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クラスメイトは異世界王女  作者: くまっち
第3章 冒険者大国レガリス
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第50話 さやかの戦い(後編)

「やめてっ! 異界門を壊さないでっ!」


 およそ想定外の光景を目の当たりにしたセレスフィリアが悲痛な叫び声を上げたが、さやかは涼しい顔で要求を繰り返す。


「攻撃をやめてほしければ直ちに降伏なさい」


「・・・ギリッ」


 さやかの挑発的な言葉に、セレスフィリアの整った顔が怒りで醜く歪んでいく。




 セレスフィリアは、4000年も転生を繰り返して4つの異界門を完成させた。


 そんな彼女は、異界門を壊されることを何よりも恐れており、どんな攻撃にも耐えられるように自身の魔法の知識を総動員して作り上げたのが、石柱型巨大転移陣とそれを守る完全無比の防御機構だった。


 絶対の自信を持っていたセレスフィリアは、それを難なく破壊して見せたさやかがそら恐ろしく、そして心底憎かった。


 同時に4000年にも渡って世界の支配者であったセレスフィリアは、さやかに屈する選択肢など到底持ちえなかった。


「そんな脅しには屈しません。なぜなら状況はもうわたくしに圧倒的有利だからです」


「と言うと?」


「ヴェーダとスーリヤの二人がそこにいる限りヤードラの帰還は目前。もはや異界門が4つある必要はないのです。壊したいならご勝手に」


 勝ち誇ったように酷薄な笑みを浮かべるセレスフィリアに、さやかも冷淡な笑みを見せた。


「では4つ全てを破壊したらどうでしょうか」


「全部ですって? 何をバカなことを。2つの異界門は我がグランディア帝国の支配下にあり、ここから追い払われたレガリス騎士団同様、あなたたちなど近づくことすらできません。それに全てを破壊すればあなたたちも元の世界に戻れなくなるのですよ」


「それはご心配なく。少なくともこのわたくしは瑞貴君と共にこの世界に残るつもりですし、自衛隊が帰還した後に4つ全て破壊すれば、日本防衛が叶うと同時にあなたの野望も潰え去ります」


「・・・そんなこと絶対にさせません。それによく考えれば、その石柱を破壊できたのは偶然の賜物。それをあたかも実力と見せかけても通用しません」


「あら、どうしてそう思うのかしら?」


「それができるなら最初から異界門を破壊していただろうし、今回のはマナの暴走でダメージを受けた直後だったから防御力が落ちていたに過ぎなかった」


 冷静さを取り戻したセレスフィリアがさやかの矛盾点を突いてくるが、それでもさやかは余裕の笑みを浮かべて、


「あなたは魔法がこの世の全てだと勘違いしていますが、私たちの思念波兵器は魔法を模しているだけでメカニズムが全く異なります。つまり魔法防御で防ぐことはできません」


「・・・魔法と異なる? 何をバカなことを」


「我々は利用しているのは魔法ではなくごく当たり前の自然現象。それを科学技術によって上手く制御しただけ」


「自然現象でこんなことできるわけないでしょ!」


「できます。その結果が先ほどの石柱の破壊です。何ならもう一つ破壊してそのことを証明してみせましょうか」


「もうやめてっ!」




 普段のセレスフィリアならさやかのブラフに気づけていたはずだが、石柱を破壊された時点で既に冷静な判断ができなくなっていた。


 それを見切ったさやかが、追い打ちをかけていく。


「いいでしょう。石柱などいつでも破壊できますし、今はやめてあげさしあげましょう。そもそもこの北方異界門はすでに無用の長物ですし、破壊するだけエネルギーの無駄というもの」


