37. 報告と呼び出し
カラカラと、幌馬車が小石を跳ねながら先を急いでいた。跳ねた車輪に身体を揺られながら、王都へと向かう道すがら。カシェは御者台に座ったエイドの後姿を見ながら、一人幌の中で思い出していた。
ゼノの救出後、盗賊と村人、救助した人々を馬車で輸送して砦街へと戻ったが、蓋を開けてみると討伐隊が捕らえた男とゼノを捕まえた男は姿を消していた。気を失っていたからと油断したのかは知らないが、いつの間にか見張り役が気絶させられていたのだ。幸か不幸か、逃げたのはその二人だけであり、それ以外の盗賊もとい村人の男たちは気を失ったままであった。
しかし、後の村人の証言によると、逃げた二人組は村の住民ではなかったようだ。病が流行っている村から村人たちを助け出し、その後も行く手のない彼らを助け、森へ導いたと言う。
(怪しいな……)
土壌が腐り、病に倒れ、人が消える。獣人族の姉妹やベルナール、村人までもが類似した内容を口にしたとなると、いよいよ何かあるとしか思えない。意識不明のまま目覚めないアデールの件や、末の王女が告げた種の謎もカシェの頭を悩ませる。
(その上、すでに他国に売られた領民もいるかもしれない……)
一先ず、打ち身の酷いゼノと切り傷だらけのグリフ、意識のないアデールは全員纏めて神殿に引き渡した。今頃は神殿中が忙しさで悲鳴を上げているかもしれないが、無事に治療を受けていることと思いたい。決して、兵士の話を聞いたジョゼフに「一人で何でもやろうとするなって言ったでしょうが!」などと口うるさく言われたから逃げてきたわけではない。
カシェは一刻も早く騎士団に報告するべきだと判断し、後のことは全てマルクに任せて領地を出た。余談だが、村人は余罪も取り調べた上で行く末を決めることとなったため、一旦駐屯所に預けられている。
「カシェさん、揺れは大丈夫そう?」
「ああ、問題ない」
現在、カシェがエイドと共に行動しているのにも訳がある。
王都に行くと決めたはいいが、カシェは馬車を運転する技術は持ち合わせていなかった。グリフに頼めるはずもなく、態々屋敷まで戻って御者に頼むべきか、厩で馬を一頭だけ借りてしまうかと悩んでいると、エイドに声を掛けられたのだ。曰く、王都へ行くつもりなら一緒に行かないか、と。
「まさかエイドが馬車を動かせるなんてな」
「ずっと旅してきたからね。騎馬だなんて長旅してたら尻が割れちゃうよ」
「……それはあり得るな」
カシェも騎士である手前、長時間馬に乗って移動することには慣れているつもりだ。だが、長旅ともなると勘弁願いたい。情けないことだが疲労で落馬するかもしれないし、その前に普通の馬では馬の方が先に倒れるかもしれない。
そんなことを考えていると、王都が見えてきた。
「へぇぇ、流石王都。賑わってんね!」
王都に入って以降、エイドが馬の速度を落としながら辺りをきょろきょろと見渡す。目に付くもの全てが新鮮なのだろう、はしゃぐ声が御者台から聞こえてくる。
カシェも幌から御者台に顔を出した。
「気に入ったようだな」
「うん、俺結構この国が好きだな。あんまり何が好きって具体的には言えないけど……なんかちょっと懐かしい気がする」
今まで一回も来たことないけど、とエイドが笑う。日に当たった金髪がエイドの気持ちを表すかのように輝かせている。カシェは目を細めてその後ろ姿を見た。
「もしかしたら似たような髪色の人がいるからかな。砂漠じゃ人自体滅多に見かけなかったからかもしれないけど」
「そうなのか」
「見かけたら奇跡だって泣かれるよ。まあ、大方こっちの荷物を狙ってくるからできれば会いたくないけど。……あ、あの人とか色似てない?」
そう言ってエイドが一点を指差す。
(あれは……)
カシェがエイドの指先を凝視すると、そこには見知った人物が立っていた。黄金色の髪が光を浴びて輝き、存在感を示す。何とも神々しい人物に、何故こんな市中に出ているのだとカシェは身を固めた。すると、カシェの視線に気付いたのか、その人物が顔を上げる。力強い薄緑の瞳が大きく見開かれた。
