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クラスメイトは異世界王女  作者: くまっち
第2章 オーク騎士団の来襲と時空間戦争の足音
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第18話 プロローグ

 時は少し遡る。


 河川敷の乱闘現場から立ち去った藤間主任と鮫島祐二は、そのまま川を上流に車を走らせると、県北西部の山あいまで来ていた。


 辺りに人家はなく、車を降りた所で二人はそのまま山の中を登っていく。そして山腹を越えて反対斜面を降りた所で、金属同士がぶつかり合う音や何かが炸裂する音が断続的に響いてきた。


 藤間は後ろを歩く鮫島に声をかける。


「現場はもうすぐだ、早く来い!」


「はあ、はあ・・・ど、どこに連れて行くつもりだ。まさか山中で俺を始末するつもりなのか」


「バカなことを言うな。・・・だが結果的に死ぬこともあり得るから、あながち間違ってはいないか」


「死ぬこともあるだと・・・俺は帰る!」


「まあ待て。今帰ったところで貴様に帰る場所なんかない。さっき俺が警察に通報したから、今頃MEGA御武倫の連中は、片っ端から逮捕されているはずだ。そのリーダーの貴様なら、軽く10年は刑務所暮らしになるだろうが、このまま俺についてくれば貴様を匿ってやってもいい」


「匿うだと? ・・・俺を殺すつもりはないんだな」


「俺は殺さんが我々がこれから向かう場所は戦場だ。その結果によっては命を失うこともある」


「戦場・・・この日本でか? 一体誰と戦うんだ」


「来れば分かる。ついてこい」






 現場に到着した藤間と鮫島は、現場指揮官から戦況の説明を受ける。それによると敵は10人で、味方の人数は敵の4倍の40人。前方300メートル先で現在交戦中とのこと。


 だが現場指揮官の服装を見た鮫島が唖然とする。


「・・・こいつら、自衛隊じゃないのか」


「だから言ったろ、ここは戦場だって」


「マジだったのかよ・・・」


「もっとも、戦うのは自衛官ではなく俺たちだがな」


「俺たちだけで戦う? どういうことか説明しろ!」


「貴様に理解できるか分からんが説明はしておこう」


 藤間の説明によると、ここにいる半数以上は陸上自衛隊だが現時点で彼らに治安出動命令は出ていない。その代わりに戦っているのが、藤間が所属する公安外事課特殊対策班、未確認外来人類対策室(通称UMA室。設置法上の定めはなく、正規職員は人事部付けか出向者扱い)の戦闘員たちだ。


 だが藤間の説明が終わるのを待たず、指揮官が会話を中断させた。


「藤間主任、そういう話は後にして頂きたい。前線まで護衛を付けるので早く出発を」


「了解しましたが、二人だけで大丈夫です。そちらは我々で対処が困難な場合に備えて、準備をしておいてください。ではいくぞ鮫島!」


「お、おいちょっと待てよ! ・・・うわっ!」


 藤間は指揮官の申し出を断ると、戸惑う鮫島を無理やり引っ張って、さらに山中深くへと入っていった。





 最前線と思われる場所にたどり着いた二人は、味方の戦闘員たちの後方から敵の姿を確認する。だが鮫島は、目の前の敵の姿に我が目を疑った。


「おい藤間とやら、アイツらは一体何者なんだ」


 木々が生い茂り、昼間でも視界の悪い山林の中で繰り広げられる攻防戦。山の木々はあちらこちらで炎上を始め煙が蔓延する中、サーチライトで部分的に照らし出された敵の姿が明らかにおかしい。


 力士を二回りほど大きくしたような巨体で、その頭部だけをブタにすげ替えた異形の兵士たちが、古めかしいデザインの重厚な甲冑を着こみ、巨大な盾を構えながら大きな斧を振り回している。


「化け物・・・なのか」


「あれは一年ぐらい前から日本の各地に出没し始めた外来の知的生命体だ。なぜか騎士の格好をしていることから、我々は彼らを「リッター」と呼称している」


「リッター?」


「ああ。そしてあの個体は、ヨーロッパの神話に出てくるオークに似ているため、我々も「オーク」と呼称している。貴様らも「MEGA御武倫」なんて名前をつけているぐらいだ。オークぐらい知っているだろ」


