第15話 夢の続き
その夜、俺たちは夢の続きを見た。
◇
深い山脈の山頂に建てられた居城は、シーダ姫を隠すためにヤードラ王子が新たに作らせたものだ。
だがヴェーダ王子とスーリア王子は、数々の危機を乗り越えてついにその居城を見つけ出し、見事侵入を果たした。
シーダ姫の寝室にたどり着いた二人は、彼女を救出すると居城からの脱出を急いだ。だが城から出ようと広間の階段を駆け下りたその時、兵を連れたヤードラ王子が待ち伏せしていたのだ。
「まさかこの城を見つけ出してしまうとは、大したものだヴェーダ王子、そしてスーリア王子」
「ヤードラ王子、シーダ姫は返してもらうぞ!」
「断る。シーダはここに置いて行ってもらおう」
当然話し合いで終わるはずもなく、冒険譚の終わりに相応しく王子同士の戦いが始まる。
彼らの戦いは強大な魔力がぶつかる魔法戦で、あっという間に城が破壊されると、空を駆け巡る3人の戦いが一昼夜にも及んだ。
だが2対1の戦いの末に、最後はヤードラ王子が力尽き、地獄の業火にその身を焼かれた。
「・・・戦いは僕の負けだが、キミとの因縁はこれで終わりではない。・・・ではさらばだ!」
そう言って不敵に笑ったヤードラ王子は、炎と共にその肉体を完全に消滅させた。
こうして戦いに勝利し、シーダ姫を連れて王国へと帰還したヴェーダ王子だったが、帰国後すぐに彼女の妊娠が発覚する。
「・・・どうしてだシーダ。まさか、ヤードラ王子に無理やり」
「ごめんなさいヴェーダ、でもあなたのことはもう。さようなら・・・」
既にシーダ姫は身も心もヤードラ王子のものとなっており、彼女はヴェーダとの婚約を破棄すると彼の前から姿を消した。
◇
「・・・うわあっ!」
夢から覚めた俺は、激しい鼓動を落ち着かせるため外の空気を吸いに行くことにした。
まだ眠っている敦史たちを起こさないようにそっとテントから抜け出すと、同じく女子テントから出て来た弥生と目が合ってしまった。
「弥生もあの夢を見て目が覚めたのか」
「ええ・・・まさかのバッドエンドだったわね」
「本当だよ。俺はNTRが一番嫌いなんだよ」
「そうね。自分がされるのはすごく嫌だけど、するのは別にいいかな」
「するな!」
空は少しずつ明るくなり始めており、これから寝直すのも中途半端だったので、しばらく時間を潰すことにした。
「そう言えばお前って、夢の中ではスーリア王子になってるんだったな」
「ええ。私の妹がシーダ姫で、その彼氏が瑞貴」
「彼氏か。でも自分の彼女を寝取られると、こんなに落ち込むものなんだな。ああシーダ姫・・・」
「妹がとんだビッチで本当に悪かったわね、瑞貴」
「シーダを悪く言うな! 悪いのは全て彼女を奪ったヤードラ王子なんだ」
「それはそうだけど、瑞貴って完全にヴェーダ王子に感情移入しちゃっているのね」
「そりゃあ、毎日夢の続きを見さされれば、誰だってそうなるよ。弥生は違うのか?」
「実は私もそう。だからスーリア王子の気持ちがすごく伝わってくるのよ。実は彼って本当はヴェーダ王子のことが好きなのよ」
「・・・え? だって男だろスーリア王子は」
「男よ。それにもう后もいるし。でもヴェーダ王子への気持ちはちゃんと自覚してるし、彼の行動をいつも目で追いかけているのよ」
「うわあっ! そんな話は聞きたくなかったよ。俺はNTRの次にBLが大嫌いなんだよ!」
「そんなこと言われても本当のことなんだから仕方ないでしょ。それに瑞貴ってすでにBLの世界に片足突っ込んでしまってるけど」
「え?」
「気づいてないのなら、今の話は忘れて」
何やら意味深なことを言いかけて止めた弥生だったが、テントから起き出した翔也が爽やかな笑みでこちらに近づいて来たため、夢の話は止めることにした。
◇
朝食を終わらせ、再び荒野を北上する高機動車は、昼にはミケ王国を視界にとらえる位置まで来ていた。
砂漠に忽然とそびえ立つ巨大な城塞都市、それがミケ王国の王都ミケであり、アンナさんが示した油田の位置と一致する。
つまりここを手に入れることが当初からの戦略目標の一つであり、グランディア帝国との戦いを継続していくためにも絶対に成功させなければならない作戦の一つなのだ。
