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クラスメイトは異世界王女  作者: くまっち
最終章 大陸の覇者 
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最終章 大陸の覇者 プロローグ(後編)

 グランディア帝国、帝都ティアローズ。


 その中央にそびえ立つ荘厳な皇城の玉座に座る皇帝アレクシスは、謁見の間に誰もいないことを確認すると、隣に立つ帝国宰相ゲール公爵に話しかけた。


「セレスフィリア・・・いやシーダ様に軍を任せたばかりに帝都防衛も覚束ん。永劫の時を生きる天才魔導師様もどうやら軍略には明るくなかったようだな」


 普段は覇者としての威厳が溢れるアレクシスだが、臣下の中でも唯一ゲール公爵には心を許していた。


 そしてアレクシスとは幼馴染みであり、二人きりの時は本音で語ることの多いゲール公爵は、表情を緩めて主君であり友人でもある皇帝の問いに答えた。


「シーダ様にとってはヤードラ神奪還が全てですが、我らは異界門さえ起動すればよく、その占有にこだわる必要がありません。ですので東方異界門を狙う彼女の作戦自体はそれほど悪くないかと」


 意外な答えに興味を持ったアレクシスは、世界でたった一人の友人にさらに問いかける。


「だがヴェーダ、スーリヤの2柱が敵に回り、魔族と亜人どもを引き連れてこの帝都を包囲しつつある。そんな戦況がどうして悪くないと言える」


「それは我らの真の目的が北方新大陸進出にあるからです。当初の計画とは大きく異なりましたが、我が帝国艦隊の主力は大陸北部への移動を完了しており、後は4つの異界門が全て起動するのを待つだけ」


「北方新大陸か・・・我が娘が5歳の洗礼式でシーダ様の生まれ変わりだと知った時はビックリしたが、その愛娘に聞かされた事実はまさに驚愕だった。特に驚いたのが北方新大陸の存在であり、そこから我らの大陸制覇の野望が始まったとも言える」


「はい。彼の大陸にはエルフを始めとする妖精族が多数住んでおり、彼らの膨大な魔力と広大にして肥沃な大地を手に入れられれば、我がグランディア帝国は永遠の繁栄が約束されます」


「今の我らはエルフに対抗する軍事力を保有しているが、かつてのシーダ様は彼らの強大な魔力を恐れて、建設中の異界門を守るために地下龍脈のマナを使って大海流でこの大陸全体を取り囲んだという」


「そのため、ヤードラ神がこの世界に戻るか否かにかかわらず、大海流の維持に使われていたマナが全て異界門に使用されれば、海流が止まって新大陸への航行が可能となる」


「だが新大陸に行く前に我々が魔族に滅ぼされてしまっては元も子もない。現状がそう悪くないと言うからには、魔族を倒す手立てが見つかったのだろうな」


「倒すのではなく、撤退させられるかも知れません。ただなぜそういう行動に出るのかが理解できず、魔族どもの習性を知れば知るほど我らとの違いに戸惑っております」


「魔族なのだから我らと違っていて当然。それでどうやって撤退させる」


「ヴェイン伯爵の後を引き継いだシーダ様が魔界侵攻を再開いたしましたが、魔界方面軍からの報告では、以前と異なり意外と善戦を続けているとのこと。魔族どもの街に進軍を果たしても、今まさに我々を苦しめているあの魔族の主力部隊が攻撃して来ないらしいのです」


「だがそれは、全戦力をこちらに投入してしまって魔界にはもう兵力が残ってないだけではないのか。そんなものが攻略の糸口とはとても思えないが」


「それがそうでもないのです。奴らの主力部隊は必ず姿を見せるのですが、決して攻撃して来ず、我らの戦いを黙って見ているだけ。そして実際に戦うのは魔力もろくに持たない雑兵がほとんど」


「つまり魔族どもは、同胞の命を守るつもりがなく、わざと我々に負けていると。一体何のために」


「だから理解に苦しんでいるのです。ですが奴ら魔族軍は我が帝国軍以上に統率のとれた組織であり、恐らく魔王からの命令を忠実に守っているはず。その命令内容を知るために、魔族どもを何人か捕まえ尋問しております」


「分かった。何か分かればすぐに報告せよ」




           ◇




 東京都千代田区永田町の首相官邸。


 先の衆議院選挙で過半数を獲得した左派連立政権を率いる内閣総理大臣の佐々木は、一時鎮静化していた「リッター」の襲撃が再度本格化した状況を踏まえ、官房長官の大串に被害状況を確認していた。


「総理、状況はかなり深刻です。主要3都市圏を始めとする人口密集地への襲撃が常態化し、最早警察では対処が難しい状況。自衛隊の出動を検討した方が」


「絶対にそれはできん。我々は平和憲法を守り、自衛隊の安易な出動を行わないことを公約に先の選挙に勝利したのだ。内閣支持率も高水準を維持し、メディアも好意的に報じてくれている」


「ですがこのまま放っておくと警察組織は早晩崩壊します。機動隊の火力では「リッター」の思念波バリアーを破壊するのに十分ではなく、頼みのUMA室戦闘部隊は死傷者を出しすぎてほとんど機能していません。小野島室長を更迭したのは間違いだったのでは」


「アイツは前政権に政治任用されたただの民間人で、しかも死の商人・神宮路電子工業からの出向者。そんな怪しげな人間を公安に残せるわけないだろ!」


「その結果、神宮路電子工業からの無償サポートが受けられなくなり、思念波兵器を用いた戦術に長けた指揮官まで失ったのです。あの特殊な戦闘部隊の運用は警察官僚には無理です」


