表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスメイトは異世界王女  作者: くまっち
第3章 冒険者大国レガリス
141/145

第49話 鮫島の最後

「誰だ!」


 慌てて振り向いた鮫島の顔面に、瑞貴の拳がヒットする。


 無防備だった鮫島はそのまま宙を舞うと、ベッドから転げ落ちて壁に背中を打ち付けた。


「ぐはあーーっ!」


 首をうなだれ動かなくなった鮫島を尻目に、瑞貴はかなでを抱き起す。


「かなで・・・」


「・・・瑞貴・・・くん」


 弱々しく答えるかなでの顔は、暗い部屋でもそれが分かるほど醜く傷つけられていた。


 よほど執拗に殴られたのか、目を開くこともできないほど腫れあがったまぶたの隙間から、一筋の涙がこぼれ落ちる。


 前歯は無く、鼻もひしゃげて、あのかわいかったかなでの面影は、見る陰もなくなっていた。


 徹底的に刻み込まれた顔面の傷は、そのまま彼女の首筋や胸元へと広がっており、皮膚が腫れあがって内出血で黒ずみ、一部が裂けて血がにじみ出ているかなでが、それでも瑞貴にだけは見られたくないと、傷だらけの両腕で胸や下腹部を必死に隠す。


 瑞貴は慌てて、血にまみれたシーツを彼女にかぶせてその全身を覆い隠すと、肩を震わせて嗚咽をもらすかなでに、どうにか声を振り絞って謝罪した。


「間に合わなくてごめん・・・つらかっただろう」


「・・・うん」


「今から仇をとってやるからな」


「・・・うん」




 そして鮫島にゆっくりと近づいた瑞貴は、その顔面を力一杯蹴り上げた。


 バギャッ!


「うがあっ!」


 無理やり意識を取り戻させられた鮫島が床で悶絶するが、瑞貴は容赦なく蹴り続ける。


 ドガッ! バギャッ! ガスッ! グチャ!


「おぐう! な、なぜ・・・お前がここに・・・」


 ドガッ! バギャッ! ガスッ! グチャ!


「・・・この部屋には誰も入れないとセレスフィリアが・・・おごっ! あぎゃっ!」


 床を転がってどうにか瑞貴から距離を取った鮫島が、よろよろと立ち上がって構えを取る。


「くっ・・・いつも不意打ちばかりしやがって、マジ汚ねえ野郎だな」


 悪態をつく鮫島に対し、瑞貴は顔色一つ変えずゆっくり構えを取る。


「なら、ちゃんと相手してやる。かかって来いよ」


「けっ! タイマンでこの俺様に勝てると思ってるのかよ、前園ぉっ!」


 ケンカ慣れした半グレ集団リーダーの鮫島が瑞貴の間合いに強引に入ると、だが半身でかわした瑞貴が慌ててガードを取る鮫島の顔面に拳を叩きつけた。


 バキッ!


「くそっ・・・」


 瑞貴の右正拳突きが決まって床に倒れ込む鮫島が、だがそのままの姿勢で足払いを仕掛けた。


 瑞貴の右足首に目一杯の蹴りをヒットさせるが、まるで大地に根を生やしたかのようにその身体は微動だにしなかった。


「ウソだろ・・・化け物かよコイツ」


 思わずもらした鮫島の口に、瑞貴は力いっぱい蹴りを入れた。


「ごぼあっ!」


 歯が砕けて血が飛び散る鮫島の顔面に瑞貴は執拗に攻撃を加え、いよいよ元の人相が分からなくなってしまうと今度は攻撃対象を全身に広げて、無傷の場所がなくなるまで執拗に殴打を繰り返した。


 一発の反撃すら許されない鮫島は、自分と瑞貴との間には天と地ほどの実力差があったことを、この時初めて思い知らされた。





 サンドバックと化した鮫島の全身にかなでと同じ傷を刻み込みながら、瑞貴は彼に問いかける。


「なぜかなでを襲った」



 ドガッ! バギャッ!



「あ・・・アイツの能力が・・・欲しかった」


「なぜあんなに傷つける必要があった」



 ガスッ! グチャ!



「うぐっ・・・依然俺をボコボコにした・・・アイツに復讐がしたかった・・・」


「女の子なんだぞ、かなではっ!」



 ドガッ! バギャッ! ガスッ! グチャ!



「グモッ! ほ、他の女どもと違って・・・いつまでも諦めずに・・・必死に抵抗を続けるから・・・ムカついたんだよ・・・」


「ふざけるなっ! それに帝国の女の子たちにもとんでもないことをしやがって!」



 ドガッ! バギャッ! 



「ぐはっ・・・帝国の女に何をしようと・・・お前には関係ないだろ・・・」


「黙れ! しかも重傷の女の子にまで容赦なく手を出しやがって、このサイコパス野郎!」



 ドガッ! バギャッ! ガスッ! グチャ!



「・・・どうせあいつらは回復しない・・・だったら能力を頂かないと・・・勿体ねえだろ」


「何を自分勝手なことを! 人の人生をお前の私利私欲で奪っていいはずがないだろ!」



 ドガッ! バギャッ! ガスッ! グチャ!



