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クラスメイトは異世界王女  作者: くまっち
第1章 マインドリーディング! アリスレーゼ第1王女登場
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第8話 女子高校生アリスレーゼ

 新学期。


 長い夏休みが終わって今日から学校が始まる。


 簡単に朝食を済ませて身支度を整えた俺は、カバンを片手に玄関で靴を履く。


「行ってきます」


 洗面所を占拠していた愛梨に向かってそう声をかけると、廊下の奥から愛梨が慌てて飛び出してきた。


「待ってよお兄! 愛梨も一緒に行く」


「早くしないと、置いて行くぞ」




 愛梨は小学生の頃から高校生になった今でも、俺と一緒に登校を続けている。俺を野獣の群れから守るためだと言っているが、誰も俺のことなんか狙ってないし、現に女子から告白されたことなど一度もない。


 いや、小学生の頃に一人だけ変な奴がいたか。


 とにかく無駄なことは止めて、愛梨は友達と登校すればいいのに。


「お待たせ、お兄。早く行こ」


「お、おう」


 準備を終えた愛梨が小走りに玄関にやって来ると、ローファーを素早く履いて外に飛び出した。


「お兄、早くしないと置いてくよ」


「小学生じゃないんだし、道路に飛び出すなよ」


 紺のブレザーに茶系のチェックのスカート。


 少し短めにスカートを詰めた制服姿の愛梨が足を止めて振り返ると、俺の手を引っぱって外に連れ出す。


 胸元には一年生カラーの赤いリボンが、そしてブレザーの胸には校章のワッペンが付いていて、ちょっとお嬢様っぽい。


 アリスレーゼも今日からウチの学校に編入するのだが、制服が学校に送られているらしく、母さんと先に学校に向かった。入学に必要な書類の作成やオリエンテーションもまとめて終わらせるとのこと。


 だから今朝はいつもと同じように、俺と愛梨の二人で登校する。





 新興住宅街を通り抜け、川の堤防を北に向かって歩いていく。少しだけ遠回りになるが、ここだと車が通らないし、広々してて気持ちがいい。


 この堤防を通学路にしているのは、学校の徒歩圏内に住んでいる生徒たちだ。一人で登校する生徒が大半だが、中には彼女と手をつないで登校するけしからん輩も存在する。


 そんなカップルを見ながら愛梨が俺に言った。


「お兄には愛梨がいるから、彼女なんかいらないね」


 愛梨は玄関からずっと俺の手をつないでいる。事情を知らない人から見れば、俺が彼女連れで登校するけしからん輩の仲間に見えるかも知れない。


 だがコイツは俺の実妹。妹と手をつないで毎日登校するなんて、小学生でも嫌がるだろう。愛梨だけは楽しそうに登校しているが。


「・・・まあいいか」


 すれ違った大人たちはともかく、同じ高校の生徒たちは俺たちが兄妹であることはよく知っている。だからここで愛梨の手を振りほどいて見せても、みんなには今さらだろう。


 だから愛梨がそれでよければ、俺は別に構わない。





 やがて堤防の先に学校が見えて来る。グラウンドでは部活の朝練が行われていて、生徒たちの掛け声が聞こえてくる。正門は堤防と反対側にあり、グラウンド横の側道を通って幹線道路側に出た所だ。


 電車通学の生徒は駅からこの幹線道路を歩いて登校するため、正門の前で生徒の数が一気に増える。生徒の列に合流した俺と愛梨を、みんなが一度はちらっと見るが、特に気にすることもなく正門を通って校舎へと入って行く。だが一学期はそうじゃなかった。


 愛梨は男子生徒たちから絶大な人気があり、事情を知らない高校からの編入組が俺のことを敵視していた時期もあったが、夏休み前には誤解も解けて今は生暖かい視線に包まれている。


「よっ! 瑞貴久しぶり」


 校舎に入ってすぐの所にある2年A組の靴箱で声をかけて来たのは、友人の伊藤敦史いとうあつしだ。


 こいつは1年から同じクラスだったが、やたら俺に付きまとってきて何となく仲良くなったヤツだ。ちなみに2年のクラスでは俺の前の席に座っていて、授業中もやたらと話しかけて来る。


