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クラスメイトは異世界王女  作者: くまっち
第3章 冒険者大国レガリス
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第41話 第18階層の死闘(中編)

 たった一人、別の場所に飛ばされた愛梨は、周りを取り囲む冒険者集団と対峙していた。


「ククク、俺たちはずーっとお前を狙っていたんだ。命だけは助けてやるから、おとなしく俺たちの言うことを聞くんだな」


 8人の男たちが一定の距離を保ちながら、下卑た目つきで愛梨の全身を舐めまわすように見ている。


 だが愛梨は怯むことなく男たちに言った。


「愛梨にエッチなことがしたいみたいだけど、そんなの絶対にお断りだから。本気でかかってこないとこの愛梨様は倒せないよ」


「けっ! せっかく綺麗な身体のまま可愛がってやろうと思ったのに、また傷だらけの女冒険者を抱かなきゃならねえのかよ。しゃあねえ、あとでいくら謝っても本気の俺たちは止められないぜ」


 明らかにモードが切り替わった男たちは、戦闘狂の素顔を愛梨に見せる。


 そのうちの一人が愛梨のバリアーを一瞬で破壊すると、彼女との間合いをゼロにして右腕をへし折ろうと手を伸ばしてきた。


 だが一連の動きを予知していた愛梨は、簡単に男の背後を取ると思念波弾を発射した。


「ぎゃ!」


 男は短い悲鳴を上げたがすぐにかき消え、その身体が激しく燃え上がった。


 愛梨の火属性オーラによって作り出された思念波弾は極超高温プラズマと化し、男を燃えさかる木炭に変えた後も、地下空洞に植生する草木を燃え上がらせながら彼方へと飛んで行った。


