第37話 試しの門番
古代神殿の地上部分はかなり朽ち果ててはいたものの、弥生によると部屋の配置は夢の中とほぼ変わらない様子だった。
雨宮主幹は石柱や床に計測器を当てて線量を計測しながら進み、そんな彼女を警護しつつ瑞貴たちは広いホールへとたどり着いた。
「ここは礼拝堂ね。私の知る限り地下はまだ工事中で完成していなかった」
「つまり今回はミケ王国の時みたいに夢の知識をダンジョン攻略に活かすことはできないということだ」
瑞貴と弥生がボソボソと会話をする間にも、みんなはベストラに続いて礼拝堂の奥へと進んでいく。
巨大な石像の裏側には地下へと続く階段が隠されており、みんなは下へと降りて行った。
雨宮主幹を弥生に任せて、瑞貴は先頭を歩くベストラに追い付く。
「ベストラさん、もう少しペースを落として下さい。調べたいことがあるので」
「了解したが、知りたいことがあるなら何でも聞いてくれて構わないぞ」
「ではこの神殿はいつ建てられた物か分かりますか」
「時代か・・・これは神話の時代の遺物とされていて遥か昔ということしか分からん」
「やっぱり年代までは分からないか・・・ではこのダンジョンは何の目的で作られたものか分かりますか」
「そうだな。この手のダンジョンは大概は時の権力者の墓所だったり宝物の隠し場所になっている。そもそも神殿とは純粋な宗教目的で建てられる物ではなく、権力者が生きた証をその財宝とともに誇示して永遠の栄華を誇るための舞台装置のようなものだ。だからこそ欲の塊である冒険者を惹きつけてやまないんだよ」
「権力や富の誇示か・・・なるほど」
その後一頻りの計測が終わった雨宮主幹は、今度は地下の階層ごとにサンプルを集めることになった。
そのため少しペースを早めることにしたが、第1層から第3層までは主に兵士の詰所や備蓄倉庫として使われていたらしく、わりとシンプルで見通しの良い空間が広がっている。
所々で冒険者パーティーがテントを張っているが、彼らはここを拠点にしているようだ。
そんな彼らの脇を通って、瑞貴たちは第4層へと足を踏み入れる。
「ここから先が、王家の墓や宝物が隠されているエリアになる。入り組んだ地下迷路やトラップ、凶悪な魔物がいるから気を付けろ」
「ベストラさんは以前このダンジョンに挑んだそうですが、その時は何層まで攻略したんですか」
「第16層だ。当時はそれが最深だったが、今では第17層の攻略が進んでいると聞く」
「最深部は第何層にあると思われますか」
「さあな。第17層で終わりなのかそれ以上あるのか、まだ誰にも分からん」
そんな話をしていると、早速魔物が現れる。
RPGで馴染みのスライムだったが、身体が人間より大きい上に毒を持っているらしい。
「ここは愛梨に任せて」
いきなり愛梨が前に出ると、思念波補助デバイスを構えて火球を発射した。
バシュッ!
