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クラスメイトは異世界王女  作者: くまっち
第3章 冒険者大国レガリス
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第43話 異界門の鍵

 何かの見間違いではないかと、目を凝らして地面を見つめる瑞貴と弥生。


 だがそこには「シーダの封印」がハッキリと浮かび上がっており、しばらくするとやがて何もなかったようにかき消えてしまった。


 顔を見合わせて驚く二人を、周りは不思議そうな目で見つめている。


「みんなにはさっきの紋様が見えなかったのか?」


 瑞貴がみんなに尋ねるが、誰もが首を横に振った。


「ねえ瑞貴、この地面がシーダの封印で守られているのなら、あなたなら解除できるわよね」


「もちろんだよ弥生。夢で見たばかりだし、あんなの絶対に忘れられないよ」


 瑞貴は手で地面に触れると、その呪文を唱える。


【バーダルタ・エヴェゴギナ・イルム・ゴーギルス・アザムルーク】


 するとあっけなく地面が口を開き、地下への階段が姿を現した。



           ◇



 階段に足を踏み入れる瑞貴たち。


 全員が入ると再び封印が発動して出口をふさぎ、同時に階段側面に並ぶ魔法のランプが一斉に灯った。


 魔法の光に導かれて長い階段を下りきると、その先は円形の石室で行き止まりになり、部屋の中心には天井まで伸びる一本の太い円柱が立っていた。


 目の高さの辺りには大きな水晶玉が埋め込まれていて七色の光を怪しげに放っているが、部屋の中にはそれ以外に何もない。


 ただ、石室の壁にはぐるりと一周するように壁画が描かれており、ある女性の生涯がその生誕から死まで順につづられていた。


 その最初の数枚を見たところで、突然弥生が悲鳴を上げる。


「ひーっ! み、瑞貴これってまさか・・・」


 普段は何があっても動じない図太い神経の持ち主の弥生だが、この壁画には衝撃を受けたらしく、青ざめた顔で瑞貴にしがみついた。


 だがそれは瑞貴も同じで、壁画に描かれていた自分の姿に、背筋が凍り付いてしまったのだ。


 それは怨念の物語であり、恋人ヤードラを殺されたシーダの愛と憎悪、復讐と絶望の生涯が克明に描かれていた。



           ◇



 最初の一枚は、シーダ生誕の一コマ。


 ある国の王女として生まれた彼女は、幸せそうに微笑む両親に抱かれて産声を上げた。


 天使たちが空から舞い降りて彼女の生誕を祝福しているが、一人だけ彼女を妬ましそうに見つめる幼い兄は、醜い悪魔として描かれていた。


 口が三つに裂け、腫れぼったい目と尖った両耳。


 両親の愛を一身に受ける生まれたばかりの王女に対し、そのうち殺してやろうと鋭い牙を向けているように見えた。




 次の一枚は、幼くして婚約者を決められてしまった不遇な少女時代の一コマだ。


 親元を離れ花嫁修業に出された彼女は、ある少年との間に婚約の契りを結ばされた。


 だが、その壁画の少年には顔がなかった。




 3枚目の絵は、美しく成長したシーダが助け出されるシーンだ。


 高い塔に幽閉されたシーダの元に現れたのは、眉目秀麗な王子ヤードラだった。


 その次の絵でシーダはヤードラ王子と結婚し、さらに次の絵では王子との間に子供を身籠っていた。


 だが6枚目の絵で、二人の愛の巣に悪魔と顔のない男が侵入し、愛する王子を殺してしまった。


 人生に絶望する彼女だったが、王子との間にできた愛の結晶を無事出産。


 その後は我が子を王にするために全てを捧げるシーダの姿が生き生きと描かれていた。


 様々な陰謀をはねのけ宮中をのし上がっていくシーダは、ついに最大の政敵を殺して息子を王の座へと押し上げる。


 そして国を掌握した彼女は、愛する夫を殺した顔のない男への復讐を開始した。




 激しい戦いの末、焼け野原となったヤードラの国と引き換えに夫の復讐を見事果たしたシーダだったが、今度は悪魔に愛する息子を殺されてしまう。


