第38話 ダンジョンの拠点作り
久しぶりの投稿です。
また不定期になると思いますが、しばらくお待ち下さい。
試しの門番を越えて第9層に入ると、魔物の強さもさることながら冒険者のランクが一気に上がった。
「ベストラさん、この辺りの階層には手付かずの財宝はないと思いますが、ここにいる冒険者は何が目的なんでしょうか」
そう尋ねられた案内役のベストラは、前を歩く瑞貴に答える。
「そうだな・・・俺たち同様、最深部を目指す途中の者もいるとは思うが、ここにとどまっているのは魔獣討伐や対人戦闘を楽しんでいる奴らだ」
「対人戦闘を楽しむ・・・」
「いわゆる戦闘狂だ。魔獣が跋扈するダンジョンでは死が当たり前で、そこで冒険者同士で戦ったらからと言って裁判所に飛び込むバカはいないからな」
「裁判所・・・」
「実際には対人戦などお互い損をするだけで無駄だから、利に聡い大半の冒険者は対人戦を避ける。だがどちらかに大きな利益があった場合は、戦闘狂でなくても平気で攻撃をしてくる」
「ギルドの冒険者たちが言ってたのはこのことか」
「ついでに言っておくと、この前の奴らは全員弱かったからお前たちも相手を殺さず無力化できたが、ここにいる奴らはそうはいかん。襲ってくる者は人間も魔物と同じ。容赦なく殺せ」
「他の冒険者は魔物と同じか・・・」
「油断さえしなければ、お前たちなら数日で最深部までたどり着ける。問題はそこから異界門の鍵を探し出すことだがな」
◇
ベストラの言うとおり瑞貴たちは周りのどの冒険者パーティーよりも強く、圧倒的な戦闘力を見せつけながら順調にダンジョンを攻略していった。
だが第11層目に入ったところで謎の攻撃を受け、パーティー最強を誇るかなでのバリアーが一撃で消滅してしまった。
周囲を警戒していた中、誰も察知することなく致死性の攻撃を受けたことに、全員に緊張が走る。
「みんな気を付けろ!」
ここは見通しの悪い地下迷宮で死のトラップを避けながら慎重に進んでいくような場所。
つまりまともな冒険者なら対人戦を仕掛けることはしないはずで、理屈の通じない相手の可能性が高い。
だがベストラが突然前に出てスタスタ歩き出すと、それに呼応するかのように10人ほどの男たちが彼の前に立ちふさがった。
そのリーダーらしき男がベストラに話かける。
「よう、久しぶりだなベストラ。お前、騎士団長みたいなくだらない仕事に就いたくせに、今度は小便臭いガキどもを連れておままごとかよ」
「コバル、俺につきまとうのはいい加減やめろ」
「くっくっく、そうはいかねえ。お前を叩き潰すのがこの俺様の趣味みたいなもんになっちまったからな」
「くだらない趣味だ。仕方ない、こちとら先を急いでいるし、ここで決着をつけるか」
瑞貴たちの案内役に徹し、ここまでほとんど戦わなかったベストラがついに剣を構える。
王国最強に相応しい研ぎ澄まされたオーラが彼の身体から溢れ出すと、だがコバルはおどけた様子で、
「まあ待てよ。見たところお前らも最下層に行くつもりのようだし、そこで対決というのはどうだ。そこなら誰の邪魔も入らねえし、お前をぶっ殺してそこのガキどもは手下にして一生こき使ってやる」
「もう俺に勝ったつもりでいるようだが、そこをお前らの墓にしたいのなら付き合ってやる」
「契約成立だ。先に下で待ってるからお前は人生最後の冒険をガキどもと楽しんでくれ。じゃあな!」
それだけ言うと、コバルたちは大笑いしながらあっという間にダンジョンの奥へと走り去って行った。
「あの男たちは?」
瑞貴がベストラに尋ねる。
「昔一緒に活動していたパーティーメンバーだ。とは言っても、人数が必要なクエストを攻略するために一時的に加入しただけでその後すぐに抜けた。俺はソロ専門だからな」
「昔の仲間にしては随分と恨まれているようですが」
「パーティーを抜ける際にかなりもめて、メンバーの半分近くをぶっ殺しちまったからな」
「ええっ?! それはベストラさんが悪いのでは」
「だが奴らは対人戦を楽しむ殺人集団だし、俺にそんな趣味はない。用がなくなれば縁を切るのが当然だ」
「だったら最初からそんな連中とパーティーを組まなければいいじゃないですか! まあ理由はわかりましたが、かなでのバリアーを破壊できるなんてメチャクチャ強いじゃないですか。本当に大丈夫ですか?」
「あの連中の半分はSランク冒険者だから、そう簡単に倒せる相手ではないが、お前たちが手伝ってくれれば何とかなるだろう」
「半分がSランク! 俺たち全員Aランクだしそれはさすがに無理なんじゃ・・・」
瑞貴は仲間たちの顔を見渡してため息をつく。
戦闘力はティアローズ王国の精鋭部隊にも引けは取らないが、統率の取れた騎士団との戦いの経験はあっても、殺人集団との対人戦は全くの経験不足。
アリスレーゼの精神感応魔法を使えば有利には運べるかもしれないが、戦闘マニアのことだからどんな罠を仕掛けてくるか分からない。
「ベストラさん、先のことも考えて俺たちはここでの戦闘に慣れておきたいのですが」
「・・・それもそうだな。お前たちには甘さがあるというかお行儀が良すぎる。急がば回れと言うし、修行を兼ねてしばらくここに滞在するか」
◇
瑞貴たちは、このダンジョンで暮らすために第13階層までやってきた。