「オークか・・・言われてみれば確かに似ているが、まさか本物なのか!」


「神話に本物もクソもないが、目の前にいるアイツらは現実だ。リッターの討伐は本来戦闘員の仕事だが、今回はかなり大規模な襲撃だったため、たまたま近くにいた我々も応援に呼ばれた。まずは彼らの戦い方をよく見ておけ」


「オークと戦うのか・・・この日本で・・・ハハハ、面白い! やってやろうじゃないか。まずは戦闘員とやらのお手並みを見せてもらおう」





 戦闘員は、近接攻撃主体の格闘戦部隊と重火器による攻撃が専門の後方主力部隊に分かれている。


 藤間と鮫島が到着した時は、格闘戦部隊が山林から敵を追い出し、味方主力部隊の正面に誘導して重火器を斉射するという作戦を行っていたところだったが、装備品の重火器ではオークを倒すのに火力が足りなかったようで、後方主力部隊で指揮を取っていた隊長から作戦変更が伝えられた。


「攻撃を通常兵器から思念波兵器に切り替える。準備が整うまでの間、格闘戦部隊は敵をかく乱して時間を稼ぐように」


「「「はっ!」」」


 新たな命令を受けた格闘戦部隊は、隊形を整えると敵オークの集団に突撃を開始した。だが時間稼ぎといいつつもその攻撃力は相当なもので、メンバーそれぞれが格闘技の達人なのか、一撃必殺の打撃を繰り出してはオークに大ダメージを与えていたのだ。


 鮫島がその戦いぶりに唖然としていると、藤間主任が彼にゴーグルを渡した。


「これをつけて戦いを見てみろ」


 鮫島はそれを受け取ると、ゴーグル越しに彼らの戦いを見た。すると裸眼では見えなかった色々な物が見えてきた。


 まず敵オークの身体の周りを光の膜のようなものが覆っていて、攻撃を跳ね返すバリアーのような役割をしていた。


 重火器が通用しなかったのはこのバリアーが原因のようだが、これを戦闘員が何らかの方法で中和すると光の膜の中へと侵入して彼らの身体に直接打撃を叩き込んでいた。しかもインパクトの瞬間に身体の部位が光を放ち、敵の身体をその光が貫いていたのだ。


「あの光は、俺がさっき出した元○玉に似ている」


「そうだ鮫島、今見えている光こそが思念波だ。全ての人間が持つ能力だが、その力を引き出すことができるのは全体の10%に満たない。そしてここにいる戦闘員は思念波を引き出せる能力を持ち、かつ、専門の戦闘訓練も受けたエリートたちだ」


「あれが思念波か・・・ところで戦闘員の腰に付いている装置は何だ」


「あれはお前に貸した金属の棒と同じもので、思念波を集めて攻撃力に変換するための補助装置だ」


 鮫島は懐にしまっていた金属棒を取り出して改めて眺めていると、突然頭上にまばゆい光が輝きだした。


 空中に円形を基本とした複雑な紋様が浮かび上がると、それが光を増して膨大な思念波が渦巻いた。


「あれは魔方陣・・・しかし何て光だ。目が眩む」


「ゴーグルであれを見るな! あの魔方陣みたいな紋様はリッターが思念波攻撃を行う際に生じる現象で、我々の思念波攻撃と決定的に異なる部分だ。それより敵の一番奥にいる個体が見えるか。ヤツはオークではなく我々人間に近い風貌だが、アイツが上空の魔方陣を作り出している。どんな攻撃を仕掛けてくるか、じっくり観察しておけ」


「おいおい、そんな悠長なことを言ってる場合かよ」


「攻撃が来るぞ! 伏せろっ!」




 上空の魔法陣が血のように赤黒く変色すると、そこから灼熱の業火が戦闘員たちに降り注いだ。それはまるで飛龍のようにとぐろを巻くと、戦闘員たちを次々と飲み込んでいった。


「あれは敵の思念波攻撃の一種で、我々は「火炎龍」と呼んでいる」


「火炎龍・・・まるで本物の魔法のようだ」


「そうだな。魔法の定義がなされていないので肯定はできないが、見た目も威力もファンタジー作品で描かれる魔法そのものだ」


「なら目の前の敵は、悪の魔導師とオーク騎士団ってとこだな」


「鮫島、悪のお前が何を言ってるんだ・・・婦女暴行に人身売買までやってたくせに。よし火炎龍が消えて味方は全員無事のようだ。敵は一度火炎龍を放つと、次の発射まで一定のインターバルが必要となる。その隙に鮫島、お前もあの敵に攻撃を仕掛けて見ろ。敵を殺しても構わんから全力で行け!」


