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前世セリ、17歳。


「セリお嬢様、やはり、私は・・・」



「クローバー、私は、もうお嬢様じゃないの。それに、貴女には、必要ない苦労をさせてしまったわ。本当に、ごめんなさい」



私になんて付いて来なければ、クローバーが娼館に売られることなんてなかった。


六歳年上の彼女は、今年で二十三歳になる。


その愛らしさで客足が絶えなかった彼女を身受けしたのは、七十五歳のお年寄りだった。


でも、他の客より、ずっとマシ。


お金持ちだし、優しいから。


しかも、愛人じゃなくて、後妻に迎えてくれるという。



『生い先短い爺さんの世話をしてもらうんだから、遺産は、残してやりたい』



その言葉を信じて、クローバーを託すわ。


ま、最初から、私達に選択権も、拒否権もないんだけど。



「ほら、早く行きなさい」



「セリお嬢様」



「大丈夫。私には、皆がいるわ」



この数年で、私の立ち位置は、変わった。


地味で存在感の無い私は、稼ぎは殆ど無いけど、女の子達の致死率を最小に抑えた功績を認められて、女将さんの助手のようなことを始めている。


まぁ、小間使いみたいなものだけど、ちゃんと食べさせてもらえるし、調剤部屋として小さな部屋も与えられた。


この世界に落とされて、私が掴んだ地位としては、最高の場所かもしれない。



「女将さん、早くクローバーを連れて行って下さい」



最後の情けと、私達の別れを側で待っていた女将さんに、クローバーを託した。


泣き続けるクローバーに、私は、涙を見せなかった。


だって、泣いたらクローバーが、罪悪感を感じるから。


私は、クローバーが寝起きしていたベッドのシーツを剥がすと、風呂場で洗った。


また、次の子が来る。


せめて、綺麗なベッドで寝かせてやりたい。


ここに来て、何人も見送り、何人も受け入れてきた。


きっと、その流れが止まることはない。


国が、もっとしっかりしていれば、こんな事にはならないのだろうか?


誰か、この負の流れを止める事はできないのだろうか?


誰も見ていない場所で、私は、声を殺して泣いた。


目を真っ赤にしてシーツを干すと、少しだけ、スッキリした気持ちになった。



「セリ、あんた、案外いい女だね」



その夜、女将さんが、ポツリと私に言った。


その言葉、そのまま貴女に返す。


本当は、もっと高値でクローバーを引き取ろうとした下衆が居た。


貴族のボンボンで、暴力を振るう馬鹿坊バカボン


その男が話を持ってきた次の日、女将さんは、あの老人に話を持ちかけた。


支払える金は、貴族の半分しかない。


それでも良いと押し切る女将さんに、毎回、クローバーを訪ねては、手さえ握らず帰っていく老人は、無言でサインをした。


『既に売ったと言えば、奴も諦めるだろうから』


老人に語る女将さんは、本当に貴族が嫌いだ。


世の中をこんな風にしてしまったのは、奴らだから。


私も、元貴族なんですけどと言えば、



『あんたみたいなのに、貴族が務まるわけないだろ。売られた癖に』



と鼻で笑う。


この話は、小間使いとして近くで働いていた私しか知らない。


皆、知らなくていい。


どっちにしても、ここは、天国じゃないから。

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