「これが無用の長物ですって・・・」


「だってそうでしょ。異界門の鍵がなければここはただ石柱が並んでいるだけの古代遺跡。そもそもあなたが目の色を変えて異界門の鍵を集めようとしてたのが何よりの証拠よ」


「あ・・・」


「ではわたくしたちはそろそろここをお暇して、次の異界門を無力化しに向かいましょう。ねえ瑞貴君、次は西と東のどちらがいいかしらね」


「ちょっと待ちなさい!」


 焦るセレスフィリアに、さやかは彼女が術中に嵌まったことを確信した。そして懐から通信機を取り出すとそのスイッチを入れた。





「こちら神宮司さやか。伊藤君、聞こえますか?」


『こちら敦史。俺は今、レガリス王国の冒険者ギルドに来ている』


 さやかの通信機からは瑞貴の親友の声が大音量で聞こえてきたが、セレスフィリアは今何が起きているのかを理解できず、ただ呆然と通信機を見つめている。


 それを見たさやかは、敦史との会話を続けた。


「それでは伊藤君。今からギルドの受付嬢にお願いして、Fランク冒険者からでも参加できるクエストを出してください」


『了解だ。この通話は受付嬢にも聞こえているから、神宮路が直接依頼してくれ』


「承知しました。受付嬢さんよろしいでしょうか」


『ええ大丈夫よ。それで何を依頼したいの?』


「ランツアー王国にある『古代遺跡コキュートス』の攻略です。『異界門の鍵』を入手してティアローズ暫定政府代表アリスレーゼ女王陛下に渡せば、成功報酬50兆ギルを差し上げます」


「「「なっ!」」」


 古代遺跡コキュートスは東方異界門の鍵があるとされている地下ダンジョンだったが、未だ踏破者がおらず、北方異界門と同様数百年にも渡って冒険者が攻略を続けていた有名なダンジョンだった。


 さやかが出したクエスト内容は、既に様々な国王や貴族たちがギルドに依頼しており、その成功報酬も数100万ギルクラスと破格だ。


 ゆえにBランク以上のパーティーがこぞって挑戦していることをセレスフィリアも知っていたし、さやかの出したクエスト自体に新鮮味はなかった。


 だがその法外な成功報酬には、開いた口がふさがらなかった。


 瑞貴たち4人でさえも唖然とした表情でさやかを見つめ、セレスフィリアに至ってはバカバカしさのあまり、大声で笑い始めた。


「何を言い出すかと思えば、そんなクエスト何の意味もないでしょ。長い歴史の中で異界門の鍵を探し出せたのは、場所を知ってるわたくし以外はそこにいるヴェーダただ一人。それを有象無象の冒険者風情に探し出せるはずもない」


「それはどうかしらね。ねえ瑞貴君、異界門の鍵ってどうやって見つけたの?」


 突然話を振られた瑞貴は、さやかのアイコンタクトで本当のことを話すよう指示された。


「結論から言えば、ダンジョン最下層の巨大地下空洞内で封印を解く呪文を詠唱するだけだ。何の変哲もない平地で場所は分かりにくいけど、今から言う呪文を唱えれば祭壇への扉が開く」


「やめなさいヴェーダ! その呪文だけは!」


「その呪文はこうだ」



【バーダルタ・エヴェゴギナ・イルム・ゴーギルス・アザムルーク】



「ヴェーダーーーーっ!」


 絶望の表情で瑞貴を止めようと駆け寄るセレスフィリアだったが、アリスレーゼの展開したバリアーに妨げられ、近づくことができない。


 そんな彼女に酷薄な笑みを浮かべて、さやかはさらにたたみかける。


「ありがとう瑞貴君。その呪文もギルドの掲示板に張り出して置きましょう。そしてこう書き添えるのです。『ダンジョン内で手あたり次第詠唱してみて下さい。運がよければ異界門の鍵が手に入り、50兆ギルはあなたのもの』とね」


「嫌ーーーっ!」


 絶望の表情で絶叫するセレスフィリアだったが、ギルドの受付嬢の言葉に救われる。


『盛り上がってるところ申し訳ないけど、50兆ギルを先に払ってもらわないとこのクエストは受理できないわ。成功報酬はギルドへの前払いが原則なのよ』


 受付嬢の言葉に、セレスフィリアがホッとした表情でさやかに噛みつく。


「そうよ! ありもしない大金で冒険者を釣ろうとしても、そうはいかないわよ!」


 だが不敵に笑ったさやかは、


「50兆ギルならございます。敦史君、受付嬢さんに支払ってくださいます?」


『おうよ。受付嬢さんこれでいいか?』


『何ですかその紙切れ・・・これはまさか・・・ええ確かに50兆ギルは受け取りました。このクエストは受理されたけど、他国のギルドにも同じものを出すなら、ウチから連絡できるわよ』


