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クラスメイトは異世界王女  作者: くまっち
第3章 冒険者大国レガリス
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第46話 アンナとベストラ

 南方200㎞先まで撤退することになったレガリス騎士団。


 だが、陣地を構える高地の周囲にはグランディア帝国軍が包囲しており、これを突破することは容易ではない。


 数で圧倒する帝国軍に半数まで撃ち減らされたレガリス騎士団だったが、それでも全滅するのを防げていたのは、何重にも渡って構築された堅固な防御陣と強力な軍用バリアー、そして高所を活かした遠隔攻撃によるものだった。


 属性魔法と投石器やバリスタなどの伝統的な射出兵器を上手く組み合わせ、敵の布陣に応じて自在にその攻撃を変化させていくレガリス騎士団の戦い方は、冒険者の国らしく狡猾で隙のないものだった。


 その均衡を壊して、帝国軍のど真ん中に活路を切り開く役目を担うのがこの3人だ。


「愛梨、弥生、そしてアリスレーゼ。お前たち3人に先陣を任せる」


 瑞貴が言った途端、3人が同時に頬を膨らませた。


「お兄、なんで愛梨がこんな二人なんかと!」


 愛梨と仲のいいアンナをあえて外して、犬猿の仲の弥生、アリスレーゼと組ませた瑞貴の判断は実に単純だった。


「お前ら3人を組ませるのが一番強いからだよ。未来予知ができる上に最強の火力を誇る愛梨と、空間跳躍ができて超速バトルが可能な上に無尽蔵のスタミナを誇る弥生、精神感応魔法で敵の思考を読み行動を操るアリスレーゼ。お前ら3人がいれば、どんな戦場でも突破できる!」