(しまった……目が合ったか)
だが、それも束の間のこと。その人物はあっという間に人の海に流され、見失ってしまった。挨拶をできなかったことは気懸りだが、このまま気付かなかったことにさせていただこう。カシェはその人物に対しては特に言及せず、王城前に下ろすようにエイドに頼んだのであった。
一方、カシェが見なかったことにした人物ことアダラールは、しっかりとカシェの乗っていた幌馬車の後ろを見つめていた。
「今のは……」
「ああ、ファーガス司令官ですね。あのような馬車にお乗りになられるとは珍しい」
アダラールの呟きに、付き人が答える。通常、貴族が使用する馬車は箱馬車と呼ばれる四方が囲まれたもので、幌の張られた行商人が扱う馬車に乗ることはない。無論、業務上では箱馬車で事足りないものを運ぶこともあるため幌馬車に乗ることもあるが、少なくとも私用で使うことはまずないだろう。
しかし、アダラールはそこではないと首を横に振った。そのまま難しい顔をして押し黙るアダラールに、付き人が心配そうに声を掛ける。
「殿下……?」
「ああ、いや……彼は今、領地で長期休暇中のはずだが……と思ってな」
アダラールは逡巡した後、何でもないと表情を作った。
影の者に見張らせていた末の王女が不審な動きをしていた際に、カシェの所在についてアレクサンドルからそう窺ったはずだ。領地にいるのならば安心かと気を緩めた矢先、王女は何処かへと姿を消した。いつの間にか再び王都で姿を見かけるようになり、こうして見張っている次第だが、まさか姿を消していた間に妹がカシェに何かしたのだろうか。
(……まさかな。流石に王女の身でそこまで行動的なわけがない、か)
何か別の問題でも発生したのかもしれない。アダラールは居ても経ってもいられず、王城へと走り出した。
「で、殿下!? ここは如何なさるのです!?」
突然走り出したアダラールに付き人が慌てて声を掛ける。王女を見張っていたアダラールが自ら持ち場を離れようとするのだから混乱するのも無理はない。アダラールは瞬時に視線を周囲に向け、王女が店から出てきていないことを確認した。
「お前が見張っておけ! 決して見失うな!」
「ええ!?!?」
言うだけ言って駆け出す。
付き人はアダラールの警護に当たるべきか命令を聞くべきか逡巡した後、「ああもう!」と頭を掻いた。
***
王城前に下ろされて以降、カシェは颯爽と塔のある方向へと足を進めていた。各所に立つ門衛や騎士が、騎士服を身に着けていないカシェに訝し気な視線を向けるが、胸元に輝く二つの徽章にすぐさま敬礼して通す。
カシェはすぐにアレクサンドルの執務室にまで辿り着いた。
「アレックス叔父さん、私です。開けますよ」
扉を叩き、アレクサンドルの返事を聞くよりも早く扉を開ける。半ば押し入るように足を踏み入れると、アレクサンドルが呆れた声でカシェに話し掛けた。
「私に“私”という知り合いはいないんだが? 新手の襲撃かと思ったぞ」
「甥の声くらいわかるでしょう」
「いや、わかるけどな? でもお前長期休暇で領地に帰ったじゃないか。何でここにいるんだ」
「色々とご報告したいことがありまして」
肩を竦めるカシェに、アレクサンドルは胡乱な目を向けた。そして、仕方がなさそうに溜息を吐く。
「まあ、可愛い甥っ子の話だ、聞くには聞くけどな。……で? その様子だと義弟とやらは無事に追い出せたのか?」
「いえ、迎え入れることにしましたよ。父上の血で書かれた手紙も持ってましたし、それが父上の意思でもあるようでしたから」
血で書かれた手紙と聞いてアレクサンドルが目を大きく見開いた。五年も経った今、そのようなものを持って現れる者がいるなど、誰が想像するだろうか。期待と希望が俄かにアレクサンドルの瞳に映る中、カシェはゼノが八年前から三年ほどクロヴィスと交流があったことを伝えた。それと、依然として行方がわからないことも。
