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クラスメイトは異世界王女  作者: くまっち
第2章 オーク騎士団の来襲と時空間戦争の足音
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第22話 神宮路家への訪問(後編)

後半部分です。



 黒髪の美少女メイドが運んでくれたコーヒーを飲みながら、俺たちはしばらく雑談をして過ごした。


「しかし神宮路の家は、噂以上にすげえところだな。普段はどんな生活を送ってるんだよ」


 敦史らしいプライバシーも何もない質問だが、神宮路さんはイヤな顔一つせずに答えてくれた。


「我が家にはわたくし専属のメイドが数人いて、髪をセットしてくれたりマッサージをしてくれたり、勉強を教えてくれる人もいますわ」


「神宮路に勉強を教えるって、どんだけ頭いいんだよそのメイド!」


 トップ校にAO入試で受かるレベルの神宮路さんを教えられるのは、それを越えるレベルの偏差値を兼ね備えた美人メイドということになる。


 そんな人はメイドよりも給料のいい仕事がいくらでもあるだろうと思ったが、なぜかそこをツッコんだら負けな気がした。


 神宮路さんはその後も、自分のセレブな日常を面白おかしく話してくれた。クラスの女子からよく聞かれているのだと思うが、彼女の金持ちぶりには度肝を抜かされつつも、嫌みなところは全くなくむしろ半分ネタみたいな話もあり、かなり笑わせてもらった。


 そして彼女と接してみて分かったことだが、見かけの近寄り難さとは反対に、周りに気を遣うことができるとても優しい女の子だということが理解できた。


 アリスレーゼも最初は俺と同じように神宮路さんの話を素直に楽しんでいたが、彼女の場合は話に共感できるポイントが多かったのだろう、やたら相づちを打っていた上に、ついに自分の話を語り始めた。


「実はわたくしも日本に来るまでは、侍女がいる生活を送っておりましたの」


「まあアリスレーゼ様も! その気品に、ただ者ではないものを感じておりましたが、やはりヨーロッパの上流階級のご出身でしたか」


「あまり詳しくは申せませんが、わたくしも神宮路さんと同じ「箱入り娘」のようで、家からほとんど出たこともなく、もちろん学校にも通わず勉強は全て家庭教師に見ていただいておりました」


「わたくしはそこまでではありませんので、やはりヨーロッパの上流家庭はレベルが違いますのね」


「ところで侍女がいる生活はとても便利なのですが、実は良くない側面もあることに最近気がつきました」


「とおっしゃいますと?」


「何でも侍女にやってもらうことに慣れてしまうと、自分一人では何もできなくなってしまうのです。実はわたくし、家の中では着替えを愛梨ちゃんに手伝ってもらっております」


「あの気のお強い愛梨様が、アリスレーゼ様の着替えのお手伝いを。とても仲の良い姉妹なのですね」


「それが、愛梨ちゃんはわたくしの着替えを手伝うのが面倒くさいと言って、毎朝とても嫌がるのです」


「あらあら、それは困りましたわね。もしアリスレーゼ様がこちらにお住まいなら、うちのメイドがお手伝いをさせていただけましたのに」


 この二人は本当に似た者同士なのか、その後も訳の分からんセレブ話がエスカレートしていき、お互いに共感しあっている。


 最初は面白がって聞いていた敦史も「こいつらマジでやべえ・・・お姉さんは一体何者?」と完全にドン引きしており、水島さんはこの二人と少し距離を置いて、ブツブツと独り言を言っている。


 俺はコーヒーを飲みながら、さすがにこのカオスな状況を放置できないと思い始めていた。






 私は二人の会話についていけなかった。


 やはり私にはこの神宮路家は場違いであり、反対にアリスレーゼさんは神宮路さんと意気投合して、お金持ちトークですごく盛り上がっている。


 本当は私の方が先にアリスレーゼさんと仲良くなったのに、いつの間にか神宮路さんが一番のお友達のようになっているのが少し寂しい。私もがんばって会話に入ろうとしたけど、庶民の私には世界が違いすぎていて、何も言葉が出てこなかった。


 今はもう家に帰りたい気持ちでいっぱいだけど、私一人だけ帰るわけにもいかないし、ただ時間が過ぎるのを待つしかないのかな・・・。




 ううん、それは違うっ!


 そんなことだと、いつまでたっても今の自分を変えられない。


 前園くんは今のままの私でいいって言ってくれたけど、私はやっぱりそんなのはイヤ。どうにかして一歩前に進まなきゃ・・・。


 アリスレーゼさんと仲良くなれて、そして大好きな前園くんの傍に居られるたった一つの方法。それは、


「・・・神様お願い、私に一生分の勇気を下さい」


 そして私は思い切ってアリスレーゼさんにある提案をした。


「アリスレーゼさん、もしよければ私が着替えを手伝いに行ってもいいかな?」






 二人の会話から完全に取り残されていた水島さんが心配になった俺は、適当な話題を振ろうと彼女に声をかけた。だが彼女は俺の言葉をスルーすると、何かを決意した真剣な表情で二人の会話に入っていった。


「アリスレーゼさん、もしよければ私が着替えを手伝いに行ってもいいかな?」


 なんだと?


