第25話 ランツァー王国
3月1日。
10機のヘリ部隊がランツァー王国の王都イグルス近傍に到着した。
攻撃ヘリが警戒する中、2機の輸送ヘリから神宮路家のトレーラーハウスと高機動車が搬出されると、UMA戦闘員がそれらに乗り込んで、ヘリ部隊とともに街道を王都へ向けて走り出した。
街道には傭兵に守られた隊商が数多く行き来しているが、その誰もが一群を興味深く見つめている。
彼らはみんな背が低く、男性はがっしりした体形に豊かな髭をたくわえており、女性は小柄な少女のような容姿をしている。
ポーチ姫によると彼らはドワーフ族と呼ばれ、その母国ランツァ-王国は大陸で最も高度な技術を誇る工業国ということだった。
実際、隊商が荷を運んでいるのはこの世界でよく見かける馬車ではなく、蒸気機関を搭載した自走式トレーラーであり、地球で言う蒸気機関車を小型にしたようなトラックが貨車を連結させて走行している。
ランツァー王国の都市間の道路は舗装されており、亜人居住区域では荒れ地をゆっくり走ることがほとんどだった高機動車やトレーラーハウスは本来の性能を取り戻して、隊商を抜き去りながら王都へ爆走した。
王都イグニスは、山岳地帯の中腹に建てられた城塞都市で、街道は整備されてはいるものの、そこに至るには急峻な峠や渓谷を通らなければならず、攻めにくく守りやすい堅城であった。
だがその王都上空に悠然と到着したヘリ部隊は、王国軍やたくさんの民衆が見守るなか威嚇射撃を敢行。機銃から発射された砲弾が遥か遠方の崖地を破砕し、岩盤が谷底へと崩れ落ちていった。
ランツァー王国が保有する如何なる兵器より射程が長く、強力な破壊力を持つ攻撃ヘリが、堅固な城壁を完全に無視して王都上空を自由に飛び回る。
そんな恣意行動を見せつけられたランツァー王国は、だが怒りや敵がい心より純粋な興味が上回った。
「この未知の兵器を持つ来訪者が面会を求めている」
城門からの知らせを受けた国王ゾロワーフは、すぐに彼らを王城に迎え入れるよう指示を出した。
◇
ここまではポーチ姫の作戦通りだ。
幼少の頃から王族外交と呼ばれる人質生活で各国をたらい回しにされていたポーチ姫が、ゾロワーフ王の性格を逆手にとって立てた作戦だが、本当の勝負はここからだった。
武器を持っていないことを確認され、謁見の間に通された瑞貴とアリスレーゼ、ポーチ姫の3人は、玉座に座るゾロワーフと対面する。
「誰かと思えば犬人族の姫ではないか。名前は確か」
「ポーチにございますゾロワーフ王」
「そうだったなポーチ姫。しかしドルマン王国があのような兵器を持っていたとは驚きだ。どうだ、あれを一つ譲ってもらえないだろうか。ぜひ分解したい」
「それでしたら、ここにいる二人とお話しいただきとう存じます」
「そうか。ではそなたら面を上げい」
顔を上げてゾロワーフ王の顔を見据えた二人。
その王の眼がアリスレーゼに向かうと、あり得ない物を見たように硬直する。
「お久しぶりですゾロワーフ王。ティアローズ王国でお顔を拝見して以来ですので、かれこれもう10年になりましょうか」
「やはりそなたアリスレーゼ王女殿下か! いやはやすっかり大人になられたが、当時の面影はちゃんと残っておる。だが王女は亡くなられたと聞いていたが」
「毒を飲んで自害しましたが、不思議な力に導かれてこうして生きてこの地に戻ることができました」
「生き返ったということか! それはよかった。そなたの兄上たちもきっと喜ぶに違いあるまい」
「はい! それでお兄様たちはどちらへ」
「我がランツァー王国軍に帯同して、グランディア帝国軍と交戦中だ。旧ヴァリヤーグ公爵領の奪還を目指しているが、彼ら二人は転移陣を使ってこちらに戻ってくることも多い。いずれ王城に顔を出すはずだからそれまでここに滞在するとよい」
「ありがとう存じます。では我らの仲間も入城を許可いただきたく」
「よかろう。皆を客人として迎え、今夜は晩餐会と行こうではないか」
◇
そしてその言葉通り、その夜ゾロワーフ王は王城で晩餐会を開催してくれた。
大ホールにはドワーフ貴族たちが集まり、瑞貴たちを歓迎する。
だが彼らの本当の目当ては、中庭に格納した対戦車ヘリ(AH-1S)、輸送ヘリ(CH-47)、高機動車、トレーラーハウスの見学をすることだった。
好奇心旺盛なドワーフ貴族たちは、自衛官や雨宮研究主幹たち技術陣に質問の集中砲火を浴びせかけた。
