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クラスメイトは異世界王女  作者: くまっち
第2章 ティアローズ王国
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第29話 帝都攻略戦(前編)

 4月3日。


 急ピッチで修復が進められるヴァリヤーグ公爵城は、今はその名称も変わり、フリオニールの居城であることが分かるようティアローズ大公城とされた。


 この日、城の上階の会議室には軍司令官が一堂に会していたが、そこにランツァー軍の司令官の姿はなく記録係が1名オブザーバとして参加するのみだった。


 と言うのも古くからの盟友国であるティアローズ王国がヴァリヤーグ領を取り返した今、ランツァー王国の当初の目的である緩衝地帯の獲得を達成したため、駐留部隊を残して既に撤退を終えていたのだ。




 そんな彼らと入れ変わるように、自衛隊からは加藤陸将補、ドルマン王国軍からはポーチ姫、鬼人族レジスタンスからはヒッグスがその幕僚や側近を連れて会議室の一角を占めていた。


 もちろん全権大使であり総司令官の瑞貴とその保護者のエカテリーナ、作戦参謀のさやかの3人もこの会議に出席している。


 この会議メンバーは「ティアローズ連合軍」を結成し、以下の戦力で帝都ティアローズ攻略作戦を開始しようとしていた。



 ティアローズ王国軍10000

(公爵領で徴兵された兵士8000を含む)


 ドルマン王国亜人解放軍5000

(ティアローズ原理主義派2000が志願)


 鬼人族レジスタンス5000

(旧オーク騎士団国の生き残りを糾合)


 自衛隊3000




 正方形の会議卓を囲んだ出席者のうち、ティアローズ王国側はその中央にアリスレーゼとフリオニールの二人を据えた。


 今回の作戦はこの二人が全体の指揮を執り、王城奪還の暁にはティアローズ王国の復活とアリスレーゼの戴冠、そして二人の婚姻を全世界に発表する。


 だがその実態はマクシミリアン王子の筋書きに従いフリオニールに王配としての箔をつけさせ、二人の元に民衆を統合させる政治ショーを兼ねていた。


 そんなティアローズ王国の正面には同盟国の日本側が座り、その中央の瑞貴の隣に加藤陸将補とロベルト王子の姿があった。


 公爵領の奪還以来、兄のマクシミリアンに不信感を募らせ、ほとんど言葉を交わさなくなった弟ロベルトを、昨日ここに到着したばかりの加藤陸将補は残念そうな表情で見つめた。



「さて全員が揃ったようなので、これよりティアローズ王城奪還作戦の軍議を始める」


 実質的なリーダーであるマクシミリアン王子の発声により、そのブリーフィングはスタートした。



           ◇



 今回の作戦はこうだ。


 ここティアローズ大公城と帝都ティアローズの間には狭隘な回廊が存在し、そこを3つの支城が行く手を阻んでいる。


 帝都を攻略するにはその全てを占領若しくは無力化しなければならず、これを怠れば敵が容易に後背を突くことができ、退路が断たれてしまう。


 つまりこの3支城を占領してここを橋頭堡とすることが、帝都攻略戦の最初の目標となる。


 そんな3支城は魔法大国・ティアローズ王国が建造した自信作であり、魔法攻撃と物理攻撃の両方に耐えうる堅牢な城塞であることに加え、3支城間で互いに援護できるように巨大な転移陣が完備されて一度に大軍を転送できる仕組みなのだ。


 つまり3支城は距離が離れていながらあたかも1つの城塞のように機能するため、タイミングを合わせて同時攻略することが本作戦のカギとなる。


 そんな支城に帝国軍は総勢1万の守備兵を配置し、さらに帝都防衛に当たる3万超の騎士団がいつでも3支城を支援できるよう帝都前の平原に展開している。


 作戦概要を説明したマクシミリアンは、最後に各軍の役割分担を確認した。


「帝都に最も近い支城は帝国騎士団の攻撃も予想されるため、強靭な肉体を持ち攻防ともに優れた鬼人族レジスタンスが、中央にある3支城の司令部はドルマン王国軍が、外敵に備えるために最も堅牢な構造を持つ後方の支城はティアローズ軍がそれぞれ受け持つ」


