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クラスメイトは異世界王女  作者: くまっち
第1章 マインドリーディング! アリスレーゼ第1王女登場
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第9話 アリスレーゼの怒り

 2学期はオリエンテーションが終わるとすぐに通常授業が始まる。今日の2時間目はいきなり古典だ。


 俺は古典が苦手で、日本語のはずなのに何が書いてあるのかさっぱり分からない。だがアリスレーゼには謎の自動翻訳機能があるため、特に問題なく教科書を読むことができたようだ。


 後で聞くと、3時間目の現代文よりも理解しやすかったそうで、平安時代の貴族女性の書いたあの有名な随筆が示唆に飛んでいて面白かったそうだ。


 ・・・あれのどこに共感ポイントがあるのか、俺にはさっぱりわからん。


 そして4時限目の数学Ⅱは複素数だったが、いくら自動翻訳機能があっても、こんなものアリスレーゼにできるわけがない。俺も教えるのは無理だし家に帰ったら母さんに相談だな。




 授業の合間の休み時間になるとアリスレーゼの周りはクラスメイトで一杯になった。そのほとんどが男子生徒で、女子生徒は群がる男子の外側から遠巻きにアリスレーゼを眺めているだけだ。


 だが水島かなでのように、たまたまアリスレーゼの近くに座っていた女子数人とは会話ができたようで、初めて友達ができたと俺の耳元でこっそり囁くアリスレーゼの声はとても嬉しそうだ。


 そんなアリスレーゼが俺にこっそり尋ねる。


「女子生徒には、いくつかの派閥があるようですね」


 群がる男子生徒一人ひとりに丁寧に応対しながら、同時にコイツはクラス全体を観察していたのか。そして女子グループの存在を見抜くとは、さすがは国を統べる次期女王というところか。


「アリスレーゼの言う通り、このクラスの女子は2つの大きなグループと、複数の少人数グループに分かれている。最大グループは生徒会役員をしている神宮路じんぐうじさやかのグループ。もう一つはギャルの集団でリーダーは葛城真央かつらぎまおだ」


「生徒会役員とは?」


「学校には通常、生徒たちの自治を行う組織があるんだ。彼女は1年生の時に選挙戦で書記に選出され、次の生徒会の副会長候補でもある」


「自治組織・・・ギルドのようなものかしら。ではギャルとは何でしょうか。愛梨ちゃんのご友人にも似たような方がいらしたような」


「・・・愛梨の友人のことは俺もあまり知らないが、葛城たちからはあまりいい噂は聞かない。俺は女子のグループのことはわからないが、付き合うなら神宮路たちのグループの方が無難だろう」





 初日は午前授業で、4時間目で終わりだ。俺が帰り支度をしていると敦史が話しかけて来た。


「おい瑞貴、これからどこか遊びに行こうぜ。もちろんお姉さんも一緒に!」


 アリスレーゼとお近づきになりたいという下心が見え見えだが、休み時間ごとに群がって来ていた男子たちもすぐに反応した。


「敦史、抜け駆けはやめろよ。当然俺たちも仲間に入れてくれるよな」


「どこに行く? 新学期も始まったし、カラオケにでも行ってみるか」


 俺も俺も、と男子が群がってきたが、アリスレーゼはニッコリほほ笑むと、


「皆様、お誘いありがとうございます。ですがわたくし、午後は前園家の本宅でお爺様と会う予定になっておりますので、また別の機会にお誘いいただければ嬉しく存じます」


 そして深々とお辞儀をするアリスレーゼ。


「せ、清楚すぎる・・・」


「お爺様って、理事長と会うのかよ・・・」


「これは下手に手を出したら、理事長やらエカテリーナ様やらが速攻で出てきそうだな」


「それは確かにやべえが、アリスちゃんとは是非お近づきになりたいし・・・」


 ジレンマに悩むクラスの男子たちを見て、愛梨がいつも使っている「野獣」という言葉が思い浮かんだ。愛梨はいつも、今の俺のような気持ちなのだろうか。そう考えた瞬間、その愛梨がタイミングよく俺の教室にやって来た。


