第36話 古代遺跡ヴァルムガンド
古代遺跡ヴァルムガンド。
そこは古の魔導文明時代の遺物が数多く出土されるレガリス王国北部の巨大地下ダンジョンである。
その最深部に到達した者はまだ誰もおらず、大陸中から腕に覚えのある冒険者たちが莫大な財宝を目指して日夜攻略に挑んでいる。
そんな遺跡に到着した瑞貴たちは、ダンジョン攻略の経験者でもある騎士団長ベストラからブリーフィングを受けていた。
「改めて確認する。今回のダンジョン攻略の目的は、北方異界門の鍵となる宝珠と転移魔法の呪文を手に入れることだ。この両方を占有できれば北方異界門を起動して、帝国の結界を超えて南方異界門に転移することも、君たちの世界に戻ることも可能となる」
「了解した。ただ今さら疑うわけではないのですが、なぜ未発見の宝珠と呪文がこの遺跡にあることが分かったのか、よければ教えてもらえますか」
「ふむ・・・キミたちが知らないのも当然だが、これは冒険者なら誰でも知ってる常識なんだ」
「常識?」
「もう何百年も前から異界門の起動は時の権力者たちの悲願となっていて、多額の懸賞金を得ようと冒険者たちが長年に渡り世界各地を調べ尽くしたのだ」
「権力者たちの悲願・・・」
「4つの異界門はこの大陸のマナ龍脈の吹き出し口に築かれていて、そこを支配するだけでも膨大な魔力を手に入れることができるため、時の権力者たちは血眼になって奪い合ってきた」
「魔力という天然資源の獲得競争か・・・」
「さらに異界門の起動に成功すれば、魔界に囚われた古の神々を連れ戻すことができ、それは即ちこの世界の支配者になることに等しいと伝えられてきた」
「それってグランディア帝国の日本侵略目的と同じ。つまり彼らは長年の悲願を達成したということか」
「そうだ。歴史上誰も成し得なかった異界門の起動。それを世界で最初に西方異界門で成功させたグランディア王国は、残り3つを支配すべく侵略を開始した。そして最初に軍門に下ったのが亜人国家群と南方異界門であり、さらに大陸の中心に位置するティアローズ王国を攻め滅ぼすと、そこに帝都を移して侵略を本格化させた」
「そう言うことか・・・だが今の話は、アリスレーゼから以前聞いたものと少し違うな」
瑞貴がアリスレーゼに目を移すと、彼女は少し困惑したような表情を見せていた。
「わたくしが聞かされていたのは、当時のグランディア王国のアレクシス国王がわたくしを略取して世界の王になろうとしていたということです。ティアローズ王国には異界門が存在せず、彼らの侵略意図がそこにあるなど考えてもみませんでした」
「だとすればさらに疑問が残る。あのマクシミリアンからは、異界門を起動したいという意思は全く感じられなかったし、むしろ異界から来た俺たちを邪魔者のように扱っていた。ティアローズ王国が偉大な魔法王国だというのなら、いち早く異界門を起動させて神々を取り戻せばよかったじゃないか」
瑞貴はアリスレーゼに疑問をぶつけたが、それにベストラが答える。
「それはティアローズ王国の強い選民意識に起因している。ティアローズ王家は自分たちこそ神の末裔だと信じているが、その理由は、建国の祖である初代女王ティアローズが自分をシーダ神の生まれ変わりだと宣言したことにあるんだ」
「ティアローズ王国初代女王が、あのシーダの生まれ変わりだと・・・まさかそんな」
夢に出てきたヴェーダ王子の婚約者の名前に、瑞貴と弥生が思わず顔を見合わせた。
だがアリスレーゼは平然と頷く。
「我らティアローズ王家がシーダ神の末裔だというのは本当のことです。それが証拠に、シーダ様はその後何度も我が王族に転生を繰り返し、世界の人々を導いて来られました」
「シーダがティアローズ王家に転生を繰り返した。まさかとは思うが、キミはそのシーダの生まれ変わりなのか、アリスレーゼ」
「いいえ。王家の言い伝えによると、シーダ様は生まれ変わっても前世の記憶をハッキリとお持ちだったらしく、わたくしにはそのようなものがありません」
「そうか・・・よかった」
ヴェーダ王子の元を去ってヤードラ王子の子を産んでしまったシーダ王女。それをアリスレーゼに重ね合わせて顔が真っ青になった瑞貴だったが、彼女がそれを否定してくれてホッと一息ついた。
そんな瑞貴のトラウマなど弥生以外知る者はなく、首をかしげたベストラが話を続けた。
「話を戻そう。ティアローズ王国はなぜ異界門に興味がなかったか。それは自らが神の子孫で魔力にも全く困っておらず、異界門をめぐる争いを下賎の行為として距離を置いていた。一方の亜人種族はティアローズ王家を神の子孫と本気で信じており、異界門に対する執着がなかった」
その話を聞いてアリスレーゼがため息をついた。
「わたくし、日本で過ごすことでようやくティアローズ王国の傲慢さに気づきました。以前のわたくしはきっとマクシミリアンお兄様やあのフリオニールのように亜人族に傲慢な態度を取っていたのでしょう。穴があったら入りたいくらい恥ずかしいです」
「それは別にキミの責任でもないし、どちらかと言えばロベルトのような開明的な王女様だったと思うよ。それに俺たちの王国はそうならないよう気をつければいいじゃないか」
「ええっ! 俺たちの王国って・・・それはつまり、わたくしたち二人の・・・(ポッ)」
アリスレーゼの顔が真っ赤になって恥ずかしそうにモジモジするが、うっかり自爆してこちらも真っ赤になった瑞貴の耳元で弥生がささやく。
「・・・ねえ瑞貴、この古代遺跡ヴァルムガンドってあの夢の中の」
すると瑞貴が真面目な顔に戻り、
「ああ。ここは確かキミの国にあった神殿・・・」
「だと思う。でもあの頃は建物ができたばかりで地下ダンジョンなんて代物は存在しなかった」
「確かに・・・あ、そうだ」
瑞貴は雨宮主幹の耳元で事情を話すと、彼女はコクりと頷いた。
「手元にある放射線測定機だと大雑把な推計しかできないし、サンプル数を増やす必要もあって時間もかかるけど、遺跡の年代調査なら私に任せて」
そして瑞貴は全員を見渡すと、この冒険者パーティーのリーダーとして声を上げた。
「ではこれよりダンジョン攻略開始だ。行くぞ!」
次回もお楽しみに。
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