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クラスメイトは異世界王女  作者: くまっち
第2章 ティアローズ王国
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第30話 撤退戦(前編)

 方針が決まると、瑞貴はドルマン軍をさやかとエカテリーナの二人に託した。


「俺は急ぎヒッグスの所に戻る。弥生とかなでは俺と一緒に来てくれ。転移陣を逆走して、向こうの支城の敵陣ど真ん中に突っ込むぞ!」


「面白いじゃない! 腕が鳴るわね」


「バリアーなら任せて。瑞貴くんのことは私が絶対に死なせない」


 そして二人を連れて部屋から出ようとしたその時、部屋の扉が開いて愛梨が入ってきた。


「やっと目を覚ましてくれた・・・お兄遅いよ」


「愛梨、心配をかけてすまなかった。お前の望む未来ではなくなったが、最後の最後まで足掻いてやるさ」


「お兄は本気なんだね・・・だったら愛梨も手伝ってあげる。本当にお兄は手がかかるんだから」


「愛梨も一緒に来てくれるのか?」


「お兄と愛梨のコンビ復活だよ。愛梨たちが組めば、敵が何人いようと絶対負けないから」


 久しぶりに見た愛梨の笑顔に、瑞貴はすっと心が軽くなった。


「愛梨ちゃんが行くなら、このわたくしもお供しなければなりませんね」


 工作員のアンナも突然名乗りを上げる。


「アンナさんは戦闘員じゃないし、危険だぞ」


「ご心配には及びません。わたくしはこの世界の住人ですし魔法も使えます。きっとお力になれますわ」


「そう言えばアンナさんはエルフだったな。じゃあ、遠慮なくその力を借りるぞ」




            ◇




 ティアローズ王国自慢の転移陣は、支城中央付近に造られた古代ギリシャのコロッセアムを彷彿とさせる円形構造物の床に描かれた、直径約百メートルほどの魔法陣だ。


 膨大な魔力を蓄えたこの転移陣からは続々と敵騎士が出現し、それを待ち受けるドルマン軍との間で激しい戦いが繰り広げられていた。


 そんな戦場のど真ん中に突撃した5人は、かなでと弥生の展開する二重のバリアーに守られながら、転移陣を逆走してヒッグスたちが現在攻略中の支城の転移陣へと至った。


 そこには更におびただしい数の敵兵が待ち構えていて、瑞貴たち5人に魔法の集中砲火を浴びせかけるが、その全てをバリアーが跳ね返していく。


「敵の攻撃が激しすぎて、全然前が見えないぞ」


「大丈夫、進むべき方向を未来予知するから、みんなは愛梨についてきて」


 敵城塞の中を迷うことなく突き進んだ瑞貴たちは、敵の猛攻を弾き返しながら最短距離で鬼人族隊の陣営へと駆け抜けた。


 やがて敵の攻撃が疎らになると行く手にオークの集団が見えてきた。そんな彼らの背後には、おそらく多くの犠牲を払って確保したであろう防御砦があった。


「お兄、あの中にヒッグスがいるよ」




 オーク兵に案内されて砦の中のヒッグスと合流すると、瑞貴はフリオニールとポーチ姫との間に起きた出来事を話した。


 そして今回の作戦を放棄してティアローズ王国とは袂を分かち、今後は亜人種族とともにグランディア帝国と戦うことを伝えた。


「ヒッグス、お前の力が必要だ。俺たちはオーク騎士団国で体勢を整え、全亜人種族の力を合わせて再びこの地に攻め込むぞ」


 ヒッグスは瑞貴の足下に跪くと、最敬礼でその命令を受諾した。


「御意! 我らオーク族は瑞貴殿に忠誠を誓い、常に瑞貴殿の旗の下で戦います。さあいざ行かん、我が祖国オーク騎士団国へ!」


 全幕僚も次々と瑞貴に頭を垂れて忠誠を誓い、直ちに撤退を開始した。


 それを見届けた瑞貴たちは、ヒッグスたちが使用していた高機動車を借り受けると、戦車部隊を指揮する加藤陸将補の元へと車を走らせた。




           ◇




 加藤陸将補と合流した瑞貴は、ティアローズ王国との同盟を破棄して戦略を根本から見直すことを提案。同時にティアローズ王国全権大使の職を辞することを告げた。だが、


「戦略変更は結構だが、大使の職は続けてほしい」


「しかしあの国とはもう縁を切り、全権大使は不要。今後は加藤陸将補が直接指揮を取って・・・」


「それはできない。我が隊は文民統制を基本とし、内閣総理大臣に権限を委任された君が総司令官なんだ。それに君は本当によくやってくれているし、あの国との訣別は並みの政治家にはできない英断だよ。我々の君に対する信頼は決して揺らぐことはない」


