った。


「実はさっきまで疑ってたけど、今の話でキミの言葉を信じることにしたよ。・・・随分と辛い思いをしたようだけど、ここに居ればもうそんな悲しいことは絶対に起きないから安心してくれ」


「ありがとう存じます。えっとあなたは・・・ミズキでしたっけ?」


「ああ、俺は前園瑞貴でコイツは妹の愛梨だ。よろしくな」


「はい、ミズキにアイリ、よろしくお願いします」


 そしてアリスレーゼはまた深々とお辞儀をした。





「それで最初の話に戻りますが、王家に古くから伝わる毒によって、わたくしはこうして平民の娘に生まれ変わることができました。これからは王家の掟に縛られず、自由に生きていくことができます」


 さっきまで泣いていたのがウソのように元気になったアリスレーゼ。だが俺は一つだけ彼女に告げた。


「キミは勘違いをしているようだけど一ついいかな」


「わたくしが勘違い・・・ですか?」


「そうだ。キミは自分が生まれ変わったと思っているようだが、王女の格好のまま突然ウチの庭に現れた。つまりキミは生まれ変わったのではなく、ティアローズ王国から転移してきただけなんだよ」


 まさかこの俺が、初めて会った女の子に転生と転移の違いを説明する日が来るとはな。


 だがアリスレーゼは言葉の定義を特に気にすることもなく、楽しそうに俺に言った。


「転生でも転移でも、どちらでもいいのです。自分はもう死んだと思っていたのに今朝ここで目覚めた時は本当にびっくりし、再び生きることを許されたことを神に感謝いたしました。そして傍に居てくれたお母様から色々お話を伺って決めたのです。わたくしはお母様の娘としてこの前園家で生きていくと!」


「前園家で生きていくって・・・それってまさかウチの養女になるってことか?」


「そのとおりでございます。今日からわたくしは前園エカテリーナの娘、アリスレーゼ・ステラミリス・フィオ・ティアローズ・前園です」


「名前長っ! ていうか、さっきから母さんのことをお母様って呼んでたのはそういうことか! それから母さんも、この子を勝手に養女なんかにして本当に大丈夫なのか」


 知らないうちにどんどん話を進める母さんが心配になった俺だったが、母さんはキッパリと断言した。


「だってこうするしかないじゃない。せっかく異世界から王女がウチに転移してきてくれたのに、こんな大チャンスを見逃して「はいさよなら」って家から放り出すなんてもったいないし、非人道的よ!」


「非人道的なのは確かにそうかもしれないな。だけど父さんや爺さんたちには何て説明するんだよ。それに突然現れた異世界人を日本社会が受け入れてくれるとはとても思えないし」


「だからこそ母さんが守ってあげないとダメなのよ。母さんが頼めば、あの人とお義父様は絶対に反対しないし、その辺の日本人なんて母さんが「この子は実の娘です」って言い張れば誰も疑わないわよ。そもそも異世界人の存在なんて誰も信じる訳ないでしょ」


 そりゃまあ外国人の顔の微妙な違いなんて日本人には見分けがつかないだろうし、30代後半にはとても見えない若作りの母さんとは、母娘ではなく姉妹だと言っても通じそうだ。




 息子の俺から見てもギリ行けそうだと判断した時、隣にいた愛梨が猛然と反対した。


「その女は確かに可哀そうだと思うけど、お兄の貞操が危ないからウチの子にするのは絶対反対。そうだ、お爺ちゃんの家の子になればいいじゃない。あそこなら家も大きいし部屋もたくさんあるよ」


「うーん・・・最初はそれも考えたんだけど、あの家には外国人嫌いの怖いお義姉様たちもいるし、アリスちゃんはきっと幸せになれないと思うの」


「伯母さんたちは外国人嫌いというより、お母さんと性格が合わないだけでしょ」


「そうとも言うわね。でももう決めたことだから、アリスちゃんは今日から家族の一員よ」


「えええ・・・イヤだよこんな女と一緒に暮らすの。お兄の貞操を守る愛梨の身にもなってよ」


「アリスちゃんは家族になったんだから、もうそんなことは気にしなくていいの。愛梨はこれまで通り、他の女の子たちを警戒していればいいじゃない」


「ダメだよ! その女はこれまでの猛獣の中でも一番危険だって、愛梨のシックスセンスが最大限の警報を鳴らしているんだよ。もしその女にお兄を取られちゃったら、どうしてくれるのよっ!」


 そしてケンカを始めた二人だったが、結局愛梨は母さんに言い含められてしまった。しかし今日改めて思ったが、母さんが愛梨のブラコン的行動をわかって見過ごしてるのは何故だろう・・・。


 そんな母さんがウキウキとした様子で、俺たちに提案した。


「そうと決まればアリスちゃんの新生活を立ち上げないとね。部屋は愛梨の隣の部屋が空いてるからそこを使えばいいわ。そこにベッドや机を置いて・・・」


「母さん、はしゃぎすぎだよ・・・」


「あ、そうだ! そんなドレスをいつまでも着てるわけにもいかないし、服から何から全部買い揃えないといけないわね。ねえ今からみんなで街に買い物に行きましょうよ。愛梨、アリスちゃんにあなたの服を貸してあげなさい」


「ええっ!? ・・・こんな女に愛梨の服を貸すなんて絶対に嫌だよ」


「こんな女じゃありません! アリスちゃんは17歳なんだから、あなたのお姉さんになるのよ」


「17ってお兄と同じ年齢じゃない! ・・・ますますこの女は危険ね」


 ブツブツ文句を言う愛梨は高校1年の16歳だが、外国人とのハーフだから身長が高くスタイルもいい。愛梨とアリスレーゼもパッと見は姉妹と言っても差し支えない感じだし、愛梨の服もきっと似合うはずだ。






 外出の準備が終わって部屋でゲームをして待っていると、アリスレーゼの着替えが終わったとアプリにメッセージが入ってきた。


 リビングに降りると、母さんの服を借りたアリスレーゼが鏡に映った自分の姿に満足そうにしている。


 聞くとアリスレーゼの胸が愛梨よりも大きかったようで、愛梨の服のサイズが合わなかったらしい。


「外国人は胸が大きくてズルい・・・この半分流れる日本人の血が憎い・・・」


 俺には二人とも同じように見えるし、胸の大きさの微妙な違いに一喜一憂する必要もないと思うのだが、この世の終わりのような絶望的な顔をした愛梨の背中を母さんが押すと、俺たちは自家用車に乗り込んだ。

 次回、アリスレーゼのお買い物。ここで現代日本の街並みに衝撃を受けます。お楽しみに。


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