「「「何だとっ!」」」


 あっという間に仲間を一人失った事実に一瞬動揺する殺人鬼たちだったが、すぐに気持ちを立て直すと笑いながら愛梨に殺到した。


 そんな男たちの行動は愛梨の未来予知で全て丸裸にされており、最も効率的なラインに身を投じた彼女は、一人ずつ血祭りにあげていった。


【火属性思念波兵器・ファイアー】



           ◇



 広い平原に飛ばされた弥生は、目の前に立つ3人の殺人鬼と対峙していた。


 彼らはいずれもSランク冒険者で、その一人が魔法を発動させると、何百体という虫型ゴーレムが全方位から弥生を取り巻いた。


 一体の大きさは全長50cmほどだが、その姿や動きは「やぶ蚊」に似ており、針のような鋭い口先を弥生に向けると、彼女の身体を貫かんとその複眼でチャンスを狙っていた。


 そんなゴーレムたちはまるで蚊柱を形成しているかのようにランダムに動きながらも互いに衝突することなく、そのうちの一体が突然急降下を始める。


「本当に気持ち悪いわね・・・アイツら昆虫をリアルに再現しすぎなのよ! せめてゲームのキャラみたいに愛嬌があればいいのに・・・おええっ」


 吐きそうになりながらも、飛んできたゴーレムを紙一重でかわすと、その側面に拳を当てて一撃でこれを粉砕した。


 だが、土塊に戻ったゴーレムの背後にはまた別のゴーレムが迫っており、慌てて身体を下に潜り込ませた弥生は、その腹部を蹴り上げて破壊する。


「これじゃあキリがないわね。いったんここから離れて体勢を立て直さなきゃ」


 弥生は瞬間移動を発動させたが、既に彼女とゴーレムを取り囲むようにマジックバリアーが展開されていて、そこを突破できずに跳ね返されてしまった。


「痛ったー。敵の中に『かなで級バリアー』の使い手がいたのね。あ、マズいっ!」


 地面に叩きつけられた弥生に複数のゴーレムが容赦なく襲いかかる。


 慌てて立ち上がって反撃を繰り出す弥生にさらに頭上から電撃が降り注いだ。


「ひーーっ! こんなの一撃でも食らったら、身体が硬直してる間にゴーレムに串刺しじゃん! こんなの無理ゲーよ! 瑞貴助けてーーっ!」


 弥生は泣きべそをかきながらも、電撃が発生する直前にわずかに生じるスパークをその瞳に端に捕え、電撃の経路を予測して素早く身をかわしていく。


 さらにゴーレムの攻撃もかわしながら、一体ずつ粉々に砕いていった。




 そんな弥生に対峙する3人のSランク冒険者は、


「うひゃひゃひゃ! 俺たち3人のコンビネーション攻撃は相変わらず見応えがあるぜ。あの女、早く串刺しにならねえかなあ」


「だが見てみろよあの動き。もはや人間業じゃねえ」


「ああ。Sランク冒険者でもあそこまで粘れる奴はそうはいない。だが、いつまで体力が持つかな。足が止まった瞬間が奴の最後だ」



           ◇



 背中に雨宮主幹を庇うかなでは、四方八方から放たれる魔法攻撃をそのバリアーでじっと耐えていた。


 周りの地形が変わるほどの大魔法の集中砲火に、だが一層磨きのかかったかなでのバリアーはそのことごとくをはじき返していた。


「ティアローズ王国の軍用バリアーを参考に強化した『かなでちゃん専用バリアー』はうまく機能してるみたいね。今度は攻撃に転じてみない?」


「はい、雨宮主幹。バリアーを展開したまま撃てばいいんですよね」


「そうよ。かなでちゃんの思念波兵器は可視光を媒介にするから、透明なバリアーではそれを遮ることができないの。この世界の光属性魔法って攻撃魔法がほとんどないみたいだから防御方法なんかちゃんと考えられてないし、かなでちゃんの前では敵の魔導士たちは完全に無防備なはずよ」


 ニシシとほくそ笑む雨宮主幹にこくりと頷いたかなでは、思念波補助デバイスを正面の敵に向けるとその発射ボタンを押した。


【光属性思念波兵器・スーパーノヴァ】


 デバイスからパルス光が放たれた瞬間、敵がいるとおぼしき周辺が大爆発を起こした。


 最初に強烈な閃光が、少し遅れて衝撃波が轟音を伴って訪れ、さらに遅れて爆風と砂塵がかなでのバリアーに襲い掛かる。


 地面が激しく揺れ、視界が砂塵と爆煙で完全に埋め尽くされると、あれだけ激しかった敵の魔法攻撃がプッツリと止んだ。


「かなでちゃん、実験は成功よ。上層階は狭すぎて試す機会がなかったけど、初めて使ったにしては上出来じゃない」


「はい雨宮主幹。愛梨ちゃんのエクスプロージョンに少し似てるけど、思念波弾みたいに水平発射できるから地下空洞でも使い易いですね」


「まさにそれよ。この思念波兵器は水平発射版エクスプロージョンなの。可視光パルスだからバリアーを完全スルーするし、光速で着弾するから愛梨ちゃんみたいに未来予知ができない限りよけることも不可能。これを軍用バリアー級の防御力を誇るかなでちゃんが使えば『人間戦車』、いいえ『人間戦艦大和』の出来上がりよ」


「あんまりかわいくないけど、それで瑞貴くんが喜んでくれるのなら、わたし何だってやるわ!」



           ◇



 瑞貴にぎゅっと抱きついて口移しに酸素をもらっていたアリスレーゼが、そっと舌を入れてきた。


 慌てた瑞貴が目で合図を送るが、彼女は目を閉じてそれを無視すると、舌と舌を絡ませる。


(それだと人工呼吸じゃなく、完全にキスだよ!)


(愛してるわ、あ・な・た。このままずっと)


(アリスレーゼ・・・)


 水の中に漂ったまま、お姫様抱っこのような形で彼女を抱きかかえる瑞貴。


 とうとう本格的にキスを始めてしまった二人だったが、突然水槽が破壊されると水が一気に流れ出した。


(何が起こった? 俺にしっかりつかまれ!)


(ええ! わたくしを絶対に離さないで、あなた!)





 濁流とともに水槽の外に投げ出された二人は、こちらを睨みつけていた男の正体にようやく気づく。


「「フリオニール!」」


 真っ赤な顔で怒りに打ち震えているフリオニールだったが、彼は地下空洞にも関わらずメテオを発動させ、上層階を巻き込む形で第18階層の死のトラップ「封魔の檻」を破壊してしまったのだ。


 瑞貴たちの周囲には大量の瓦礫の山が築かれ、頭上にはどこまでも続く大穴が口を開いている。


「いつまでそうしているつもりだミズキっ! 今すぐ俺のアリスレーゼから離れろっ!」


「えっ?」


 フリオニールと対峙していた瑞貴は、その両手にアリスレーゼを抱えたままだったのに気がついた。


 戦闘態勢を取るため彼女を降ろそうとした瑞貴だったが、アリスレーゼは瑞貴に抱きついたまま全然離れようとしてくれない。


「何してるんだよアリスレーゼ。戦いの邪魔になるから俺の後ろに隠れていろ」


「・・・嫌です。わたくしも一緒に戦うので、ずっとこのままでいさせて」


「お姫様抱っこのままだと両手がふさがってしまうし、アリスレーゼが盾のようになってしまう。傷つくキミの姿を俺は見たくないんだ」


「いいえ、わたくしはむしろあなたの盾になりたい。それにこうしている方が常にわたくしを確認できて安心して戦えるでしょ。そもそも瑞貴は剣でなくデバイスで戦うのだから、どんな体勢でも戦えるはず」