「おう、敦史・・・お前とは靴箱でよく会うよな」


「まあな・・・愛梨ちゃんもおはよう。今日も瑞貴と一緒に登校なんだ」


「敦史には関係ないでしょ」


「冷たいなあ・・・。俺は愛梨ちゃんのためにいつも一生懸命がんばってるんだし、一度ぐらいは俺とデートしてよ」


「敦史とデートって、おええぇ・・・お兄とのデートに付いて来るぐらいなら、最悪許してあげなくはないけど、二人だけは絶対にイヤ」


「・・・ガクッ」


 愛梨にハッキリと断られた敦史がガックリ肩を落とすが、愛梨は特に気にすることなく一年生の靴箱に走って行き、上履きに履き替えるとすぐに戻って来て俺の手をつないだ。


「お兄、行こ」


「お前また2年の教室まで来るのかよ・・・恥ずかしいからやめてくれよ」


「ダメだよ。今日は新学期の初日だし、お兄が誰のものなのかをあの野獣どもにしっかり分からせてあげないと」


「野獣どもって・・・・・」


 その後愛梨は堂々と2年の教室まで入って来ると、クラスの女子たちを睨みつけながら、教室の窓側の一番後ろにある俺の席まで付いて来た。


 そしてわざわざそこで、母さんが作った弁当をさも自分が作ったように手渡した後、ようやく自分の教室に戻っていった。





 愛梨からやっと解放された俺は、久しぶりの自分の席に座りながら、授業が始まるまでのわずかな時間を前の席に座る敦史と雑談をして潰す。


「・・・おい瑞貴。夏休みの間に愛梨ちゃんのブラコンがますます酷くなってるけど、何かあったのか? て言うか彼氏を作るつもりはないのかなあ・・・」


 敦史が不満そうに俺を見る。


「俺も愛梨に彼氏でも作ったらどうだっていつも言ってるんだけど、俺の貞操を守るのに忙しいからって聞かないんだよ。そんなの守ってくれなくていいのに」


「お、おう・・・。でも俺たちも高2だし、彼女がいたっておかしくないはずなのに、こんなことしてたらあっという間に高校生活が終わってしまうぞ」


「だったら敦史、愛梨なんか諦めて他の子でも狙った方がいいんじゃないのか」


 敦史はイケメンだし、性格も明るく少し軽いところも女子ウケがいい。とっくに彼女がいてもおかしくないのになぜか愛梨一筋で、以前俺の妹と知らずに中等部の愛梨に告白して見事玉砕したという経歴を持つ。


「いやいや、愛梨ちゃんを見てしまったら、他の女子なんてとてもとても」


「おいバカっ! 声が大きい。周りの女子に聞こえるじゃないか」


 慌てて周りを見渡すと、クラスの女子たちがジッとこちらを見ている。みんな敦史のことを睨んでいるのにコイツは涼しい顔だ。


「俺が愛梨ちゃん狙いなのは全員知ってることだし、彼女の可愛さは女子でも認めざるを得ないレベルだ。そんなことより、瑞貴は彼女を作る気ないのかよ」


「俺は女子にモテない上に愛梨からマークされてるから、彼女なんて当分無理だよ」


 だが俺の言葉にうんざりした表情の敦史が、


「お前、自分がモテないってマジで言ってるのかよ」


「だって俺、女子の友達が一人もいないんだけど」


「・・・まったくお前は。おい地味子、瑞貴が彼女が欲しいって言ってるけど、お前立候補してみるか」


 敦史から突然話を振られたのは、敦史の隣の席に座る水島かなでだ。


 彼女はいつも一人で席に座って文庫本を読んでいる物静かな女子生徒で、よく言えば文学少女、悪く言えばボッチだ。


 そんな水島が、敦史の話に動揺している。


「あわわわわ、私なんかがその・・・」


 地味子なんて酷いニックネームだと思うが、クラスではこの呼び名で既に定着してしまっている。


「おい敦史・・・地味子なんて言い方、水島さんにかわいそうだろ。悪いな水島さん」


「ひゃっ、ひゃひゃいっ!」


 だが水島さんは顔を真っ赤にして奇声を上げると、そのまま机の上に突っ伏してしまった。それを見た敦史が笑い出して、


「クククッ、どうよこの地味子の反応は。自分がモテないなんて、お前は自己評価が低すぎなんだよ」


「そんなこと言われても、俺は愛梨以外の女子と話したことないし、まだ好きな子すらできないんだけど」


「その理由は、お前の今の台詞に既にヒントが含まれてるんだが、おっとチャイムだ。この続きは後でな」





 今日の1時間目はホームルーム。新学期のオリエンテーションをする予定だ。


 チャイムが鳴り終わるのと同時に、担任の兵衛先生がアリスレーゼを連れて教室に入って来た。そしてその後ろには母さんの姿も。


 アリスレーゼと母さんの登場にクラスメートたちが騒ぎ始めるが、担任は淡々とホームルームを始める。


「今日から新学期なわけだが、このクラスに転入生が入った。アリス君こちらに」


「はい先生」


 担任に促されて教壇の横に立ったアリスレーゼは、新しい制服に2年生カラーの青いリボンが初々しい、見事な女子高生に変身していた。


 長く綺麗な金髪がまるでそよ風に吹かれたかのようにサラリと流れ、軽くウェーブのかかった縦ロールが高貴な印象を見るものに与える。


 スカートの丈は校則通りで、周りの女子に比べると少し長めに見えるのだが、アリスレーゼにとってはそれでもかなり短いようで、澄んだ青い目が恥ずかしそうに揺れ動きながら、しきりに足元を気にしている。