また、日本独自の魔導兵器「思念波補助デバイス」にも多大なる関心が寄せられ、その実演として敦史、翔也、かなでの3人が中庭に設置された演舞台でデモンストレーションをさせられた。
そんな様子に満足げなゾロワーフ王は、主賓であるアリスレーゼ、ポーチ姫、そして瑞貴とその婚約者のさやかの4人と歓談をしていた。
「それではミズキ殿がこの部隊の総司令官ということだな。どうだろう、この兵器を我々に譲ってはもらえないだろうか」
「申し訳ないがそれはできません。グランディア帝国の我が国への侵略を防ぐための最小限の装備しか我々は持ち合わせていないのです。それにこれを運用するには高度な技術が必要で、ランツァー王国に提供してもおそらく意味をなさないでしょう」
「我々の技術を持ってしてもダメなのか・・・それはますます欲しくなったぞ。例えば技術供与や消耗品の取引という形ではいかがだろうか」
「それなら協力できることがあるかもしれません。現在我々の本隊はミケ王国周辺に展開中で、亜人居留地域にいる帝国軍を掃討しているところですが、そこで部隊を運用している指揮官に話をすれば、具体的なアイディアが出るかもしれません」
「分かった。我々ランツァー王国は、このような高度な技術を持つ日本国と是非友好関係を結びたい」
ゾロワーフ王が満足そうにグラスを傾けていると、突然大ホールの中に二人の男が入って来た。
「この戦争のさなかに祝宴とは、どう言うことなのだゾロワーフ王!」
ギリシャ彫刻のように整った容姿の青年二人が、血で汚れた甲冑のまま大ホールをずかずかと王の元へ近づいて来る。
その語気は荒く、王に対する不満がにじみ出ているが、ゾロワーフ王はそれを気にするどころか満面の笑みで彼らを迎えた。
「おお、二人とも待ちかねたぞ!」
その言葉とほぼ同時に、アリスレーゼが席を立って大声で叫んだ。
「お兄様!」
すると二人の青年は呆然と立ち止まり、
「まさか・・・アリスレーゼ・・・なのか」
「はいマクシミリアンお兄様、ロベルトお兄様。妹のアリスレーゼです。わたくし、この世界に無事帰還いたしました!」
◇
ゾロワーフ王の計らいで別室を用意してもらった瑞貴たちは、アリスレーゼとその二人の兄との涙の再会に立ち会った。
母親の遺志とは言え、妹を死なせてしまった自分を責めていた二人の兄は、アリスレーゼの帰還を心から喜び、何があってもアレクシス皇帝から彼女をから守り抜くと神に誓った。
そんな再会劇もひとしきり落ち着くと、瑞貴は日本国とティアローズ王国の共闘を持ちかけた。
話を聞いたマクシミリアン王子は、
「改めて礼を言わせてほしい。我が妹アリスレーゼをここまで導いてくれて本当に感謝する、ミズキ殿」
二人の王子が瑞貴たちに深々と頭を下げる。
「こちらこそ、アリスレーゼをお二人に再会させることができてホッとしました」
「さて貴国と我が王国との共闘だが、喜んでその提案を受けさせていただきたい。我々は王国貴族の騎士団をなんとか糾合して、ようやく3000に手が届くかどうかという戦力。だがキミたちが加わってくれればヴァリヤーグ公爵領奪還も夢ではないだろう」
「そう言っていただけて光栄です。我々の本隊がこの戦域に到達するのはまだ少し先の話ですが、10機のヘリ部隊と俺たちUMA戦闘員はすぐにでもお手伝いできます」
「中庭でドワーフ貴族たちが群がっていたあの異形の兵器のことだな。あれはどのようなものなのだ」
「空中を高速で駆け巡り、100騎のオーク騎士団を瞬時に壊滅できる戦力です。実際、グランディア帝国ヴェイン伯爵の部隊を数度に渡り撃退しました」
「本当なのかそれは・・・そのような戦果がたったあれだけの武器で」
「我々の本隊はさらに強力で、亜人居留地域にいる帝国軍はほぼ駆逐しました。あとは帝都ティアローズを解放するのみ」
「あの帝国軍を・・・信じられん。まさか調子のいい出まかせを言っているのではないだろうな」
「お兄様! 瑞貴がウソを言うはずがないでしょう。わたくしたちは強大な戦力を持って、この世界を帝国から取り戻しに来たのです。さあ手を取り合ってグランディア帝国と皇帝アレクシスを討つのです!」
次回もお楽しみに。
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