「だからと言って今さら小野島を戻せるかっ!」


「それに機動隊の殉職者数も既に無視できない数に上り、国民の目にもその惨状が明らかになりつつあります。あのデモ隊が何よりの証拠です」


 佐々木総理が耳を傾けると、首相官邸の周囲を取り囲んだデモ隊によるシュプレヒコールが聞こえる。


「どこから情報を嗅ぎ付けたのかは知らんが、忌々しいネトウヨどもめっ!」


「総理。今はまだ数千人規模のデモで済んでおり、メディアは彼らを無視する姿勢を見せていますが、ここで手を打たなければメディアもいつ手のひら返しをしてくるか」


「そこは気にしなくていい。警察官の殉職者数など、独自取材もせずに記者クラブや警察側のリークをあてにしている日本のメディアなんかが調査できるはずがないし、奴らを黙らせる方法ならいくらでもある」


「ですが外国メディアは」


「あの衆議院選挙当日、リッターとの戦闘に戦術核が使われたなどと報じた外国公共放送は、この日本から追放してやったわ」


「おかげで国際社会からバッシングを受け、同盟国との間にも隙間風が吹いていますがね」


「・・・何が言いたいのだね、君は」


「この際ハッキリ言います。いくら選挙に勝つためとはいえ、我々中道左派だけでなく極左政党まで仲間に引き入れたのが間違いでした。しかも彼らに防衛大臣のポストを渡したのは明らかにやりすぎ」


「だがそれが選挙を通して我々に与えられた民意であり、戦争を誘発しかねない前政権と決別するにはそれぐらいの劇薬が必要だった」


「ですが警察ではこれ以上抑えられないのは事実であり、今すぐ防衛大臣を更迭して自衛隊による治安出動を検討の俎上に乗せるべきかと」


「それは政治的に不可能だと何度も言っている! そんなことをすれば、せっかく改善した近隣諸国との関係も元に戻ってしまうし、同盟国から距離を置かれた我が国は、いよいよ世界から孤立してしまう」


「だから極左政党を切り捨て、同盟国との関係を改善し、彼らの意見を受け入れて自衛隊の出動を」


「・・・それよりこういうのはどうだ。以前はオークやオーガといった怪物どもが跋扈していた「リッター」だが、今は我々と同じ人間しかおらん。だったら対話の糸口が見つかるのでは」


「対話ですか・・・やってみますが、そんな簡単に事が運ぶとは思えませんがね」



           ◇



 ランツァー王国のゾロワーフ国王は、その来訪者を謁見の間ではなく自分の寝室に招き入れていた。


 国王にとってそれほど重要であるその賓客は、強力な魔力を持った30代の人族の男性と、その妻だと名乗る3人の女性だった。


 彼ら4人は北方新大陸の住人であり、どんな激しい海流であっても絶対に転覆することのない「潜水艦」を使って、このランツァー王国までやって来たのだ。


 そのうち3人の女性はここに来るのが初めてだったが、男性の方は約10年ぶりの訪問となる。


 当時、北方新大陸にある別のドワーフ族の国王の親書を携えた彼は、ゾロワーフ国王とすぐに意気投合すると、彼の仲介で同盟が締結された両大陸のドワーフ族は密かな交流をスタートさせた。


 その後毎年繰り返された使節団の往来には常にこの潜水艦が使われ、大海流を上手く利用して両大陸間を容易かつ高速に行き来きさせていた。


 そして10年ぶりに現れたその男は、ゾロワーフ王に新たな事実を伝る。


「グランディア帝国の真の目的は、我々の住む北方新大陸への侵攻にあり、それを黙って見過ごせない我々は、帝国への対抗策を密かに講じて来ました」


「北方新大陸への侵攻・・・皇帝アレクシスがそんなことを考えていたとは全く気がつかなかったが、そなたらが対抗策を講じていたことも初めて聞いた」


「事前にお話しできずに申し訳ありませんでした。ですがあまりに荒唐無稽な作戦だったため、わが盟友であるドワーフ王国にも詳細を伝えず、ごく少人数で秘密裏に計画を進めておりました」


「だが我々は、そなたから聞かされた北方新大陸の存在や潜水艦の技術など、驚くべき事実を全て理解してきた。それ以上の荒唐無稽な話など、この世の中にそうそうあるものでもない」


「いいえ、10年前にこの話をしても恐らく陛下は何も理解できなかったはず。ですが今ならこの荒唐無稽な作戦も瞬時に理解することができるでしょう」


「どういうことだ?」


「なぜなら我らが行っていた作戦は、異世界から日本の自衛隊を召喚して、グランディア帝国と戦わせることでしたので」


「なっ! ・・・まさか彼らをこの世界に引き入れたのがそなたの仕業だったとは」


「ええ。計画は成功し、ランツァー王国が属する亜人連合は、グランディア帝国に対して圧倒的に有利な状況を作ることができました」


「彼らは実に統率の取れた軍隊であり、使用する武器も非常に強力。そして我々は今まさに帝都ティアローズを包囲する勢いであり、その勝利はほぼ確実」


「ですがここに来て少し問題が生じました。実は日本で政権交代が起きてしまい、自衛隊が機能しなくなる可能性も出てきたのです」


「彼らが機能しなくなるだと・・・それはマズい。我らランツァー王国は、自国防衛のために古くからの盟友であるティアローズ王国を裏切ってまで亜人側についた。それも全て自衛隊の存在を前提にしたことであり、彼らの抜けた亜人連合では帝国に対抗できん」


「ええ。我々も大海流の外側に艦隊を待機させてはいますが、4つの異界門を起動させない限り大海流は越えられない。そこで寡兵ながら予備の戦力を持って我々が亜人連合に参加します」


「予備戦力だと・・・それは一体」


「3隻の潜水空母とそこに搭載した3機の航空戦力。これで海上自衛隊の代わりに制海権確保を狙います」

 次回もお楽しみに。


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