 この分担は既に調整済みで全員が了解しているものだが、ここでフリオニールはあえて発言をする。


「この3支城はティアローズ王国の魔導技術の粋を集めた防御陣であり、その攻略には我らはティアローズ王家も血を流す覚悟である。それはそこにいる鬼人や獣人どもも同じなのに、なぜ日本軍だけがその役割を担おうとしない。この期に及んで命を惜しんでいるのではなかろうな」


 理由を知っていてわざと挑発するフリオニールに、瑞貴はうんざりした表情で反論しようとするが、加藤陸将補がそれを制止して代わりに答えた。


「我々はこの時期の帝都攻略への参加は難しいと、これまで再三申し上げたはず。主力の戦車部隊を展開するには補給態勢の確保が必須であり、帝都南方に位置する旧オーク騎士団国の奪還をなし得たばかりの我々にとって、ミケ王国との間で給油トレーラーの走行が可能となるよう道を整備するため、最低でもあと一か月は時間がかかる」


「そんな悠長なことでは困るのだよ。我らは一刻も早くティアローズ王城をこの手に取り戻し、アリスレーゼの女王即位と我らの婚姻を全世界に届けて、皆を勇気づけなければならないのだ。そんな王家の義務をどうして理解できないのかな、キミたちは」


 アリスレーゼの肩を抱き寄せながら、加藤陸将補にため息をつくフリオニール。


 そんな彼に抱かれたアリスレーゼは、一瞬身体を強張らせはするものの、何もかも諦めたように彼のなすがままを受け入れた。


 そんな彼女の姿を寂しそうに見つめる瑞貴に、フリオニールは冷やかな笑みを浮かべて言った。


「今回の作戦で王城奪還が成し遂げられれば、貴国と同盟を結んでしまった義兄マクシミリアンの顔に泥を塗ることとなる。世界の中心たる我がティアローズ王国に対し、日本国がどのような誠意を見せてくれるのかぜひご教示願いたいものだな。フハハハハッ!」


 日本との同盟が無駄だったと決めつけるフリオニールに、だが加藤陸将補は淡々とそれに答える。


「もちろん何もしないわけではない。我が隊からは戦車部隊とヘリ部隊をそれぞれ二個中隊派遣し、最も激戦が予想される鬼人族隊に帯同させるつもりだ」


「ほう、戦車部隊とは何とも大仰な名前を付けたものだな。せいぜい彼ら鬼人どもの邪魔にならないよう、身体を張って戦うがよいぞ。フハハハッ!」



           ◇



 ブリーフィング終了後、準備のできた部隊から順次進軍が開始され、瑞貴と仲間たちも出発するため高機動車に乗り込んだが、その時アリスレーゼの声が頭の中に響いた。


『最後にお別れを言いに来ました、瑞貴・・・』


「アリスレーゼ・・・」


 見ると柱の陰からアリスレーゼがこちらを見つめており、瑞貴は慌てて車から飛び降りると彼女の元へと駆け寄った。


 アリスレーゼと接触することはマクシミリアン王子から固く禁じられており、精神感応魔法も彼に気づかれるため、彼女とは久しぶりの再会となる。


「・・・久しぶりだなアリスレーゼ」


 だが話そうとしても上手く言葉が出ない瑞貴に、アリスレーゼは目に涙を浮かべて謝罪と感謝の気持ちを伝えた。


「本当に色々とごめんなさい瑞貴。そして今までありがとう・・・ございました」


「俺の方こそ、結局キミの力になれなくて本当にすまなかった。やはりキミはティアローズ王国の女王で、俺は部外者の日本人。キミを助けたくても・・・俺には何もできなかった。・・・本当に悔しいよ」


