表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスメイトは異世界王女  作者: くまっち
第1章 亜人解放戦争
105/145

第19話 ターニャの怒り

 藤間警部チームを見送った後、ターニャが、


「地下道に戻ればすぐに王宮に入ることもできるが、少し街の様子を見て来てもよいだろうか」


 その時のターニャの顔が為政者のそれに変わっているのに気がついた俺は、静かに頷いた。


「すまぬの。では、ついてたもれ」


 倉庫街から大通りへ出ると、眼前に壮大な王宮が見える。ドルマン王国よりも華美な装飾の施されたその建築物は、両国の文化の違いによるものか、あるいは経済力の差によるものか。


 だが王宮を取り囲むように作られた貴族街には、豪華な衣装に身を包んだ猫人族の貴族たちが、他の亜人種族の召し使いを従え、街を闊歩したり馬車で移動したりしている。


「ドルマン王国に比べて、帝国に独立を認められている分、豊かな生活を送れているんだな」


 事実上属国ということだったが、独自の文化を維持して変わらぬ繁栄を続けているミケ王国は、一見平和そうに見えた。


「この辺りに住む貴族たちは、以前と変わらぬ豊かな生活を送れておる。ではこちらを見て欲しい」


 そう言ってターニャは、俺たちを街の外れの方へと連れていった。




 王宮から離れると街並みも質素なものへと変わっていったが、ある大通りを境に様子が一変する。


「随分と雑然とした雰囲気に変わってきたな」


「ここから先は平民が暮らす街じゃ。この辺は商人や富豪たちが住むエリアなのでまだ分からぬと思うが、この奥へ行くと庶民の暮らしが見えてくると思う」


「庶民の暮らしか・・・」


 雑然とした市場の中を通り抜け、俺たちはどんどん街の外れへと歩いていく。



 通りを行き交う人種が多種多様になっていき、猫人族が中心だった貴族街と異なり、犬や兎、鳥やは虫類など色んな亜人たちが肩寄せあって暮らしている。


 だがみんな貧しく、痩せ細った身体に泥や埃、垢まみれの服を身に付け、肌が土気色で明らかに栄養失調の人が目立つ。


 何より街中には異臭が漂っており、道端は汚物だらけで足の踏み場もなく、衛生状態が極めて悪い。


「ここはスラム街か・・・」


 いつもは涼しい顔をしている翔也も、最早イケメンを気取っている余裕を無くしているし、近所の小汚ないガキ大将だった弥生ですら顔が真っ青だ。


 バリアーを展開して汚物を弾きながら歩いていくが、さすがに空気は取り込まなければならず、俺たちもそろそろ限界に近い。だがターニャは、


「ミズキ、この先にはスラム街があるのじゃが、見に行ってみる勇気はあるかの?」


「ええっ! スラム街って、ここじゃないのか!」


「何を言っておる。ここはごくありふれた庶民の街並みじゃよ。まあ、貴族街を見た後だからその落差には驚いたかもしれんがのう」


「ウソ、だろ・・・」




 ターニャに連れられ、路地裏へと入っていく。


 あまりの悪臭に涙が止まらなくなるのを我慢して、足下を気にしながら薄暗い通りを歩いていく。


 道端には、やることもなく座り込んでいる若者が憎しみの込もった目で俺たちを睨んでおり、小さな子供を抱えた母親は我が子をしっかり抱き締めて俺たちが通り過ぎるのをじっと待っている。


 そんな彼ら全員が、王宮侍女や帝国騎士の格好をした俺たちに対して激しい怒りを感じており、庶民がどんな気持ちで日々の生活を送っているかを、身をもって知ることができた。




 曲がりくねった路地を抜けると、今度は廃棄物とバラックの寄せ集めのような場所にたどり着いた。


 だが、そこはこの世の地獄だった。


 いつ死んだのか分からない遺体がゴロゴロ転がる中、まだ死んでいない年寄りと孤児たちが、その時が来るのをじっと待っている。


 食べものもなく、病にも冒され、ただ横たわっているだけの人たち。


 飢えた子供たちが大きな目を見開いて俺たちを見ているが、その焦点はもはや合っておらず、ただうわ言を呟くのみだ。


 地面に仰向けになって身動きひとつ取れない年寄りの傍には修道服を来た男女が寄り添い、白湯のような食べ物を与えている。


 別の修道士たちは、虫がわき動物に噛みちぎられた無惨な遺体を教会に運んでいるが、どれだけ埋葬しても遺体の数は増える一方だそうだ。


「酷い・・・これがミケ王国の実態なのか」


「そうじゃ。そして今の国王はこのような現実に全く関心がなく、贅沢な暮らしを維持するためにどうやったら帝国の歓心を買えるかばかり考えておる。そんな国王に貴族どもが乗っかりおって、誰も庶民のことなど考えておらんのじゃ」