話を聞き、アレクサンドルが前髪を手で乱しながら、顔を隠した。
そんなアレクサンドルに、カシェはゼノについて掻い摘んで話した。精霊の森に捨てられていたこと、竜の愛し子であること。そして、途方もない魔力を持っているが魔法に変換できずに魔力暴走を起こしてしまうこと。全てを聞き終わった後、アレクサンドルはソファの背もたれにその身体を沈み込ませた。あまりの内容に哀しみの波は失せたのか、むしろ呆れたような雰囲気を醸している。
「は~~……ったく、兄さんらしいな」
どこまでも変わった人物を拾ってくることについてだろう。カシェもその通りだと首を縦に振ると、アレクサンドルが半眼でカシェをじとりと見つめた。
「あのなぁ……お前もそうなんだぞ」
「……はい?」
「普通、そういうのを受け入れようとはしないの! 何か厄介事を引き連れてきそうだろ」
「厄介事って……あの子はいい子ですよ。問題は起こしません」
無茶はするが。
内心が顔に現れていたのか、なおもアレクサンドルは食い下がった。そんな途方もない潜在能力のある人物なら悪人に狙われかねないし、その度に気を遣わなければならない。その上、本人の体調も日々ケアが必要だ。カシェもわかっていて身の内に入れたのであろうが、それでも厄介には他ならないとアレクサンドルは頭を振った。
「お前さ、自分から面倒事に首を突っ込んでるのわかってる?」
「だからこうして叔父さんを引き込んでるんでしょう」
「やだこの子、故意犯」
罪は犯していない。カシェが何を言っているんだと冷えた目でアレクサンドルを見る。カシェの視線が刺さったのか、アレクサンドルが泣き真似をした。顔を隠して「冗談も通じない子だ」などと宣う姿には若干苛立ちを覚えるが、それすらも幼少の頃のやりとりのようで懐かしい。
カシェがもう少しこのやり取りを楽しんでいたいと思ったときであった。コン、と窓の外から音がして現実に引き戻された。こんな思い出に浸っている場合ではないのだ。
「……御報告したいというのは、厄介事で間違いないんです」
アレクサンドルがカシェを促す。カシェは組んだ手を見つめながら続きをぽつぽつと話し始めた。
「実は領地で盗賊狩りを行ったのですが、その際に頭と思わしき人物が二名程行方を晦ましまして」
「騎士団の要請か?」
「そうですね……その二名の捕縛と、もう一つ」
他にも何かあるのかとアレクサンドルが眉を顰める。カシェも沈痛な面持ちで話しを続けた。
「盗賊は領民を捕らえ、隣国に流していたようなのです」
「何……? 隣国と言うと……まさか」
隣国と聞いて瞬時に思い至ったのか、アレクサンドルが信じられない様子でカシェを見つめる。カシェが静かに頷くと、アレクサンドルがソファから立ち上がった。
その拍子にアレクサンドルの脚がテーブルにぶつかり、大きな音を立てる。だが、痛みなど気にならないのか、アレクサンドルは脚に意識を向けることなく厳しい顔で話を続けた。
「敗戦国だぞ……? 誰にそんな余裕が……いや、何の目的で?」
「あくまでも推測の域を超えませんが、足が付き難いこと。そして、身分証を手に入れてアルヒ王国に密入国させるためかと」
「調べる必要はあるが、その線は濃厚だろうな……くそ、頭の痛い話だ」
アレクサンドルが頭を抑え、天を仰ぎ見る。カシェも同意だと頷いた。
「騎士団には、攫われた領民のことを調べていただきたいのです。そして、領民の身分証を使って偽証している人物がいないかも」
「事はファーガス領民に限らない……か。早急に手配できればいいんだが、他国のことだからな……一応上には掛け合うが、そう簡単には通らんぞ」
王国内にいるのならまだしも、他国に流れているとなると勝手に捜索することはできない。その国に要請を出すかどうかだが、下手に出てもこちらの恥を晒すばかりか、足を掬われかねないだろう。