「お兄っ! 一緒に帰ろ」


 赤いリボンをつけた1年生の愛梨が2年の教室に堂々と入って来る。


 アリスレーゼよりも明るいプラチナブロンドの髪を颯爽となびかせた愛梨が俺の席までやってくると、俺の手を掴んでそのまま教室の外に連れ出そうとする。


 そんな愛梨が、2年A組の雰囲気がいつもと違うことに気づく。いつもは愛梨に群がって来る男子が今日はアリスレーゼに群がっているのだ。


「ふむふむ、なるほど。お兄、お姉ちゃんは友達ができたようだし、愛梨たちは二人で先に帰ろ」


 そう言って俺のカバンを掴むと、アリスレーゼを置いてさっさと帰ろうとするが、


「アイリちゃん、わたくしも帰りますので少し待ってください」


「ちっ・・・」


「アイリちゃん、女の子が舌打ちなんていけません」


 そう言って愛梨を注意しながら教科書をカバンに詰め込むアリスレーゼ。帰り支度を終えて、教室の出口近くまで引っ張られていた俺のところまでやって来るが、そんな彼女の後ろには大学教授の問診か、はたまたゲルマン民族の大移動かと思うような男子たちの集団が、数名の女子とともにゾロゾロと付いて来た。


 だがアリスレーゼがふいに立ち止まると、まだ自分の席に座っている一人の女子生徒に声をかけた。


「かなで様、わたくしと一緒に帰りませんか」


 アリスレーゼは休み時間が始まるとすぐ、前の席の水島に声をかけていた。大人しい性格の水島はその度にビクッとしていたが、温厚なアリスレーゼ相手だと安心できるのか、ボソボソとではあったが会話も成立していた。


 アリスレーゼは、他の数人の女子もついて来ているので彼女も一緒に帰ろうと声をかけたのだろうが、水島はその誘いを断った。


「あの・・・私、今日は少し用事があって・・・」


 そう言って目をそらした彼女にアリスレーゼは少しがっかりしたものの、穏やかな微笑みを湛えて、


「承知いたしました。ではご都合のよろしい日にでも一緒に帰りましょう」


「う、うん・・・」


 キョドキョドと視線をそらしながら返事をする水島は、アリスレーゼが踵を返すととても残念そうな表情をしているように見えた。





 校舎を出て正門に向かう俺たちの周りを、ほぼ全員と言ってもいいほどのクラス男子が取巻いている。その光景に他の生徒たちも何が起こったのか興味深そうにのぞき込もうとしている。


 その時アリスレーゼが突然、


「皆様ごめんなさい。わたくし教室に忘れ物をしてしまいました。今から取りに行ってまいりますので、ここでお待ちいただけると幸いです。ミズキはわたくしについてらっしゃい」


 ・・・忘れ物って何だろう?


 そう考えていると、アリスレーゼが俺に目で合図を送った。何か事情があるようだ。


「わかった姉さん。俺たちはすぐ戻って来るから、愛梨はこいつらの相手をして待っていてくれ」


「お兄、愛梨も一緒に行くよ」


 そう言って俺に付いて来ようとした愛梨を、敦史たちが引き留めた。


「瑞貴はすぐ戻ってくるから、それまでは俺たちとお話でもしてようよ」


「ち、ちょっと待ってよお兄っ!」


 敦史たちに取り囲まれた愛梨を置いて、俺はアリスレーゼとともに再び校舎の中に戻った。






 校舎に入るとすぐ、アリスレーゼは教室とは違う方向に歩いて行く。


「こっちは教室じゃなく旧校舎だ。・・・一体どこに行くつもりだ」


「ミズキ、これからわたくしが向かう場所まで付いて来て」


 アリスレーゼがはっきりと確信を持って、どこかに向かっている。これってまさか・・・、


「魔法を使ったのか」


「ええ。まだうまくは使えないのだけど、気になることがあったので試してみたの」


「だが、この前の時のようなことが・・・」


「いいえ、お爺様との鍛錬であの時よりは魔力のコントロールができるようになりました。まだ完全には程遠いですが・・・ミズキ、こちらよ」


 アリスレーゼは旧校舎の階段を上がって行き、4階の立ち入り禁止エリアに入って行った。そして誰もいないはずの女子トイレの前に差し掛かった時、中から誰かの話し声が聞こえた。