 そう言って怒りに震えるターニャは、アジトから持参した袋一杯の食料を修道士たちに手渡した。




           ◇




 スラム街を一通り見て回わり、街はずれの古い教会で埋葬の順番を待つ遺体に手を合わせた後、下水道を経由して先ほどの地下道へと戻ってきた。


 そしていくつかの魔法の扉を潜り抜けた先に、ようやく王宮の地下食料庫にたどり着いた。


「ついたぞミズキ。この食料庫の上が厨房になっていて城の大広間へとつながっておる。じゃが最初はアンナとやらを探すのじゃったな」


「ああ。捕まってるとすれば地下牢か何かだと思うんだけど、ターニャは場所を知ってるか」


「申し訳ないが知らぬのじゃ。そのような場所に王族は立ち入らせて貰えんからのう。さてどうするか」


「いや問題ない。翔也、お前の出番だぞ。透視能力を使って地下牢を探し出してくれ」


「了解。場所が広いから思念波エネルギーをたくさん消費するけど、キミの頼みだし頑張ってみせるさ」


「おう。こっちのチームにいてくれて助かったよ」


 そして翔也が能力を発動する。


 瞳孔が完全に開いて黒い瞳が光を失う。


 彼の顔からいつもの軽薄な雰囲気がなくなり、アンドロイドのような無表情であらゆる方向をサーチし、地下牢の場所と経路を探索している。


 やがて翔也の顔が俺の方を向く。


「地下牢は見つかったが、よく考えたら僕はアンナさんの顔を知らなかった。瑞貴は知っているのかい」


「いや、知らない。名前からすると男性ということはないと思うが、弥生は何か聞いているか」


「私も知らない。小野島室長は現地採用の人だって言ってたし、グランディア帝国に潜入して情報を取ってこれるぐらいだから、帝国人のオバサンじゃないの」


「まあそんなとこだろう。とりあえず牢屋にいる女の人に手当たり次第声をかけて探すしかないな」




           ◇




 一方、藤間警部チームは王城近くのグランディア帝国駐留基地に正面から堂々と入って行った。


 衛兵に先導されて、基地内を悠然と歩く藤間警部の後ろには、ポーチ姫とかなでを連行する敦史とヒッグスの姿があった。


「こちらが基地司令官の部屋になります」


「うむご苦労」


 部屋の中には大きな執務席があり、そこに座る初老の帝国騎士が藤間警部に話しかける。


「緊急の報告と聞いたが、キミは誰かね?」


「港町ドルマン帝国総督府、ガーネット総督の部下のヘルマン男爵と申します」


「これは男爵閣下。ドルマン総督府からお疲れでしたでしょう。してここにはどのような用件で」


「ここにいる二人の女なのですが、コイツらはドルマン王国王族の生き残りで、港町ドルマンに潜伏しているところを捕まえました」


「なんと! 根絶やしにしたはずの王族に生き残りがいたとは」


「しかもレジスタンスを使って帝国への反逆を企てていたのです。他の王族や地下組織の情報を持っているはずで、すぐに帝都に連行しろとの総督命令です」


「それは大変なお手柄ではないか! ぐぬぬぬ、我が帝国に反逆を企てるとは不届き千万な奴だ」


「全くですな。地下に隠れた奴らを根絶やしにするために、魔導師部隊の増援も本国に求める予定です」


「事情は分かった。して我々は何をすればよいのか」


「我々は物資の補給を受け次第、明日にもここを出発しようと思いますが、一晩だけこの2名を地下牢に厳重に収監いただきたい」


「承知した」


 そして司令官が衛兵に地下牢まで案内を命じようとしたところで、


「へルマン男爵。申し訳ないが、念のためにガーネット伯爵からの命令書を確認させてほしい」


「命令書・・・ですか」


「一応決まり事なのでな。気を悪くせんでくれ」


 司令官の要求に、だが藤間警部は懐から一枚の紙きれを取り出すとそれを手渡した。


「・・・ふむ。確かにガーネット伯爵のサインが入っておる。命令書が本物であることを確認した」


 藤間警部が渡したのはもちろん偽の命令書だ。


 自衛隊がドルマン前線基地を攻略した際、生き残った指揮官を捕縛すると同時に、ガーネット伯爵の命令書を始めとした重要書類一式は全て押収しており、デジタルデータとして取り込んだためカラープリンターで偽装し放題なのだ。


 ちなみにへルマン男爵も既に処刑された実在の人物で、藤間警部の容姿に最も近かったため、彼の偽装を施している。


「では早速コイツら二人を牢屋にぶち込みますので、地下牢への案内をお願いします」

 次回もお楽しみに。


 このエピソードを気に入ってくださった方はブックマーク登録や評価、感想、いいねなど何かいただけると筆者の参考と励みになります!


 よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