愛梨が使ったのはこの世界の魔法【ファイアー】に相当する思念波兵器で、火球が命中したスライムがあっという間に蒸発すると、後にコアが残された。
「そいつを集めてギルドに持っていくと、討伐報酬が貰える。金に困ってないから小銭なんか要らないが、貢献ポイントが稼げるし一応拾っておこう」
ベストラがそう言うと、熱で赤くなったコアをアンナが氷魔法で冷やして愛梨の荷物袋に放り込んだ。
その後も第4層の魔物を軽く一蹴していった瑞貴たちは、奥の階段をさらに地下へと降りていく。
第5層、第6層と下がる度に出てくる魔物も強くなっていったが、みんな争うように前に出ると、それぞれの得意属性を活かして倒していった。
そして第8層をクリアーして、下へ続く階段に差し掛かった所で、瑞貴たちの前に巨大なゴーレムが立ちはだかった。
するとベストラが「あっ」と声を洩らした。
「コイツがいたんだった・・・しくじったな」
いつも冷静なベストラの呟きに、瑞貴は意外そうに尋ねる。
「そんなに強いんですか、コイツ」
「そういう訳ではないが、コイツは試しの門番と言ってダンジョンに挑む冒険者の実力を見定めるんだ」
「つまりこいつを倒せば、先に進める訳ですね」
瑞貴は全長3メートルはあろうかというゴーレムに歩み出ると、一瞬で背後に回って念動力で首と両手足をバラバラにする。
するとゴーレムは砂状に崩れ去って、瑞貴は悠々と階段の入り口にたどり着くことができた。
「なんだ呆気ないな・・・。とりあえず門番は消えたし、みんなも早く来いよ」
だが瑞貴が手招きするのと同時に砂がむくむくと動き出すと、さっきと同じゴーレムに姿を変えた。
「・・・完全に元に戻った」
瑞貴が呆気に取られていると、ベストラがそのカラクリを教えてくれた。
「コイツが見定めるのは冒険者個人の能力だ。つまり一人ずつゴーレムに挑んで倒さなければならない」
「そういうことか。だがコイツそんなに強くないし、俺たちには余裕・・・・ああっ!」
瑞貴が気づくのとほぼ同時に、全員の目が雨宮主幹に向けられた。
運動が大の苦手のインナー派で、スピードもパワーも年齢並みの40代女性の彼女は、ギルドで冒険者登録をした際、メンバー唯一Fランク冒険者カードが発行された人物だ。
もちろん魔力もない一般人で、推奨クエストは薬草採集。最弱モンスターと戦った場合、その生還確率は50%未満という有り様だった。
「ベストラさん。このゴーレムを倒すにはどのぐらいの冒険者ランクが必要ですか」
「Cランクでギリギリと言った所。Bランクあれば余裕で倒せるレベルだ」
「じゃあ絶対に無理だ」
ここで雨宮主幹を地上に帰還させるなら、その護衛にかなでと弥生の二人はつけておきたい。
だがそうなるとかなりの戦力ダウンになるし、そもそもダンジョン探索に雨宮主幹の頭脳は必要だろう。
第8層にして計画を再考しなければならなくなった瑞貴だったが、雨宮主幹は何を思ったのか、かなでのバリアーから外に出るとゴーレムの前に歩み出た。
「ちょっと雨宮主幹、危ないですよ!」
瑞貴が慌てて止めようとしたが彼女は平然と、
「コイツを破壊するだけなら簡単なことよ」
「え?」
その言葉に全員が呆気にとられる中、雨宮主幹はバッグの中から思念波補助デバイスを取り出した。
自分には使えないと言っていたその金属棒をかざすと、次の瞬間にはゴーレムが粉々に粉砕された。
「「「えーーーーーっ!」」」
Cランク冒険者でも難しい試しの門番。
それを瞬殺した雨宮主幹が瑞貴の隣にやって来る。
「一体どうやって・・・」
すると彼女はいい笑顔で、
「私って運動神経ゼロだから、普通の戦闘ならまず負けるけど、今回はゴーレムを破壊するというテストだから、私が攻撃するまで待っててくれたじゃない」
「それはそうだけど、ゴーレムを一瞬で木っ端みじんにできたのはどうして」
「あれはバリアーを面ではなく粒状にして、空間力場の半分を加速用に使用したの。つまりロケット推進付きの散弾銃って感じかな」
「でも雨宮主幹は思念波エネルギーが使えないはず」
「それはこのデバイスが虚数空間仮想フライホイールと繋がってるから問題ないわ」
「それってこの世界に自衛隊ごと転移するため、鮫島の思念波エネルギーをこっそり貯めておいたあの」
「そうよ。でも今回のエネルギーはマクシミリアンやフリオニールたちから吸い取ったものだけど」
「ええっ! い、いつの間に・・・」
「私が彼らと接触していた時間はそれほど長くなかったけど、初対面から彼らの印象は最悪だったから遠慮なく抜き取ってやったわ」
「マジかよ・・・怖ええ」
「あいつら、魔力のない私を完全に無視してたから、魔力経路に簡単に侵入できたし、ついでに偉そうな王国貴族ども全員フライホイールに接続してやったの」
「ひええっ・・・つまり今の雨宮主幹はアイツらの膨大な魔力を自由に使えると」
「2、3千人分あるから戦闘以外なら任せて」
「お、おう・・・」
その後すぐゴーレムが復活したが、残り全員がこの門番をあっさりクリアーできたのは言うまでもない。
次回もお楽しみに。
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