「では大陸全土の冒険者ギルドにお願いします」


 そんな受付嬢とさやかのやり取りに、顔を青ざめるセレスフィリア。


「まさか50兆ギルですよ。そんな大金がどこに」


「クスクス。あなたは皇女のくせに50兆ギルを生み出す方法も知らないなんて、随分とバカですのね」


「バカ・・・このわたくしをバカと言ったのっ! 魔法の天才のこのわたくしにっ!」


「では魔法バカと呼んであげましょうか、うふふふ」


「ふざけないでっ! それなら50兆ギルを生み出す方法を今すぐ言いなさいよ!」


「仕方がありませんね。伊藤君は1枚の紙きれを受付嬢に渡したの」


「紙切れ・・・」


「ティアローズ暫定政府が発行した額面50兆ギルの国債をね」


「国債・・・国の借用証書。でもそんな途方もない金額の借用証書を誰が信用するのよ」


「借用証書の裏には、オーク騎士団国を始めとする亜人諸国連合全ての国王か宰相、財相の署名が入っています。もちろんここレガリス王国国王シグルトの署名もね」


「なっ! で、でも実際に50兆ギルを払うときには相応の金貨が必要で」


「支払いが必ずしも金貨である必要はないわ。この世には金貨以外にも価値のある実物資産がいくらでもございますから」


「50兆ギルですよ。そんなものがどこに・・・」


「グランディア帝国の領土。我々はこれを裏付け資産としてクエストの成功報酬にするつもりです」


「・・・はあ? 意味が分かりませんが」


「おバカさんにも分かるように言うと、あなたの祖国を滅ぼして、ラッキーな冒険者にプレゼントすると言っているのです」


「世界最強の我が国を滅ぼすですって・・・バカな」


「今の最強国はグランディア帝国でもティアローズ諸国同盟でもなく、我々亜人連合です。さあこの大陸の覇権をかけて最後の戦いを開始しましょうか!」


「この女・・・ジングウジ・サヤカーーーーーっ!」




 呪い殺しそうな形相で叫ぶセレスフィリアだったが、次の瞬間さやかの後ろに現れた少女に驚愕する。


 公安UMA室の戦闘服に着替えたかなでが、思念波補助デバイスをセレスフィリアに向けていたのだ。


「まさかサメジマ男爵は失敗・・・」


「あの強姦魔は瑞貴くんが始末したわ。そしてあなたはこの私が始末する!」


 怒りに震えるかなでの身体から光のオーラが爆散すると、顔を真っ青にしたセレスフィリアが全部隊に命令を下した。


「あの女の能力はまずい。全軍東に転進し、親衛隊は・・・今すぐ逃げなさいっ!」



【光属性思念波兵器スーパーノヴァ】



 だがその言葉とほぼ同時に発射されたかなでの思念波弾が両陣営のバリアーを全て無視して光速で着弾し、強烈な閃光を伴って大爆発を起こした。



           ◇



 セレスフィリアがいた場所は、巨大な石柱群を残して全て更地に変わり、残された帝国騎士団が戦闘を放棄して東方へと移動を開始する。


「これでわたくしの作戦は終了です。セレスフィリアは逃げてしまいましたが、これだけ煽っておけばベストラさんやアンナさんの目論見通り、東方異界門の奪取に向けてグランディア帝国軍主力部隊を東方に移動させることでしょう」


「・・・やたらシーダを挑発してたのはそういう理由があったのか」


「ええ。お義母様たちが到着するまでの時間稼ぎなら他に穏当な方法がいくらでもあったのてすが、それではさすがに芸がないので、ベストラさんたちをサポートすることにしたのです」


「芸がないって・・・」


「これでグランディア帝国はその主力をティアローズ諸国同盟との不毛な戦いに釘づけにされ、我々は自衛隊本隊とともに西方異界門の奪取に向かうことができます」


「・・・怖えよお前」


 あのシーダですら手玉に取るさやかに、瑞貴は心底恐怖したが、本当の恐怖がこれから始まることを、瑞貴はすぐに知ることになる。


「さあ瑞貴君、家に帰ったらアリスレーゼさんたちとエッチなことをしてないか全て聞かせていただきます。もし正直に話さないと、どうなっても知りませんからね」


「ひーーーっ!」

 次回より最終章開始。お楽しみに。


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