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クラスメイトは異世界王女  作者: くまっち
第1章 マインドリーディング! アリスレーゼ第1王女登場
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第12話 暴発

 ここで2年A組の勢力分布を確認しておく。


 まず俺たちをアリスレーゼグループとすると、女子はアリスレーゼと近くに座る水島を含めた女子3名、そして俺を含めた全20名の男子の計24名だ。この時点でクラスの過半数を超えている。


 葛城グループは女子5人組で、先ほどまで俺たちに敵意を顕わにしていたが、男子全員が敵と知り、すぐに事を構えるのは止めたらしい。葛城の指示で一旦引き下がると離れた場所から俺たちを睨みつけている。


 女子の最大派閥の神宮路グループは8名。少し離れた場所から葛城グループの動向を静観しており、それ以外のどこのグループにも属さない女子生徒数名が、小動物のように縮こまりながら嵐が過ぎ去るのをひっそりと待っている。


 つまり他の女子は誰も葛城たちに味方する気はないようで、俺がマークすべき対象は5人に絞られた。


 俺の役目は奴らが仕掛けて来た場合にアリスレーゼと水島を守ることだが、クラスの男子全員が俺の味方についてくれたため、しばらくにらみ合いが続く展開になる可能性が高い。


 一方、保護対象の水島はというと、学校を休むことなくちゃんと登校していつものように文庫本を開いているのだが、よく見ると本を読むふりをしながら葛城たちを警戒し、その一挙手一投足に怯えている。


 そんな彼女が俺の方も一瞬チラリと見たが、目が合った途端、その表情を悲しそうに歪めてそのまま机に突っ伏してしまった。きっと昨日のことで傷ついており、まだ俺とは顔を合わせたくないのだろう。





 そして1時間目のショート・ホームルーム。


 担任の兵衛先生と副担任の母さんが教壇に並ぶと、最初に兵衛先生から今日の体育についての連絡事項が伝えられた。


「2学期の体育は当分、体育祭の練習を行う。ただし前園先生からの申し出で、アリス君はまだ日本に慣れていないため、体操服の着替えは女子更衣室を使わず職員宿直室を使ってもらうこととする。それでいいかなアリス君」


「はい、異存ございません」


「それとアリス君が日本の学校に慣れるまでのサポート役を誰かにお願いしたいのだが・・・水島、どうだやってくれるか」


 突然話を振られビクッとした水島が、自信なさげに先生に尋ねる。


「わたしなんかが・・・どうして」


「単純な理由だが、水島はアリス君と教室の座席が前後同士だし、出席番号も1つ違いで体育の整列の時も一緒に行動できるから都合がいいんだよ。すまんが頼まれてくれるか」


「出席番号・・・そういうことなら」


 これが母さんの考えた一つ目の作戦。


 俺の目が届かない女子更衣室が最大の弱点と見た母さんが、さっきのような理由で二人が職員用宿直室を使用できるよう朝の職員会議で話を通したのだ。もちろん侍女がいないとアリスレーゼは体操服に着替えられないという、やむにやまれぬ事情もあるのだが。


 だが葛城はこの決定に、昨日の旧校舎での件を俺が告げ口して、学校側も本気で対策を講じ始めた事実を悟った。忌々しげな瞳で俺を睨み付ける葛城。


「決まりだな、じゃあ頼むぞ水島。それからアリス君も弟に聞きにくいことは何でも水島に尋ねるといい」


 そして兵衛先生はアリスレーゼに目くばせをした。


「承知いたしました。日本の学校のことを色々と教えてくださいませ、かなで様」


「はっ、はひっ!」


 アリスレーゼがニッコリとほほ笑むと、ガチガチに緊張して裏返った水島の声が教室に鳴り響いた。




 続けて副担任の母さんが次の連絡事項を伝える。


「カリキュラムの違いでアリスちゃんには数学と物理の補習を受けてもらうことになりましたが、他の何人かの生徒も一緒に補習を受けてもらいます。まず女子からは水島さん。あなたは1学期の期末テストの点数が悪かったので補習決定よ!」