 そんな二人の様子を見守っていたロベルト王子は、だが今の自分に何もできないことを理解していた。


「アリスレーゼ・・・ミズキ・・・」


 二人の肩に両手を置き、悔しそうに顔を歪めるロベルトだったが、アリスレーゼの後ろからあの男がゆっくりと歩いてきた。


「やはりここにいたのか妻よ。そんな平民のことなど早く忘れて、我らの王国の未来だけを考えてくれ」


 そう言ってアリスレーゼを抱き寄せると、瑞貴には目もくれずに彼女を連れて去っていった。




           ◇




 4月10日。


 作戦区域に到達したティアローズ連合軍は、速やかに作戦を開始した。総勢2万を超える大軍勢が3隊に分かれて、各支城を同時に攻略する。


 そのための通信手段として、ヒッグスとポーチ姫には通信機が手渡され、ティアローズ側はアリスレーゼの精神感応魔法によってポーチ姫とのみ交信を行う。


 つまり自衛隊とティアローズ軍の間に直接通信できる手段はなく、常にポーチ姫が仲介することで作戦を進めることになる。




「こんな状態で戦えるわけないだろがっ!」


 ヒッグス率いる鬼人族と帯同して、対グランディア帝国の最前線に展開する自衛隊。


 その司令部のすぐ近くを2台の高機動車で並走するUMA戦闘員部隊。


 その車内では、ティアローズ王国のやり方に完全に頭に来た敦史が、瑞貴に八つ当たりをする。だが何も答えない瑞貴に代わって弥生が敦史に言い返した。


「そんなことみんな分かってるわよ敦史。それでも何とかしようと瑞貴はこれまで頑張って来たけど、その全てを向こうが台無しにしてきたのよ」


「そんなの俺も見てたし、分かってるよ。でも!」


「今の私たちにできることは、この作戦を無事に成功させて全員で日本に帰ること。その後ティアローズ王国がどうなろうと、私たちの知ったことではないわ」


 瑞貴の隣に座るロベルト王子に当て付けるように、弥生はティアローズ王国への不満を爆発させるが、それでも敦史は現状を変えようと瑞貴に問いかける。


「じゃあ、アリスレーゼはどうなってもいいのかよ。なあ瑞貴、何か答えろよ・・・」



 今にも泣きそうになりながらも、敦史は瑞貴に答えを迫ったが、今の瑞貴には誰の言葉も届かない。


 大公城で最後にアリスレーゼと会って以来、瑞貴は自分の無力さに絶望して、ずっとふさぎ込んでいた。


 高校3年生に進級したばかりの彼にとって日本国全権大使はやはり荷が重すぎたのだ。


 日本への攻撃を阻止するために、日本政府は自衛隊を送り込んでグランディア帝国との全面戦争を決断。その同盟相手としてティアローズ王国を指名し、その全権大使として次期女王アリスレーゼと懇意の瑞貴が内閣総理大臣から任命を受けた。


 瑞貴の行動には日本国民の生命が重くのしかかり、その判断は一つ一つ重く決して間違ってはいけない。


 ・・・いや、間違ってはいけなかったのだ。


 だが今の自分とティアローズ王家との間に信頼関係はなく、アリスレーゼは自分の元を離れフリオニールのものとなった。


 妹の愛梨は絶望のあまり、瑞貴と顔を合わせることも拒絶している。


 つまり瑞貴は判断を誤り、間違った未来を選択してしまったのだ。




 何を話しかけても虚ろな瑞貴に母親のエカテリーナはこうなってしまった責任を強く感じ、彼の通信機を手に取ると、そのスイッチを入れた。


「瑞貴が立ち直るまで保護者である前園エカテリーナが総司令官を代行します。自衛隊各隊は平原に展開する帝国騎士団3万に対し、攻撃を開始せよ!」

 次回もお楽しみに。


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