「・・・うるせえ・・・今は戦争なんだし・・・死ぬ奴はどうせ死ぬ。・・・だったらそいつらの魔力を奪い取ってやることが・・・グランディア帝国のためになるんだよ」


「もういい、これ以上サイコパスの考えなど聞きたくない・・・」


「はあ? テメエも同類だろ前園」


「なんだと?」


「そもそもあの女魔導師たちが重傷を負ったのは、お前らとの戦いによるものだ」


「え・・・」


「それにお前もさっき、帝国軍兵士たちを無残に蹴散らしていってたじゃないか。それと俺の何が違うってんだ」


「それは戦争だから・・・」


 だが鮫島の言葉にそれ以上反論ができない瑞貴。


 そこにできた一瞬の隙を見逃さなかった鮫島が、ベッドの下に隠しておいた短剣を握って、瑞貴に切りつけた。


「バカめ! 死ね前園っ!」


 だが瑞貴は、鮫島の突進を紙一重でかわすと彼の手首をへし折って剣先を180度回転させた。


「あづっ!」


 拳が潰され剣を握ったまま離せなくなった鮫島が、突進した勢いそのまま瑞貴に足を払われる。


 そしてバランスを崩して床に突っ伏した鮫島の首筋にその短剣が深々と刺さった。


「おごおう・・・」


 喉を貫いた剣先が後頭部から突き出し、小刻みに痙攣する鮫島の身体は、その動きを永遠に止めた。



           ◇



 鮫島は死んだ。


 瑞貴は全裸の男の遺体を一瞥すると、かなでの元へとゆっくり戻った。


 ベッドに横たわったかなでは、戦いの一部始終をわずかに開いたその瞳に焼き付けており、涙を流して瑞貴に謝った。


「・・・私なんかのために・・・あんな男を・・・ごめんね」


「アイツを殺したことなら気にしなくていい。このままのさばらせていたら誰も手が出せない怪物が誕生していただろうし、そうなる前に確実に息の根を止めなければならなかった」


「・・・だったらそれは私の役目だったのに・・・思念波が使えないと手も足もでなかった・・・」


「そりゃそうだよ。かなではごく普通の女子高生だったんだから」


「・・・そうよね」


「・・・恐かっただろ、かなで」


「・・・うん」


 もともと運動が苦手でいじめられっ子だったかなでは、半グレ集団のリーダーである鮫島に暴力で敵うはずもなく、蹂躙の限りを尽くされてしまった。


「・・・私が瑞貴くんを守るはずなのに、また助けられちゃった」


「気にするな。俺は何度でも君を助けるから」


「・・・ごめんね」


 そして顔を背けてしまったかなでは、再び肩を震わせて泣き始める。


 そんなかなでに服を着せようと、瑞貴は暗い部屋の中を歩き回る。


 だが見つかったのは、無残に引き裂かれたかなでの下着だけで、仕方なくシーツごとかなでを抱きかかえた瑞貴は部屋の外へと歩き出した。


「まずはこの「封魔の檻」から出よう。外に出ればデバイスが使えるし、その酷い傷も治療できる」


「・・・うん」


 こくりと頷くかなでに瑞貴がささやく。


「今さら慰めにもならないが、君は俺が一生守っていくよ。だからずっとそばに居てくれ」


「・・・・ありがとう瑞貴くん・・・好きよ」


 二人はじっと見つめ合って、そして口づけをした。



           ◇



「コホン・・・」


 気が付くと、部屋の入り口に二つの人影があった。


 その人影が気まずそうに二人に近づくと、瑞貴は思わず自分の目を疑った。


「母さん? それにさやかまで。どうしてここに」


「それは後で説明するから、早くこの結界から外に出ましょう」


「分かった」


 部屋を出た瑞貴は、中で何があったのかを伝える。


 するとエカテリーナは瑞貴からかなでを受け取ると、負傷兵のいる大部屋に彼女を連れて行き、空いているベッドにそっと寝かせた。


 そしてかなでの全身を調べて、懐から思念波補助デバイスを取り出した。


「ここはお母さんに任せてあなたたち二人は愛梨ちゃんたちの応援に行きなさい」


「そうだ、みんなはセレスフィリアと戦っていたんだった! でもどこで・・・」


 すると瑞貴の腕を掴んださやかが、


「地表の巨大円形石柱群。つまり転移陣のある場所です。帝国軍の一部がここを包囲しているし、早く助けに行きましょう瑞貴君」


「分かった」


「それと瑞貴」


「何だよ母さん」


「かなでちゃんは無事だから安心していいわよ」


「え? 無事ってどういう意味だよ」


「全身の酷い傷はかなでちゃんが必死に抵抗した結果だと思うけど、そのお陰でそういうことをされる前にあなたが間に合ったのよ」


「ほ、本当か母さんっ!」


「女医の私が言うんだから間違いないわよ」


「何言ってるんだ、母さんは物理教師だろ」


「物理教師・・・ああ、そう言えばそういう設定だったわね。すっかり忘れてたわ」


「え?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