第42話 最下層の探索
コバルたちSランク冒険者殺人集団を撃退した瑞貴たちは、いよいよ第18階層の探索を開始した。
ここまではベストラの案内でトラップの位置や魔獣の弱点などが全てわかっていたが、この18階層には事前の情報がなく、またけた違いに広すぎてどこから調べればいいのか見当もつかない。
「ようやく私の出番ね」
だが雨宮主幹がそう言うと、大きなキャリーケースからドローンを取り出した。
そしてPCのアプリを立ち上げてドローンを空に飛ばすと、上空から第18階層の地表面を撮影して画像を取り込んでいった。
「ドローンの画像を地形データに変換して、第18階層のマップを自動生成していくの。そしてAIが画像中の人工物を自動判別し、マップ上にマーキングしていくのよ」
「ダンジョン探索にドローンを使うのは反則っぽいけど、それ一台で足りるんですか?」
「・・・そうね。ここがどれだけ広いかわからないし、時間を短縮するためにもあと何台か同じものが欲しいわね」
しばらく何かを考えていた雨宮主幹は、ベストラに尋ねた。
「ティアローズ王国にいる時、土属性魔法ゴーレムを使っている魔導師を見ました。同じ土属性魔導師のベストラさんなら使えるんじゃないですか」
すると嫌な顔をしたベストラが、
「あんなチマチマしためんどくさい魔法は好かん」
「ということは使えるんですね。ならドローン、いえ鳥型ゴーレムを出してもらえますか」
「ちっ・・・仕方ないな」
余程めんどくさいのか、心底嫌な顔で呪文詠唱を始めたベストラだが、ため息をついたアンナがそれを止めさせると、代わりに自分が詠唱を始めた。
そして、
【土属性魔法ゴーレム】
地面に魔法陣が浮かび上がると、そこから体長1メートルほどの鳥が地面から這い出して、空へと舞い上がった。
鷹にも似たこの世界固有の鳥の姿を象ったゴーレムが、上空でアンナの指示を待つ。
「こんな感じでよろしいでしょうか」
「ええ、これでいいわ。ところでこのゴーレムって何体まで出せるのかしら」
「ルールに従って単純な動きをするだけのゴーレムなら何百体でも出せますが、動きが複雑になるほどその数は減って行き、わたくしが直接操作をする必要があれば1、2体が限度です」
「ふーん、つまり術者の頭の良さに依存するんだ。ベストラさんがめんどくさがる訳ね」
「ちっ」
渋い顔のベストラを無視して、手持ちのタブレット端末3台を取り出した雨宮主幹は、瑞貴たちにもタブレットを出すよう指示する。
「別にいいけど、あんまり使ってないから充電が残ってるか知らないぞ」
「構わないから、全員出してちょうだい」
瑞貴たちは、公安から支給されたタブレットを雨宮主幹の前に並べ、全部起動することを確認した雨宮主幹は、
「全部で8台あるから、ゴーレムも8体お願いするわね。これをお腹の部分に取り付けて上空から動画を取り込んでいくわ」
その後、上空へ飛び立った鳥型ゴーレムの位置が端末上で分かるようにすると、アンナはそれを見ながら画面が全て塗りつぶされるように8体の鳥型ゴーレムを操る。
「タブレットの画像をリアルタイムで取り込むのはさすがに無理だから、撮りためた動画を後でまとめて吸い上げるわ」
次に雨宮主幹がバッテリーを瑞貴の前に並べると、
「瑞貴君はこれを充電しておいて」
「はあ? なんで俺が・・・どうやって」
「あなたは雷属性使いでしょ。デバイスのUSBにバッテリーを繋げてオーラを送り込めば、高速充電ができるはずよ」
「俺はコンセントかよ!」
空からの撮影は結局3日ほどかかり、タブレットの動画を後追いで地形データに変換したり画像解析を行ったりでさらにまる1日かけた末に、ついに第18階層のマップが完成した。
「怪しげな人工物とか洞穴など、AIが見つけてくれた候補は全部で31か所。この中には他の冒険者が探索済みの物も含まれていると思うけど、上空からじゃ分からないので全部見て回りましょう」
そして31か所全てを巡回するための最短経路を計算した雨宮主幹は、端末を片手にかなでと手をつないで先頭に立った。
「さあ出発よ!」
◇
地形や障害物を無視した距離だけの最短経路だったこともあり、魔獣の巣窟を横切ってバトルが始まったり、切り立った断層に直面して必死によじ登ったりしながら調査ポイントを練り歩いた。
やはりその多くは他の冒険者が発見済みの場所だったが、未発見のアイテムやトラップも次々と見つかっていく。