敗戦国に弱みを握られることなく、如何にか自体を収拾できればいいのだが。カシェは表情を暗くしながら、次の話題へと移った。
「盗賊についてですが、そのほとんどが元他領民のようです」
「他領民ねぇ……流れてきたのか?」
「頭の二人組に誘導されて女子どもだけでなく、老人ごと移って来たらしいのですが」
「女子どもに老人も……? いくら何でもきな臭すぎやしねぇか?」
アレクサンドルがどかりとソファに座り直す。行儀悪く片足を膝に乗せて、身を乗り出した。
体力のある人物が職にあぶれ、盗賊になることはままある。その内よりやりやすい場所に移ることもよくあることだ。だが、それが体力のない子どもや老人も引き連れてとなると話は異なる。そこには、村の総員でそうせざるを得なかったという何らかの問題があるはずだ。
「村人によると、住んでいた村の土壌が腐り、暮らしていた者も病に倒れたそうなのです」
「土か水から何かの伝染病が発生したのか……?」
それならば、現地へ赴き、土壌を調査すれば何かしらわかるだろう。何をそんなに思い悩んでいるのやら、とアレクサンドルが不思議そうにカシェを見つめる。カシェもそう考えてはいるが、どうしてか胸騒ぎが収まらなかった。
「近年、各地で相次いでいる疫病と干ばつも同じなのではないかと……」
「同じ? そりゃぁ、似たり寄ったりなことはあるかもしれないが……」
「最近、辺境地で流行り病が発生していることは御存知でしょう」
「ああ、平民が罹患しているあの病か。あれは確か下層の者たちや体力のない者たちの間で流行ってるんだろう?」
確か貴族にはあまり関係のない話で、下火にも上がっていないはずだとアレクサンドルは首を傾げた。貴族の悪いところであるが、自身と関係のない問題についてはあまり大袈裟に取り合わないところがある。件の病に関しても、衛生状態が悪いせいだと考えているのだ。
「道中で耳にしたのですが、人が突如倒れ、地面が腐ったそうです」
それが何か関係しているのかとアレクサンドルが片眉を上げる。
「そのとき、何かに襲われた……と」
「まさか、人為的にだって?」
驚くアレクサンドルに、カシェはその可能性があるだけだ、と念を押した。けれど、自然的に発生するにしては些か不可解過ぎるのだ。それぞれの状況が似ていることも、各地で同じような現象が発生していることも。平民ばかり罹患するのも奇妙ではあるが、同じ村に住んでいた老人や子どもでも罹患していない者がいることも可笑しい。後者はまだ発症していないだけの可能性もあり得るが。
荒唐無稽な話にアレクサンドルは顎に指を添えて考え込んだ。カシェすらあまり真実味のない可能性だと思っているのだから、信じられないのも当然だろう。それでも一考するアレクサンドルは、いざというときに多くの命を背負う騎士団長として何とも頼もしい。
(……私などとは違って)
「……カシェ、先程の話は信じ難くはあるんだが……お前のことだ、何かそう思うに至ったきっかけが別にあるんじゃないのか」
アレクサンドルに問われ、カシェはふむと考え込んだ。ただ状況が似ていると思ったのは確かだが、それだけでもないのは事実だ。だが、それを話したところでそれこそ一蹴りされて終わりそうなのだが。それでも、話してみろと凝視する視線に耐え切れず、カシェは言葉を紡いだ。
「……王女が、屋敷に来まして」
「は!? あの!?」
驚くアレクサンドルに首肯する。領地まで押し掛けたのか……いや、第三王子殿下が見失ったと言っていたが、とアレクサンドルがもごもごと独り言ちた。
「……それで?」
「何やら、種を植えたと仰られたのです。もうすぐ芽吹くとも」
正直今も何のことかはわからないが、何かを暗喩していることは間違いないだろう。
「あの王女がただ綺麗な花の種を植えました~……なんて世間話をするとは思えねぇしなぁ。というか、何かされなかったか!?」
