表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスメイトは異世界王女  作者: くまっち
第1章 亜人解放戦争
109/145

第23話 クーデター①

 古代遺跡から助け出したエルフは、まさかのアンナだった。その意外な正体に全員が絶句する。


「あのう・・・どうかされましたか、みなさま?」


 不思議そうに首をかしげるアンナ。


「公安工作員がエルフって、なんでやねんっ!」


 だが敦史は盛大にツッコミ、藤間警部も脱帽した。


「現地人としか聞いていなかったから、てっきり帝国の女騎士かオークだと思っていた。おっと失礼、自分は公安UMA室主任の藤間だ。階級は警部でここにいる戦闘員たちの指揮を執っている」


 敬礼をする藤間警部に、アンナも敬礼で答える。


「小野島室長からレクは受けています。あなたたちがUMA室のエース戦闘員チームなのですね。では自衛隊はすでにミケ王国周辺に展開しているのですか」


「合流地点にあなたがいなかったので、現在ここから南方100kmの地点に待機中です。そして我々があなたの捜索活動をしていた」


「そうでしたか。わたくしは諜報活動を継続するために帝都からここミケ王国に潜入しようとする最中だったのですが、気がつけば今こうして皆様に助けられていました。とんだ失態を・・・」


「だが本当に無事でよかった。我々も状況はつかめていないのだが、帝国軍の情報によるとミケ王国地下の古代遺跡の魔法が作動した結果だそうで、今回のことは不可抗力としか言いようがないだろう」


「・・・承知しました。では改めてましてわたくしを救出頂いたことに感謝申し上げるとともに、ここからは皆さんと行動を共にいたしますので、作戦を教えてください」


「わかった。我々は現在、ミケ王国を転覆させるためのクーデター計画を実行中で・・・」




           ◇




 その後王宮に戻った瑞貴たちは、地下の衛兵詰所で王国兵士の制服に着替えると、衛兵のふりをして一階の階段前に陣取った。


 そこで誰も地下に降りないよう警戒に当たっていたが、日付が変わる頃、見回りの兵士が瑞貴の元にやって来た。


「交代の時間だ。お前たちはもう休んでもいいぞ」


「やれやれだぜ。じゃあ兵舎に戻って一眠りするよ」


 瑞貴は衛兵詰所に戻るふりをして、翔也の肩を抱いて階段を地下へと降りていくと、そのままターニャたちと合流して跳躍ポイントまで引き返した。


 そしてさっきの螺旋階段を今度は上へと駆け登り、ミケ国王の玉座の間へと這い出した。


 昼間は賑やかな玉座の間もこの時間帯は誰もおらず、壁に並んだランプが頼りなく光っている。


 衛兵は部屋の外で守りについており、ターニャはそれとは逆方向にある扉を開いた。


 そこから先は王族しか立ち入れない場所で、王妃や側妃たちの部屋が並ぶ廊下の突き当たりは、何もない壁で行き止まりになっていた。


 だがターニャはその壁を指さすと、


「ここが国王の寝所じゃ」


 壁からはうっすらと魔力が漏れており、ここもどうやら魔法の扉のようだ。


「ターニャ、本当に一人で大丈夫か」


「これはわらわの仕事じゃからの。では行ってくる」


 ターニャが呪文を唱えると、姿がフッと消えた。




           ◇




 国王の寝所に侵入したターニャ。


 目の前には天蓋付きの大きなベッドがあり、国王が側妃の一人と眠りについていた。


 ターニャは足音を立てずにそっと近づき、悲鳴が漏れないよう側妃の口元をしっかり押さえると、その心臓にナイフを突き立てた。


 苦悶の表情を浮かべて絶命した側妃に、


「許せ。じゃが、今死んでおいた方がむしろ幸運じゃろうの」


 そう呟くと今度は、呑気に眠っている国王の頬を力いっぱい殴った。


 バゴッ!