 その死の瞬間、初めて息子が夫の生まれ変わりだと知ったシーダは、絶望のあまり悪魔を消滅させるために禁呪を使ってしまった。


 結果、悪魔と顔のない男、そして愛する夫の魂がこの世から消え去った。


 その後の壁画は、隠者となったシーダの苦悩が描かれており、夫の魂をこの世界に取り戻すために残りの人生全てを費やした。



           ◇



「この悪魔の兄って、私のことよね・・・」


「・・・ああ。そしてこの顔のない男は俺だ」


「シーダには私たちがこんな風に映ってたんだ」


「そうだな。俺はシーダに愛されているとばかり思っていたが、実際には顔も見たくない相手だと思われていたみたいだ」


 二人がガックリ肩を落とすと、みんなが壁画を見ている間も一人だけ距離を置いていたアリスレーゼが、ようやくその口を開いた。


「この壁画はティアローズ王国建国神話にある「女神シーダの章」です。シーダ様の生まれ変わりである初代女王ティアローズが自身の前世を振り返り、王国建国の目的を後世に語り継いだものとされています」


「王国建国の目的は即ちシーダの目的。つまりヤードラの魂を取り戻すためにティアローズ王国は建国したということか」


「ええ。正確には、ヤードラ神を再びこの世界に降臨させるために、残り2注も復活させて原初の状態を取り戻すこと。瑞貴と弥生はわたくしたちの世界から日本に転移した神だというお話でしたが、もしや」


「実はこの世界に転移してから夢を見るようになったんだが、その内容がこの壁画の前半と一致するんだ。俺が顔のない男として描かれたヴェーダ王子で、弥生が悪魔として描かれたスーリヤ王子」


「やはり・・・。最近の瑞貴は、わたくしがシーダ様の生まれ変わりではないかと、とても気にされておられましたか、まさかヴェーダ神の生まれ変わりだったなんて」


「アリスレーゼ・・・」


 壁画を見る限り、この世界ではヴェーダとスーリヤは悪の権化のように語り継がれているのだろう。


 そして神話を元に建国され、以降世界の中心に君臨し続けてきたティアローズ王国。


 その正統後継者だったアリスレーゼは、シーダとヤードラを信仰し、ヴェーダとスーリヤを悪魔として忌み嫌っていることだろう。



 アリスレーゼが自分の元を去ってしまう。



 そんな不安を感じた瑞貴だったが、アリスレーゼはケロリとした表情で言った。


「心配しなくてもわたくしの瑞貴への愛は変わりません。むしろ、ティアローズ王国が歪んだ存在だったのは建国の祖であるシーダ様が間違えていたからだと、今のわたくしにはちゃんと理解できます。それに、そんな祖国を捨てて瑞貴と二人で新たなティアローズ王国を建国すると誓ったことをもうお忘れですか」


「アリスレーゼ!」


「ですがお二人の正体は決して口外しない方がよいでしょう。この世界は未だ、ティアローズ王国の精神的呪縛から解放されていないのですから」



           ◇



「ねえお兄、壁画なんかどうでもいいから、早く異界門の鍵を探そうよ」


 ずっと退屈そうにしていた愛梨が瑞貴をせかす。


「そ、そうだったな。もしかして愛梨はその予知能力で鍵を発見したとか?」


「ううん・・・。異界門の鍵に関することはなぜか予知できないの。正確に言うと未来が定まらないというか、全てが重なって何も見えなくなるの」


「全てが重なる・・・つまりどういうこと?」


 そしてこちらも神話に全く興味がなかった雨宮主幹が、嬉々として話に加わった。


「愛梨ちゃんの未来予知って、無数に枝分かれしていく多重世界を覗き見る能力なんだと思うけど、その枝分かれの原因となるのが量子確率分布なのよ」


「量子確率分布・・・」


「愛梨ちゃんの能力をもってしてもそれが重なって見えるということは、分散が大きすぎて解が発散してるってこと。異界門の鍵はそれだけ膨大なエネルギーを解放するきっかけとなる存在で、言い換えれば異世界転移とは膨大なエネルギーを必要とする物理現象だということ。そのわずかなエネルギーの揺らぎすらも、天変地異に相当するほどのね」


