第21話 地下古代遺跡
王宮地下牢の探索でかなりの思念波エネルギーを消耗した翔也だったが、それでも透視能力を全開にし、光を失った瞳が玉座のある方向を上下にサーチする。
玉座の裏から地下古代遺跡へとつながる通路、そしてそこに最短距離で跳躍するためのポイントを見つけ出し、そこへの安全な経路を探り当てるのだ。
途中オーラが欠乏した翔也は、ターニャが持っていた「魔力回復薬」という薬を飲む。
すると思念波エネルギーが少し回復するのだが、かなり味が悪いのか、いつも涼しげで笑みを絶やさないイケメン顔が青ざめ、冷や汗が流れ始めた。
それでも必死に能力を使っている「男の敵・翔也」に、不本意ながら少し好感を持ってしまった。
そんな翔也がこちらを振り返る。
「ふう・・・何とか跳躍ポイントまでの経路は探し出せたが、少々厄介なことが分かったよ」
「厄介なこと?」
「途中に衛兵の詰所があるんだが、どうやってもその前を通らなければならない。彼らに僕たちの侵入がバレてしまうとターニャの作戦に支障が出てしまう」
翔也は俺とターニャの両方を見て決断を求めたが、ターニャは何も言わず俺に判断を委ねるようだ。
「衛兵は全て倒そう。たが翔也と弥生は思念波エネルギーを温存する必要があるから、俺一人でやる」
翔也を先頭に、複雑に入り組んだ王宮の地下を敵に見つからないよう慎重に進んでいく。
やがて衛兵の詰所近くまで来た俺たちは、そっと物陰に潜んで敵の様子を観察する。
するとターニャが耳元で囁いた。
「どうやらここは王宮と王国軍兵舎を地下でつなく連絡通路のようじゃ」
「外とつながっているのか」
「ああ。王宮には最低限の兵舎、兵糧、武器庫があるのじゃが、緊急時には王国軍本部から大軍勢を城に送り込めるようにしていると説明を受けたことがある」
「じゃあここに手を出したら、たちどころに王国軍が集結して俺たちに襲い掛かってくるわけか」
そうなると隠密行動が不可能になるどころか、この少人数では戦闘になってもすぐに思念波エネルギーが枯渇し、間違いなく全滅してしまう。
俺が思案していると弥生が心配して声をかける。
「ねえ瑞貴、私も手伝おうか?」
「ああ。ここは戦いを避けて弥生の空間跳躍に頼った方が無難だ。だがかなりの距離をジャンプすることになりそうだし、弥生の体力が持つか・・・」
すると今度はターニャが、
「少し説明が悪かったやも知れぬ。あくまで緊急時のためにここと外部が繋がっておるが、平時には外からの侵入を阻むために、通路は固く閉ざされておる」
「言われてみれば、王宮のセキュリティ上そういうこともあるか・・・」
「つまり地下の衛兵を全て倒してしまえば、定時連絡までわらわ達の侵入が知られることはないじゃろう」
「少々粗っぽいが、当初の予定どおり俺が行くか」
「ミズキ、わらわも出るぞ」
「ターニャ・・・頼めるのか?」
「無論じゃ。正直言ってわらわにエルフを助ける義理などないが、そなたらの正義がそれを必要とするなら協力するのが共闘関係を結ぶわらわの務めじゃ」
「そうか、すまん助かる」
「じゃがこれは時間との勝負。覚悟はよいかミズキ」
「おう、速攻でいくぞ・・・3、2、1、GO!」
一気に敵の前に飛び出した俺とターニャは、突然の敵襲に硬直する衛兵たちに容赦なく襲い掛かった。
俺が手前の衛兵の懐に潜り込んで心臓を破壊する間に、ターニャはつむじ風のように身体を回転させて、あっという間に衛兵たちの間を駆け抜けた。
そして後に残された衛兵たちは、首から鮮血を噴き出してバタバタと倒れていく。
「なんて身のこなし・・・さすがは盗賊団最強だ」
それでも衛兵の数は多く、彼らは増援を求めようと上階へと続く階段を駆け上がって行く。
だがその先頭を行く衛兵の足を念動力でひっかけると、つまずいた拍子に後ろの兵士ともども階下まで転げ落ちて行った。
「「「うわあああ!」」」
階段下で団子状態になる兵士たちに向け、すかさず俺は思念波弾を放った。
明らかにオーバーキルのその出力は、兵士ともども階段の一部を粉々に吹き飛ばした。
それをみたターニャが感心する。
「ミズキは凄い技を持っておるのう」
「俺の得意技は念動力と思念波弾の2つだ。ここが正念場なので俺はエネルギーを使いきるつもりで行く。一気に畳み込もう」
「了解じゃ!」
◇
地下の衛兵をたった二人で壊滅させると、王国軍本部への地下通路を固く閉ざして、発見をギリギリまで遅らせる。
そして再び翔也を先頭に歩きだした俺たちがたどり着いた先は、地下の武器庫だった。
ちょうどこの真上辺りが国王の玉座の間になっているようで、この奥に遺跡へと通じる地下通路とそこへの跳躍ポイントがある。
武器庫の扉を開いて中に入っていく。
そこは武器がその種類ごとに整然と並べられた地下倉庫で、俺たちが向かったのは防城用の巨大な矢が大量に保管されている場所だった。
「ここだよ瑞貴」
翔也が指し示したのは倉庫の石壁で、この向こう側に地下遺跡への通路があるのだろう。
翔也とハイタッチを交わした弥生は、思念波補助デバイスを取り出すとオーラを増幅させる。
左手薬指の指輪が怪しく光り、俺たち4人は暗黒のオーラに包まれた。
バシュッ!