さすがのベストラもこれには呆れ、「こんなことされたらレガリス王国の冒険者は全員廃業してしまう」とブツブツ文句を言う始末。
だが全ての地点を調査しても、異界門の鍵と思われる古代の遺物は発見できなかった。
「ここは最下層ではなく、まだ先があるんだろうか」
腕を組んで真剣に悩む瑞貴に、ベストラも、
「その可能性はあるが、だとしても地下へ続く階段が見当たらなかった。途中見つけた祠や洞窟に階段が隠されていてもいいはずなのだが、ここ18階層にはそういった物が全くない」
「でもこの第18階層って、元からここにある自然の大空洞ですよね。そして第17階層まではここに至るために作られたトラップ付きの通路。つまりこの2つは全く別物で、もし第19層があるとしてもそれは新たな地下ダンジョンを探すことに等しい」
「ふむ・・・そうかもしれん。なら上層階の構造は一旦忘れて、別の地下ダンジョンの入り口をどうやって探すかだが・・・」
すると端末を操作していた雨宮主幹が、画面に新たなマップを表示させた。
「実は31か所巡りをしながらレーダーで地下の様子を探っていたの。残念ながら怪しい場所は見つからなかったけど、自作のレーダーが機能することは確認できたわ。今度は地下マップを作成していきましょう」
そういって彼女がキャリーケースから取り出したのは、大きさが10数センチほどの直方体の筐体にアンテナが取り付けられた武骨な計測器だった。
「それ、暇な時に雨宮主幹がコツコツ作っていた謎の機械。地中レーダーだったんだ・・・」
「マイクロ波を地中に当ててその反射波で地下の様子を調べるんだけど、処理速度を優先したから解像度はいまいちなのよね。でも地下数メートルの空洞の有無は判別できるから、ゴーレムを使ってマップを作らせましょう」
そしてアンナが召喚した5体の肉食動物型ゴーレムが大地を駆け巡り、さらに3日をかけて地下マップを完成させた。
「いくつか空洞が見つかったけど、そのうち一つだけ綺麗な長方形のものがあるの。たぶん階段よ」
「行ってみよう!」
◇
雨宮主幹が示した場所に到着したものの、そこは何もないただの平地だった。
祠や祭壇などの人工物もなければ、洞窟や岩場などの天然の遮蔽物もない。
ましてや魔力溜りなど、いかにも怪しげなポイントですらなかった。
「こんなところに階段が隠されているなんて、どこの誰が気づくんだよ! もしこれがRPGなら完全にクソゲーだな」
アンナが召喚した巨大ゴーレムがショベルで穴を掘っているのを見ながら、盛大にツッコミむ瑞貴。
だが岩盤が固すぎるのか、全く地面を掘り進むことができない。
とうとう穴を掘るのを諦めてゴーレムを片付けたアンナに代わって、今度は弥生がデバイスを握る。
「弥生、何をするつもりなんだ」
「ワームホールで、岩盤を別のところに瞬間移動させようと思うの」
「頭いいなお前」
だが弥生のワームホールは発動せず、岩盤を削り取ることができない。
「ウソ・・・こんなことって」
何度試しても転移しない岩盤に頭にきた弥生は、
「もう怒った! 今からダークマターをぶち込んでやるからみんなここを離れて!」
「・・・え? そんなことして本当に大丈夫なのか。岩盤を吹き飛ばしたはいいが、異界門の鍵まで消滅してしまったら洒落にならないぞ」
「大丈夫よ。そこはちゃんと手加減するから」
他に方法も思いつかない瑞貴たちは、弥生の指示に従って十分距離を取ると、全員地面に伏せてバリアーを展開する。
そして弥生のダークマターがさく裂すると、衝撃波と爆風が瑞貴たちを包み込み、強い地震が瑞貴たちの身体を揺さぶった。
だが驚くべきことに砂塵が発生せず視界はクリアーなままで、土砂が上空に巻き上げられていないことは一目瞭然。
すぐにバリアーを解除した瑞貴たちは、爆心地へと駆け寄った。
すると本来そこにクレーターが生じているはずの地表は全くの無傷で、
「何よこれ・・・」
だがこれまでは見えていなかったものがボンヤリと浮かび上がっていた。
それは魔法陣とは異なる、独特の紋様。
「瑞貴っ! まさかこれって・・・」
弥生とほぼ同時に同じ結論に至った瑞貴は、地表に浮かび上がった紋様に背筋を凍らせた。
「・・・シーダの封印」
次回もお楽しみに。
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