「お、おう・・・」


 分かったような分からないな難しい説明だったが、本人は満足そうにしているようなので、このままそっとしておくことにした。


「愛梨の未来予知が効かないのは分かったが、少なくとも異界門を起動する詠唱呪文はもう見つかったよ」


「え?! それ本当なの、お兄」


「ああ。壁画の上部に古代文字が刻まれているだろ。あれって壁画が描かれた頃の文字なんだけど、俺と弥生はそれを読むことができる」


「すごい・・・お兄って語学の天才じゃん!」


 目を輝かせた愛梨が瑞貴を絶賛するが、弥生が口を尖らせて、


「私だって読めるよ」


「ふーん・・・それがどうしたの」


「私のこともほめていいのよ愛梨ちゃん」


「壁画を見て思ったけど、あんたって神話時代からお兄に付きまとうストーカーだったのね。キモッ」


「ストーカーじゃないわよ! 永遠のパートナー! ていうか私の方が一つ年上なんだから、弥生お姉さまって呼んでよね」


「そんなの呼ぶわけないじゃん。・・・一応あんたも愛梨たちには必要な存在だから、昔みたいに弥生ちゃんって呼んであげてもいいけど?」


「うーん・・・まあストーカーよりはマシだから、それで手を打ってあげる」


「じゃあ弥生ちゃん。早く壁画の文字を読んでみて」


「いいわよ。・・・ベーガ・ルタ・アガーテ・ミレアノス・ヴァリュシュ・ゲア・ジャーセ・エグゼシオ・・・どう、すごいでしょ!」


「さすが神話時代からの筋金入りのストーカーね。やるじゃん」


「だから永遠のパートナー!」


 相変わらずケンカばかりの二人だが、これはこれで仲がいいのかも知れない。


 少なくともスーリヤとシーダの兄妹よりはるかに微笑ましい二人の足元には、いつの間にか小さな物体が転がっていた。


 それを瑞貴が拾い上げると、急に懐かしい気持ちが込み上げてきた。


「これシーダの髪飾りじゃないのか? 子供の頃から肌身離さず髪に差していたあの・・・」


 瑞貴がそれを弥生に見せると、


「本当・・・これ、シーダの5歳の誕生日に私があげたプレゼントよ。あの子がすごく気に入ってくれて、ずっと使ってくれてたの。それこそ最後の戦いで瑞貴・・・ヴェーダ王子を殺すその日まで」


「そうだったな。でもどうしてそれがこんな所に」


「さっきまでは床に何も落ちてなかったし、ひょっとすると私が壁画の文字を読み上げたから、どこかから現れたのかも」


「だとするとこれって・・・」


 瑞貴はその髪飾りをベストラとアンナの二人に見せた。すると、


「こいつは異界門の鍵だ。間違いない」


「そうですね。転移魔法の術式が込められた闇属性の魔術具みたいですが、術式が複雑過ぎてこのわたくしにも判別できません。このような遺物は異界門の鍵をおいて他に考えられないでしょう」


「やっぱり。だがこれである仮説が成り立つ。つまり、4つの異界門はシーダが作ったものではないかということだ」


 一人この世界に残されたシーダは、残りの生涯をかけてヤードラの魂をこの世界に取り戻すべく研究を続けていた。


 そして魔導師ティアローズとして転生を果たした彼女は、ヤードラの魂を取り戻すべくティアローズ王国を建国。


 さらにこの壁画と異界門の鍵である自分の髪飾りを後世に残した。





 瑞貴の仮説に答えたのは、アリスレーゼだった。


「ティアローズ王家にも神話以上のことは伝えられていませんが、瑞貴の言う通り4つの異界門はシーダ様がお造りになられたもので間違いないと思います」


「やっぱりそうか。アリスレーゼが言うのなら間違いないだろう」


「それともう一つ。この部屋の中心に鎮座する円柱についてですが、これと似たものがティアローズ王国中央教会の神殿にございます」


「え?」

 次回もお楽しみに。


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