 そんなアリスレーゼにどよめきが起こる。敦史も後ろを振り返って俺に話しかける。


「おいおい瑞貴・・・とんでもないレベルの美少女がウチのクラスに転校してきたな。愛梨ちゃんとは少しタイプが違うが同じハーフの美少女・・・いやあれは外国人留学生かな? どう思う瑞貴」


「いや彼女は・・・その」


「愛梨ちゃんもいいけど、あの子も断然俺の好みだ。瑞貴はどうするんだ? 彼女を狙うのか」


「狙うも何も彼女は・・・」


「だよな! お前の場合、愛梨ちゃんが絶対に許さないし、だったらこの俺が行ってもいいよな」


 見ると敦史だけでなくクラスの大半の男子がアリスレーゼを熱い視線で見ており、女子は彼女を値踏みするようにコソコソと話をしている。


 そんな浮足立った教室の雰囲気を一喝するように、担任が黒板を「バンバン」と叩く。


「ほら静かにしないと、アリス君が自己紹介できないじゃないか。・・・ではアリス君、頼む」


「はい先生」


 一歩前に出たアリスレーゼは、両手を前で組むと上品な所作でゆっくりとお辞儀をし、そして柔和な表情でニッコリとほほ笑んでみせた。


「おおぉ! めちゃくちゃ上品」


「清楚オブ清楚・・・見た目だけでなく中身まで完全にお嬢様だな」


 アリスレーゼのプリンセススマイルが炸裂し、男子どもの心が完全に奪われた。


「ごきげんよう皆様。今日からこの教室で皆様と共に勉学に励むことになりました、アリスレーゼ・ステラミリス・フィオ・ティアローズ・前園と申します。まだ日本に来たばかりで右も左もよくわかりませんが、ご迷惑をおかけしないように一生懸命がんばりますので、よろしくお願いいたします」


 そして最後にもう一度、上品にお辞儀をした。





 アリスレーゼの挨拶に教室が一瞬静まり返り、その次の瞬間には再び大騒ぎとなった。


「日本語がメチャクチャうめえ! 日本に初めて来たらしいけど、やっぱりハーフじゃねえのか」


「ていうかこの子、上品すぎだろ。とんでもないお嬢様じゃないのか」


「それな。名前が長すぎて全部覚え切れなかったが、ヨーロッパの貴族じゃねえのか」


「でも最後に「前園」って聞こえた気がするけど」


「前園って言えば、ウチのクラスの・・・」


 みんなが一斉に俺の方を振り向いたところで、担任が黒板を「バンバン」と叩いてみんなを黙らせる。


「聞いての通り、アリス君はここにいる前園理事の娘さんで養女に出していたそうなのだが、ヨーロッパ情勢が厳しくなり、日本に引き取ることにしたそうだ。その前園理事だが、2学期からは物理の担当に加えてこのクラスの副担任も兼任されることとなった。前園理事、一言お願いします」


 そして母さんが教壇に立つと、


「兵衛先生から話があった通り、今日からこのクラスの副担任を務めます。みんなよろしくね」


 元々人気の高かった(特に男子から)母さんの副担任就任に、クラスメートはさらに大盛り上がりだ。


「アリスちゃんって、エカテリーナ様の娘なのかよ。つまり愛梨ちゃんのお姉さんということで、どうりで美少女のはずだ」


「つまり、瑞貴の野郎の兄妹ってことか」


 ざわめくクラスメートに母さんが話を続ける。


「このアリスちゃんは瑞貴の双子の姉に当たるのよ。みんな仲良くしてあげてね。じゃあ座席は教室の一番後ろの・・・瑞貴の隣でいいかしら」


 母さんの言葉にアリスレーゼがコクリと頷き、俺の隣の席にやって来た。そしてニッコリとほほ笑んで、


「今日からよろしくね、ミズキ」


「ああ、姉さん」




 再び大騒ぎを始めたクラスメートたちの喧騒を聞きながら、ここまでは爺さんの書いたシナリオ通りに進む展開に、自分に任された使命を改めて思い起こす。


 アリスレーゼを狙う奴らの正体はまだ分からない。だが俺は王女の騎士として、彼女を絶対に守り抜く。

次回、早速事件が・・・お楽しみに。


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