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クラスメイトは異世界王女  作者: くまっち
第2章 ティアローズ王国
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第30話 撤退戦(後編)

 太陽の抱擁が地表を焼き尽くした戦場にあって、だがフリオニール隊は未だ健在だった。


 ドルマン軍の救援に向かう瑞貴の前方で、再び上空に浮かび上がった無数の岩石が地上へと一斉に落下し始めたのだ。


「あれは土魔法メテオ! フリオニールの奴、母さんの攻撃を受けても、まだしぶとく生きていやがった。早くみんなの所へ!」


 高機動車から飛び出しそうな勢いで前のめりになる瑞貴の耳元で弥生が囁く。


「ここからなら、アイツの近くまで一気にワープできるわよ」


「え、あんな遠くまで・・・弥生お前」


「私たち二人だけならなんとかね。どうする?」


 そう言って弥生が左手薬指の指輪を瑞貴に見せる。


「私、ここに来てさらに力が増してきたの。瑞貴もそれを感じてるでしょ」


「ああ。特にここ一番の時にはどこからともなく力が湧いて来るんだ。それもこの指輪の力なのか」


 そんな二人の会話に聞き耳を立てていたアンナが、


「それはアポステルクロイツの指輪と言って、魔力を格段に高める効果があります。弥生さんがそれをお持ちなのなら、この車ごと全員で転移しませんか。このわたくしと同時にワームホールを発動することで」


 そういってアンナは、自分の指に光る指輪を見せて微笑んだ。




           ◇




 フリオニールがロベルトから騎士団を引き継いだ時には1500騎もいた騎士たちも、今では300騎程度にまでに討ち減らされてしまった。


 だが彼は絶望するどころか、憎しみの炎が心を焼き尽くしている。


「あの犬っころどもめっ! せっかく落としてやった支城を簡単に放棄したばかりか、こともあろうに我がティアローズ王国に弓を引くとは何という恩知らず。余が仕付け直してやる・・・全軍攻撃用意!」


「フリオニール殿下、我らはもう魔力の限界です。それに先ほどの敵の攻撃で多くの仲間を失った今、一度後退して騎士団の建て直しを図らなければ」


「黙れ! 仲間と言っても死んだのは魔力の低い下級貴族ばかりで、お前たち上級貴族はちゃんと生き残っているではないか」


「ですが・・・」


「数字ほどには我が騎士団の戦力は失われていないし、平民兵は今だ健在だ。ドルマン軍はなぜか平民を攻撃してこないし、奴らを盾にすれば我らは攻撃し放題じゃないか」


「し、承知しました。では平民どもに命じ・・・ふ、フリオニール様、空をご覧くださいっ!」


 目を大きく見開いた側近が見上げた遥か上空には、巨大な物体が浮かび上がっていた。


 それはフリオニールが放つメテオよりさらに一回り大きな物体で、金属のような光沢を帯びていた。


「何だあのメテオは・・・いや違う! 余より強力なメテオがこの世に存在するはずが・・・」


 愕然とするフリオニールだが、その前方数百メートル先に忽然と出現したのは、彼が目の敵にしているあの男の姿だった。


「ミズキだと・・・まさか貴様があの魔法をっ!」


 運転席に座って金属棒を空に掲げるミズキの隣には白髪の女が瞳を真っ赤に燃え上がらせてやはり金属棒をフリオニールに向けており、その後ろにも何人かの女が同様の姿勢で未知の大魔法を放とうとしていた。


 その瞬間、フリオニールは自分の首筋に死神が巨大な鎌を当てているのをハッキリと感じた。


「・・・死」


 慌てて自身のマジックバリアーを最大展開したフリオニールは、それが無駄であると直感的に理解すると脇目も振らずに逃げ出した。


 だが瑞貴の放ったメテオが、ティアローズ軍が展開する軍用バリアーにあり得ない速度で直撃するとそれを木っ端微塵に粉砕し、無防備になったフリオニール隊300騎めがけて彼女たちの魔法が殺到した。




           ◇




 瑞貴から通信を受けたさやかは、すぐにそれをポーチ姫に伝える。


「瑞貴君たちがフリオニール隊を撃破! 現在は逃走中のフリオニールを追撃しているそうです」


「よっしゃーっ!」


 敦史と翔也がグータッチを交わし、ポーチ姫も満面の笑みでそれに加わる。そして彼女は幕僚に向き直ると突撃命令を下した。


「この混乱に乗じて一気にティアローズ軍の中央突破を図ります。敵の平民兵を分断してそのまま戦場から離脱しましょう」




 前進を始めたドルマン軍は、混乱の極みにあるティアローズ軍のど真ん中を全速力で通過する。


 フリオニール隊を失ったティアローズ軍は、なぜかマクシミリアン隊までも機能せず、士気の低い平民兵が無抵抗のままドルマン軍の突破を許した。


 そしてそのすぐ後ろを、ヒッグス率いる鬼人族隊が追いかけるように続く。


 そこで動きが止まっていたマクシミリアン隊500騎がようやく動きだし、鬼人族隊に猛然と襲いかかってきた。


 すでに安全圏に離脱しつつあったドルマン軍と別れたエカテリーナとUMA戦闘員たちは、そのまま戦場に留まると、今度は鬼人族隊の援護射撃を開始する。


「どうやらティアローズ軍司令部で何か混乱が起きていたようね。アリスちゃんのことが心配だけど、マクシミリアン隊が動き出したからにはここが正念場よ。フリオニール隊より数倍強いからみんな気をつけて」