 俺たちはそこで立ち止まると、こっそり聞き耳を立てた。




「あーし今日デートがあるし、お金貸してよ」


「・・・あの・・・私、もうお金が・・・」


「金なんか親にもらえばいいじゃん。それか、親の財布から取って来いよ」


「そんなこと・・・」


「うぜえんだよお前。とっとと、あーしらの所に金持って来いっつってんだよ!」




 これは恐喝? ・・・つまりイジメの現場か。俺はアリスレーゼの耳元で囁く。


「どうしてこの事が分かったんだ。まさか全校生徒の心を読んだとか・・・」


 俺はイタリアンレストランで何百人もの人間の思考と感情を一身に浴びて、ひどいショックを受けていたアリスレーゼを思い出した。だが、


「そんなことはしていませんので安心して。この魔法はたった一人だけ、しかも思考ではなく言葉にならない感情のみを読み取ったのです。わたくしたちがちょうど校舎を出たあたりで、彼女の不安と恐怖に怯える感情がこちらの方へ移動しているのがわかったので、その後をつけてみたのです」


「たった一人・・・彼女・・・それってまさか」


「かなで様です」


「水島か・・・でもどうして彼女に魔法をかけようと思ったんだ」


「わたくしがお誘いした際、それを断るかなで様の表情に違和感を感じましたので」


「あの一瞬の会話でか・・・」


 アリスレーゼはまだ日本の生活に慣れておらず、何かとトンチンカンな言動が目立つヤツだが、そんな微妙な表情から相手のSOSを察知するとは、さすがは一国を統べる次期女王陛下。


「話は分かった。じゃあもちろん」


「ええ、彼女を助けに行きましょう」


「だな」






 俺たちがその女子トイレに飛び込むと、水島かなでを3人の女子生徒が取り囲んでいた。


「お前らそこで何やってるんだ!」


「お前は前園・・・姉弟か。お前らには関係ないし、ていうかここは女子トイレなんだから男子は入って来んなよ、ヘンタイ!」


 そう言ったのはクラスのギャルのリーダー葛城真央だ。他の二人もクラスの女子だが、そんな彼女たちが俺を睨みつけるとアリスレーゼが割って入る。


「いい加減になさい、あなたたち! クラスメイトからお金を強請り取ろうなんて絶対に許せません!」


 アリスレーゼの剣幕に一瞬たじろぐ3人だったが、すぐに眉を吊り上げて怒鳴り始める。


「なに口出してんだよ、てめえっ!」


「理事長の孫だからっていい子ぶってんじゃねえよ、バーカ!」


「あーしらがお前に手出しできないと思ったら大間違いだぞ! あーしの彼氏は完全に頭がキレてっから、レ〇プされた後にどこかに売られちまうぞ」


 脅しと逆切れが入り雑じった罵詈雑言を叫ぶギャルたち。だがアリスレーゼは表情を一つ変えず、平然と彼女たちに言い放った。


「言いたいことはそれだけですか。なら、直ちにこの場を立ち去りなさい!」


 その時のアリスレーゼの表情に、俺はゾッとした。


 まるで氷のように冷たく見下したその表情は、いつも穏やかにほほ笑んでいる彼女からはとても想像のできない冷酷無比なものだった。




 本当に怒った時はこんな表情もするのか。


 俺の知らないアリスレーゼの一面を、初めて目の当たりにした瞬間だった。

次回、対決! お楽しみに。


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