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クラスメイトは異世界王女  作者: くまっち
第3章 冒険者大国レガリス
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第50話 さやかの戦い(前編)

 さやかが瑞貴の手を取って地上へと急ぐ。


 その道すがら、二人が北方異界門までたどり着けた理由を話した。


「レガリス王国との行き来が可能になり、正式に同盟を結びました」


 ヒッグス率いるオーク騎士団が自衛隊と共にマクシミリアン王朝の領地に攻め込み、いくつかの支城の奪取の成功。


 そこに橋頭保を築いてレガリス王国との転移ルートを確立し、二人が王都まで転移した後、国王シグルドと同盟文書の仮調印をした。


 さらにそこから転移陣を乗り継いで北方異界門へ向かっていたところ、その目前で撤退中のレガリス騎士団に遭遇。アンナから事情を聞いてここまでやって来たそうだ。


「すっかり身体がよくなったみたいだが、あまり無理するなよ、さやか」


「そんなことよりも瑞貴君っ!」


「は、はいっ!」


「・・・さっき水島さんとキスしてましたね」


「うっ・・・」


「それにアリスレーゼさんや他のみんなと変なことをしていなかったか、聞きたいことは山ほどあります」


「すまんさやか・・・実は」


「ですが今はみんなを助けるのが先決」


「は、はいっ」


「この場を切り抜けたら、全部説明して下さいね」


「・・・し、承知しました」


「よろしい。ではわたくしの作戦を伝えます」


「はっ!」


「相手は第一皇女セレスフィリアとその親衛隊の魔導部隊、そしてグランディア帝国騎士団約5000」


「5000・・・」


「そんな相手とまともに戦って勝てるはずもありません。お義母さまたちが合流するまで時間を稼ぎます」


「時間稼ぎか・・・」


「ですので瑞貴君は、これから何が起きても観察者に徹し、わたくしの指示にのみ従って行動してください。いいですね」


「了解であります!」



           ◇



 地上に駆け上がったそこは巨大な石柱に囲まれた円形転移陣の中心で、すぐ近くで弥生、愛梨、アリスレーゼが帝国軍を相手に激しい戦いを繰り広げていた。


 セレスフィリアと対峙していた弥生の隣に瑞貴が駆け寄ると、それを見たセレスフィリアは口角を歪めてニタっと笑った。


「あら一人? あんなに頑張ったのにカナデは間に合わなかったみたいね。次はその三人のうち誰が生け贄になるのかしら。クスクス」


 その言葉に三人は動揺を隠せなかったが、瑞貴は黙ったままアリスレーゼに目を移す。


 かなでの代わりにバリアーを展開していたのは彼女だったが、セレスフィリアが瑞貴の頭の中を覗けなかったことから、ジャミングが十分に効いていることがわかる。


 だからすぐ近くに隠れているさやかの思考も読み取れず、その存在にも気づいていない。


 一切何も喋るなと釘を刺されていた瑞貴は静かに周りの状況を観察する。




 愛梨はたった一人で親衛隊や周囲の帝国軍の相手をしており、こちらに近づけないよう強力な爆裂攻撃で弾幕を張っている。


 自軍のバリアーを無視してその向こう側に魔法を発動させられることが、爆裂魔法エクスプロージョンの大きな特徴だ。


 それを模した思念波弾を敵上空から頭上に落とす愛梨の髪は白銀の輝きを放ち、その瞳は真っ赤に燃えていた。


(愛梨のやつ、ますます母さんに似てきたな)


 一方、セレスフィリアとのタイマン勝負を続けているのが弥生だ。


 周りを気にせず平然と極大魔法を放つセレスフィリアは、前世と同じで頭のネジが何本も抜けているが、弥生はそれを苦にすることなく、固有魔法を模した思念波弾を淡々と撃ち返している。


 極大魔法に比べては威力は劣る思念波弾だが、呪文の詠唱時間が不要でエネルギーが続く限り連射が可能なことから、むしろ弥生の方がセレスフィリアを圧倒していた。


(弥生のやつ、一体どこまで強くなっていくんだよ)


 もちろん弥生優勢の大きな理由は、雨宮主幹の思念波補助デバイス「虚数空間フライホイール」のエネルギーであり、それはアリスレーゼの展開する強力無比なバリアーも同じだった。


 しかもアリスレーゼの場合、それと気づかれないようにセレスフィリアの行動まで縛っていたのだ。


(あのシーダをマリオネットで操ってやがる。十分な魔力さえあれば、自分の始祖すら超越するのかよアリスレーゼは・・・)