「言われてみればアリスレーゼの言う通りだな」


 それに少しでも長くこうしていたかった瑞貴は、彼女を抱えたまま右手に思念波補助デバイスを握った。


 そんな瑞貴にフリオニールの怒りが爆発した。


「貴様ーっ! 俺をナメるのもいい加減にしろ!」


「ナメてなんかいないさ。まさかお前とここでやり合うことになるとは思わなかったが、今日こそケリをつけてやる!」


「それはこっちのセリフだ! 貴様を殺してアリスレーゼをこの手に取り戻す。さあアリスレーゼ、そんな奴から離れて俺と一緒にティアローズ王国に帰ろう。そして結婚を・・・」


 だがアリスレーゼはフリオニールを睨みつけると彼への怒りを爆発させた。


「あなたの顔など見たくもありません! わたくしの前から即刻立ち去りなさいっ!」


「なっ! 何を言ってるんだアリスレーゼ。君はミズキに騙されている。今助けてやるから早くこちらへ」


「あなたの所に戻るわけないでしょ! あなたとの婚約はもう解消されて赤の他人なのだから、二度とわたくしの前にその顔を見せないで!」


「そんな、アリスレーゼ・・・」


 泣きそうな顔でアリスレーゼにすがり付こうとするフリオニールだったが、彼女の右手が彼の頬を力いっぱいひっぱたいた。


 パシンッ!


「・・・え?」


 信じられないといった表情で赤く腫れた頬をさするフリオニールに、アリスレーゼは冷たく言い放った。


「ティアローズ王国とはもう縁を切ったので、今まで言えなかったことを全て申し上げます。フリオニール、あなたの顔を見てるだけでわたくしは心底虫唾が走るのよ」


「なっ、何を言い出すんだアリスレーゼ! 俺はキミの両親が決めた幼い頃からの婚約者で、昔はよく一緒に遊んだじゃないか」


「そのようなこと、とっくの昔に忘れました」


「そんな・・・」


「わたくしは瑞貴の妻となって、二人で新たなティアローズ王国を築き上げるのです。そしてたくさん子供を作って新王国を末長く繁栄させるの。ねえ瑞貴、あなたは何人子供が欲しい? わたくしは何十人でも大丈夫ですので、あなたの望むままにたくさん愛してくださいね」


「嫌だっ! 俺の元に戻って来てくれアリスレーゼ」


 目に涙を浮かべてアリスレーゼを求めるフリオニールだが、彼女の目にはもう彼の姿は映っておらず、瑞貴に笑顔を見せながら来るべき新婚生活の夢を延々と語りだした。


 やれ子供の名前は何にするかだとか、夫婦の寝室には世界で一番大きなベッドを置こうだとか、瑞貴の大好きなアイドル風コスプレ衣裳や綺麗な下着を日本からたくさん持ってきたから順番に着てみてあげるねとか、人様にはとても聞かせられないような赤裸々な話をいつまでも続けた。


 その火力たるやすさまじく、瑞貴は穴があったら飛び込んでずっと引きこもっていたいほど恥ずかしくなり、フリオニールは完全に魂が抜けて灰のように座り込んでしまった。


 やがて戦意喪失したフリオニールがふらふらと立ち上がると、魔術具を起動させてどこかへ転移してしまった。


 それを見たアリスレーゼが慌てて瑞貴に叫ぶ。


「わたくしたち夫婦の会話を盗み聞きしていたフリオニールが逃げてしまいました! 今ならまだ間に合いますので、わたくしたちも転移してとどめを刺しましょう!」


 アリスレーゼが転移魔術具を取り出して瑞貴に押し付けてきたが、それを受け取った瑞貴はそのまま自分の荷物袋に入れてしまった。


「いや、とどめをさすのはやめておこう。今の俺にはフリオニールの気持ちが痛いほどよく分かる。きっとあいつ、シーダ姫を寝取られたばかりのヴェーダ王子と同じ気持ちなんだ」


 フリオニールはまた襲って来るかもしれないが、もう彼には負ける気がしなかった瑞貴はむしろアリスレーゼの方が心配になってきた。


 初代ティアローズ王国女王はシーダの生まれ変わりだと言う伝承が残っているが、アリスレーゼの元婚約者に対する冷たい仕打ちを見ていると、どうしても夢の中のシーダと重なってしまうのだ。


(本当にこいつ、あのシーダの生まれ変わりじゃないだろうな・・・)


 そのアリスレーゼは、フリオニールのことなどもう忘れたかのように、砂糖を大量にぶちこんだような甘えっぷりで瑞貴にしがみついている。


「フリオニールは放っといてみんなを助けに行くぞ」


 瑞貴はアリスレーゼをお姫様抱っこしたまま、みんなの元へと急いだ。

 次回もお楽しみに。


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