第18話 クーデター計画始動
クーデター計画が発動された。
ターニャが配下の幹部を集めて命令を下すと、アジトにいる全ての盗賊たちが一斉に各地に散った。
彼らの役目は、ミケ王国内の貴族家領地で民衆暴動を煽動したり、穀物庫を襲撃して食料を強奪し飢えた民衆に配ることだ。
さらに可能であれば、原油貯蔵施設や武器庫を破壊するなど、軍事力にできるだけダメージを与えるような破壊工作を展開する。
そんな彼らと完全に別行動となるのが、王都に潜入するターニャと俺たちだ。
王都内へは王族のみが知る地下の隠し通路を使用するが、ドルマン王国でもそうだったように、王族は万が一に備えて脱出ルートを複数用意しており、王族のターニャがいたからこそ、あの厳重な王都にも潜入することができる。
そして王都潜入が成功した後の作戦はこうなる。
まずアンナさん捜索を優先し、捕まっている可能性の高い2つの地点に向けて、グループを分ける。
その一つ、グランディア帝国軍駐留基地へは藤間警部をリーダーに敦史、かなで、ヒッグス、ポーチ姫の5人が向かう。
一方ミケ王国王宮へはターニャ、弥生、翔也、俺の4人が潜入する。
互いに無線機で連絡を取り合い、どちらかがアンナさんを救出できた時点で、ターニャチームが国王の部屋を目指す。
さて王宮潜入にあたり、ターニャと弥生が王宮侍女に変装したのだが、弥生は犬人族のコスプレだ。
「ターニャに確認だが、弥生のコスプレは外した方がいいのか」
「いや、王都内の人族はグランディア帝国軍だけなので、犬人族のままの方が都合がいい。むしろわらわに犬人族のコスプレをさせてたもれ。問題はミズキとショーヤじゃ。その傭兵風の装備は王宮にそぐわんな」
「うーん・・・なら帝国軍の服装なら問題ないか」
「そうじゃな、できれば一般兵ではなく騎士の装備なら王宮でも違和感はないであろう」
「わかった。今からみんなの分を手配するよ」
◇
さてアジトを出発した俺たちは、隠し通路の入り口まで高機動車で移動する。
いの一番に車に乗り込んだターニャは、助手席に座ると松原さんにあれこれと質問を浴びせかける。
好奇心旺盛な彼女はとても頭がよく、松原さんが教えたことをすぐに理解しているようで、一方の松原さんも娘のような年頃の女性に質問責めにされたことが楽しいらしく、上機嫌で車を走らせていた。
半日ほど車を走らせて目的地の地下通路入り口に着いたときには夕方になっていたが、そこは王都の北西部に広がる砂漠の中に築かれた王家の墓、つまりピラミッドのような場所だった。
王都に入る前にコスプレグッズを受けるとるため、ここで自衛隊の輸送ヘリを待つ。
墓所はかなり辺鄙な所にあり、訪れる旅人などほとんどいないが、念のために近付く者がいないか周囲を警戒していると上空からローター音が聞こえた。
南の空からこちらに向かってくる輸送ヘリを見つけると、口を開けて唖然とするターニャに対し、ポーチ姫が少し得意げに話し始めた。
「さすがのターニャも驚いたようね。あれはヘリコプターと言って、人をたくさん乗せて馬の何倍も速い速度で空を自由に移動できる乗り物なのよ」
「あれも乗り物なのか! ・・・実に興味深いがもしかすると、アレを使ってドルマン王国はグランディア帝国を撃退したのか?」
「そうね・・・ミズキたちの力を借りたのは確かだけど、港町ドルマンを解放したのは私たちレジスタンスの力だと思う。ミズキはどう思う?」
ポーチ姫に問われ、俺はそれに同意する。
「あの戦いでは俺たちと犬人族との間で役割分担ができていたんだ。前線基地が邪魔だった自衛隊がそこを叩いたのは事実だが、総督府を倒して独立を勝ち取ったのはポーチ姫たち犬人族レジスタンスだよ」
「なるほど、確かによその国の軍隊の力で勝てても、祖国再建など叶わぬしのう。やはり自らの血を流してこそ国の独立は保てるものか」
「そういうことだと思う」
「じゃがこのヘリコプターというのは大した代物じゃな。これほど巨大な魔術具となるとさぞや大量の魔石を消費するのではないか」
「これも魔術具ではなく機械で、燃料はガソリンだ。俺たちがグランディア帝国と戦っていくにはミケ王国の原油が必要だということが、これで分かるだろ」
「さっきの車といい、このヘリコプターとやらといい、まさか原油にそんな力があるとは全く知らなんだ。あんなものランプの灯りとしてしか使い道がないと思っていたぞ」
輸送ヘリCH-47Jが着陸して自衛官から補給物資を受け取り、男チームは着ていた冒険者風の装備と交換に、ドルマン前線基地で鹵獲した帝国騎士団の制服に着替えた。
その準備も整ってターニャを探すと、いつの間にか女子チーム全員でヘリコプターの中を見学していた。
ターニャはとても興奮した様子で、彼女の質問攻めに答える自衛官もたじたじの様子だったが、最後は名残惜しそうにヘリから降りたターニャと入れ替わるように、高機動車がヘリに積み込まれていく。
松原さんとはここでお別れだ。
「若旦那様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「松原さんも。さやかによろしくお伝えてください」
地上を飛び立って南の空へと帰還して行く輸送ヘリに手を振って見送ると、ターニャが開けた魔法の扉から王家の墓所へと入って行った。
◇
墓所の中で一泊した翌朝、俺たちは地下通路から王都までの長い道のりを徒歩で移動する。
ちなみにあの夢にはさらに続きがあり、失意のヴェーダ王子をスーリヤ王子が慰め、不貞の妹姫シーダが王族を追放されるという展開だった。
ヴェーダはスーリヤの熱い友情に、徐々に心が癒されていくのだが、目が覚めて昨日弥生から聞いた話を思い出すと、この後に壮大なBL展開が待っているのではないかと、背筋がゾッとした。
そんなアホなことを考えながら長い地下道をひたすら進んでいくのだが、暗闇を照らし出す懐中電灯にターニャが興味を持ったのは言うまでもなかった。
何時間歩いたか分からないが、地下通路はようやく終点となったようで、長い階段を上へと登っていき、いくつもの魔法の扉をターニャが開いていく。
そしてたどり着いた先は、王都の外れにある古びた倉庫街であり、ここで俺たちは二手に別れる。
「藤間警部、ここからは別行動ですが本当に翔也を連れていかなくて大丈夫ですか」
「問題ない。実はある作戦を考えていて、翔也の透視能力は今回必要ないと思う」
「了解。ではアンナさん救出作戦を開始しましょう」
次回もお楽しみに。
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