「ええっ?! だ、だって私は・・・」


 焦る水島に、葛城グループは大爆笑だ。


「うひゃひゃひゃ! 水島って頭がいいように見せかけて、実はバカだったのかよ」


「陰キャでバカって、もう救いようがないし」


 だがこれも母さんの考えた作戦で、放課後に補習を行うことで水島をかくまうというものだ。実は水島の理数系の成績はそれほど悪くはないらしいが、水島をアリスレーゼとなるべく一緒にいさせて、ついでに世話係を押し付けようという魂胆らしい。


「ご両親には先ほど学校から連絡を入れました。補習は前園家の本宅で行いますのでアリスちゃんと一緒にウチにいらっしゃい。それから男子も数人ほど補習に参加してもらいます。伊藤敦史君、猿渡誠君・・・」


「よっしゃ、エカテリーナ様の補習だ! お姉様とも一緒だし超ラッキー!」


 敦史を筆頭に補習を言い渡されたバカな男子たちが狂喜乱舞し、補習に呼ばれなかった成績優秀者は本気で悔しがっている。


 だがこれも母さんの作戦で、補習に呼ばれた男子の選考基準は成績ではなく腕っぷしの強さだ。だが事情を全く知らない水島は、補習への強制参加という事実に顔を真っ青にして、何やらブツブツ呟いている。



「・・・陰キャでイジメられっ子なのにバカなんて、私はどうしたらいいの・・・前園くん・・・」






 SHRが終わり、授業時間が始まった。


 移動教室での授業やトイレ休憩など、校内を移動する時はアリスレーゼと水島が必ずセットで動き、そこに俺たち男子生徒数人が付いていく。葛城たちは二人に手出しができず、少し離れた所から俺たちの悪口を言うしかなかった。


 昼休みになれば、クラスの男子全員がアリスレーゼたち女子4人を取り囲んで食堂でランチをとるため、他のクラスの生徒たちの注目を集めて、葛城たちは一層手出しができない。そして午後の体育の授業では、俺たち男子が二人を職員室まで連れて行く。


 宿直室では水島がアリスレーゼの着替えを手伝うのだが、なぜアリスレーゼが体操服の着替えを人に手伝ってもらわなければできないのかが、水島には全く理解できなかった。


 だが制服を脱いで下着だけになったアリスレーゼの姿に、水島は深いため息をつく。透き通るような白い肌に完璧なまでのプロポーション。水島にとってアリスレーゼは最早嫉妬の対象にすらならず、美の象徴のような彼女を着せ替えさせることが、着せ替え人形のようで楽しくなってきた。


 放課後になると補習メンバー全員で前園家の本宅へと向かう。もちろん他の男子たちもゾロゾロ付いてくるので、ここでも葛城たちが手出しする隙が無い。


 本宅に着くと、補習組は客間に通されそこで母さんからの指導を受ける。そして俺と愛梨は道場で気功術の鍛錬を行う。短期間でどうなるものでもないけど、もしもの時のために少しでも強くなっておきたい。


 補習が終わると男どもはそのまま解散だが、水島だけは母さんが車で家まで送り届けて一日が終了する。




 いくら私学と言えども、一人の生徒に普通はここまで手をかけたりしないと思うが、これは爺さんとアリスレーゼやっているイジメ対策が終わるまでの期間限定対応であり、問題の解決に見せる爺さんの意気込みの大きさがうかがえる。


 水島もこれが自分を守るために学校側がしてくれた対応だとすぐに理解し、母さんやアリスレーゼ、そして他の補習仲間とも次第に打ち解けていった。だが俺に対してだけはやはり目を合わせたがらず、俺が声をかけてもすぐ距離を取ろうとする。


 少し寂しい気分にはなったが、俺もこの問題を早く解決したいし、葛城たちへの警戒を怠ることはない。





 こうして1週間ほど経った頃、突然事態が動いた。


 その日も補習を終えて、母さんが水島を家まで送り届けた後のことだった。広間でお茶を飲みながらアリスレーゼと爺さんの作業が終わるのを待っていると、アリスレーゼが広間に飛び込んで来た。