「ぐはあっ!」


 突然叩き起こされた国王は、焦点の定まらない目を擦りながら呆然とターニャを見つめる。


「だ、誰だ!」


「ほう、わらわの顔をもう忘れたか国王」


「・・・そなたはターニャ! 帝国貴族への輿入れ前に逃げ出したお前が、いまさら王宮に何の用だ」


 あからさまに不機嫌そうな顔をする国王に、ターニャが侮蔑の表情で返す。


「わらわが王宮に戻る理由など決まっておろう。そなたに代わってこの国の女王になるためじゃ」


「女王だと? ふざけるのもいい加減に、なっ!」


 国王は衛兵を呼ぼうと枕もとに隠していた魔術具を取ろうとしたが、その時隣で寝ていたはずの側妃が血を流して死んでいるのに気がつく。


「うわああっ! た、ターニャ貴様がやったのか!」


 だが国王が狼狽えた一瞬の隙に、ターニャは魔術具を奪って一捻りに握りつぶすと、さらに国王の右腕をナイフで斬り落としてしまった。


「ぎゃーーーーっ!」


 ベッドの上で血まみれの国王が悶絶する。


 だがターニャはその右腕を拾い上げると、顔色一つ変えずに国王の執務机に向かい、引出しにそれを触れさせた。


 魔法陣が浮かび上がって引出しが解錠される。


 その中には、複雑な装飾が施された黒い金属製の印が大切に保管されていた。


 それをターニャが取り出すと、国王が叫んだ。


「やめろーっ! それに触るな!」


 ベッドから転がり落ちながら、慌てて執務机に駆け寄った国王を、だがターニャは右足で蹴り倒した。


 バキッ! ボグッ! グシャッ! ベグッ!


 床に転がった国王を執拗に足蹴にするターニャは、痣だらけの顔で恨めしそうに睨みつける哀れな男に呪文を唱える。


「あがあーーっ! ひーーーっ!」


 国王は魔力を強制的に吸い取られ、ターニャの魔力と共に玉璽に注入されていく。


「・・・やめろ・・・やめてくれ・・・頼む」


 やがて玉璽が怪しく光を放つと、ターニャの顔に笑みがこぼれ、国王はがっくりと肩を落とした。


 そして呪うように声を振り絞った。


「ワシから王位を掠めとるなど、この盗っ人が」


「ふん! 今のわらわは盗賊団の頭目、国を盗んで何がおかしい」


「盗賊団・・・そなたも王族の端くれなら恥を知れ」


「黙れ! 今はわらわが女王でそなたはただの平民。不遜である、頭を下げい!」


「くそっ・・・だが、そなたも帝国貴族に嫁げばなに不自由ない一生を過ごせたはずだったのに、なぜこのような愚かなまねをしたのじゃ」


「愚問じゃな。この国をわらわの好きなように支配したいだけじゃ。そしてそなたは夜明けと共に死ね」


 氷のように冷たい目で見下ろすターニャに、ようやく国王は自分の死が近いことを実感した。


「ちょっと待て! 頼む、命ばかりは助けてくれ!」


「この期に及んで命乞いか? これまで行ってきた所業を思い起こして、潔く死ね」


「何を言う。ワシは国の発展のためにこれまで頑張って来たではないか!」


「バカかそなた。我が王国を帝国に売り払って自分と貴族だけが贅沢三昧の暮らしに興じ、どれだけの民衆が飢えと病で苦しみ、そして死んでいったか」


「そんなはずはない。ワシは民のためにこれまで尽力してきたではないか」


「なら、そなたを裁判にかけてやろうか」


「裁判だと?」


「そなたが国王としてこれまで何をやってきたのか、そしてそなたに生きる価値があるかを、直接民衆に聞いてみようかのう」


「・・・な、何をする気なのだ!」


「簡単なことじゃ。そなたの身柄を飢えた群衆の中に放り込んでやるのじゃ。もしそなたが民衆に愛されていたならば、彼らとともにそのまま平民として暮らすことを許そう。じゃがそうでなければ、彼らから相応の報いを受けることになるじゃろうな」