 エカテリーナが言ったそばから、マクシミリアン隊がその魔法攻撃を鬼人族隊に集中させる。


 鬼人族隊の軍用バリアーが破壊されてオークたちが魔法の業火に焼かれると、エカテリーナが太陽の抱擁で反撃して、下級貴族の肉体ごとマクシミリアン隊の軍用バリアーを消滅させた。


「鬼人族隊は遠隔攻撃の手段がないから、彼らが安全圏に抜けるまで私たちが全力で攻撃するわよ! 総員思念波エネルギーが空っぽになるまで、撃って撃って撃ちまくれ!」


 エカテリーナの檄で、UMA戦闘員全員が思念波補助デバイスを握りしめると、ありったけの思念波弾をマクシミリアン隊に叩き込んだ。



 やがて最後方の自衛隊がその射程にマクシミリアン隊を捕捉すると、再展開されたティアローズ軍の軍用バリアーを紙屑のように粉砕する。


 あらゆる攻撃に対して強固な防御力を持つ、万能なマジックバリアーにも弱点がある。それはバリアーの強度を超える攻撃を受けると、その箇所の破砕が全体に波及することだ。


 軍用バリアーの場合は世界トップクラスの魔導師の攻撃にも耐えられるよう設計されているが、この世界の攻撃魔法の破壊力がいくら強大でも、一点を破壊する「圧力」に特化したものは意外と少ない。


 だが自衛隊の砲撃はまさにこの一点の破壊力にあり、いかに魔法王国ティアローズ軍の軍用バリアーであっても、対戦車ヘリの機銃で木っ端微塵に破壊されてしまうのだ。


 結果、再生と破壊を何度も繰り返したマクシミリアン隊の軍用バリアーは、恐ろしい速度で魔石を消費していき、ついに魔石が枯渇して軍用バリアーが展開できなくなると後は個人のバリアーに頼らざるを得ない状態に陥った。


 もちろん騎士個人のバリアーは自身の魔力の大きさに比例するため、ほとんどの場合でその防御力は軍用バリアーより格段に落ちる。


 ティアローズ王国と自衛隊の絶望的な相性の悪さ。


 それ故に対戦車ヘリと10式戦車の砲撃の雨が彼らの頭上に振りかかると、その圧倒的な火力を集中されたマクシミリアン隊の惨状は、まさに地上に出現した地獄絵図そのものとなった。


 地球の長い戦争の歴史で生み出された数多の殺戮の科学技術は、この世界の住民に死の尊厳すら一切認めなかった。




『こちら加藤。わが隊は無事戦域を離脱し、これよりオーク騎士団国へ向かう。そちらの状況はどうだ』


「こちら瑞貴。フリオニール隊は壊滅させましたが、その元凶を取り逃してしまいました。遅ればせながら我々も本戦域を離脱します」


『偵察機の報告ではマクシミリアン隊はまだ200騎程度が残っているし、平民兵数千もバカにはできん。自分が生き残るためには一切躊躇してはならんぞ』


『了解しました』


『では武運を祈る!』





「と加藤陸将補は言ってたがこれからどうしようか」


 通信機を切った瑞貴は、見渡す限りのティアローズ軍をどうやって突破しようか途方にくれていた。


 フリオニール隊の掃討戦で思念波エネルギーが底をつきかけていた瑞貴たちに、マクシミリアン隊200騎と戦う余力はもう残っていなかった。


 逃げるとすれば大きく迂回して山中を進むしかないが、そこを車が走れるかどうかは賭けになる。


 それに瑞貴にはもう一つ心残りがあった。


「アリスレーゼは無事かな・・・」


 何気なく呟いたその一言は全員の頭に引っ掛かっており、だが誰も口にすることができなかった。


 だから瑞貴が「アリスレーゼを助けたい」と言っても、誰も反対しなかった。


「・・・じゃあ行くか」



 ティアローズ軍がその司令部を支城城壁の防御砦に置いていることは、自衛隊偵察機が捕捉している。


 瑞貴がそこへ向けて車を走らせると、だがその支城から新手の騎士団が突撃をかけてきた。


 たった数10人規模と数こそ少ないものの、雨宮主幹の計測器にはその一人一人が極めて高い思念波エネルギーを持っていることを、いち早く捕捉した。


 それを聞いた弥生が、ため息混じりに呟く。


「ティアローズ王国最強部隊のお出ましね。さしずめラスボス戦って所かしら」


「ゲームだと熱い展開だが、現実でやられると絶望感しかないな。アリスレーゼの救出は諦めて俺たち自身が生き残るために最後の力を使いきるしかないか」


 全員がそれに頷くと新型デバイスを握りしめて最後の攻撃を開始する。


 だがまさにその時、瑞貴たちの頭にアリスレーゼの声が響いた。


『その攻撃を止めてください! わたくしです、アリスレーゼです!』


「アリスレーゼ?」


 よく見ると、騎士たちに守られるように騎士団の中心でアリスレーゼが馬を駆っており、そのすぐ隣にはロベルトの姿も見える。


 その騎士団の後方には、さらに別の騎士団が大軍を引き連れて猛然と迫っていた。


『マクシミリアンお兄様の軍勢がわたくしを捕まえようとすぐそこまで追って来ています。謝って許されるとは思いませんがどうか助けてください瑞貴・・・』


「許すも何もキミは仲間だ! 一緒に逃げるぞ」


『ありがとう瑞貴。ではオーク騎士団国と反対方向になりますが、帝都を突っ切って北へ逃げましょう』


「帝都を突っ切るだと? いやキミがそういうのならそれが最善なのだろう・・・よし北に向かうぞ!」


 高機動車を反転させた瑞貴は、アリスレーゼの騎士団と並走すると、マクシミリアン隊の追撃を逃れながら北へ進路を取った。

 次回もお楽しみに。


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