「かなでさんの様子が変なのです。お母様、車を出していただけませんか」


「アリスちゃん、どうしたの突然・・・」


「かなでさんが外出してどこかへ移動しているのですが、なぜか川の方向に向かっているのです」


 アリスレーゼは水島の行動が分かるように予め魔法をかけていたのだが、どうやらそれが反応したようで爺さんの部屋から持ち出した地図を広げて水島の動きをなぞっていく。それを見た母さんの顔が青ざめ、


「水島さんには、夜間は家から絶対に出るなと伝えていたのだけれど・・・瑞貴、お義父様と師範代を今すぐに呼んで来て!」


「分かった、少し待っててくれ!」


 俺が呼びに行くと爺さんは既に準備ができており、道場で夜間のヨガ教室をしていた師範代を無理やり連れ出した俺は、母さんのワゴンカーに押し込んで本宅をすぐに出発した。


 アリスレーゼの指示に従い疾走する車中で、爺さんが俺たちに指示を出す。


「水島さんの正確な居場所はアリスちゃんしか分からないから、現場では二手に分かれよう。エカテリーナちゃんと愛梨は警察への連絡を取るために車に残る。そして水島さんの救出にはワシと師範代、瑞貴、アリスちゃんの4人で向かうが、瑞貴はアリスちゃんから絶対に離れず、必ず守り抜くこと」


「分かってるよ爺さん。アリスレーゼ、俺の背中から絶対に離れるなよ」


「わかったわミズキ」


 そして俺がアリスレーゼの手を握ると、彼女もしっかりと手を握り返した。





 川の堤防を少し上流に上った地点で母さんは車を止める。アリスレーゼによると、この辺りで水島の反応が止まったそうだ。俺たち4人が車を降りて走り出そうとすると、母さんが心配そうに声をかける。


「お義父様、みんなをお願いします」


「任せておけ、エカテリーナちゃん」


 愛梨も心配そうな顔で俺を見ているが、


「愛梨はずっと修行をサボっていたから今日は留守番だが、いざという時は母さんを守ってくれ」


「うん・・・わかったよ、お兄」


 そして俺とアリスレーゼを先頭に、爺さんと師範代の4人で堤防を駆け降り、そこからさらに上流に向かって走って行く。行く手に高速道路の高架下が見え、その付近にたくさんのバイクと人の気配がする。


「あそこだ。かなり人数がいるが、どうする爺さん」


「ひいふうみいー・・・全部で20人弱と言ったところか。あいつらガタイは大きいし武器のようなものも持っているが、どうやら武道の心得はなさそうじゃ。ワシら3人でギリギリ何とかなるか。どうだ師範代」


「呼吸法が全くなってないので、代表の見立てで間違いないでしょう。・・・あそこに水島が囚われているのなら、早く救出しないと。むっ!」


 だが俺たちの接近に気づいたのか、ヤツラもこちらに近づいてきた。手には角材やナイフを持っていて、完全に臨戦態勢をとっている。


 それを見た爺さんがニヤリと笑い、


「相手は凶器を持っている。正当防衛が成立したら、容赦なくぶちのめして構わん! アリスちゃんはさっき渡したスマホで録画を頼むぞ」


「代表、顔がにやけてますよ。もう年なんですから、身体は労わらないと」


「大きなお世話じゃ! 師範代も油断していたら瑞貴に後れを取るぞ。そしたら師範代を交代じゃ」


「そ、そんな代表・・・では、代表が後れを取ったらこの私が新代表ということで」


「アホか。お前に代表など10年早いわ!」


 走りながら軽口を叩く二人だが、輩たちはすぐ目前まで来ている。


「爺さんも師範代もバカなこと言ってないで、すぐに奴らが来るぞ!」


「分かっておるわい、瑞貴。二人とも最初から気功術を使って全力で飛ばしていけっ!」


「「おう!」」





 俺たち3人は丹田で練り上げていた気を解放する。


 ズゴゴゴゴ・・・ゴゴ・・・ゴゴッ!


 それにアリスレーゼが合わせるように、彼女の魔力が一気に解き放たれた。


 オオオオオオンッ!!


 今まで経験したことのない膨大な気が俺の身体に満たされていく。


 さあ、戦いの始まりだ!

 次回、瑞貴の戦闘力が明らかになる。

お楽しみに。



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