「い、嫌じゃーーっ! 頼むっ! 何でもするからそれだけはやめてくれ! そ、そうじゃ、貴族どもから金を巻き上げて民衆どもにバラまいてやろう。それと王太子を離縁させてそなたの王配にくれてやる。そうすれば簒奪者の汚名も・・・」


「その王太子を含め、王族は全員生かしてはおかん」


「まさか・・・た、ターニャ、考え直せっ!」


 だがターニャはそれ以上何も答えず、その哀れな男を縛り上げると瑞貴たちの元へと連れて行った。




           ◇




 深夜、緊急の参集命令を受けて玉座の間に集まった貴族たちは、その誰もが凍り付いた。


 まず最初に目に入ったのが玉座に腰かけている少女の姿だったが、王族の風格と帝国人好みの容姿から、行方不明のターニャ王女であることを思い出す。


 そんな彼女の後ろを見ると、魔術具でがんじがらめにされた国王や王妃、側妃、王子や王女がずらりと並んでいた。


「王位が簒奪されたのか・・・」


 王国宰相が顔を引き攣らせて愕然と膝をつき、高位貴族たちはすぐに玉座の間から逃げ出そうとするが、入り口を守る衛兵に剣を向けられ部屋に戻された。


 その後も続々と集まって来る貴族たちが同様の反応を繰り返し、中にはターニャに襲い掛かる若い貴族もいたが、全員ターニャに首を飛ばされた。


「どうした! わらわのことが気に入らないなら力ずくで王権を奪い返すとよい。見事倒すことができればその者がミケ王国の新たなる王じゃ!」


 だがターニャの前に転がる貴族たちの亡骸を見ると、誰も動くに動けなかった。


「くっくっく、どうやら実力で王権を手に入れようという気概のある貴族はいないようじゃ。では皆の賛同も得たしわらわが新たな女王じゃ。ハーッハッハ!」


 笑いながら自らの頭に王冠をかぶせたターニャは、王笏を掲げて居並ぶ貴族たちに宣言する。


「よく聞くがよい。現時点をもってミケ王国の全ての法律はその効力を失い、新たな法が制定されるまではわらわ自身が法である。元老院は永久に解散し、宰相以下全ての大臣はその職を罷免する!」


「なっ!」


「何か文句があるのか元宰相。ならその老体に鞭打って実力でかかって来るがよい」


 怒りに満ちた老紳士は、部屋の片隅に立っている王宮親衛隊長に命じる。


「王国宰相として命じる。この痴れ者を逮捕しろ!」


 だが王宮親衛隊長は動こうともしない。


「隊長早くこの痴れ者を・・・だ、誰だ貴様は!」


 老紳士が眉間にしわを寄せると、それを見てターニャが大笑いする。


「ちょうどいいので教えてやろう。王宮親衛隊長を含め、貴族出身の軍幹部はもうこの王宮にはおらん」


「まさか全員殺したのか・・・」


「女王であるわらわに歯向かったのでな」


「・・・ではこの者は」


「わらわの友人のショウヤじゃ。そしてその隣にいる女が、新たな王宮侍女長のヤヨイ」


「王宮女官まで! ちょっと待て、その後ろの青年はまさか・・・」


「くっくっく、おぬしの後任の宰相ミズキじゃよ」


「やられた・・・」


「ショウヤ、ここにいる者どもを全員逮捕せよ」


「OK! 衛兵のみんな、女王陛下のご命令だ。遠慮はいらないから全員地下牢に放り込んでくれたまえ。貴族への恨みを晴らす絶好の機会だし、手荒にしてくれて全然構わないからね」


 翔也の命令で、入り口に待機していた衛兵が一斉に突入した。


 悲鳴と怒号が飛び交う中、衛兵たちの暴行を受けた貴族たちが、次々と拘束されて玉座の間から引きずり出されていった。

 次回もお楽しみに。


 このエピソードを気に入ってくださった方はブックマーク登録や評価、感想、いいねなど何かいただけると筆者の参考と励みになります!


 よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