第17話 思わぬ事実
ターニャ率いる盗賊団との共闘関係が成立し、無線機でその旨を幕僚本部に報告すると、加藤陸将補からはクーデター計画参加の了解と新国家樹立後の協力が即答された。
それをターニャに伝えると、
「ほう・・・珍しい魔術具を使っておるな」
だがターニャは俺の話より無線機の方が気になるようで、物珍しそうに眺めている。
仕方がないから彼女に手渡して機能を説明する。
「これは遠く離れた相手と通話ができる機械で、もっと大きな物だとこことドルマン王国との間で通話することも可能なんだ」
「ドルマン王国とな! もしそれが本当なら、戦争のやり方が一変するではないか!」
「だと思う。俺たちは戦場の様子をみんなでリアルタイムに共有できるのに対し、グランディア帝国は通信手段を持たないから、たぶん港町ドルマンが陥落して帝国総督ガーネット伯爵以下貴族が全員処刑されたことも知らないだろうからな」
俺たちはドルマン陥落後すぐに幕僚本部に帰還したため実際の様子は見ていなかったが、あそこに並んでいた帝国貴族たちは全員公開処刑され、その遺体は帝国兵士たちが本国まで徒歩で運ばされたとのこと。
処刑方法を聞いた時は、俺たち全員顔が真っ青になったが、現代の常識や倫理観をこの世界に押し付けるべきではないとの加藤陸将補のアドバイスに従いその事については誰も口にしなくなった。
そんなグランディア帝国は、南部異界門基地やドルマン前線基地に配備していた空間転移魔法用の転移陣を全て破壊されたため「そこで何かが起きた」ことしか分からず、圧倒的に情報が不足している。
つまりガーネット伯爵たちの遺体を運ぶ兵士たちを帝国軍が保護するまでは、ドルマン王国の宣戦布告の事実すら伝わらないはずで、現時点でグランディア帝国が敵認識してるのは、彼らが魔界と呼ぶ日本だけのはずだ。
「あれ? ティアローズ王国の王族が帝国に宣戦布告したって話は一体・・・」
ティアローズ王国臨時政府は日本が承認した国家ではあるが、グランディア帝国がそれを認識しているかどうかは実は分からない。
俺たちがこの世界に来た後、日本政府が何らかの方法で彼らに通告したかも知れないが・・・。
だがトカゲ男・・・名前をクロコというが、彼が意外なことを話し始めた。
「これは原理主義派から聞いた話だが、ティアローズ王国が滅亡した後、一部の王族がランツァー王国に逃げ延びたらしい」
「え? そんな話始めて聞いた」
帝都に潜伏していたアンナさんは、有益な情報をたくさん入手してくれていたが、その中にティアローズ王家に関する情報はなかった。
以前洗脳されたティアローズ王国臣民が日本に攻めて来た時も、彼らからは王族や貴族に関する詳しい情報が出て来なかった。
「藤間警部、公安でもこの辺りの情報は入手できてなかったんですよね」
「我々が持っている情報は全て共有済みだ。だが他の王侯貴族の情報が全く出てこなかったことについては小野島室長も不思議がっていた」
刑事の顔に戻った藤間警部は、早速クロコに事情聴取を始める。
盗賊相手にスイッチが入った藤間警部は、クロコを上手く誘導して知っていることを色々と話させた。
「脱出に成功したのはマクシミリアン、ロベルトという二人の王子だ。次期女王に内定していたアリスレーゼ王女が自害した後も、第一王子のマクシミリアンは律儀に王位を継がなかったそうだ」
「アリスレーゼの二人の兄・・・」
アリスレーゼから話は聞いていたが、二人とも妹想いの優しい人物と聞いている。王位を継がなかったことからも、その人柄が思い浮かばれる。
「二人の王子は他の王族を引き連れて、古くからの盟友国であるランツァー王国にしばらく身を寄せていたが、散り散りになっていた王国貴族たちが彼の元に集まってくると、王国の奪還を目指して帝国と戦いを始めたと聞いている」
「王国の奪還を・・・」
グランディア帝国は全ての周辺諸国と戦争を行っているが、そのうちの一つのランツァー王国に身を寄せていたならば、このミケ王国からそれほど離れていない場所に彼らの騎士団がいるのかもしれない。
だとすれば、彼らと共闘できる可能性が高い。
クロコにはそれ以上の情報がなかったためこの話はそこで終わったが、場合によっては帝都ティアローズへの侵攻ルートの見直しを迫られるかもしれない。
そのためにもまずはこのクーデターを成功させて、原理主義派との接触を試みる必要がある。
先の展望が少し見えて来た瑞貴は、次にクーデター計画の話を進めることにした。
この作戦の鍵となるのは王宮への侵入。そして国王暗殺と玉璽の強奪という最も危険な任務だ。
だがターニャはこれを自分一人で行うつもりらしく、一人の側近も伴わないことが告げられた。
「わらわたち盗賊団は、グランディア帝国はおろか、ミケ王国正規軍に比べても戦力が大きく劣る。だからこそ玉璽を奪って王家の正当性を揺るがし、貴族たちの結束を崩す作戦じゃ」
「つまりこの計画はもともと、王家と貴族の分断と疲弊を狙った長期戦だったのか」
「そうじゃ。国王暗殺と玉璽強奪は一種の賭け。失敗すればわらわ一人の命を犠牲にして、残された盗賊団は戦力を温存してその後の長期戦を戦う。賭けが成功すればミケ王国打倒までの時間が大きく短縮できる」
「そこまで考えての単独行動・・・」
このターニャという女、自分の命すら掛け金として平然とベットする冷徹さを兼ね備えている。
「だがターニャ1人というのはさすがに危険すぎる。せめてボディーガードの男を数人連れて行った方が」
「その必要はない。なぜならこの中で最も武力の高いのが、このわらわだからじゃ」
「そうなのか?」
いかにも屈強な戦士に見えるクロコに尋ねると、すぐに首肯した。
「頭目は我ら盗賊団の最強の戦士だ。ボディーガードなどは不要であり、むしろ足でまといになる」
「マジか・・・」
華奢で繊細な外見の彼女だったが、なぜか弥生と目が合った俺は、人間の強さが外見だけでは判断できないことを思い出し、納得した。
「話は分かった。だがターニャが王宮に忍び込む際には、俺たちも同行させてほしい」
「ミズキたちには、わらわの手下と共に貴族どもの領地を荒らして貰おうかと思っていたのじゃが・・・」
「実は俺たちの仲間が王都のどこかに囚われている可能性が高い。それが帝国軍なのかミケ王家なのかはわからないが、何とか助け出したいんだ」
「ふ-む・・・クロコからそなたらの活躍は聞いておるが、わらわの足手まといになるようでは困る。じゃから申し訳ないが・・・」
そう断ろうとしたターニャに、突然弥生が、
「それなら大丈夫よ。これを見て」
弥生は思念波補助デバイスを取り出して、思念派を一気に増幅させると、部屋の外に瞬間移動して再び扉を開けて中に入って来た。
それを見たターニャが驚愕の表情を浮かべる。
「それは闇属性魔法・ワームホール。実際の使い手を見るのはこのわらわも初めてじゃ・・・」
「私の特技はこれだけど、ここにいる全員が特殊能力を持った異能者ばかり。ターニャの方こそ足手まといにならないか心配なぐらいよ」
「ほう・・・大した自身じゃの。じゃが、空間転移ができるそなたがついて来てくれるなら心強い。よかろう、全員わらわについて来るがよい」
次回もお楽しみに。
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