そんな城塞都市の城門前では、盗賊団がグランディア帝国軍とミケ王国軍の混成部隊と戦っていた。
双眼鏡で確認した限り、帝国軍の輸送隊を襲った盗賊団をミケ王国軍が撃退しようとしている。
それを見た藤間警部が指示を出す。
「我々は警察ではあるが今回は犯罪者側に加勢する。このまま高機動車で突撃をかけ、神無月君と水島君はピンポイントバリアーを展開、それ以外の全員で思念波弾による遠隔射撃を敢行する」
全員が「了解」と応じたところで、俺は雨宮主幹から預かったアイテムを女子二人に渡した。
「これは雨宮主幹と神宮路電子工業の技術陣が開発した精巧なコスプレグッズだ」
それはポーチ姫をモデルに作成された三角耳としっぽであり、弥生とかなでが身に付けると、そのリアルな動きに本家本元のポーチ姫も衝撃を受けていた。
「凄い・・・まるで違和感のない動き。本物の犬人族の女の子みたいね」
「最先端の技術の無駄遣いだと、雨宮主幹にめちゃくちゃツッコミを入れてきましたが、ポーチ姫にそう言われるとこれはこれでいい気がしてきました」
「ところでなぜこんな変装を?」
「自衛隊が鬼人族から聞き取った話によると、盗賊団の中には犬人族も参加しているそうで、場合によってはポーチ姫に頑張ってもらおうかと。つまり姫と従者2人が鬼人族のヒッグスと俺たち「ティアローズ王国の生き残り」を引き連れて加勢に来たというストーリーもありなんじゃないかと思って」
「そういうことなら承知しました。それでは従者とティアローズ王国の皆様、姫とともに突撃開始っ!」
軽いノリで突撃命令をかけるポーチ姫に促され、運転手の松原さんが上機嫌に車を走らせた。
◇
物資の強奪に成功した盗賊団は、だがミケ王国軍の執拗な追撃に苦戦していた。
だがそこへ割って入ったのが、思念波弾を派手に撃ちまくる瑞貴たちUMA室戦闘員チーム。
騎馬隊よりも遥かに速い速度で敵を撹乱しながら、圧倒的な魔力で敵を粉砕していくと、10人にも満たない小規模な部隊ながらその10倍を超える王国軍を手玉に取っていった。
そんな状況で敵が部隊の立て直しのため後退した隙に、逃走を開始した盗賊団と呼応して高機動車も速やかに戦場から離脱した。
そんな俺たちに盗賊団の一人が馬を近づけてきた。
「何者だ貴様ら、なぜ我々を助けた」
警戒心を隠すことなく、射抜くような鋭い目でこちらを見るその男は、爬虫類のような鱗に覆われた皮膚を持つ巨漢だ。
太いしっぽはとかげのようで、顔は人間なのだが口が大きく裂けて鋭い歯が見えている。
そんな男の問いかけに藤間警部が答える。
「我々はティアローズ王国の生き残りでグランディア帝国と敵対する立場にある。それが証拠に後ろにいる犬人族の娘3人を保護している。お前たちも我々と同じ敵と戦う同志ではないのか?」
「ティアローズ王国だと? あそこは旧王家が領土を奪還しようと、グランディア帝国に宣戦布告をしたと聞いている。お前たちはその仲間か」
男の問いかけに藤間警部はどう答えていいのかためらった。
確かにアリスレーゼ率いるティアローズ王国臨時政府は帝国に宣戦布告を行ったが、それがどのような形で帝国に受け止められたかは分からないし、この男がその事実を把握していることが腑に落ちない。
そこで一度話を逸らして、相手の反応を見る。
「・・・詳しい話は後だ。それよりミケ王国軍が反転攻勢を仕掛けてくる前に我々も体勢を整えたい。もしよければお前たちの物資を分けてくれないか。もちろん対価は支払う」
答えをはぐらかされた男は、藤間警部をギロりと睨みつけるが、後部座席に座る犬人族が気になりそちらに目線を移した。
するとポーチ姫がまっすぐに男の目を見据えて、
「もし物資を分けていただければ、あなた方にとって貴重な情報を差し上げることができます。ギブアンドテイクといきませんか」
「情報か・・・よかろう。助けてくれた恩もあるし、アジトに入ることは許そう。ついてこい」
次回もお楽しみに。
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