 水島さんがアリスレーゼの着替えを手伝うために、毎朝ウチに来るって言ってるのか。


 そんな突然の提案を受けたアリスレーゼは、目を瞬きながら水島さんを見つめ、


「かなでさんが、わたくしの着替えを?」


「うん。体育の時も着替えを手伝ってるし、もう慣れたと思う・・・それとも私なんかじゃダメかな」


 勇気を出して話しかけたであろう水島さんは、だがアリスレーゼが戸惑っている様子を見て、元の自信なさげな表情に戻っていく。


 それを見たアリスレーゼが慌てて、


「ダメなんかではありません! お友達にそのようなことをお願いするのが恐縮なだけです」


 その言葉に水島さんは、はっと顔を上げてアリスレーゼを見つめると、


「お友達・・・本当に私はアリスレーゼさんのお友達でいいのかな?」


「もちろんです。わたくしが日本に来て最初にできたお友達がかなでさん、あなたなのですから」


「私がアリスレーゼさんの初めてのお友達・・・よかった。じゃ、じゃあ友達として毎朝アリスレーゼさんのおうちに迎えに行って、一緒に登校するのはおかしくないよね」


「わたくし学校に行った経験がないので分かりませんが、お友達と学校に行くのはとても楽しそうですね」


「私も小学校以来だけど、アリスレーゼさんとならとても楽しいと思う。だからそのついでに着替えを手伝ってあげる」


「ついでですか・・・でも毎朝大変なのでは」


「全然大変じゃないよ! 私はお友達と一緒に学校に行くことに憧れていて、毎朝アリスレーゼさんのおうちに迎えに行けるだけでうれしいの。お願い・・・」


 水島さんが今にも泣きそうな顔でアリスレーゼを見つめる。そんな彼女の願いを断れるようなアリスレーゼではもちろんなく、


「・・・分かりました。今はお母様の車で毎朝登校しているので、お母様がいいとおっしゃればかなでさんにお願いすることにいたします。ミズキはそれでいいわよね」


「姉さんがそれでいいなら俺は別に構わない。愛梨もメンドクサイっていつも文句言ってたから、水島さんが来てくれるなら喜ぶんじゃないかな」


「じゃあ決まりね。かなでさん、毎朝大変だと思いますが、よろしくお願いします」


「やったっ! ありがとうアリスレーゼさん、それに前園くんも・・・」


 とても喜ぶ水島さんと、それをほほえましく見ている神宮路さん。そして、なぜか真っ青な顔で泡を吹いている敦史。


 今度は敦史が何かブツブツ独り言を言い始めたが、今日のこいつは情緒不安定すぎだろ。




「最悪の展開だ・・・でもこの生暖かい雰囲気をぶち壊して、俺一人が反対するなんてとてもできないし、むしろボッチ水島を応援したい俺がいる。でも愛梨ちゃんには怒られるだろうし、どうしたらいいんだ俺」





 応接室の隣の部屋に潜み、壁に聴診器を当てて中の監視をしていた新人メイドの葵菖蒲は、思わぬ伏兵の出現に奥歯を噛みしめて悔しがっていた。


「ギリッ! ・・・あの水島という女、瑞貴のことを狙っているのは間違いないわね。しかもまんまと毎朝一緒に登校することが決まって、うらやまし過ぎる」


 その時、彼女の懐の端末が反応し、藤間からのメッセージが着信した。


『神無月くん、キミのGPS反応が神宮路邸にあるのだが、キミはそこで何をしている』 


「藤間主任からの着信だ・・・そう言えばマンションから勝手に移動した後、特に連絡を入れてなかった」


 葵菖蒲・・・いや神無月弥生は、聴診器で中の監視を続けながらも、手早く藤間主任へのメッセージを送り返す。


『カレシが神宮路家のリムジンで移動を開始したため、直ちにそれを追跡。現在、神宮路邸への潜入に成功し、カレシの監視を継続中』


『了解。しかしよくそんなところに潜入できたな』


『詳細は後で話しますが、神宮路家のメイドとして採用されましたので、このまま潜入捜査を続行します』


『とんでもない行動力だな、キミは。だが潜入捜査を行う場合は小野島室長の許可が必要だ。すぐに本部に行ってくるので、それまでは絶対に正体がバレないように行動を慎むんだ。わかったな』


『はーい』

次回、物語はさらに進展します。

お楽しみに。


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