空気がはじける音が聞こえた次の瞬間には、俺たちは長い螺旋階段の踊り場に立っていた。
「瞬間移動は成功よ。この階段を降りた先に地下古代遺跡があるはず」
「さすがだな弥生。行くぞ!」
どこまでも続く長い螺旋階段を下りて行くと、やがて階段は終点にたどり着いた。
そこから伸びる細い通路を進んだ先には、大きな鉄の扉が瑞貴たちの行く手を遮っていた。
「ターニャ、地下神殿は扉の向こう側なんだよな」
「おそらくは。わらわはここへ来たことが一度もないが、壁一面に刻まれた古代文字は当時の魔法文明で使われていたものじゃから、ここで間違いない」
扉の側面の石壁に彫り込まれた古代文字はうっすらと光を放っていて、この古代遺跡が今もちゃんと生きていることを物語っている。だが、
「あれ・・・この文字が読めるぞ。これは扉を開閉するための魔法の呪文だ」
「なんじゃと? これは王国の古代学者にしか分からぬ文字なのに、どうしてミズキが・・・」
「いや、どうしてと言われても・・・」
そんなこと聞かれても俺にも分からない。
もちろん日本語でもアルファベッドでもないこの文字を、つい最近も目にしたばかりだ。
だがどこで?
「ねえ瑞貴、これってあの夢に出て来る文字よね!」
「そうか夢だ! でもあの世界の文字がどうしてミケ王国の地下遺跡に」
「それは分からないけど、今はこの文字が読めることを幸運に思いましょう」
「だな。よし扉を開けてみよう・・・いや、翔也」
「なんだい、瑞貴」
「念のために、扉の向こう側を透視してみてくれ」
「了解。・・・・・・瑞貴、向こう側にはここと同じような地下道が続いているだけだ」
「そうか。サンキュー翔也」
そして俺は壁面の呪文を詠唱する。
【ДЖЙЫЗЮЙГФПФЙГЪЩПЪЫЩГЪЩПФЮЙГЪГЪЫЩПФЙГ】
扉が一瞬柔らかな光を放ってゆっくり開くと、翔也の言う通り地下通路が現れた。
「行こう」
さらに先に進むと再び小さな石室に突き当たるが、そこにも先ほどと同じ魔法の扉がある。
だが突然翔也が叫ぶ。
「瑞貴、これは罠だ! 扉の先は行き止まりで、天井に何かの仕掛けがある!」
「マジかよ・・・助かったぞ翔也」
もし翔也の透視能力がなければ、俺たちは罠に嵌まっていた可能性がある。
「罠は分かったけど、どうやってこの先に進めばいいのよ」
「それはこの僕にも分からないよ。天井の仕掛けが複雑すぎて、どうすればいいかさっぱり・・・」
透視能力も万能じゃなく、見えた物が理解できるかどうかは全く別問題だ。
「魔法の扉と機械仕掛けの天井か。・・・いやちょっと待てよ、これと同じものをどこかで見た気が」
「ああっ、私も思い出した! ここって、ヴェーダとスーリヤの冒険に出てきたあの城じゃないの?」
「魔王バラモンの城塞迷宮! でもあそこって確か」
「ええ。密林の奥地に広がる魔族の王国。その高台にそびえ立つ巨大な神殿がなぜこんな所に・・・」
次回もお楽しみに。
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