「ふ、ふーん・・・お兄がそこまで愛梨を信頼してくれるなら、この二人の面倒を見てあげてもいいけど」


 仕方なく了解した愛梨に、弥生とアリスレーゼも、


「私は瑞貴と一緒に戦いたかったけど、可愛い義妹との共同作業も悪くはないわね」


「義妹言うな!」


「わたくしは、邪神スーリヤ様のお手並みを拝見します」


「邪神言うな!」


「・・・ロベルトと親衛隊は、すまんがこいつらの護衛を頼む」


「・・・了解だ、義弟殿」


「えーっと、それからベストラさんと共にしんがりを務めるのは、防御力最強のかなでと工作員のアンナさん、そして俺だ。雨宮主幹はかなでから絶対に離れないように」


「瑞貴くん頑張ろうね!」


 かなでがニッコリ笑って瑞貴に寄り添うと、それまで言い争っていた3人が仲良くかなでを睨みつける。


「お前ら目が恐いよ」




 アンナが愛梨の傍にいたことでみんなの緩衝材になっていたことに改めて気づいた瑞貴。それでもメンバーを変えなかったのには理由があった。


 彼は知りたかったのだ。


 Sランク冒険者を含む10人の快楽殺人者集団に囲まれても無傷で切り抜けたアンナの本当の実力を。


 そして先ほど見せた、騎士団長ベストラと同水準の作戦立案能力。


 瑞貴にとってアンナは未知数の部分が多いが、適切な判断を瞬時に行える能力が求められるしんがりにこそ、彼女のような人材は必要だと思った。


 実際、撤退戦を開始してからは、ベストラとアンナの二人が主力として帝国軍の猛攻を防ぎきることとなる。



           ◇



 愛梨たち3人が帝国軍のど真ん中に風穴を開けて始まった、レガリス騎士団の撤退戦。


 真っ二つに分断された自軍の中を走り抜けるレガリス騎士団に対し、その両側から挟み込むように攻撃を集中させる帝国軍。


 無限にいるのではないかと思われる敵魔導師による無尽蔵の魔法攻撃を、ケタ違いに強大な魔力で返り討ちにしていくアンナとベストラ。


 二人が魔法を放つ度に、敵魔導師たちが部隊ごと消滅していくのを瑞貴は目の当たりにしたのだ。


「強すぎる! ベストラさんが強いのは分かるけど、アンナさんは一体何者なんだ!」


 瑞貴の父親である警察庁公安課UMA室長がこの異世界で現地採用した女スパイ。


 それがエルフのアンナだ。


 父親がどうやって彼女を見つけてきたのかは未だに謎だが、目の前で繰り広げられている戦闘は瑞貴たち公安の戦闘職よりレベルが一段上だった。


 もしかすると、レガリス王国最強を誇るベストラさえもアンナには敵わないかもしれない。


「・・・エルフという種族はここまで強いのか」




 それでもやはり多勢に無勢。


 敵の増援部隊が続々参戦してくると、二人の魔力をもってしても敵の猛攻を抑えるのが難しくなる。


 そんな戦いを冷静に観察していた雨宮主幹が、突然妙な提案をする。


「今の戦況なら、土属性魔法グランドクロスが有効なはずよ。破壊力という点では他の大魔法に劣るけど、使い方によっては長時間に渡って大軍を足止めできると思う」


 そんな雨宮主幹の提案にベストラが反論する。


「あれは足止め魔法ではなく敵を押しつぶすものだ。岩石を用いないメテオというと分かりやすいか」


「素直に使えばそういう魔法だけど、全く別の使い方もあるの。ベストラさん、そして瑞貴君。私の言う通りに二人でグランドクロスを発動させてみて」



 雨宮主幹の真剣な表情を見てベストラは静かに頷くと、彼女の言う通りに帝国軍の足元ではなく、あえて上空にグランドクロスを発動させる。



【土属性固有魔法・グランドクロス】



 するとワームホールにも似た暗黒球体が敵上空に忽然と現れ、魔力の低い兵士たちがその球体へと吸い上げられていった。


「うわあああっ!」


「た、助けてくれーっ!」


 超重力で押し潰された兵士の身体を表面に吸着させたベストラの暗黒球体を指さした雨宮主幹は、端末のキーボード叩きながら瑞貴に指示を出した。


「今よ! あの暗黒球体をかすめるようにグランドクロス弾を発射!」



【土属性思念波兵器・グランドクロス】



 雨宮主幹の端末とBluetooth接続された瑞貴のデバイスから、猛烈な初速度を持って暗黒球体が発射された。


 それが一瞬でベストラの暗黒球体に到達するとその脇をかすめるように通過し、互いの超重力で急激にその向きを変えた。



 スイングバイ。



 宇宙探査機を加速するために惑星の公転運動と重力を利用するその物理現象は、ほぼ対等な重力を発生する2つの球体間で行うと、互いの重力の影響を受けて複雑にその軌道を変えていく。


 瑞貴の暗黒球体に引き寄せられたベストラの球体が加速して遠心力を発生させると、スイングバイで楕円軌道を描いた瑞貴の暗黒球体がベストラのそれと一定の距離を保ち始めた。


「うまくいったわね。実験は成功よ」


 本来、地表面で魔法を発動させて重力エネルギーをバーストさせる攻撃魔法のはずが、2連星のように互いの周りを公転して、持続的に兵士たちを上空に巻き上げていくトラップ魔法へと変化した。


 魔力の強い兵士たちは何とか巻き込まれないように地面にしがみつくが、そのために攻撃の手を緩めざるをえず、早く重力圏から脱しようと必死にもがき始める。


 そしてある者は暗黒球体を破壊しようと属性魔法を叩き込むが、そもそも実体のない重力場が相手ではそれを破壊することなどできようはずもなかった。


 一方、空間転移によって重力圏を脱した闇魔導士たちは、だがアンナの魔法攻撃の餌食となり、片っ端からこの現世から退場させられ、輪廻転生の輪の中へと戻されて行った。


「この調子で、もっとたくさんグランドクロス2連星を敵上空に作っていきましょうね」


 楽しそうに指示を出す雨宮主幹に、黙々と作業を続ける瑞貴とベストラ。


 そして次々と出現する暗黒2連星を見ていたアンナは、突然笑いながら意味深なことを言い出した。


「プッ! あら、ごめんなさい・・・お二人があまりによく似てらっしゃいますのでつい・・・クスクス・・・これも初めての共同作業と言うのでしょうか・・・プッ!」


 瑞貴とベストラの顔を交互に見ながら腹を抱えて笑うアンナに、ベストラが忌々しげに吐き捨てた。


「ちっ! 貴様は無駄口など叩かず、ただグランディア帝国軍を掃討していればよいのだ」


「はいはい、承知いたしました陛下」


「そしてミズキよ。お前も一人前の男に成長したようだし、この大陸はくれてやる。余がグランディア帝国を滅ぼした後は、ここを好きに統治するがよい」


「はあ?」


「ここはもうよい。いくぞアンナ」


「はいはい、騎士団長閣下」


 ベストラはベストラで意味の分からないことを口走ると、アンナと肩を並べて南方へ撤退していく自軍を追いかけて走り出した。

 次回もお楽しみに。


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