先入観があるとはいえ、完全に危険人物扱いだ。わたわたと慌てるアレクサンドルにカシェはくすりと笑みを漏らした。
「私は何もされてはいませんけど、鼠を仕込まれていたようです」
「はぁあ!? それは何かされてるっていうんだが!?」
「もう追い出したので問題ないですよ。今後更にマルクが目を光らせるでしょうし」
「あ~~……それならまあ、大丈夫か……」
アレクサンドルが妙に納得する。正直、他に任せるよりも遥かに安心できるのだ。カシェはそうだろうと神妙に頷いてみせた。
アレクサンドルと話し込んでいると、コンコンと扉が叩かれた。来客か、とカシェが腰を浮かせる。それをアレクサンドルが止め、入室の許可を出した。
「失礼いたします。ファーガス司令官、玉座の間に来るようにと陛下からのお達しです」
「陛下から……? 何故私に?」
一介の騎士が国王から呼ばれることなど滅多とない。カシェが訝しんでいると、アレクサンドルが伝令に来た騎士に問い掛けた。
「それは私も同行しても構わないか?」
「は。騎士団長であれば構わないと託っております」
カシェがアレクサンドルと共にいることは織り込み済みだったのかもしれない。カシェはアレクサンドルを伴い、執務室を後にした。
窓の外、黒い鳥が二人を見つめていたとも知らずに。
***
玉座の間への通路を歩いていると、扉の前に佇んでいた人物がカシェの前に立ち塞がった。
「……アダラール殿下?」
「カシェ殿! よかった……父上に呼ばれたと聞き、居ても立っても居られず……」
どうやらカシェのことを心配して待ち伏せていたようだ。呼ばれた理由もまだわかっていないため、無事とも言い難いが。そんな思いを伏せてカシェが微笑むと、アダラールはその表情に陰を落とした。
「しかし、何故父上がカシェ殿を呼ばれたのか……まさか妹の件で?」
その呟きに思わず笑みが引き攣る。正直不敬な発言をしてしまったことは否めないため、できるだけ会いたくなどない。
カシェの表情を見てアダラールが慌てたように手を振った。
「あ、案じなくとも悪いようにはならないはずだ。……例えなりそうであったとしても僕がどうにかする」
頼もしい限りだが、たとえ可能性であってもなるべく想像したくない。カシェが気を重くしていると、入室の許可が下りたようだ。騎士が扉を開けた。
アダラール、アレクサンドルに続き、入室する。足を踏み入れた途端、片膝を突き、頭を垂れた。
「王国の沈まぬ太陽にご挨拶申し上げます」
「……堅苦しい挨拶はよい。皆、面を上げよ」
重々しい空気の中、一同が顔を上げる。
アダラールと瓜二つの色を持つ男が玉座に座っている。その王を挟むように近衛騎士が立ち並んでいた。
王の動向を窺っていると、アダラールが呼ばれ、王の傍に立つ。それと入れ替わるように、王は近衛騎士に退室するようにと指示を出した。
「しかし、我々は陛下をお守りするという任務が……」
「王国騎士団長のアレクサンドルもおるのにか?」
「……反逆されないとは言い切れません」
「アレクサンドルとファーガス司令官が反旗を翻すなら、お前たちがいようともどの道余は死ぬだろう」
それならば変わらないのだから出ていけと無茶な命令を告げる。近衛騎士は最後まで渋っていたのだが、命令が聞けぬのであればそれこそ反逆の意思があると見做すと言われてしまえば動く他ない。渋々扉の外へ出た。
「さて、これで話しやすくなったな。お前たちも気を楽にするとよい」
王が先程よりも幾何か表情を緩めた。口から飛び出た内容は無理というものだが、カシェとアレクサンドルは礼を述べた。
「……しかし、近衛騎士を外へ出してよろしいのですか?」
「出さねばできる話もできぬからな」
王が笑みを浮かべる。反対に、カシェは背に冷や汗が流れるのを感じた。一体どんな恐ろしい話が出てくるのだろうか。
「そう構えずともよい……と言いたいところだが、無理かもしれぬな」