 だがそんな激しい戦いの結果、龍脈から地上へと噴き出す膨大なマナに引火して、ついに魔力の暴走を引き起こしてしまった。


 マナの奔流が周りを飲み込み、両陣営のマジックバリアーを侵食し始める。


 そこにあらゆる魔法攻撃を反射する転移陣の石柱群が、マナの奔流をピンホールの球のように何度も弾き返し、そのエネルギーが臨界点を超えた。


 魔力場が歪曲して両陣営のバリアーが一瞬で消滅すると、生身の人間にマナの奔流が襲い掛かり、魔力耐性のない一般兵から順に身体が爆散していった。


 これにはさすがのセレスフィリアも慌てて攻撃を中断し、バリアーの再構築に切り替えた。



           ◇



 双方がバリアーを再構築し、両陣営の間にはつかの間の静寂が流れていた。


 そこに地下に隠れていたさやかが姿を現す。


 最初は怪訝な表情でさやかを見ていたセレスフィリアは、何かを思い出したのか憎しみを込めて彼女を睨みつけた。


「ジングウジ・サヤカ・・・貴様っ!」


 始めて対面する敵に自分の名前が知られていたことに驚いたさやかだったが、ポーカーフェースの彼女は笑顔を張り付けて丁寧なお辞儀を見せる。


「グランディア帝国の皇女殿下がこのわたくしをご存じだったのはとても光栄ですが、改めて自己紹介をさせていただきますね。わたくしは神宮路電子工業株式会社の経営者一族の神宮路さやかと申します。まず瑞貴君との馴れ初めですが・・・」


 あからさまな時間稼ぎを始めるさやかだったが、セレスフィリアが彼女の言葉を即座に遮る。


「黙れ! 貴様などに興味はない。今ここで殺す!」


「あら・・・わたくしたちいいお友達になれたかも知れなかったのに、とても残念です。ではわたくしも言いたいことを言わせていただきますね。今すぐ武器を捨てて降伏なさい!」


「はあ? 降伏ですって? わたくしたちが? オーッホホホ! 言うに事欠いて何をバカなことを。それにわたくし、あなただけは決して許しませんので」


「あら、どうしてかしら?」


「わたくしの腹心に恐ろしい呪いをかけ、計画を大幅に遅らせたからです」


「呪い・・・ですか? そのような非科学的なものが存在するはずございませんが?」


「エネルギーデポジション」


「・・・・・」


「生命の設計図となるものを滅茶苦茶に書き換えられた腹心は、治癒魔法も効かずまもなく命が尽きるでしょう。呪いを解く呪文を教えれば苦しまず楽に殺して差し上げます」


「生命の設計図・・・なるほど、そういうことね」


 呪いの意味が分からなかったさやかは、今の言葉でヴェイン伯爵の身体に何が起きたのかを理解した。


「あれは呪いなどではありませんし、わたくしの推測が正しければ回復の可能性もあります」


「・・・なら今すぐそれを教えなさい」


「教えたところで、皇女殿下には何もできませんよ。その腹心の方、確かヴェイン伯爵を治療するには、病院に入院して高度医療を受ける必要があります」


「何もできないって、このわたくしに不可能などありません!」


「・・・そうですか。まあ、手遅れにならないうちにさっさと日本に降伏して講和条約を締結すれば、ウチの会社の病院に入れて差し上げましたのに残念です」


「降伏なんてするわけないでしょ!」


 あからさまな挑発に乗って顔を真っ赤にして激怒するセレスフィリアだったが、さやかはクスクス笑いながらさらに彼女を追い込んでいく。


「皇女殿下は随分と強気でいらっしゃいますが、これを見たらご自分のお立場が理解できるはずです。あの石柱を御覧なさい」


 そう言ってさやかが指さしたのは、転移陣を構成する巨大な石柱の一つだった。


 さっきまで帝国軍がいたあの付近は、マナ奔流が特に激しく吹き荒れていて、爆散した兵士の遺体が山のように築かれている。


 あらゆる魔法攻撃を跳ね返し、魔力場の暴走にも傷一つつかなかった石柱に、だがさやかは思念波補助デバイスを向けた。


「何をするつもりかわかりませんが、あれを破壊できないことはさっき見た通り・・・」


 ドゴーーンッ!


「なっ!」


 木っ端みじんに砕け散った石柱のかけらが、膨大な魔力を発散しながらキラキラと舞い散る。


「我が日本国には4つの異界門の全てを破壊する能力とその意図があります。繰り返します、無駄な抵抗は止めて今すぐ降伏なさい」

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