「加藤陸将補・・・」


「では撤退戦を開始するとしよう。なるべく多くの鬼人族を生還させるように最善の努力はするが、我々の弾薬では敵殲滅には到底足りず、足止めのための威嚇攻撃しかできない。危険と判断すればすぐ逃げるぞ」


「それで結構ですので必ず生きて帰りましょう。それと今回の戦いはグランディア帝国に完全に手の内を見抜かれてました。支城の転移陣は改造され、帝都から精鋭部隊が送り込まれています」


「そうか。こちらも偵察機から報告が入り、新たに2万の兵力がこの戦域に向かっているとのことだ。おそらく別の戦域の兵力をこちらに振り向けたものと思われるが、帝国はこの期に乗じてティアローズ王国を徹底的に叩く算段だったらしい」


「総兵力6万、いやそれ以上か・・・」


「我々はオーク騎士団国を拠点に仕切り直しだ。あそこは天然の要害で大軍を送り込むには不向きな地形。それにミケ王国との補給路は既に完成し、全隊での拠点防衛が可能だ」


「了解です。ではここからは俺たちも参戦します」


 瑞貴が高機動車に戻ろうとすると、近くで話を聞いていた雨宮主幹もこちらに帯同すると言い出した。


「瑞貴君、折角の機会だから新型デバイスのテストをしてみましょうよ」


「新型デバイス?」


「実はロベルト王子からティアローズ王国の魔法を色々教えてもらい、それを参考にみんなのデバイスに機能を追加しておいたの」


「ロベルトが? あいつそんなことを・・・」


「使い方は後で説明するから早く出発しましょう」




           ◇




 最前線に展開していた鬼人族を後退させ、代わりに自衛隊が前に出ると、地平線を埋め尽くすような敵の大軍に対し、10式戦車の砲塔が火を噴き、対戦車ヘリが敵上空から鋼鉄の雨を降らす。


 バリアーが貫通された間隙をぬって頭上で炸裂した地対地ミサイルの炎熱が騎士達を飲み込み、遥か彼方からの一方的な殺戮に恐怖しその足を止める。


 そんな戦況の中、瑞貴たちは新型デバイスの試射を敢行した。


 雨宮主幹がデバイスの機能を説明する。


「まず瑞貴君の念動力だけど、これは電磁気力と重力の2つに分解できるの。例えば椅子を手で持ち上げるという動作は、手のひらと椅子表面との摩擦力を介して上向きの力が働くからで、これは電磁気力・・・」


「理論的な話は後でゆっくり聞くから、今は使い方だけ教えてくれ」


「もうせっかちね。それじゃ女子にモテないわよ」


「モテなくていいから、早くしてくれ!」


「はいはい。瑞貴君の念動力はこちらの世界の魔力属性に置き換えると土と雷になるの。だからメテオとサンダー2つの魔法に相当する思念波兵器を作ったわ。使い方はタブレットに送ったメールを読んでね」


「メテオ・・・よりによってアイツと同じ魔法かよ」


「弥生ちゃんは闇属性だからワームホールを、かなでちゃんは光属性だからライトニングを、愛梨ちゃんは火属性だからエクスプロージョンを、それぞれ現代物理学を駆使して破壊力を増しておいたわ。名前はないから好きに呼んでいいわよ」


 デバイスを受け取ったみんなは、自分のタブレット端末に送られたマニュアルにさっと目を通す。


 そして各自試射を開始した。


 試しに瑞貴がメテオを撃ってみると、フリオニールよりも一回り大きな岩石が重力加速度を遥かに超えて地面へ激突した。


 その衝撃で帝国騎士団の一部が消滅し、後に大きなクレーターが残された。


「何なんだこの武器は・・・破壊力が桁違いだ」


「質量は密度と半径の三乗にそれぞれ比例して、位置エネルギーは重力加速度の・・・」


「・・・それも後で聞くよ。次はサンダーだ」


 サンダーと言えば電撃魔法で、RPGでは初期魔法としてお馴染みのものだが、瑞貴がそれを発動すると眩い閃光とともに巨大なキノコ雲が発生し、騎士団の一部が消滅した。


「これのどこがサンダーなんだ! 核爆弾かよ」


「そんな大したものじゃないわ。単に原子核の周りを回っている電子を強制的に遊離して・・・」


「ゴメン、雨宮主幹に聞いた俺がバカだった。とにかくこれを使ってあの大軍勢の足止めをするよ」


 他のみんなもそれぞれ試射を行ったが、魔法の種類は全く異なるのに、全員キノコ雲が発生していた。


「物理兵器として殺傷力を極限まで高めると、その属性に関係なく思念波エネルギーの効率的変換に行き着いてしまって、出来上がりは全部こうなっちゃうのよ。要するに、何Jジュールのエネルギーを敵に投下できるかがポイントで・・・」


「ごめん雨宮主幹、その説明は無事に帰還できたら後にウチの母さんと徹夜で語ってくれ」

 次回もお楽しみに。


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