「殺しても構わんだと・・・ウヒヒヒ! いいねえ、やってやろうじゃないか! さっきの件でムカついていたところだし、前園の野郎にやられた恨みをここで晴らさせてもらうか」


 そう言うが早いか、鮫島はさっきと同じように元〇玉を上空に出現させた。






 戦いはその後、一進一退の攻防が続いた。


 鮫島の攻撃は敵に命中したものの致命傷を与えるには及ばず、敵の足止めが精いっぱいだった。その一方本職の戦闘員たちは見事な連携プレイで、格闘戦部隊が敵を主力部隊の射程圏内におびき寄せては強力な思念弾で敵の体力を確実に消耗させていった。


「俺の攻撃が全く歯が立たねえ・・・」


 前園瑞貴に続けて、この対オーク戦でも後れをとった鮫島は、柄にもなく自信を失っていた。だがそれに追い討ちをかけるように、味方の猛攻撃が始まった。


 格闘戦部隊の一人が思念波を輝かせると、恐ろしいほどの速さでオークの集団に猛攻撃をしかけた。そしてたった一人でオークを滅多打ちにすると、完全に虚を突かれたオークたちが1体、また1体と、地面に倒れ伏していく。


「何者なんだあいつ、メチャクチャ強ええ」


 だがブーストが切れたように、輝きを失った隊員が敵の前から逃げ出すと、ボスと思われるオークとその手下が怒りに身を任せて隊員を追いかけ回した。


 だがそれこそが作戦だったようで、釣られて前に飛び出したオークたちを他の隊員たちが取り囲み、集団を2つに分断することに成功した。


「今だ、撃て!」


 そして残されたオークの集団に対して、主力部隊は用意していた特大の思念弾を一斉に発射した。


 まばゆい3つの光弾が、完全に足が止まったオーク部隊の中央で炸裂すると、思念波の眩いばかりの奔流と轟音が戦場全体を包み込んでいった。


 やがて光が収まるとそこには息絶えたオークの死骸が数体地面に横たわっており、それが淡い光を放つと光の微粒子に変化してあっという間にどこかへ消え去ってしまった。


 そしてオークの主力を失った魔導師は、慌てて魔法陣を発生させると、その中へ逃げ去ってしまった。


「よしここからが本作戦の本番だ。今日こそ敵を生け捕りにする。鮫島、突撃開始だ」


「おい、ちょっと待ってくれよ!」


 いつもは飄々とした藤間が珍しく気合を入れると、取り残されたオークを生け捕りにするため、自ら格闘戦部隊に加わって行った。






 戦いが終了し、現場を撤収する公安UMA室所属の戦闘員たち。自衛隊に後を任せて山を下りると、装甲バスに乗り込んでどこかへ走り去って行った。


 藤間と鮫島は、自分たちが乗ってきた車に戻って、さっき来た道を川下に向けて走り出す。その車中で、


「どうだった鮫島」


 相変わらず飄々とした態度の藤間に対し、助手席に座った鮫島が悔しそうに表情を歪ませ、


「くそっ! 今日ほど屈辱的な日は初めてだ」


 半グレ集団の頭をはれるほどケンカには自信のあった鮫島だが、前園には一方的にやられっぱなしの上、オークにも攻撃が全く効かなかった。


 だがそんな鮫島に藤間は、


「そんなに落ち込まなくてもいい。思念波は訓練次第でいくらでも強くなるし、貴様にはその才能がある。どうだ、戦闘員をやる気はないか」


「・・・この俺様に、警察で働けというのか」


「警察といっても、ここの戦闘員はいろんな事情で連れて来られたヤツばかりで、お互いに素性を知らないことも多い。まあ貴様がイヤだと言うなら、このまま県警に突き出してやるだけだがな」


「汚たねえ! 俺に選択肢なんて、最初からないじゃないか」


「貴様の選択肢は、日本のために戦場で戦うか豚箱行きのどちらかだ。俺はどちらでも構わんが、ここに居れば戦闘員としての訓練が受けられて強くなれる」


「・・・強くなれる」


「ああ、さっきの奴らと戦うために戦闘員はいくらでも欲しい。死なないように頑張るんだな」


「・・・わかった、だったら戦闘員になってやるよ。そしてもっと強くなって、前園の野郎を絶対にぶち殺してやる!」

次回、新ヒロイン登場。


お楽しみに。



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