それまでは自衛隊の装備品を使いながら交代で仮眠を取りつつ最速でここまで降りて来たのだが、ここで生活をするとなると便利な装備品をなるべく使わず節約したい。
そのため第13層にある安全地帯の一つを別の冒険者パーティーから奪取し、ここを拠点に上下各階層間を行き来して修行をすることにしたのだった。
「彼らには悪いことをしましたね」
瑞貴たちに全てを奪われ、ダンジョンからの撤退を余儀なくされた冒険者パーティーを気の毒に思いながらも、それを指示したベストラをチラッと見る。
「弱い奴が悪い。いちいち気にするな」
このフロアーには何ヵ所かの安全地帯があるが、そこを占拠して自分の縄張りにしているのは一部のトップランカーのみで、彼らも決して弱くはなかった。
そんな安全地帯の中には彼らが残していったベッドやテーブルが揃っていたが、いかにも野郎ばかりのパーティーらしく汚し放題ゴミだらけの部屋に、あきれ果てた女性陣が掃除を始めていた。
「うちのパーティーは女子ばかりだから、この汚い部屋には我慢できないみたいですね」
そんな女子の筆頭が意外と家庭的なアンナだった。
金髪エルフの彼女は、その華麗な容姿を持つ時点でスパイとして目立ち過ぎると瑞貴は思っていたが、なぜか愛梨やエカテリーナといつも一緒にいた彼女は、様々な生活魔法を使って快適な生活を送っていた。
そんな彼女の隣に同じ金髪美少女のアリスレーゼが近づくと、生活魔法を覚えようと詠唱呪文に聞き耳を立てている。
実はレガリス王国に来て以来、かなで、弥生、愛梨の3人が瑞貴の世話を色々焼く中、生まれながらの王族のアリスレーゼだけは何の役にも立てなかった。
そこで彼女が目を付けたのがアンナの生活魔法で、彼女が魔法を使う時はこうして勉強していた。
そんなアンナも、自分に懐いてくるアリスレーゼを妹のように感じ、丁寧に魔法を教えて上げていた。
「アリスレーゼさん、この洗浄魔法ウォッシュを使うと布地にこびりついた頑固な汚れも浮かして洗い流すことができ、新品同然の清潔さと肌触りになります」
「早速やってみますね、アンナお姉さま」
いつの間にかアンナを「お姉さま」と呼びしているアリスレーゼだったが、こうして二人が並んでいると本当の姉妹のように見えてきた。
そんな浮かれたアリスレーゼの様子が気に入らない弥生は、二人の間に割り込んできた。
「ねえアンナ。私にもその魔法を教えてよ」
「別にいいですけど、あなたにこの魔法は使えないので、雨宮主幹研究員にお願いしてデバイスに機能追加してもらう必要があります」
「前から不思議に思ってたんだけど、何で私に魔法が使えないのよ」
「魔法とは神との契約によって行使される力であり、特殊な儀式を受けなければなりません」
「ふーん。じゃあその儀式とやらをやってよ」
「今は無理です。弥生さんが私の魔法を使えるようになるには、エルフの里かティアローズ王国の教会に行かなければなりません」
「ええぇ・・・。今からティアローズ王国なんか行けるわけないし、それならもっと早く言ってよ」
「そんなこと知りません。あなたたちにはデバイスがあるし、わざわざ詠唱が必要な魔法を使わなくてもいいじゃないですか」
「でもデバイスには戦闘用の魔法しか入ってないし、私も魔法で瑞貴の世話がしたいのよ」
「でしたら雨宮主幹にお願いして、デバイスに組み込んでもらえばいいのでは」
「しょうがないわね。ねえ雨宮主幹、私のデバイスに生活魔法を・・・」
「嫌よ」
だが雨宮主幹が即座に拒否。
「何でよ!」
「私はみんなのデバイスをメンテしたり、新しい攻撃魔法を開発したりで忙しいの。そんなつまらない魔法なんか作ってる余裕はないし、掃除洗濯はちゃんと自分でやりなさい」
「ちぇっ、仕方がないな。でもその方が瑞貴のポイントが高いよね」
そう言って瑞貴にアピールする弥生だった。
一方かなでは一人で黙々と掃除を始めていたが、重い鎧兜を脱いだかなではなぜか学校の体操服に着替えていたのだ。
そんなかなでに瑞貴が近づく。
「かなでって、体操服を持って来てたんだ」
「この世界に行くことが決まってすぐ、お母さんが荷物の準備をしてくれたの。他にも色んな物を持ってきたけど瑞貴くんは初めて見るよね」
「そうだな。いつもは警察支給の制服で過ごすことがほとんどだし、女子と一緒に寝泊まりするのは夜営地ばかりだったからな」
「だよね。今日からここで一緒に生活するなんて、なんか緊張しちゃうね」
「ところで他にどんな服を持ってきたんだ?」
「うーん・・・実はお母さんが勝手に用意したから、ちょっと変なものも入ってるの」
「変なもの?」
「・・・うん。たぶんお母さんなりに気を利かせてくれたんだとは思うけど・・・実は」
真っ赤にしたかなでが、瑞貴の耳元でこっそり教えてくれた。
「ええっ? そんなものまで持ってきたのか」
「そうなの。うちのお母さんって、本当に余計なことをするんだから」
「・・・ひょっとして着たことあるの?」
「・・・う、うん。・・・ひょっとして興味ある?」
「そ、そりゃまあ俺も高校男子だし・・・」
「じゃあ、今度着てみてあげようか」
「お、おう・・・」
瑞貴が思わず首を縦に振ると、かなでも恥ずかしそうに頷いた。
次回も楽しみに。
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